妖狐のケーキ屋さん#9

「キリ君、こんにちは」


「ヴィルゴさん、お待ちしておりました」


 ヴィルゴさんの微笑みに対しおれも自然と笑みを返していた。


「先週はワタシのわがままに付き合ってくれてありがとう。ワタシの殺伐とした時間の中であの日ほど華やかで有意義な時間は無かったわ」


「おれもとても楽しい時間を過ごさせていただきました。誘って頂きありがとうございました」


「もう、キリ君ったら男を惚れさせてどうするのよ」


「失礼致しました」


「それでね、キリ君。今日はキリ君に渡したいものがあるの」


「何でしょうか?」


 そう聞き返すとヴィルゴさんは胸元もとい内ポケットから分厚く膨れた封筒を取り出した。


「お祭りで色々と写真を撮ったじゃない? それが現像できたからキリ君にあげるわ。ワタシの顔が見たくなったらこの写真を見てあの日の思い出と共に思い出してくれると嬉しいわ」


 ヴィルゴさんが何故だか悲しげな表情を見せてそう言うのでおれはすぐに答えることが出来ず少し間を置いて、


「わかりました」


 そう呟いた。


「さて、今日もキリ君の作ったシフォンケーキは美味しそうね。帰ったらすぐに食べるとするわ」


「ありがとうございました」


 おれは先程の表情が夢か幻だったのではないかと思うほど素敵な笑顔を見せるヴィルゴさんを笑顔で見送った。



8月27日 キリマンジャロ

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