第十八話 個性豊かな七大将軍

 七大将軍は、柚月達を見るなり、立ち上がる。

 皆、柚月達を待っていたようだ。

 一斉に、注目が集まり、柚月や餡里は、さらに、緊張してしまう。

 落ち着かなくなりそうだが、冷静さを保っている朧を見て、兄として、振る舞わなければと自分に言い聞かせ、柚月は、堂々としているふりをしてみせた。

 すると、奥に座っていた大柄な男が、すぐさま、撫子の前へと歩み寄った。


「おおっ、お待ちしておりましたぞ。み……」


「撫子どす」


「え?あ、そ、そうでしたなぁ……」


 大柄な男が、何か言おうとしていたが、彼よりも、早く、撫子が、自分の名を告げる。

 それも、強調するかのように。

 大柄な男は、あっけにとられてしまうが、何か、思い出したように、戸惑いながらも、うなずいた。


「それでは、みなさん、どうぞ、こちらへ」


 撫子は、気を取り直してと、言わんばかりの様子で、笑みを浮かべ、柚月達を部屋へと入らせた。

 朧は、七大将軍の反応を見てみるが、戸惑ったり、平然としていたりと反応は、十人十色だ。

 まるで、違和感でしかない状況を受け入れているようであった。


――ここもか……。


 彼らの反応を目にした朧は、撫子が、彼らによからぬことを吹き込んでいる事を察し、ため息をついた。

 一体、撫子は、何を吹き込んだというのだろうか。

 朧は、撫子の何を知っているのだろうか。

 そのことに関しては、柚月達は、気付くこともなく、静かに座り、七大将軍達も、着席した。


「朧、久しぶりだな」


「はい、お久しぶりです」


「おお、元気そうじゃないか!」


「そ、そうですね……」


 はねている髪の毛、胸元がはだけた衣装に身を包んだ女性は、豪快な様子で、朧に語りかける。

 彼女の勢いは、七大将軍の中でも、ずば抜けていると言っても過言ではない。

 だが、朧は、毎度、彼女の勢いさに負け、たじろぐばかりであった。


「へぇ、背伸びたんだ。僕より、背が伸びるなんて、生意気」


「あんたは、相変わらず、朧に厳しいわね」


「ふん、僕より優秀なのが、腹立つだけさ」


「そこは、認めてるんだぁ」


 一人の少年が、皮肉を込めて、朧に語りかける。

 その少年は、すこし、大きめの直衣のうしに身を包んでいる。

 まるで、自分は、優秀だと表現するかのように。

 少年は、どうやら、朧を好敵手として見ているようだ。

 それも、勝手に。

 少女のようにかわいらしい女性が、怒った様子で、少年を咎める。

 少年は、朧の能力を認めつつ、それが気に入らないようで、皮肉を込めただけのようであった。

 女性は、少年に対して、嫌味を言うと、少年は、女性と火花を散らし始めたのであった。


「こら、やめるでごわすよ」


「本当、二人は、相変わらずだよねぇ。ま、面白いからいいよぉ」


 大柄な男性は、二人にやめるよう促すが、隣にいた少し、小柄で整った容姿の青年が、面白そうに二人のやり取りを見て、のんきな事を言いだす。

 この青年は、気まぐれな性格のようだ。

 柚月は、まるで、若返った虎徹のように思えて、苛立ちそうになるのを押さえたのであった。


「い、いいのかな……」


「……よく……ない」


 大柄な男性たちのやり取りを見ていた男性たちが、心配しつつ、あきれた様子でぼやく。

 一人は、真面目そうで、気の弱そうな男性だ。

 だが、正直に言うと、彼らの中では、影が薄いように思える。

 もう一人は、もの静かな男性のようだ。

 ぼそり、ぼそりと、それも淡々とぼやく。


「な、なぁ、朧?」


「ん?」


「七大将軍、個性、豊かすぎないか?」


「ま、まぁ、ちょっと、濃い……かな……」


 彼らのやり取りを目の当たりにした柚月は、朧に問いかける。

 七大将軍は、明らかに、個性が豊かすぎると。

 彼らは、本当に、七大将軍と呼ばれる者たちなのかと疑うほどに。

 彼らが個性豊かなのは、朧も、否定できないところがあるようで、たじろぎながら答えた。

 朧が、最初、彼らと会った時、あっけにとられ、引いたのを思いだしながら。


「さあ、みなさん、自己紹介をしてくださいな。始めて見るお方もいますし」


「そ、それなら、俺から、自己紹介をしよう」


 撫子は、自己紹介をするように、彼らに促す。

 だが、柚月は、先に自己紹介をするべきだと判断し、名乗り出た。

 と言っても、この個性豊かな彼らが先に自己紹介をし始めたら、賑やかになり過ぎて、疲れてしまいそうだと考えたからであった。


「朧の兄、鳳城柚月です。よろしくお願いします」


「わらわは、光焔だ。光の妖だ。よろしく頼む」


「ぼ、僕は、餡里です。その……朧の、友達……です」


 柚月、光焔、餡里は、自己紹介をするが、朧は、餡里が、自分の事を友達と思ってくれたことを知り、嬉しそうな表情を浮かべた。

 餡里とようやく、わかり合えたような気がして。

 そんな朧の様子をうかがっていた柚月も、嬉しそうな表情を浮かべていた。


「自己紹介、ありがとうございます。では、お願いいたします」


「うむ」


 自己紹介を終えた柚月達。

 牡丹は、七大将軍に、自己紹介をするよう、促し、まず初めに、大柄な男性が、名乗り出た。


「私は、宗川濠嵐むねかわごうらんと申すでごわす。私は、平皇京から北にある豊碌街ほうろくまちを統治しているでごわす」


「ちなみに、濠嵐は、七大将軍を取りまとめております」


「うむ」


「よろしく頼むぞ」


「おお、よろしく頼むでごわすよ!」


 大柄な男性は、濠嵐と言う名のようだ。

 しかも、彼は、七大将軍を取りまとめているらしい。

 濠嵐は、うなずくが、柚月は、どう考えても、彼らを取りまとめるのは、大変そうだとげんなりしていた。

 そう考えると、濠嵐の人柄の良さがうかがえる。

 濠嵐が自己紹介をし終えると、光焔は、濠嵐に挨拶をし、濠嵐も、豪快にうなずいた。


「さあ、次、お願いします」


「ああ、僕ね、はいはい。僕はぁ、鳳来寺篤丸ほうらいじあつまる。えっと、統治してる街も言うんだっけ?九条街くじょうまちって言うところにいるから。平皇京から、北東にあるからねぇ。よろしくぅ」


 先ほど、気まぐれな様子で話していた男性・篤丸は、ここでも、気まぐれに自己紹介をした。

 しかも、のんきに手を振りながら。

 ここまでくると、一層、清々しく思えてならなかった柚月なのであった。


武野満英たけのみつひで。西にある満荘街まんそうまちにいる。以上」


「あ、はい……。よろしくお願いします……」


 もの静かな男性・満英は、淡々と自己紹介をする。

 めんどくさいというわけではないのだが、話すのが苦手なのだろうか。

 必要事項だけを述べたように語った満英、そんな彼の様子を見ていた餡里は、たじたじになりながらも、挨拶を交わしたのであった。


「私は、鮎原春見あゆはらかすみだ。南西にある阿津野街あつのまち担当してるから、夜露死苦よろしく!」


 誰よりも、豪快に、誰よりも、男らしく自己紹介をしたのは、先ほど、朧に声をかけた女性だ。

 彼女、春見は、矢代とは、違った雰囲気を持った姉後肌と言ったところだろうか。

 それにしても、豪快である。


「さ、佐々木藤代ささきとうだいです……。南東の……八須街はちすまちにいます……。です……」


 正直、影が薄い男性、藤代が、自己紹介をし始めるが、やはり、ぼそぼそと小声でしゃべっており、聞き取りにくい。

 おどおどしているという様ではないようだ。

 周りが個性豊かであるがゆえに、余計に、影が薄く思え、尚且つ、それもまた、個性が豊かすぎるのではないかと思えてならなかった。


「ど、どうも、よろしくお願いします……」


 春見と藤代の正反対な自己紹介に対して、柚月は、たじろぎそうになってしまう。

 と言うか、引いていた。

 個性が豊かすぎて……。


「次は、あたしの番ねぇ。あたしは、加納蛍かのうほたる。西の街、弥生街やよいまちにいるから、よ・ろ・し・く」


「うわ、吐き気がする」


 少年と火花を散らしていたかわいらしい女性・蛍は、柚月達を誘惑するかのように、色目で、紹介してみせる。

 それも、片目を閉じて。

 そんな彼女の様子を見ていた少年は、ここでも、毒づき、嫌味を言ってのけたのであった。


「うるさいわね!ほら、あんたも、早く自己紹介しなさいよ」


「はぁ、めんどくさい。逸見世津いつみせつ。北西の柄津賀街えつがまちってところにいるから。ちなみに、僕は、七大将軍の中で、一番、優秀だから、覚えておいてよね」


 蛍が、少年の発言に対して、反論し、紹介するよう促すと、少年は、めんどくさそうに話し始めた。

 彼の名は、世津と言うらしい。

 ちなみに、世津は、自分が優秀と言っていたが、自称ではない。

 本当に、優秀なのだ。

 天童と呼ばれているほどの。

 そのためか、自分と同じくらい、いや、自分より、優秀であろう朧に対して、好敵手として見ていたようだ。


「ははは、相変わらず……だな」


 この十人十色な自己紹介を聞いた朧は、改めて考える。

 本当に、個性が豊かであり、それは、何年たっても変わらないのであろうと。


「と、言う事で、よろしく頼んます」


「は、はい……」


 撫子が、笑みを浮かべたまま、改めて、挨拶し、お辞儀する。

 柚月達も、戸惑いながら、挨拶し、お辞儀をしてみせた。

 だが、柚月は、不安に駆られていたのだ。

 本当に、彼らに、協力を仰ぐべきなのかと……。

 それほど、彼らは、個性が豊かすぎるのであった。

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