第二十三話 二人の友情
夜の事件から、時間が立ち、朝になる。
あれから、柚月達は、深い眠りにつくことができたようだ。
もちろん、朧の傷が癒えたのもあるが、何より、濠嵐の計らいで、部屋の前に、隊士達に見張りの任務につかせ、警備を強化したからである。
しかも、濠嵐も同じ部屋で眠りについたのだ。
安心して眠れたに違いない。
濠嵐の部屋で眠りについた柚月達は、目が覚め、朧の様子をうかがっていた。
「朧、大丈夫か?」
「うん。もう、怪我も治ったし、大丈夫だ」
「そうか」
光焔のおかげで、傷が癒えた朧は、すっかり、元の状態に戻っているようだ。
傷跡も残っていない。
ゆえに、朧は、完治したと言っても、過言ではない。
柚月も、朧の様子を見て、安堵していた。
「ありがとうな。光焔」
「当然の事をしたまでだ。無事でよかったぞ」
「そっか、偉いな」
朧は、光焔に感謝の気持ちを伝える。
だが、光焔にとっては、当然の事だ。
柚月達は、光焔にとって、大事な仲間なのだから。
威厳さを保ちつつ、堂々と、話す様は、やはり、子供らしい。
朧は、微笑み、光焔の頭を撫でた。
柚月も、ほほえましく、二人を見守っている。
だが、餡里だけは、どこか、浮かない顔をしているようだ。
朧は、餡里の様子に気付いた。
「餡里、大丈夫か?」
「朧さん……」
朧は、餡里を気遣って、尋ねるが、餡里は、口をつぐんでしまう。
朧に、何か伝えたいことがあるようだ。
だが、餡里は、言いだせない。
餡里が、今、どう思っているのか心情を読み取れない朧は、心配になり、顔を覗き込む。
その時であった。
「ごめんなさい……」
「え?」
突如、餡里が、頭を下げて、朧に謝罪する。
だが、朧は、なぜ、餡里が、謝罪しているのか、わからず、困惑してしている。
餡里は、何も悪くないのだ。
それゆえに、餡里が、謝る必要はどこにもなかった。
「僕の、せいで……」
餡里は、申し訳なさそうに、語る。
自分を責めていたのだ。
朧に、守られてしまった事を。
自分のせいで、朧が、怪我を負ってしまったと感じているのだろう。
「……餡里のせいじゃない。むしろ、俺のせいだ」
「え?」
「俺のせいで、餡里が危険な目に合ったんだ。謝るのは、俺の方だ」
朧は、餡里を責めてなどいなかった。
むしろ、自分のせいだと責任を感じているらしい。
餡里は、驚き、顔を上げる。
なぜ、朧のせいなのか、餡里は、わからず、困惑していた。
だが、朧は、語り始める。
餡里が、危険な目に合ったのは、自分のせいだと思っているからだ。
暗殺者の狙いは、自分と柚月だった。
そのため、朧は、餡里を巻き込んでしまったと思い込んでいるようであった。
「ごめん」
今度は、朧が、頭を下げて、餡里に謝罪する。
餡里は、朧のせいではないと言いたいところであったが、戸惑ってしまい、言葉を失ってしまった。
だが、柚月が、朧の元へと歩み寄り、肩に触れ、それに、気付いた朧は、頭を上げた。
「お前だけのせいじゃないだろ?俺達が、油断していたからだ。まさか、ここまで、追ってきてるとはな……」
責任を感じているのは、柚月も同じであった。
柚月も、朧も、予想外だったのであろう。
まさか、すでに、暗殺者が、ここまで、来ていたなどと。
それゆえに、油断してしまいこのような事件が、起こってしまったのだ。
柚月も、朧も、自分のふがいなさを痛感し、反省していた。
「光焔がいなければ、俺達は、殺されてたかもしれない。餡里も……」
柚月は、思い返しながら、語る。
実は、柚月が、暗殺者の存在に、気付けたのは、光焔のおかげなのだ。
光焔は、念のため、何者かが、部屋に入ってきた時、一瞬だけ、光を放ち、柚月達に知らせるように部屋全体に術を施したのだ。
しかも、侵入者に気付かれないように。
光焔が、術を施してくれたおかげで、柚月達は、暗殺者の存在に気付き、暗殺を防ぐことに成功したのだ。
もし、光焔が、いなければ、自分達は、殺されていたかもしれない。
そう思うと、柚月達は、光焔に、感謝し、反省したのであった。
「でも、僕は、守られてばかりです。何もできない……朧さんを助けることもできなかった……」
「餡里……」
それでも、餡里は、自分を責める。
自分は、朧に守られてばかりであり、朧を助けることもできない。
無力だと嘆いているのだろう。
朧は、悲愴な表情を浮かべる餡里を見ていて、心が痛んだ。
「僕が、ついていくなんて言わなかったら、朧さんは……」
餡里は、さらに、自分を追い詰める。
後悔してしまったのだ。
自分が、柚月達についていきたいと願わなかったら。
このような事は、起こらなかったであろうと。
餡里は、声を震わせ、目に涙を浮かべた。
しかし……。
「俺、うれしかったよ」
「え?」
「餡里が、一緒に行きたいって言ってくれた事、本当は、うれしかった」
朧は、正直な気持ちを餡里に告げる。
一緒に行きたいと餡里が、告げた時、朧は、餡里の事を心配していたが、本当は、うれしかったのだ。
餡里が、そのような事を願ってくれていたのだと知って。
餡里と旅ができるのだと思って。
「だから、餡里は、絶対に守ろうって決めたんだ」
「朧さん……」
だからこそ、朧は、誓ったのだ。
餡里を絶対に、守ろうと。
自分の命に代えても。
朧の想いが、餡里にも伝わっている。
痛いほどに。
自分を大事にしてくれていたのだと、餡里は、気付かされたのであった。
「餡里、一緒に来てくれて、ありがとう」
「……はい」
朧は、餡里に、感謝の気持ちを述べる。
餡里は、うなずきながら、涙を流した。
ついてきて、良かったと感じながら。
朧の優しさに感謝しながら。
二人のやり取りを見守っていた柚月と光焔は、微笑んでいた。
「俺達、気を引き締めていかないとな」
「うむ。その通りだぞ」
柚月も光焔も、改めて、考える。
油断は、禁物なのだと。
それゆえに、彼らは、なんとしても、生き延びる事を決意した。
朧と餡里の為にも。
自分の部屋にいた撫子は、書類を手にし、読んでいる。
どうやら、平皇京の状況を確認しているようだ。
昨日、暗殺者が現れたという事は、ここも、平穏ではないという事。
ゆえに、不信な人物がいないか、隊士達に、探らせており、その結果が書類として、上がってきたため、撫子は、目を通していたのであった。
その時だ。
濠嵐が、部屋へと入ってきたのは。
「帝」
「どうされましたん?」
「その、暗殺者が……」
「自害したんどすな」
「はい……」
濠嵐は、撫子に報告する。
なんと、柚月達を殺そうとしていた暗殺者が自害したらしい。
これも、静居の命令なのであろう。
捕まったら、自ら命を絶てと。
なんとしても、情報を聞きだそうとしていた濠嵐は、申し訳なさそうに、うなずいたのであった。
「駒のように扱うとは、下衆風情どすな」
暗殺者も、人ではなく、道具や駒のように、扱う静居に対して、撫子は、嫌悪する。
部下が、いるからこそ。
部下が、命がけで、守ってくれるからこそ。
自分は、生きることができ、平皇京は、平和だった。
撫子は、そう考えているのだ。
ゆえに、彼女は、部下を大事にしている。
道具としてしか見ていない静居に対して激しい怒りを覚えた撫子であった。
「濠嵐」
「はい」
「警備の強化を頼んます」
「かしこまりました」
撫子は、濠嵐に命じる。
情報を聞きだせなかったとなれば、警備を強化するしかないのだ。
次の襲撃に備えて。
撫子は、なんとしても、静居を食い止めると決意を固めていた。
しばらくして、柚月達は、大広間にたどり着く。
そこには、撫子と七大将軍が、全員で、朝食を取るために、集合していたのだ。
彼らは、いつも、大広間で食事をし、交流を深めている。
それは、西の都を守るためでもあった。
「おはようございます」
「おはようございます。怪我は、もうええんどすか?」
「はい、おかげさまで」
柚月達は、撫子達に、挨拶をする。
撫子は、朧に、怪我は大丈夫かと尋ねると朧は、うなずいた。
確かに、怪我は、治っており、朧は、元にどもったと言えるだろう。
彼の様子をうかがっていた撫子は、安堵し、微笑んでいた。
「では、いただきましょか」
「はい」
柚月達は、全員、朝食をとり始める。
和やかな雰囲気だ。
おそらく、撫子達が、いるからであろう。
柚月は、そう感じながら、汁物を飲み始めた。
しかし……。
「っ!」
一口飲んだ瞬間、柚月は、違和感を覚えたのか、顔をしかめる。
そして、その違和感の正体に気付いた柚月は、血相を変えて、周辺を見始める。
すると、朧が、汁物を飲もうとしているのを柚月は、目にした。
「待て!飲むな!」
「え?」
柚月は、声を荒げて、制止させる。
汁物を飲もうとしていた朧の手は、止まり、驚いた様子で柚月の顔を見上げる。
一体、どうしたのであろうか。
撫子達も、一斉に、柚月へと視線を向けた。
「これには……」
柚月が、制止させた理由を語り始めようとする。
だが、その時であった。
柚月は、苦悶の表情を浮かべたのは。
「かはっ!」
柚月は、説明する前に、大量の血を吐く。
そして、視界が霞み始め、そのまま、意識を失い、倒れてしまった。
「兄さん!」
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