ユグドラシルの定休日⑦

「来たぞ」


 前々から飲みに来いと言われていたので、折角の休みではあるが私は古い友人の水守が店主を務める某芸能事務所1階にある喫茶店へやって来た。


「まぁ、座るといい」


「言われなくても座るさ」


「ブラックで良いだろう?」


「任せるよ」


 私がそう答えると水守はコーヒー豆を挽いてじっくりと時間をかけて一杯のコーヒーを淹れた。


「どうぞ」


「いただくよ」


 とてもきれいに磨かれた真っ白なコーヒーカップを手に取って、その中にある夜の闇のように深い黒色をしたコーヒーを口に含んだ。


 職業柄色々な種類のコーヒーを飲み比べている私だが、このコーヒーは今まで飲んできた中でも上位に食い込むほど上質なものだった。


「美味いな。お代は?」


「おい、もう帰るつもりか?」


「そのつもりだ。この店は私には眩しすぎるからな」


 照明の明るさという意味でも、客の放つオーラという意味でも。


「なら仕方ないな。お代は1000円で良い」


「高いな」


「これでも負けている方だぞ」


 まぁ、あの味を考えるとそれだけ出す価値はあったので私はポケットから1000円札を取り出して水守に渡した。


「はい丁度。また来てくれ」


「あぁ、いずれな」


 私は適当にそう返し、そそくさと私には明るすぎる水守の喫茶店から出て行った。



2月28日 オレンジ

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