エルフの焼き鳥屋#11
大切な話をするのに場所を提供してほしいと言われたので店を貸切にしているのだが、ゼバという天使と貸切を申し込んできたユースケという悪魔は店に来てからちまちまと私の焼いた焼き鳥を食べているだけでまだ一言も会話を行っていなかった。
「ユースケ、貸切と言っても私は1人5串までしか焼く気はない。話すことがあるなら焼き鳥が残っている内に話した方が良い」
「あ、あぁ。そうさせてもらうよ」
そう言ったユースケの焼き鳥は残り2串だった。
「ゼバ、コラボ企画は大成功だったな」
「今更だね」
「それで、だな。上手く行ったのはラックアンラックさんの力があったからこそではあるのだが、この企画を担当したオレとゼバの相性が良かったのも理由だとオレは思っている」
「今日は随分と恥ずかしいことを恥ずかしげもなく……いつもか」
「いつもじゃないだろ!」
ユースケがそう言い返すと何となく不安そうな顔でユースケの話を聞いていたゼバは微笑みを見せた。
「ようやくいつも通りのゼバだ」
「オレはさっきからいつも通りだ!」
「それで、ここに呼び出してボクに何の話があるの? 勿体つけずに教えてよ」
「話すのには順序がって、それはオレらしくないな。ゼバに話したいことって言うのは……」
とても大切な話なのだと察した私は席を外そうと思った。しかし、ユースケは突然私を見つめた。
「アロエさん、ここに居て証人になってくれ」
「妙な証人じゃなきゃ良いのだが」
私はそんな冗談を言ってその場に留まった。
「ありがとう。じゃあ、改めて。ゼバ、エンジェリーを離れてオレと新しい洋服屋を開業しないか?」
「本気?」
「本気だ」
「そっか……」
今の仕事を辞めて新しい事業を始める。すぐに答えは出ないだろう。私はそう思っていた。多分ユースケもそう思っていた事だろう。
「面白そうだね。ゴシック・アンド・ロリータのデザインは苦手だけどそれでも良いなら」
ゼバはあっさりとそう言ってユースケに握手を求めた。
「ほら、握手」
「お、おう」
ユースケは戸惑いながらもゼバと熱く強い握手を交わし、私はその証人となった。
6月20日 アロエ
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