第四章 炎と闇の復活

第四十五話 白銀の炎に包まれた里

 早朝、柚月達は、妖狐の里か龍神の集落のどちらに行くか話し合った。

 と言っても、龍神の集落は、どこにあるか、わかっていない。

 そのため、妖に詳しい景時に調べてもらい、柚月達は、先に妖狐の里へ向かうこととなった。

 しかし、彼ら全員が向かうわけではない。

 今後の戦いに備えて、情報は必要であるし、光城も、妖に襲撃される可能性がある。

 そのため、柚月、綾姫、朧、明枇、夏乃、初瀬姫、春日、柘榴、真登、時雨、光焔が、妖狐の里へ行くこととなり、残りは、龍神の集落の場所、和ノ国の状況を探るため、光城に残ることとなった。

 空巴達は、静居と夜深の行動を探ってもらうため、光城から離れることとなった。

 光城は、復活を遂げた為、神々がいなくても、空に浮かび続けることができるようだ。

 しかも、光焔の力で動かすことができるらしい。

 光焔は、明枇の案内により、妖狐の里へと光城を移動させていた。

 妖狐の里は、聖印京から南にあるらしい。


「もうそろそろ、つくっすか?」


「だと思うけど」


 真登が、格子から、外を覗き込むように、眺めている。

 今か今かと待ちわびているようだ。

 真登も、九十九と早く再会したいのであろう。

 朧も、真登の後ろから、外を眺める。

 少々、不安に駆られた様子で。


「いよいよね、柚月」


「ああ。本当にな……」


 綾姫に語りかけられた柚月は、静かにうなずく。

 妖狐の里に行けば、九十九は、復活できる。

 そう思うと、柚月は、希望を抱きたくなる。

 だが、妖狐達は、自分達、人間を受け入れてくれるだろうかと言う不安に駆られているのも事実だ。

 かつて、自分が、そうであったように……。


――九十九……。


 妖刀から出ていた明枇は、外を眺めて、九十九の事を思っている。

 彼女も、会いたいのだ。

 大事な息子に。

 九十九に会えるなら、どんなことでもしよう。

 彼女は、強く、心の中で、決意したのであった。

 じっと、外を眺める明枇。

 すると、彼女の目には、懐かしい風景が映ってきたようであった。


――あそこよ、あそこに妖狐の里があるわ。


「ここからは、降りた方がよさそうだね」


「うむ、そのようだな」


 明枇は、指を指す。

 確かに、森の中に、村らしきものが見えてきた。

 光城をそこにおろしたいところだが、あまりにも目立ってしまい、警戒される恐れがあるだろう。

 柘榴は、少し、離れた場所で、降りたほうがいいと提案し、光焔も、うなずき、光城は、下降し始めた。



 ゆっくりと、着陸した光城。

 柚月達は、すぐさま、光城から降り、妖狐の里を目指し、進み始めた。


「き、緊張してきますね」


「そうですか?」


「は、はい……」


 時雨は、少し、緊張しているようだ。

 声が震えている。

 当然であろう。

 これから、妖狐達に会いに行くのだ。

 その妖狐達は、自分達を受け入れてくれるかどうか。

 炎の力を分けてもらえるかどうかさえ、わからない。

 だが、やらなければならないのだ。

 九十九の為にも。

 そう思うと、緊張してしまったのだろう。

 夏乃は、平然とし、時雨に問いかけるが、時雨は、何度も、必死にうなずいて、肯定した。


「情けないのぅ。しっかりせんか!」


「そうですわよ、堂々としなさいな!時雨」


「は、はい!」


 春日と初瀬姫は、時雨を叱咤する。

 彼女達も、不安に駆られているようだ。

 だが、怯えていては、妖狐達に、警戒されるだけであろう。

 堂々とするしかないのだ。

 二人に叱咤された時雨は、強くうなずく。

 怯えてはならぬと自分に言い聞かせて。


――もう少しよ、もう少しで……。


 明枇は、心の中でつぶやく。

 もう少しで、九十九を助けられる。

 そう思うと、はやる気持ちを抑えられなくなりそうだ。

 だが、その時だ。

 柚月達周りを囲むように、狐達が、現れたのは。


「っ!」


 柚月達は、息を飲み、立ち止まってしまう。

 なぜなら、狐達は、柚月達を歓迎などしていない。

 敵とみなしているかのように、唸り声を上げていたからであった。


「き、狐、ですか!?」


「けど、なんか、普通の狐とは、違うみたいっすよ!」


「ええ、そうみたいね……」


 狐が、威嚇するように、唸り声を上げ、時雨は、驚いてしまう。

 だが、野生の狐ではないようだ。

 気配がまるで違う。

 彼らは、まるで、猛獣のよう。 

 真登も、綾姫も、その事に気付いていた。


「柚月様、もしかして、この狐は……」


「ああ、間違いない。妖狐だ……」


 夏乃も、次第に気付き始めたようだ。

 狐達の正体に。

 柚月も、うなずき答える。

 彼らは、妖狐だ。

 おそらく、狐に化けて、柚月達を威嚇しているのだろう。

 いや、追い返すつもりか、攻撃を仕掛けるつもりかもしれない。

 じわじわと、迫りくる狐達。

 柚月達は、戦える状態ではなかった。

 もし、彼らを斬ったら、妖狐達は、柚月達を完全に敵とみなすであろう。

 それでは、炎の力をもらい受ける事は不可能になってしまう。

 だが、このままでは、柚月達の身に危険が迫るばかりであった。


――お待ちなさい!


 柚月達の前に、明枇が立つ。

 彼らを守るように。

 明枇を目にした狐達は、驚愕し、目を見開いていた。


「そ、そなたは……明枇様!?」


――ええ。


 一匹の妖狐が、明枇に問いかける。

 彼女を知っているようだ。

 明枇は、冷静にうなずいた。


「な、なぜ、我が同族を裏切ったあなたが、ここへ戻ってきたのですか!しかも、魂だけの存在となって……」


 妖狐は、明枇に問いかける。

 それも、声を震わせて。

 彼女を歓迎しているわけではないようだ。

 しかも、明枇は、裏切ったという。

 おそらく、明枇が、人間であり、聖印一族の一人である八雲と恋に落ちた事が原因なのだろう。

 しかも、明枇は、すでに、魂だけの存在となってしまった。

 それは、妖狐達も一目見て、気付いたようだ。

 彼女は、命を落としてしまったのだと。

 だからなのか、妖狐達は、複雑な表情を浮かべているように、柚月達は、思えてならなかった。


――……会って話したい方がいるからよ。それに、この人達を連れていきたいの。


「誰だというのです!?」


――私の父・炎尾えんびよ。


「え、炎尾様は、貴方とお話するつもりはありません!人間を連れて、ここを立ち去ってください!」


 明枇は、妖狐達に、戻ってきた理由を話す。

 重たい口を開けて。

 それは、自分の父親である炎尾に会って話したいことがあるというのだ。

 だが、妖狐達は、彼女の懇願を受け入れず、追い返そうとする。

 それも、心苦しそうに。


――お願い。どうしても、会いたいの。それに、この人達は、信用できるわ。だから、お願いします。


「……分かりました」


 明枇は、妖狐達に、懇願し、頭を下げる。

 しかも、柚月達は、信用できると告げて。

 明枇は、それほど、柚月達を信頼しているのだ。

 そして、九十九に、会いたがっているのであろう。

 彼女は、九十九の母親だ。

 息子に会いたいに決まっている。

 明枇の想いが通じたのか、妖狐は、仕方なしに、彼女の懇願を受け入れ、元の人型の姿に戻って、柚月達に、対して、背を向け、無言のまま、歩き始めた。


「明枇、大丈夫?」


――ええ、さあ、行くわよ。


 朧は、明枇を気遣う。

 かつての同胞に裏切り者呼ばわりされるのは、辛いであろう。

 だが、明枇は、落ち込んだ様子を見せず、先へと進む。

 これも、九十九の為なのだろう。

 明枇も、こうなるとわかっていながら、戻ってきたのだ。

 強い想いを胸に秘めて。



 柚月達は、妖狐の里へとたどり着く。

 家が立ち並び、いくつもの灯台が置かれてある。

 しかも、白銀の炎が灯してある。

 妖狐達が、九尾の炎を灯しているのだろう。

 特に、中央に置かれてある一番大きな灯台に灯っている白銀の炎は、とても、美しく見える。

 まるで、炎が生きているように揺らめいていた。


「お前達、ここで、待っていろ。何か問題でも起こしてみろ。すぐに、お前達の魂を奪うからな」


「わかってる。俺達も、争うつもりはない」


 妖狐は、振り向き、柚月達に忠告する。

 人間を信用していないのだろう。

 だが、柚月は、争うつもりはないと、堂々と告げた。


「どうだか。私達は、お前達、人間を信用していない。明枇様の頼みだから、連れてきただけだ」


「それも、わかっている」


「ふん」


 それでも、妖狐は、柚月達を信じようとしない。

 ただ、明枇の頼みで、連れてきただけ。

 そうでなかったら、柚月達は、妖狐の里にたどり着くことは、できなかったであろう。

 柚月は、それも、承知の上だ。

 妖狐は、柚月達をにらみながら、前を向き、歩き始めた。


――ごめんなさいね。


「いや、いい。気にするな」


――ありがとう。


 明枇は、柚月に謝罪する。

 だが、柚月は、気にしてなどいなかったのだ。

 妖狐が、自分達を相容れないのは、仕方のないことなのだと、察していたのだから。

 明枇は、微笑み、柚月にお礼を言う。

 他の妖狐達にも、彼らの優しさが、伝わってほしいと願いながら。


「ここが、妖狐の里なのね……」


「とても、静かですわね……」


 綾姫と初瀬姫は、周囲を見回し、見とれている。

 本当に静かな場所だ。

 だが、薄暗い森の中で九尾の炎が、揺らめく様は幻想的であり、別世界に迷い込んだ感覚になる。

 妖狐の里は、見とれてしまうほど、美しい風景であった。


――久しぶりね、ここに戻るのは……。


 明枇は、懐かしがっているようだ。

 もう、戻ることがないと、思っていた故郷。

 そこへ、明枇は、戻ってきたのだ。

 彼女は、どんな思いで、ここにいるのだろうか。

 柚月と朧は、明枇の様子をうかがっていた。

 その時であった。

 妖狐達が、老人の妖狐を連れて、柚月達の元へ戻ってきたのは。


「まさか、お前が、戻ってくるとはな。しかも、魂となって……。我が娘、明枇よ」


――お久しぶりですわ。お父上。


 目の前にいる老人の妖狐こそが、明枇の父親であり、妖狐達の長・炎尾だ。

 明枇を目にした炎尾は、目を細めて、明枇をにらんでいる。

 彼も、明枇を歓迎していないのであろうか。

 炎尾に睨まれた明枇は、穏やかな表情を浮かべて、頭を下げた。


「なにゆえ、ここに戻ってきた。裏切り者の妖狐よ」


――ここに戻ってきた理由は、ただ、一つ。私の息子・九十九を復活させるためです。


 炎尾は、明枇に問いただした。

 なぜ、戻ってきたのかと。

 炎尾も、明枇が、戻ってくるとは、思ってもみなかったのであろう。

 だからこそ、問いただしたのかもしれない。

 炎尾の問いに、明枇は、堂々と答える。 

 九十九の為に、戻ってきたのだと。

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