第248話 団欒
僕、さくら、みゃーこと久しぶりに集まった地球メンバーで団らんとご飯を食べながら、お互いにここ最近何をしていたのか細かいことを話し合った。
「――私はね」
まず最初に口火を切ったのはさくらで、アルフさんと魔法の修行をしていたのだが、アルフさんは冒険者ギルドのマスターということもあって、一介の冒険者に必要最低限以上の肩入れが体裁もあるため出来ない。
なので、誰にも見つからないように隠れて修行をするべく、人気の無い場所で夜中にこっそりとやっていた。
そして、アルフさんはギルドマスターのため冒険者ランクには正式に登録されていないので冒険者何位という比べ方は出来ないが、リリスさんやマルスさんと勝るとも劣らないぐらいの並外れた高い実力をやはり持っており、ある程度の距離を取っている状況なら、剣士であるリリスさんやマルスさんを手も足も出させること無く圧勝出来るらしい。
「さすがはギルドマスターまで登り詰めただけあるね」
修行という名目を取っ払って敵を相手にするように本気を出されれば、僕がありとあらゆる工夫と努力をして、ズルと言われようが姑息と言われようが知ったこっちゃないと形振り構わずに挑んだとしても、ただ純粋な実力だけで吹き飛ばすだろうリリスさんとマルスさん。
その二人を、アルフさんが多種多様で強力無比な魔法で圧倒する場面を想像して、ブルブルッと身震いと鳥肌が止まらなかった。
と同時に、そんな只者ではない人に修行を付けて貰ったさくらの、目を見張るであろう成長を早く見てみたいとも思った。
「――――」
そんな風に多大なる期待をさくらに対して抱いていると、負けじとみゃーこが意気揚々と話し始める。
「みゃーも話すにゃ!」
次にみゃーこだが、みゃーこはみゃーこで自分で強くなるための修行をしていたという。しかし、その修行方法は僕たちとは一線を画すほどに独特であり、驚くべき事にその内容とは、僕とリリスさんが鬼ごっこをしていた場所とは違う方向の森で野生の魔物とひたすら戦っていたらしい。
何でも、ダンジョンのようにポップで湧いて出てきた魔物達とは大きく違い、大昔のためまだ管理がされていないダンジョンから飛び出して、そこから今の今まで独自の生態系を脈々と築いているからこそ、地力が桁違いに強い魔物が多いという。
それにダンジョンと比べて魔物が強いか弱いか関係なくとも、今はダンジョンが冒険者ギルドの手によって封鎖されておりどっちみち入ることがほぼ不可能なため、外の魔物と戦うのは一石二丁だとみゃーこは胸を張って言った。
「どこにいるのか気にはしていたけど、そんなところにいたんだね」
おおよそ僕と同じ感想を持ったさくらは、偉い偉いとみゃーこの頭を撫でた。
「それでご主人様はどうだったのにゃ?」
みゃーこの撫でて欲しい場所を全て把握しているさくらの手によって、蕩けそうな表情をしているみゃーこだったが、さしもの猫をも殺す好奇心には勝てなかったようで、僕に尋ねる。
「――――」
二人は隠している、とまではいかないまでも、修行の概要のその先、つまりその辛さや過酷さには決して触れる事は無かった。
さくらは、いくらステータスが上がった結果、地球で生活していた頃よりも何倍も何十倍も疲れ辛く、また疲労からの回復が大幅にし易くなっているとしても、アルフさんの立場上の都合から昼夜逆転で修行せねばならなく、更には僕の師匠である両名を上回る実力者の行なう修行では、求められるハードルは想像を絶するほど高いだろう。
挙げ句、魔法を使う際に必要な魔力は、身体の身体的な疲れに比べて回復薬やその他物品による回復が非常に容易い。そのため、ただでさえ尋常ではないさくらの魔力量でも魔法を一秒たりとも絶やすことのない過酷な修行の最中では簡単に底を突くが、魔力切れを起こしたとしてもすぐさま回復が可能なので、修行の終了の合図は途方もないほど先で待っている。
しかし、物品による魔力回復でステータスに表される魔力が空から完全に元に戻ったとしても、魔法の大前提となる魔法の完成形の明確な想像や、それを実現するための魔力量と指向性の調整、そして完成後の微細なコントロールと、針に糸を通すよりも繊細な感覚が何個も平行して必要な魔法は精神的負荷が莫大なため、心労だけは上限のない重りのようにどんどんと身体に累積していくだろう。
「――――」
みゃーこも暢気で自由気ままな性格柄おくびにも出さないが、自分で自分に課した修行のレベルは相当に高いはずだ。
各々が修行を行なう前、白虎化を使ったとしてもみゃーこは頭一つか二つほど、種族としての明らかな体格差などから総合的な実力で僕たちに劣っていた。
そこに対して、みゃーこは劣等感や焦り、悔しさなどを、僕が手を必死に伸ばしても到底届かない存在に対して感じていた以上に、骨身に沁みる思いをしていたに違いない。
だから、みゃーこは僕とさくらが師となる人を付けたみたいに自分で時間や技術など区切りを持って修行できるタイプではない、もっと過酷なやり方を選んだ。
それは、ご飯を一口食べようとすればハイエナの群れが襲いかかってくるような、あるいは眠気に負けて数分でも寝ようとすれば寝首を搔こうとしてくるような、いつ戦っても、どんな場所で戦ってもおかしくない時間も密度も圧倒的に濃く凝縮した、ある意味原点回帰とも言える自然の中で、野生の魔物相手に四六時中戦う修行方法だ。
「――――」
そんな二人に比べたら、僕はまだ楽をしているのかもしれない。
だが、一つだけ胸を張って言える事がある。
「――――」
怒りのあまり軽んじていたマルスさん相手に、手も足も出ないほどボコボコにされる悔しさと、そこで見せつけられた強者と弱者の圧倒的な差。そして、何よりその隔たりを無くそうとすればするほど更に深まる溝への焦燥感。
それらは胸がムカムカしたり、血の気が引いたり、世界から取り残されたようなすごく嫌な感情を僕の内側で嵐のように巻き起こした。
「――――」
しかし、それらネガティブな思いも含めて僕が強くなるまでに歩んできた確かな道のりなのだ。
例え僕が境遇的に楽をしていたかもしれなくても、決して二人にも引けを取らないだろうし、それこそが胸を張って堂々と言える事だ。
もちろんまだまだ改善する余地はあるだろうし、至らない部分も多々ある。でも、逆を言えばまだまだ伸びしろがあるということに他ならない。
「僕はね――」
マルスさんは毎朝決まった時間に修行のルーティーンをこなしていて意外にも努力家なこと、リリスさんの言葉少な気ながらも的確なアドバイスをくれること、そして二人がどれだけ強かったかなど、二人と同様修行内容の詳細には触れなかったが、どんな感じの技術を習得したかも含めて概要部分は話した。
「真冬も相当強くなってるはずだね」
「早くご主人様が戦ってるところみたいにゃ」
認められるためや褒められるために修行を頑張ったわけではないが、やはりこうして認められ褒められるとどうしても嬉しさは込み上げてしまうものだ。
「――――」
そして、どこかで頑張っているであろう二人が常にまぶたの裏にいたからこそ、今までの修行を乗り越えることが出来た。だから、心からの――
「ありがとう」
感謝を口にした。
ご飯も食べ終わり、ここ最近の進捗報告が終わった後、お風呂に入り、そして今は布団に入って、満足した気分で寝ようとしているところだった。
その満足した気分はひとえに、久々に集まった二人のおかげでリフレッシュされたおかげだろう。心の中で再度感謝を呟く。
「――――」
温かい気持ちと温かい布団、精神的にも身体的にもぽかぽかとして、今すぐにでも夢の中へ飛び込めるようなそんな時、隣で寝ているさくらがふと思い出したかのようにもぞもぞとこちらに寝返りを打ちながら尋ねてきた。
「そう言えば明日のこと何か聞いてる?」
「え?何かって……?」
何かと問われても、思い当たる節どころかリリスさんやマルスさんとの修行がどうなっているのかさえよくよく考えてみれば聞いていなかったため、僕も尋ね返すしかなかった。
「ううん、何でも無い。明日はみんな頑張らなくちゃだから……それじゃおやすみ」
「??う、うん……おやすみ」
先ほどのを逆再生するみたいにもぞもぞと寝返りを打って反対方向を向くさくらに首を傾げざるを得なかったが、おそらくはさくらも明日の事を全く聞いていなく、眠いながらに辛うじて尋ねてきた程度のことなのだろう。
「――――」
僕はこのことを気にも留めないで眠りにつくのだった。
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