第四十四話 もう一度、会うために

 空巴から話を聞いた柚月達は、驚愕している。 

 なんと、三種の神器の一つである八尺瓊勾玉を使用すれば、九十九と千里は、復活するというのだ。


『そうだ。八尺瓊勾玉を使えば、二人は、復活させられるだろう』


「これが……」


 柚月は、首に掲げてある八尺瓊勾玉に触れる。

 これで、九十九と千里を救えるというのだ。

 だが、柚月達には、気がかりなことがあった。


「けど、あの二人は、消滅したし、どうやって……」


 朧は、空巴に尋ねる。

 九十九と千里は、柚月達の目の前で消滅してしまったのだ。

 消滅した彼らをどうやって復活させられるというのだろうか。

 八尺瓊勾玉が、どのような力を発揮するのだろうか。

 柚月達には、見当もつかなかった。


『九十九と千里は、お前達の中で生きているぞ』


「え!?」


 空巴は、朧の問いに答えると柚月達は、驚愕する。

 なんと、九十九と千里は、生きているというのだ。

 しかも、柚月と朧の中で。


「千里と、九十九が……」


 餡里は、呟く。

 自分のせいで、消滅してしまった九十九と千里であったが、柚月と朧の中で生きていると聞き、安堵したのだろう。

 生きていてくれてよかったと。

 そして、餡里は、彼らに会いたいと願い始めたのだ。

 それも、強く、心の中で……。


『九十九は、柚月の中で、命を使い、呪いを消したわ。でも、まだ、火は消えていないわ。貴方の中で、まだ、生きているの』


「俺の中で……」


 泉那は、柚月に説明する。

 確かに、九十九は、柚月にかけられた呪いを解くために、命を削って、九尾の炎を発動した。

 そのため、彼は、命を全て削ったように思われたのだが、実際は、まだ、彼の命火は、消えていないというのだ。

 柚月の中で、灯しているのだろう。

 柚月は、自分の胸に手を当てる。

 九十九が、生きている事を確かめるように。


「じゃあ、千里も……」


『はい。彼も、千里の中で生きています。魂は、眠ったままですが……』


「力を使ったからな……」


 餡里は、希望に満ちた目で、神々に問いかける。

 すると、李桜が、朧と餡里に、説明し始めた。

 千里は、餡里を解放する為に、力をすべて使用して、朧と餡里の目の前で消滅してしまったのだ。

 それゆえに、餡里は、記憶を失ってしまった。

 だが、千里は、行き手織り、魂は、眠っているというのだ。

 朧は、思い返し、納得した。


「ねぇ、八尺瓊勾玉をどうやって使えば、二人は復活するの!?僕にできることならなんでもやるよ!」


「餡里……」


 餡里は、藁にも縋る思いで、神々に問いかける。

 九十九と千里が、復活するというのならば、何でもやると。

 それほど、二人に会いたいのだろう。

 特に、千里は、餡里の相棒だ。

 会いたいに決まっている。

 そう思うと、朧は、餡里の願いを叶えたいと、心の底から願っていた。


「八尺瓊勾玉は、吸収した力を別の力に変換することができるのだ」


「つまり、もし、聖印を吸収したとすれば、妖気に変換できるってことかしら?」


「うむ」


 神々の代わりに、光焔が、答える。

 八尺瓊勾玉は、吸収した力を別の力に変えることができるようだ。

 それは、聖印の力を妖気に帰ることもできるらしい。

 さすがは、三種の神器と言ったところであろう。

 綾姫の問いに、光焔は、うなずいた。


「しかも、先の戦いで、神の力を吸収した。神の力なら、命にも、魂にも変換できるであろう」


 光焔は、話を続ける。

 確かに、先ほどの静居達との戦いで、柚月は、衝撃波を吸収したのだ。

 あれは、神の力だったらしい。

 しかも、神の力であれば、命にも、魂にも変換できるようだ。

 神の力をうまく変換できれば、九十九と千里を復活させることができるという事であった。


「だが、神の力だけでは、足りないというのも事実だ」


「何が必要なんだ?」


 だが、彼らを復活させるには、一筋縄ではいかないらしい。

 まだ、何かが足りないようだ。

 柚月は、光焔に、尋ねる。

 何を吸収すれば、いいのだろうか。


「同じ属性の力だ。九十九は、炎。千里は、闇を操る妖だったな」


「うん」


 光焔曰く、同じ属性の力を吸収すればいいとのことらしい。

 つまり、二人が発動できる属性の力を吸収しなければならないのだ。

 九十九は炎の力を、千里は闇の力を。

 そうでなければ、二人は、復活を果たせないのであろう。


「炎と闇の力を吸収すれば、二人を復活させることができるはずだ」


「けど、どこから、吸収すれば……」


 朧は、思考を巡らせる。

 光焔は、炎と闇を吸収しなければならないと言うが、問題は、どうやって吸収するかだ。

 炎と闇を吸収するのは、容易ではないだろう。

 他の妖達から、吸収するわけにもいかない。

 柚月達は、方法が見つからず、頭を悩ませた。

 しかし……。


――心当たりがあるわ。


「え?明枇、何か知ってるのか?」


――ええ。


 明枇は、柚月達に語りかける。

 彼らの手を差し伸べるかのように。

 朧は、驚きつつも、明枇に尋ね、明枇は、うなずいた。

 どうやら、心当たりがあるようだ。

 さすがは、九十九の母親と言ったところであろう。

 柚月達は、期待し、明枇の次の言葉を待った。


――私の故郷、妖狐の里にならね。


 明枇曰く、明枇の故郷である妖狐の里に、炎の力はあるようだ。

 確かに、妖狐の里は、妖狐達がひそかに暮らしているという話を聞いたことがある。

 炎の力があっても、おかしくはないだろう。

 そこに向かえば、炎の力を吸収できそうだ。


「これで、九十九は復活できそうだな」


「うん、でも、千里は龍の妖だと思うけど、詳しい事は……」


 明枇のおかげで、炎の力のありかがわかった柚月達。

 九十九を復活させることができるだろう。

 だが、闇の力のありかは、まだ、わかっていない。

 千里は、龍の妖だと朧は、聞いたことがある。

 だが、それだけだ。

 どのような妖であり、どこで生まれたかさえも、朧は、知らない。

 詳しい事がわかれば、闇の力のありかも、わかってくるはずなのだが……。

 そこまで、たどり着くのは、至難の業のように思えた。


「僕、知ってるよ」


「本当か?餡里」


「うん」


 餡里は、柚月達に、告げる。

 なんと、千里が、どのような妖なのか、知っているらしい。

 おそらく、千里か、茜と藍が、餡里に、教えたのだろう。

 千里の事について。

 朧は、餡里に尋ねると、餡里は、静かにうなずいた。


「彼は、龍神なんだ。だから、龍神達が住む集落に行けば、何かわかるかもしれない。推測でしかないんだけど……」


 餡里は、説明し始める。

 なんと、千里は、龍神だというのだ。

 龍神と言えば、人々の目の前から姿を消した妖だと聞かされている。 

 もし、彼らが、表舞台に立てば、鬼の一族でさえも、圧倒していたのではないかと推測されているほどだ。

 龍神は、集落で暮らしていると餡里は、言う。

 彼らに、会えば、何かわかるであろう。

 だが、それも、推測でしかないと、餡里は、うつむきながらも、答える。

 詳しい事は、知らないため、自信がないようだ。


「それが、わかっただけでも、十分だ。ありがとう、餡里!」


「うん、ありがとう、朧」


 朧と餡里は、微笑む。

 かつて、敵対していた二人が、こうして、笑いあえるというのは、うれしい事だ。

 九十九や千里にも見せてあげたい。 

 二人を見守っていた高清は、心から、そう願っていた。


「行先は、決まったな」


「うむ」


「明日、妖狐の里か、龍神の集落のどちらかに行こう!」


 柚月達は、決意を固めた。

 明日、九十九と千里を復活させるために、妖狐と龍神達の元へ向かうと。


――必ず、俺達が、助けるぞ。九十九、千里……。


 柚月は、誓った。

 必ず、九十九と千里を助けると。



 時が立ち、夜になる。

 明枇は、珍しく、魂だけの存在となって、部屋で、夜空を眺めている。

 朧に頼んだのだ。

 一人で、考えたいことがあるからと。


――九尾の炎、あれさえあれば、あの子は、復活する。でも……。


 明枇は、心の底から、喜んでいた。

 息子である九十九が、復活できるのだと。

 だが、明枇は、一つ気がかりなことがあるようで、暗い表情を浮かべていた。


――それだけだと、前と同じ……。完全なる九尾の炎をあの子が使用できるようになるには……。


 明枇が、気にしていたのは、九十九が発動する九尾の炎の事だ。

 たとえ、彼が、復活を遂げたとしても、以前と変わりはない。

 九尾の炎を使用すれば、九十九は、命を削ってしまうだろう。

 だが、今後の戦いでは、必ず、九尾の炎が必要となる。

 それほど、激しさを増していると明枇も感じているのだ。

 しかし、明枇は、九十九が、命を削ることなく、九尾の炎を発動できるようになる方法を知っている。

 それは、明枇も、覚悟を決めなければならない方法であった。


 

 柚月は、一人、廊下を歩いている。

 今日の事を思い返しながら。

 本当に、目まぐるしかったと感じていた。

 女装して、聖印京を潜入し、綾姫達と再会を果たし、勝吏と月読、そして、静居と夜深と死闘を繰り広げ、柘榴達が集い、神々が、復活を果たし、空に浮かぶ城の中に入った。

 これほどまでに、多くの事が起こった事は、一度もない。

 それゆえに、柚月は、

 その時であった。


「柚月」


 柚月の名を呼ぶ声がして、柚月は、振り返る。

 後ろには、餡里が、柚月に迫っていた。


「餡里、どうした?」


「これ、返さないとって思って……」


 柚月は、餡里に問いかける。

 餡里は、柚月にある物を差し出す。

 それは、真月だ。

 記憶が蘇えった時、餡里は、柚月達を守るために、地面に落ちていた真月を無我夢中で、つかみ、静居を刺した。

 それ以来、柚月は、真月を餡里の近くに置いておいたのだ。

 真月が、餡里の身を守ってくれるだろうと信じて。

 餡里は、今まで、床に臥せていた為、中々、返せずじまいであったが、ようやく、回復し、柚月に返すことができたのだ。

 しかし……。


「これは、お前が持っていろ」


「なんで?」


 柚月は、真月を受け取らず、餡里にそっと、返す。

 しかも、餡里が持つようにと促して。

 餡里には、理由がわからず、尋ねた。


「真月は、お前を守ってくれる。それに、俺には、これがあるからな」


「……いいの?」


「ああ」


 柚月が、真月を餡里に持たせようとしていた理由は、今後の戦いで、必要となるからだと考えたからだ。

 もちろん、餡里に戦わせるつもりはない。

 餡里も、今の状態では、体を余計に、悪くするだけだ。

 だが、万が一と言う事もある。

 それに、自分には、草薙の剣がある。

 それゆえに、柚月は、餡里に、真月を持っていた欲しかったのだ。

 

「ありがとう」


 餡里は、微笑んだ。

 真月を大事そうに、手に持って。



 柚月と別れた餡里は、真月を腰に下げて、部屋に戻ろうとする。 

 だが、その時であった。


「ごほっ!ごほっ!」


 餡里は、咳き込んでしまう。

 それも、苦しそうに。

 餡里は、荒い息を整え、そっと、掌を凝視する。 

 すると、掌には、血がついていた。


「僕は、もう、長くない……。その前に、会いたいよ……千里……」


 餡里は、悟っていたのだ。

 もう、自分の命は、短いのだと。

 だからこそ、願った。

 自分の命が尽きる前に、千里に会いたいと……。

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