吸血鬼の喫茶店#11

「店長、少し良いですか?」


 開店前の準備時間にライムはカウンターを拭きながらそう言った。


「改まって……いや、改まっていないな。で、何の話だ?」


「いや、実は来月ユグドラシルに開店する友達のお店からスカウトされまして」


「ライムが? それでライムはどうするつもりだ?」


 私に聞いてきた時点でライムの答えは決まっているようなものではあるのだが、ライム自身から答えを聞くべきだと考えた私はあえてそう言った。


「ライは来月からそこで働こうかと」


「そうか、ライムもライムなりに……って、ここを辞めるのか!」


「そうなりますね」


 ライム自身に答えを任せるつもりではいたのだが、ここまで悩むことなく答えを出されるとは思っていなかったので私は頭を抱えた。


「そんな重要な話ならもっと早く伝えるべきだろ」


「いやぁ、話自体は先月からあったのですけど。うっかり」


「うっかりじゃないだろ。でも、ライムが選んだなら私は止めないが」


「本当ですか! じゃあ、残り2週間よろしくお願いします」


「2週間? 思った以上に急な話じゃないか」


 私は再び頭を抱えた。



6月21日 オレンジ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る