第243話 双剣

「これが僕の剣技です――剣技・双剣ツイン!」


 二本目として取り出した剣、それと元から手に持っていた一本目をクロスし、身体の前で互いに斜めにしてバツ印のように剣の交差を作る。その直後、丁度剣が重なっている部分に、マルスさんの強烈な刺突が刺さる。


「――やるな」


 僕の目を貫かんとしていた刺突は、交差した剣にぶつかったところでまるで時が止まったかのようにピタリと止まった。


 そして、精巧な剣の腕によって無駄が一切出ないどころか、テコの原理のようにマルスさん自身が加えた力以上の力を孕んだ刺突の破壊的な威力は、僕が持つクロスさせた二振りの剣によって背中側へと分散し、衝撃を受け流された。


「――――」


 刺突が持っていた力の逃げ場となった背中側では、その力の強さがありありと見て取れ、災害級の残虐なまでの風が嵐のように荒れ狂って吹き抜けていった。


「――ここからは僕の番です」


 ただ単に自惚れかもしれないが、マルスさんはこの一連の対応から推測される僕の成長度合いを見て驚いており、今まで一度たりとも見せたことがない大きな隙が生まれていた。


 しかし、大きな隙とは言え、ほんの一秒後には絶好のチャンスでもあるこの隙を完璧に埋められてしまうと予想されるため、間を置かずにすかさず攻撃へと移る。


「――――」


 防御のためと交差させていた二本の剣で、マルスさんに次々と連撃を叩き込む。


 だが、隙と思っていたのはただの思い上がりでしかなく、初撃は呆気なく対処され、続く攻撃も躱されたり受け止められたりと文句の付け所がないほど完璧に処理される。


「初っ端はちっとは驚いたが、まだまだ攻めはひよっこか?」


 10撃、20撃と絶え間なく続く二振りの剣による高速の連撃で、心身ともに僅かな弛緩さえ許していないにも関わらず、マルスさんにその刃が僅かでも届くことはなく、二倍の手数を余裕綽々にあしらっている様は敵ながら天晴れとしか言い様がなかった。


「――――」


 30、40……


「――――」


 50、60,70……


「――――ッ」


 80、90、100……


「――――ッッ!!」


 時間にしたらものの10秒程度。

 秒数としては非常に短いながらも、単純に二倍の手数で襲いかかってくる連撃に次ぐ連撃に、あれだけ余裕を見せていたマルスさんの額には次第に汗が滲んできていた。


 150、200……


「……さすがにひつけぇーな――噴火!!」


 最初の攻撃から約15秒。二つの剣から繰り出される手数の余りの多さと、離れようとしても執拗に迫る僕にいよいよ痺れを切らしたマルスさんは、一端距離を取るためにと爆発をするように身体から膨大な熱を放つ噴火を使用した。


「…………」


 だが、自分を中心とし、球体状に満遍なく広がっていくはずの、一呼吸にも満たないほんの僅かでも吸い込んでしまうだけで肺が瞬く間に燃えて、たちまち灰になりそうな程の大熱は、マルスさんが思っていたよりもその威力を十全に発揮することはなかった。


「――って、何が起きてんだッ!!」


 300、500……


 自分の磨きを掛けた自信ある技が思うように発動されなかった事による怒りと、その原因がてんで分からない状態でも、僕の連撃は留まることを知らず、二本の剣で打ち込むペースは誰から見ても明らかに上がっていた。


「まさか――」


 マルスさんの汗の量は時間が経つにつれて指数関数的に増えているだろう。そして、ようやく気付いた通り、初撃から経った時間とマルスさんが流した汗の量に比例して、僕が繰り出す連撃の一撃一撃の威力も指数関数的に上がっている。


 何故なら――


「俺のを奪ってんのか!!」


「その通りです」


 攻撃に対しての防御、それはもちろん押し負けないようにするため僕のと同等か、あるいはそれ以上の力が宿っている。

 だから、マルスさんが気付いた通り、マルスさんの防御の剣が僕の攻撃の剣とぶつかる瞬間、その防御に当てられた攻撃以上の力を悟られないようにこっそりと奪っていたのだ。


 ただし、現時点での僕の技術と精度では、お互いの剣の向きや力の拮抗具合など奪うのに完璧な状況の中でどれだけ頑張ったとしても、僅か1%にも満たないぐらいのほんの微量しか奪えない。

 そのため、相手から力を奪っている、という表現は少し大袈裟であり、単発の攻撃としては気をつけなければ見過ごしてしまいそうな誤差程度の強化にしかならない。


「――――」


 戦いのほんの一部分を切り取れば、相手の防御の一発一発からは誤差程度しか力が奪えず、それほど劇的な変化が戦いの中で起きるわけではない。そのため、マルスさんやリリスさんが使う剣術のように、短期的に戦況をひっくり返せるほどの威力は持ち合わせていない。


 しかし、そこで双剣の本領が発揮される。


「――――」


 双剣は二つの剣を同時に使い、二倍もの手数で相手に攻撃を与えられる。


 そして、一度しゃがめば次に高く飛べることが出来るように、あるいは一度重心を後ろに持って行くことで次に力強く押し出せることが出来るように、本番の動きの直前で反対方向への動き――つまり俗に言う反動を付ければ、その直後の動作をより強力にすることが出来る。


 だから、右の剣で攻撃をする前に左の剣で反動を付け、左の剣で攻撃する前には右の剣で反動を付けるようにすれば、本番の攻撃がより一層強力なものと化す事が出来るのだ。


 その上、反対の剣で反動を付けること自体を攻撃にしてしまえば、攻撃をしながら反動が付けられ、次の攻撃が強力に、その攻撃でもまた反動を付ければその次の次の攻撃がもう一段階強力に、という風に連鎖的に攻撃を強化することが可能ということだ。


「――――」


 マルスさんの防御に込められた力を連続的に奪うのと、片方の動きが片方の動きを連鎖的に強化する、双剣ならではの特性。


 それら二つを重ね合わせると、初めは対処が容易なただの連撃だったにも関わらず、反動による連鎖強化で、次第に強力に。

 更に、相手の防御と比べて相対数として奪える力はごく僅かながらも、自分の攻撃が強くなるにつれて相手の防御も比例して強くなるため、奪える力の絶対数は爆発的に上がっていくので、輪を掛けて強力に。


 結果、指数関数的に強力になっていくループが出来上がる。


「――――」


 二重のスパイラルによって超強化されていく剣技。その名も――


双剣ツイン連鎖撃チェイン

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