第240話 開戦
「…………!!」
気を浴び続けた結果、メラメラと燃える火のように掴み所が無い魔力とは異なり、リリスさんが大鬼との戦闘で見せた諸刃の剣とも言える
「リリスさん……これでどうですか!」
本当に気という物が理解出来ているのか確認のため、僕はリリスさんから発せられている気を押し返すようにして、リリスさんに向けて何とか気を送り返す。
しかし、僕が出す気のような物はリリスさんが出す気よりも芯が通ってないためか、まだフワフワとして力が無い状態であり、ぶつかった結果押し負けると言うよりは、硬く芯の通ったリリスさんの気によってあっという間に穿たれる。
そして、最終的には僕の出したなけなしの微々たる気を取り込み、多少増幅されたリリスさんの気をまともに浴びたのだった。
「――――ッ!」
気に気圧され思わず尻餅をついた僕。痛む臀部をさすっていると、世界の見え方に変化が生じており、それ故あることに気が付いた。
「僕ってこんなに気を垂れ流しにしていたんだ」
何となく掴めた、気という得体が知れなかった物。その存在自体を知らなくても、目に見えなくても、まだここまでのレベルに達していない冒険者の例に漏れず、僕からは絶えず放出されていた。
しかし、存在を掴めた今、僕は自分の身体から薄らと滲み出ている気を感知することが出来るようになったのだ。
「あとはそれを抑えるだけ」
ゆっくりと近付いてきたリリスさんからは先ほどとは違って、あれほど爆発させていた気が微塵も感じられず、姿は視認出来るため確かに目の前に居るのに、まるで水面に映った虚像のように目の前に居ないような、ある種の矛盾を孕んだ奇妙な感覚を覚えた。
恐らくこの奇妙な感覚を逆手にとって応用すれば、相手の視界から突如として消えたかのように錯覚させたり、反対にそこに実際には居ないのにあたかも居るように思わせたりと、一瞬の隙が命となるような戦闘を有利に運ぶことが可能になるだろう。
しかし、それを抑えるだけと言われても……
「そう簡単に言われましても……あ、出来た」
余りにも簡単そうな物言いに反論したくなったが、出ている気を抑えるの自体は魔力の操作に似通っていたため呆気ないほど簡単だった。おそらくは気を感じ取るのが一番の難所だったのだろう。
「あとは相手のを読むのだけど、これはやるしかないから実戦あるのみ」
そこからは俗に言う『実戦あるのみ』を具現化したように、森の中での鬼ごっこで実戦を積み重ね、気を抑え、気を読み、気を扱うことをみっちりと身体に叩き込んでいった。
その結果、僕は魔力、純粋な膂力、そして気と3種類の力の使い方をそれなりの形に出来るようになった。
そうして次の日、また金髪の青年と対面する。
「だいぶ仕上がってきてんじゃねーか」
相対する金髪の男――マルスさんは獰猛な獣が獲物を見つけたように不気味に笑った。その瞬間、もし指先でも触れてしまえば瞬く間に全身が切り刻まれそうな鋭利な刃を首元に突き付けられたような絡みつく殺意と、まるで巨人の手で握り潰されそうになっているかのような目眩のする圧迫感が全身を包み込んだ。
「――――!!」
その正体は、敢えて見せつけるようにして周囲にこれでもかと言うほど放っているマルスさんの無尽蔵に溢れる気による物だ。
その気はリリスさんの物とは質も量も段違いであり、昨日のリリスさんとの修行を経ていなければ、余りの苦しさから自ら命を絶つか、あるいはただの純粋な恐怖だけで息絶えていたかもしれない。
しかし、
「僕だって負けっぱなしはご免です」
僕はマルスさんの気を自分の気で押し返した。
「そんじゃ、そろそろ手加減無しでいくぜ」
僕の反抗に先ほどから溢れていた不気味な笑みはより一層深くなり、発する気もより濃密で、より重厚で、より鋭さが増す。
「今日もよろしくお願いします」
僕はおもむろに剣を取り出し、緊張感を持って構える。それに対してのマルスさんの返事は、世界がひび割れたかと思うほどの途轍もない轟音だった。
「剣技・雷」
手加減を無くしたマルスさんと、リリスさんからもう教えることはないと言われた僕との、今までのお遊びとは次元の違う苛烈な戦いの火蓋が切られた。
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