第四十三話 集った仲間達

 柚月達は、ひとまず、座り、今後について、話し合うこととなった。

 夏乃、和泉は、お茶を淹れ、柚月達に差し出した。

 綾姫は、嬉しそうに、お茶を飲む。

 こうして、夏乃に、お茶を淹れてもらって、ゆっくり過ごすのは、久しぶりだ。

 そう思うと、心が落ち着き、懐かしく感じた綾姫であった。


「ありがとう、夏乃。こうして、夏乃にお茶を入れてもらうのも、久しぶりね」


「あ、はい……」


 綾姫は、微笑みながら、語りかける。

 夏乃も、嬉しそうなのだが、急に、目に涙を浮かべてたかと思うと、その涙が、ぽろぽろと零れ落ちる。

 綾姫は、慌てた様子で、夏乃に、迫った。


「ど、どうしたのよ、夏乃。急に泣きだして」


「い、いえ、綾姫様のお世話ができると思うと、私は……」


 夏乃が、泣きだした理由は、綾姫のお世話ができるからだ。

 いや、こうして、何気ない会話ができるのが、うれしいからであろう。

 当たり前の事のように思っていたのだが、今思えば、大事な事だ。

 だからこそ、夏乃は、感極まって、涙を流したのだろう。


「大げさですわね。少しの間、会えなかっただけじゃないですの」


「わ、わかってはいるんですが……」


「まぁまぁ、ありがとう。夏乃」


 初瀬姫は、あきれた様子で、呟く。

 確かに、少しの間、別行動をとっていたのだが、それでも、夏乃にとっては、うれしかったのだ。

 綾姫も、それを理解しているため、初瀬姫をなだめさせる。

 初瀬姫は、「わかりましたわよ」と言いながら、嬉しそうに、うなずいていた。

 初瀬姫も、うれしいのであろう。

 こうして、朧や綾姫達と再会できた事を。


「にしても、陸丸達も、皆と一緒にいたなんてな」


「そ、それが……」


 朧は、高清に、語りかける。

 高清達は、未だ、妖人のままだ。

 妖に戻るつもりは、今の所ないらしい。

 おそらく、息子である餡里と少しでも、過ごしたいと願っているからであろう。

 妖人の姿のままであっても。

 高清は、戸惑い、言葉をつぐんでしまう。

 どう、説明すればいいのか、わからないようだ。


「あたしらが、移動させたのさ」


「どういう意味だ?」


 高清の心情を読み取ったのか和泉が代わりに説明する。

 なんと、彼女達が、高清達を移動させたという。

 だが、それは、どういう意味なのだろうか。

 見当もつかない朧は、問いかけた。


「ほ、本当は、高清さん達も、七つの宝玉を探してもらう予定だったそうです」


「でも、高清さん達も連れていっちゃうと、朧君も、大変だろうから、高清さん達は、後から、合流してもらうことになったんだよ~」


「と言っても、七つの宝玉は、聖印京から遠く離れた場所にあるから、おいらたちは、すぐには、戻れそうになかったし、高清さん達は、怪我してたから、これを使って、移動させたっすよ」


 続いて、時雨、景時、真登が、順番に説明する。

 高清、春日、要も、七つの宝玉を探してもらう予定だったのだが、彼らまで、神隠しにあえば、朧、一人で戦わなくてはならなくなる。

 それは、危険だと、空巴が、判断したのであろう。

 だからこそ、柘榴達は、餡里との戦いが終わってから、高清達と合流することを決めたのだ。

 だが、七つの宝玉は、聖印京から遠く離れた場所にあった為、高清達と合流するには、時間がかかってしまう。

 七つの宝玉は、すぐにでも手に入れなければならないため、戻ることもできない。

 その上、高清達は、楼達と死闘を繰り広げた為、重傷を負ってしまった。

 そのため、柘榴達は、ある物を使って、高清達を一瞬のうちに移動させ、合流させたようだ。

 真登は、柚月達にある物を見せた。

 それは、石のようであった。


「これは何だ?」


「神の道具ってところかな。神様が作ったらしい。遠くからでも、ここに封じ込めることができるんだって。あと、他の場所をのぞき見することができるらそうだよ」


「この道具を使って、高清達を封じ込め、治療した後、事情を説明して、宝玉を探してもらったんです」


 石を目にした柚月は、尋ねる。

 今度は、和巳、美鬼が、順番に説明した。

 どうやら、これは、神の道具らしい。

 おそらく、月読が作る道具とは、違うようだ。

 和巳曰く、遠くにいる妖でさえも、この石に封じ込めることができるらしい。

 さらに言えば、他の場所をこの石で見ることができるようだ。

 さすがは、神の道具と言ったところであろう。

 高清達が、楼達と戦いを繰り広げたのをこの石で見届けた後、彼らをこの石に、封じ込め、治療し、七つの宝玉を探してもらうよう、説得したようだ。 


「拙者達も、最初は、びっくりしたでござるよ」


「天利堂の前にいたのに、目が覚めたら、別の場所にいたからのぅ」

 

 春日と要は、思い返すように、話す。

 高清達も、最初は、驚いたらしい。

 当然であろう。

 天利堂の前で、倒れていたというのに、目が覚めた途端、別の場所にいたのだ。

 それも、怪我も治っているのだから。

 だが、なぜ、七つの宝玉を探さなければならないのか。

 自分達が、選ばれた理由を柘榴達から、聞いた後、高清達も、承諾して、七つの宝玉を探したようだ。


「そっか、無事でよかったよ」


 高清達と再会で来た事を喜び、安堵する朧。

 それは、高清達も同じだ。

 彼らは、共に旅してきた仲間。

 それゆえに、朧も、高清達も、お互いの身を案じていたのだろう。

 再会できて本当によかったと心から思う朧達なのであった。


「で、君達も、お告げがあったんでしょ?」


「そうそう、いろいろ、聞かせてくれよな!」


 柘榴と透馬は、柚月達に、問いかける。

 どうやら、柚月と朧が、光の神から、お告げを授かった事は、推測しているようだ。

 いや、知っているとみて待ちがないだろう。

 だが、聖印京の状態や静居達のたくらみは、知らないようだ。

 だからこそ、改めて、尋ねたのであろう。


「そうだな」


 柚月は、静かに語り始める。

 光の神からお告げを授かった事、静居達が、人々を操り、聖印京を支配した事、光の神から生まれた妖である光焔の封印を解いた事、平皇京での事、彼らが、和ノ国を滅ぼそうとしている事とその理由、そして、静居達を食い止めるには、三種の神器、九十九と千里の力が必要だと聞かされた事を。


「なるほどねぇ。そんな事があったんだ。ま、お告げの事は、空の神から、聞いた通りってところかな」


 話を聞いた柘榴は、納得した様子を見せる。

 やはり、彼らは、空巴から、このままでは、和ノ国が滅ぶという事を聞かされていたようだ。

 と言っても、それ以降の事は、やはり、知らなかったらしい。


「静居は、豹変したわけじゃなくて、本性を現したって事でごぜぇやすな」


「うん」


 高清は、静居のことについては、納得しているようだ。

 高清達は、神聖山の山頂に向かった時、静居の様子をうかがっていたが、今まで、見てきた彼とは違い、別人ではないかと思うほど、変わってしまった事に、驚いていたようだ。

 だが、あれが、静居の本性なのだと思うと納得がいく。

 自分の欲望のままに動いていたがために、餡里も、静居に、陥れられたのだと。

 おそらく、聖印渡しの実験のことについても、静居は、知っていたのだろう。

 そうとしか思えない。

 高清は、静居に対して、怒りを露わにし、こぶしを握りしめた。

 盲目的に信じてしまった自分自身も、許せずに。


「これで、三種の神器は、そろった。神々も復活した。後は……」


「九十九と千里、それに、光の神を復活させることね」


 瑠璃、綾姫は、今後について、語る。

 神々が復活し、三種の神器も、そろった。

 苦難の連続ではあったが、静居と夜深に対抗しうる力を得たことになる。

 希望が見え始めたと言っても過言ではないだろう。

 次は、九十九と千里、光の神を復活させることだ。

 彼らの復活は、柚月達にとって、喜ばしいことであり、心強い。

 しかし……。


「でも、どうすれば、復活させられるんでしょうか……」


「方法は、わからないっすからね……。調べるしかないっすよね」


「……」


 美鬼は、困った様子で語りかける。

 問題は、復活させる方法だ。

 九十九と千里は、柚月達の前で消滅してしまっている。

 光の神も、どこで封印されているか、不明だ。

 となれば、復活させるのは、容易ではないだろう。

 まずは、調べなければならないはずだ。

 真登が、そう、発言すると、柚月達は、うなずくが、餡里は、うつむいてた。

 責任を感じてしまっているのであろう。

 彼らが消滅したのは、自分のせいだと。


『九十九と千里なら、今なら、復活させることができるかもしれぬ』


「え?」


「どうやって、復活させられるんだ?」


 空巴は、九十九と千里を復活させられると柚月達に告げる。

 柚月は、驚き、朧は、空巴に問いかけた。

 方法があるのなら、今すぐに知りたいと。

 藁にも縋る思いで……。


『八尺瓊勾玉の力だ』


「八尺瓊勾玉?」


 空巴は、告げる。 

 どうやら、九十九と千里を復活させるには、八尺瓊勾玉が鍵となるようであった。

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