世渡のよろず屋⑤
「だ、誰か」
今日はお客様が訪れないと思いながらオレンジさんが店主を務める喫茶ブラッドで買って来たコーヒーを飲んでいると、店の外から今にも消えてしまいそうな声が聞こえて来た。
「どなたかいらっしゃいますか?」
僕の問いかけに返答は無かった。しかし、僅かに気配のようなものを感じた僕は店の外へ出た。
「うぅっ」
「だ、大丈夫ですか!」
僕の予想通り店の外には小さな呻き声を出して床に倒れている方がいた。
「み、水を」
身体のほとんどがうろこで覆われている魚人族と思われる種族の少年は消えてしまいそうなほど小さく掠れた声で僕にそう言った。
「お水ですね? 少し、ほんの少し待っていてください」
僕はそう言うとすぐさま店の中に戻り、コップいっぱいに水を入れて少年のもとに戻った。
「んぐっ、んぐっ、んぐぅ」
「おかわりいります?」
少年は首を縦に振ったのでおかわりを持って来ると二杯目も少年は一気に飲み干して生気を取り戻した。
「助かりました。ありがとうございます」
「いえ、僕は当然のことを行っただけなので」
「当たり前のことを当たり前にするのは難しいことです。あの、助けて頂いたお礼をさせてください」
「そんな、お礼なんて」
僕は両手を振ってお断りをしようとしたが、少年は僕の腕を抑えて言った。
「お礼をさせてください。見た所あなたはおひとりでこのお店を経営されているように思います。もしよろしければこのサファイアにお手伝いをさせてください」
サファイアという名の少年の瞳はこれ以上何を言っても意思を曲げない力強さがあり、僕は彼の気が済むまでよろず屋のお手伝いをしてもらう事にした。
2月11日 不知火世渡
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