第二十九話 静居への宣戦布告

 妖を召喚していた一般隊士の男性は、消滅してしまった。

 なぜ、彼がそのような力を授かったのだろうと違和感を覚えていたのだが、捨て駒とされていたのだろう。

 柚月達は、静居に対して、怒りを覚えた。

 だが、今は、状況を把握しなければならない。

 撫子達は、真意を確かめなければならないのだ。

 柚月達は、撫子が召喚した龍に載って、壁を超え、平皇京に帰還した。

 その後、柚月達は、大広間に集められた


「では、今回の事、話させてもらいましょ」


 撫子は、静かに、説明し始める。

 柚月達が、一番聞きたかったことを。

 なぜ、篤丸を裏切らせていたのか。


「篤丸が、裏切りもんの役を演じてたのは、皆、知ってはりました」


「え?」


 撫子は、衝撃的な言葉を発する。

 なんと、篤丸が裏切り者の役を演じていた事を、七大将軍は、知っていたというのだ。

 朧は、あっけにとられ、言葉を失ってしまう。

 だが、どうしても、不可解なことがあった。


「じゃあ、あの時、春見さんは……」


「おう、全部知ってたぜ。怒ったのも演技だ演技。聖印寮の隊士が、侵入してたかもしれないからな。仲間割れしたって、思わせる必要があったんだよ」


 朧は、確かめるように、春見に問いかける。

 春見は、全てを知ったうえで、わざと篤丸に怒りをぶつけたのだ。

 裏切り者のふりをしていた篤丸が、七大将軍に疑いをかけ、春見達が、怒りを露わにした理由は、聖印寮の隊士が、平皇京に潜んでいた可能性があり、仲間割れしたと思わせ、油断させるためであった。


「なぜ、そこまで……」


「言ったでしょ?情報が必要だったって」


「実際、俺が、潜入した時は、大した情報を得られなかったんだよね」


 柚月は、撫子達に問いかける。

 なぜ、そこまで、する必要があったか。

 篤丸が、撫子の代わりに答える。

 なんとしても、情報が必要だったからだ。 

 蛍が、聖印京に潜入した時は、重要な情報をあまり、得られなかった。


「だから、篤丸は、こちらの情報を流し、聖印寮の情報を手にしていた」


「あなた達が、追われてることも、すでに、知ってたんです……。篤丸が、情報を手に入れたから……」


 情報が得られなかったがゆえに、篤丸が、裏切り者として、聖印寮の隊士に、密告していたと満英が告白する。

 元々、篤丸は、聖印寮の警護隊の隊長と連絡を取ってい為、撫子の命の元、情報を横流しする代わりに、情報を流してほしいと懇願したのだ。

 まさか、撫子の命令で動いているとは、隊長も知らないであろう。

 隊長は、篤丸が裏切っていると思い込み、情報を流していたのだ。

 そして、お互い術で、情報を流しあってきたというわけだ。

 藤代曰く、篤丸が裏切り者として動いていたのは、柚月達が、ここにたどり着く前からだったらしい。


「あんさん方が、ここにいるという情報を篤丸に流させたのは、あてどす。なんとしても、情報を手に入れるために……」


 撫子は、正直に白状する。

 柚月達の情報が流れたのは、篤丸の意思ではない。

 撫子の命令だったのだ。

 だが、撫子は、反省しているようだ。

 うつむきながら、理由を述べた。


「帝を責めないであげてよ。実際、有力な情報は、手に入れられたし、戦力も、削れたんだから」


「つまり、お前達は、あ奴らがここに来るという情報もつかんだという事なのか?」


 世津が、撫子をかばい、責めないでほしいと懇願する。

 撫子も、悩んだ末の事なのだ。

 柚月達を売る真似などしたくなかった。

 だが、そうせざるおえなかったのだ。

 それにより、有力な情報を手に入れ、攻め込もうとした隊士達を捕らえ、戦力を削れたのだから。

 今頃彼らは、術を解くために、躍起になっているだろう。 

 しかも、内側の壁は、そう簡単には解けない。

 とすれば、外側の壁を、解くしかない。

 だが、それも、時間がかかる。

 これで、戦力は落ちたも同然であった。

 世津の話を聞いていた光焔は、気付いたようだ。

 聖印寮の隊士達が、ここへ攻め入るという事を撫子達が知っていたのだと。


「それは、僕が、そうさせたんだよ。君達が、ここにいるって教えたけど、帝は、彼らをかくまってるって。だから、ここを攻め入るって脅すしかないよってね」


 聖印寮の隊士達が、攻め入ろうとしたのは、篤丸の誘導だったらしい。

 脅さない限り、撫子は、柚月達を手放さないだろうと。


「戦力を削ろうと思ったんどす。けど、爪が甘かった。あんさん方を危険な目に合わせてしまいました」


 撫子は、自分を責めているようだ。

 こぶしを握り、体を震わせている。

 まさか、すぐに暗殺者が侵入し、柚月達の命を狙うとは思ってもみなかったのであろう。

 そして、毒を盛る事も。

 そのせいで、柚月と朧は、命の危機にさらされてしまったのだ。

 全ては、自分の考えが甘かったのだと、責任を感じていた。

 

「申し訳ございません」


 撫子は、頭を下げた。

 許されることではないとわかっていながら。


「正直、はじめは、驚きました。ですが、あなた方のおかげで、俺達は、助かりました」


「ですから、顔を上げてください。帝」


 最初に柚月が、本心を語り始める。

 撫子が、篤丸に裏切らせていたというのを聞いた時、驚いたのは、確かだ。

 だが、本気で、自分達を売ろうとはしてない事は、柚月も、理解していた。

 なぜなら、自分達を助けてくれたからだ。

 それも、何度も。

 朧も、それを理解している。

 だからこそ、撫子に、頭を上げるよう、告げたのであった。


「ほんに、ええ人達どすなぁ」


「お人好しなだけでしょ」


「こら、世津」


 撫子は、涙を流して、顔を上げる。

 それほど、自分を責めていたのだろう。

 命を奪われかけたというのに、柚月と朧は、責めるどころか、自分を許してくれる。

 撫子は、柚月達に、感謝していた。

 そんな二人を見ていた世津は、さらりと嫌味を言い、濠嵐に叱られてしまう。

 それもまた、ほほえましい事だ。

 柚月達は、笑い始めたのであった。


「しかし、いいんですか?」


「何がどすか?」


「その、静居に宣戦布告をして……」


 柚月は、撫子に問いかける。

 本当に、静居に、宣戦布告をしてよかったのかと。


「そうですよ!今は、良くても、今後は……」


「ええんどす」


 朧も、撫子の身を案じる。

 今は、鉄壁の守りがあるがゆえに、安全だと言い切れるが、もし、術を解かれてしまったら、平皇京も戦場と化してしまうだろう。

 柚月達は、それを懸念していたのだ。

 しかし……。


「もともと、そのつもりやったんどす」


「え?」


「対談の時に、宣戦布告したろうって考えてたんどすから」


 撫子は、堂々と答える。

 対談時に、宣戦布告をしてやろうと思っていたようだ。


「そ、それは、本当なのですか?」


 柚月が、恐る恐る尋ねる。

 まさか、撫子が、宣戦布告をするつもりで、対談をしようと提案したとは、思ってもみなかったのであろう。


「そうどす。あの男が、考えを改めない限り、従うつもりなどありまへんからな。せやけど、こっちから仕掛けるわけにもいきまへんのや」


「それで、対談をしようと提案したのですね……」


「これも、平皇京を守るためどす」


 撫子は、堂々と答える。

 情報を手に入れたいというのも、あったが、何より、今の静居の言動を許すつもりはない。

 だが、こちらから、戦いを仕掛けるわけにもいかなかった。

 平皇京も狙われている可能性があるため、堂々と宣戦布告をしようと考えていたのだ。

 朧は、対談を提案した理由がわかり、納得した。

 これも、平皇京を守るための策だったのだと。


「今の世は、一番最悪や。せやから、変えなければならないんどす。たとえ、相手が、聖印一族であっても」


「そうですね」


 撫子も、察しているのだろう。

 静居が、聖印京を支配したが為に、最悪の時代となってしまったと。

 だからこそ、変えていかなければならない。

 たとえ、相手が、神の力を授かった聖印一族でもだ。

 撫子の考えを聞いた柚月は、静かにうなずいた。


「というわけどすから。改めて、協力させていただきます」


「ありがとうございます」


 撫子は、改めて、柚月達に協力すると誓い、柚月達は、感謝し、頭を下げた。


「それで、神々の事なんどすけど。今、戻れば、復活できるかもしれまへんよ?」


「え?」


 撫子は、柚月達に、聖印京に戻るよう促す。

 柚月は、驚き、顔を上げた。

 なぜ、戻ったほうがいいのだろうか。

 撫子達は、何の情報をつかんだというのだろうか。


「情報によると、綾姫様が、銀髪の女の子と一緒に、聖印寮に保護されたっていう話らしいよ」


「綾姫が!?」


 篤丸が、手に入れた情報によると、綾姫が、聖印寮に保護されたらしい。

 柚月は、驚愕し、目を見開く。

 だが、今の聖印寮が綾姫を保護するとは、思えない。

 つまり、捕らえられたという事であろう。


「それに、銀髪の女の子って……」


「瑠璃だ……」


 朧は、確信を得た。

 一緒に保護された少女は、瑠璃で間違いないと。


「おそらく、宝玉を手にしたんでしょうな。そうでないと、行方不明だった彼女達が、保護されるわけがない」


 綾姫達が、聖印京に戻った理由は、神々を復活させるためであろう。

 だが、何も知らない彼女達は、静居に捕らえられてしまったのかもしれない。

 柚月達は、助けに行きたいところだが、今の聖印寮は、驚異的だ。

 それゆえに、のこのこと戻っていったら、とらわれてしまう可能性がある。

 作戦を練り、慎重に潜入しなければならないと考えていた。


「助けるなら、今だよ」


「え?」


 考え込む柚月達に対して、篤丸が、助言した。


「戦力を削ったんだ。これで、潜入しやすいでしょ?」


「まさか、戦力を削ったのは……」


 彼が、助けるなら今だと助言した理由は、平皇京に侵攻しようとした聖印寮の隊士達を捕らえたからだ。

 つまり、戦力は、削られている。

 話を聞いた朧は、気付いた。

 戦力を削った理由は、自分達が、聖印京に潜入しやすいようにするためだったのだと。


「朧」


「うん。行くしかない、な」


「聖印京に、戻るぞ」


「うん」


 柚月達は、立ち上がり、決意を固めた。

 必ず、綾姫と瑠璃を救うことを。

 こうして、柚月達は、聖印京に戻ることとなったのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る