魔女のたい焼き屋#10

 お昼もまだだというのにアタシの店は閉店していた。


「たまにはこんな日も悪くは無いね」


 開店直後に200個のたい焼きを売り上げたアタシは今日の分の材料が無くなった店をさっさと出てユグドラシルの中をぶらぶらと歩いていた。


「それにしても今日は随分と人が多いね」


 今日が土曜日であるというのを考慮しても随分と人が多いように感じられた。


「おや?」


「あ、おばちゃん」


「世渡じゃないか。こんな所で何をしているんだい?」


「おばちゃんこそ」


 アタシは世渡に店にあるたい焼きの材料が開店直後に底を尽きた経緯について説明をした。


「なるほど。それで暇になったからユグドラシルを見て回っていると」


「ところで世渡、今日のこの人の多さは何だい?」


「今日は大きなイベントがあるからだよ。おばちゃんの店でたい焼きを大量に買って行った人はその関係者だと思うよ。僕もさっき差し入れにたい焼きを貰ったから」


「そうなのかい。じゃあ、もっと人が多くなる前にアタシは帰ろうかね」


 人混みが嫌いなアタシはそう言ってそそくさと帰宅した。



6月16日 ヨウカン

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