第二十六話 召喚された妖達

 数十匹の妖が、柚月達へと迫る。

 あれは、おそらく、静居が召喚した妖であろう。

 気配でわかるのだ。

 今までの妖とは違うと。

 妖へと静かに歩み寄る柚月と朧。

 彼らと戦うために。

 光焔は、静かに立ち止まり、餡里は、不安に駆られた様子で、柚月と朧を見ていた。


「朧さん!柚月さん!」


 彼らの身を案じて、餡里が、二人の名を呼ぶ。

 呼ばれた二人は、立ち止まり、振り返るが、穏やかな表情を餡里に見せていた。

 これから、戦いに行くというのに……。


「大丈夫だ。すぐに、戻ってくるよ」


「だ、駄目です!危険ですよ!」


 朧は、大丈夫だと諭すが、餡里の不安は、ぬぐえないようだ。

 餡里は、首を横に振る。

 このまま、逃げた方がいいと思っているのだろう。

 相手は、数十匹もいる大群の妖だ。

 全て、討伐で来たとしても、二人が無事でいられるとは思えない。

 餡里も、目の前にいる妖達が、静居に召還された妖だとわかっていたからだ。

 なぜ、そのように、感じ取れるのかは、餡里には、わかっていなかったが。


「大丈夫だって。だから、餡里は、そこで、待ってて」


「……」


 朧は、もう一度、大丈夫だと諭す。

 しかも、満面の笑みを浮かべながら。

 なぜ、笑っていられるのだろうか。

 これから、戦いに行くというのに。 

 餡里は、朧の心情が読み取れないまま、呆然と立ち尽くしていた。


「光焔、餡里の事、頼むぞ。危険だと思ったら、餡里を連れて逃げろ。できるだけ、遠くにな」


「……分かった。死ぬなよ」


「ああ」


 柚月は、光焔に餡里の事を託す。

 万が一、自分達にも危険が及ぶようであれば、構わず、逃げるようにと告げて。

 光焔は、静かにうなずき、必ず、生きて戻ってくるようにと告げた。

 彼も、本当は、戦いに向かいたいと思っていたのだ。

 柚月達と共に戦いたいと。

 だが、光焔は、二人の心情を察していたのだ。

 餡里を守ってほしいと。

 ゆえに、光焔は、反論することなく、うなずいた。

 柚月と朧は、光焔と餡里に背中を向けて歩き始める。

 ただ、静かに。


「朧」


「わかってる。憑依化は、俺にとって、切り札だ。すぐには、使わないよ」


「そういう意味ではない。無茶をするなと言いたいんだ」


 朧は、柚月が何が言いたいのか、分かったらしく、憑依化は、もしもの為に、とっておくと告げた。

 憑依化は、朧にとっては、切り札だ。

 一気に妖達を討伐することも可能である。

 だが、長時間の憑依は、体に影響を与えてしまう。

 柚月は、それを懸念しているのだと朧は、察したつもりでいたのだが、柚月は、否定する。

 ただ、無茶をするなと言いたかったのだ。

 朧は、無茶ばかりするから。


「それ、兄さんがいえる事?」


「……そうだったな」


 朧は、すぐさま、柚月に反論する。

 確かに、朧は、無茶ばかりしてしまうが、それは、柚月も同じだ。

 柚月も、朧や光焔、餡里を守るために、危険を顧みないところがある。

 柚月は、反論できず、苦笑しながらうなずくばかりであった。

 そして、妖に近づいた二人は、構える。

 戦いに挑むために。


「行くぞ!」


「うん!」


 朧と柚月は、地面を蹴り、妖達へと向かっていく。

 妖達も、柚月と朧へと襲い掛かっていった。

 瞬く間に、大群の妖達に、取り囲まれてしまった柚月と朧であったが、動じることなく、妖達に斬りかかる。

 聖印を発動せずに。


「柚月さん……朧さん……」


 柚月と朧の身を案じる餡里。

 だが、柚月と朧は、次々と妖を切り裂いていった。

 やはり、聖印を使わなくても、二人の実力は、妖達を上回っているようだ。

 いや、お互いの行動をうまく、読み合っているからとも言えるであろう。


「数だけってところみたいだな。意外といけるかも」


「油断するな。こいつらは、静居が召喚した妖だ。何するか、わからないぞ」


「わかってるって!」


 数が減ってきたからなのか、余裕を見せる朧。

 だが、油断は、禁物だ。

 相手は、静居が、召喚した妖。

 何をするかは、予測不能だ。

 もちろん、朧も、それは、推測している。

 だからこそ、二人は、傷を負うことなく、妖達を討伐で来たのだ。

 約半数の妖を討伐してきた柚月達。

 このまま、残りの妖達も、討伐できるであろう。

 そう、予測した柚月達であったが、その予想は覆されることとなってしまった。


「っ!」


 突然、妖達が、召喚され、柚月達の前に姿を現す。

 これには、柚月も、朧も、驚愕し、動揺してしまった。


「召喚してきたか」


 柚月は、すぐに、冷静さを取り戻した。


「こんな遠い場所でもできるって言うのか?」


 朧は、未だ、動揺を隠せずにいるようだ

 なんと、静居は、遠い場所であっても、妖達を召喚できるらしい。

 柚月も、朧も、舌を巻く。

 だが、いつまでも、立ち止まっている場合ではない。

 召喚された妖達は、すぐさま、柚月達に、襲い掛かってきたのだ。 

 柚月達は、再び、地面を蹴り、妖達に、斬りかかっていった。


「長期戦に持ち込みたくないな……」


 このまま、討伐した所で、静居は、すぐに、妖達を召喚してしまうだろう。

 柚月達は、長期戦に持ち込むつもりはない。

 だが、いくら倒しても、キリがないだろう。

 となれば、逃げるのが策かと柚月は、思考を巡らせたが、もし、逃げ切れたとしても、妖達が、自分達を追いかけてくることなく、平皇京へ向かってしまったら。

 それこそ、撫子達に被害が及んでしまう。

 ここは、聖印能力を発動するしかないのだろうか。

 だが、それでも、倒しきれるとは言い難い。

 柚月は、葛藤しながら、妖達を討伐していった。

 しかし……。


「しまった!」


 突如、妖達は、光焔と餡里の元へ襲い掛かっていく。

 柚月は、妖達を逃してしまったのだ


「光焔!餡里!」


 朧は、妖達を追いかけようとするが、目の前に妖が柚月達に襲い掛かり、守る事すらも叶わなくなってしまう。

 だが、その時であった。

 光焔が、光の力で妖達を一気に消し去ったのは。


「案ずるな!わらわ達は、大丈夫だ!」


 光焔は、叫ぶ。

 自分達の事は、気にせず、戦いに集中しろと。

 光焔は、自分達が、思っている以上に強い妖のようだ。

 だが、やはり、彼らを危険な目に合わせられない。

 柚月は、そう考えていたのであった。


「朧」


「うん」


「ここは、一気に片づける」


「奇遇だな。俺もそう思ってたんだ」


 柚月と朧は、決意する。

 聖印能力を発動する事を。

 もはや、それしかないのだ。

 そうすれば、先ほどより、能力は向上し、妖達を一気に討伐することができるであろう。

 光焔と餡里を守るために、柚月と朧は、切り札を使う事を決意したのであった。


「やるぞ!」


「うん!」


 柚月と朧は、聖印能力を発動する。

 柚月は、光の刀を身に纏い、朧は、明枇を憑依させてた。


「このまま、一気に……」


「片づける!」


 柚月と朧は、再び、地面を蹴る。

 柚月は、異能・光刀を発動し、次々と妖達を切り裂く。

 朧は、九尾ノ炎刀を発動し、妖達を一気に、燃やし尽くす。

 妖達の数は、一気に減ったものの、また、すぐさま、別の妖達が召喚されてしまう。

 だが、柚月達は、ひるむことなく、妖達を討伐し続けていった。

 二人の戦いを見ていた餡里は、不安に駆られる。

 このままでは、二人の身に危険が訪れてしまうのではないかと。

 それほど、妖達は、次から次へと召喚されていき、キリがなかった。


「信じよ」


「え?」


「二人を信じるのだ。わらわも、信じる」


 光焔は、餡里の表情を目にしたのか、餡里に、信じろと告げる。

 餡里は、困惑してしまうが、光焔は、再度餡里に告げた。

 自分も、信じるからと。

 光焔も、彼らの身を案じているのだ。

 だが、彼は信じようと決意したのであろう。

 自分達は、信じなければならないのだと。


「……はい!」


 餡里も、強くうなずく。

 柚月と朧を信じようと。


「くそ、きりがない……」


 柚月は、光速で妖達を斬り続けているが、すぐに妖達が召喚されてしまう。

 徐々に体力が減っていき、柚月は、苦戦し始めたのであった。


「次から次へと……」


 朧も、同様に、苦戦し始めている。

 九尾の炎で妖達を一気に討伐できるのだが、すぐに召喚されてしまうからだ。

 これでは、朧の体にも影響が出始めてしまうだろう。

 だが、朧は、まだ、憑依化を解除するわけにはいかなかった。


――朧、大丈夫?


「うん、俺の方はね。けど、兄さんが……」


 明枇は、朧の身を案じる。

 朧は、大丈夫だとうなずくが、柚月の方を心配しているようだ。

 自分の事よりも。

 お互い、辛い状況だというのに。

 だが、その時だ。

 柚月が、一気に妖に囲まれてしまったのは。


「兄さん!」


 朧は、柚月の元へと向かおうとするが、妖達に取り囲まれてしまう。

 妖達は、一気に、柚月達を殺すつもりだ。

 しかも、数十匹の数を相手にするのは、少々、骨が折れる。

 柚月も、朧も、完全に劣勢に立たされてしまった。

 しかし、状況は、一転することになる。

 なぜなら、一匹の龍が、駆け巡り、妖達を一気に討伐していったのであった。


「な、何が……」


 突然の事で、柚月は困惑しているようだ。

 だが、朧は冷静な反応を示している。

 あの龍の正体を知っているからであった。


「まったく、何も言わんと出るから、こうなるんですよ」


「み、帝……」


 撫子が、扇を手に持って、柚月達の前に、現れる。

 しかも、その扇は、宝器だ。

 となれば、先ほどの龍は、撫子が、発動したものなのだろう。

 これには、さすがの柚月も驚愕しているようだ。

 まさか、撫子達が、自分達の元へ駆け付けに来るとは、思ってもみなかったのであろう。


「皆も、どうして……」


 駆け付けに来たのは、撫子だけではない。

 七大将軍も、柚月達の元へ駆け付けに来たのだ。

 柚月達を助ける為に。

 朧は、動揺し、尋ねた。


「どうしてって、仲間を助けるんは、当たり前の事どす」


 七大将軍の代わりに、撫子が、答える。

 柚月と朧は、仲間だ。

 だからこそ、助けに来たのだと。

 七大将軍は、うなずく。

 彼らも、同じことを思っているようであった。


「苦戦しているようですし、手伝いましょか?」


 撫子と七大将軍は、構えた。

 妖達を全て討伐するために。

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