第238話 応用

「この後はどうするんですか?」


 時間が掛かるということを聞いていたため、まさかの予想だにしなかったタイミングとは言え、幸運にも僕だけの剣技を見つけることが出来てしまった。


 しかし、リリスさんやマルスさんの剣舞や自然を用いた戦技などとは違い、威力は絶大が故にあまりにも攻撃だけに特化し過ぎているため、移動手段としてや防御手段として、攻撃以外のその他の応用方法が思いつかないのだ。


 なので、師匠であるリリスさんに判断を仰ごうかと思ったが、


「うーん……」


 どうやらリリスさんも同じだったようで、顎に手をやり頭を悩ませていた。


「――――」


 あれの応用方法を考えるに当たって今一度戦技について考えてみると、リリスさんの剣舞、マルスさんの自然、やはりどちらも非常に魅力的で、強力な代物だと思った。


 と言うのも、リリスさんの剣舞は力を込める場所によって攻撃はもちろんのこと、防御にも移動にも幅の広い応用が利く。


 また、マルスさんのも現在見知ったやつだけでさえ、雨、雷、噴火とどれも応用方法には事欠かない剣技で、それに加え威力を見ても名のある冒険者の切り札ぐらいはあるだろう。更にリリスさん曰く、まだまだ技は残っているらしく、マルスさんが持つ冒険者二位という称号は伊達じゃない。


「――――」


 対して僕のはそれらに匹敵する、いや、威力という単一の指標だけで言えば下手したら軽く凌駕するかもしれない。でも、一言で言えば「超強力な斬撃」とそれだけで表現が充分に出来るほど極端にシンプル過ぎるため、反対に応用が利かないような気がしてならないのだ。


 もっと端的に表すならば、ヒーローが出す「一撃必殺」のようなものだろう。


「私にはどうしても思いつかない……」


 そして、数分悩んだ末、リリスさんでもやはり僕の剣技の応用方法は思いつかなかった。


「僕も同じです」


「明日マルスに聞くのが良いかも」


「そうします」


 一撃で全てを斬り伏せる僕の技は、一発に最大の力を込める性質から今日見た雷に近いということで、明日マルスさんに聞くと僕たちは結論づけた。




「あとの課題は機動力だね」


 僕は頷き、リリスさんに聞く。


「それなんですけど、どうやったらあんな風に動けるんですか?」


 リリスさんが僕を追いかけるというのが鬼ごっこのため、僕が右に行けばリリスさんも右に、僕が左に行けばリリスさんも左へと、必然的に僕がゲームを支配することが出来たはずだった。


 しかし、どれだけ急に動こうとも、リリスさんは僕の動きを事前に知っていたかのようにぴったりと付いて来れ、挙げ句の果てにはステータスが上回っているのにジワジワと僕との距離を縮めていた。


 その僕の動きを知っていたかのような予測能力と、僕を追従するのを可能にしていた機動力、その秘訣が知りたかった。


「まずは君が居た場所を当てられたのもそうだけど、行く先がある程度分かったのは、君の剣気の流れを読んでたから」


 魔法を専門に扱う冒険者だろうとも、剣を専門に扱う冒険者だろうとも、冒険者ならばどれだけ実力が無くぼーっと座って何もして無くても、ある程度は身体から気が流れしまっている。そして、行動する時にはその気は一層強くなり、戦闘するとなるとただ行動するのとでは比べものにならないほど濃密な気を発するのだという。


「だから、それを読ませないようにする」


 究極な話、相手の気を完璧に読むことが出来たのならば、相手が意識、無意識問わず頭に描いている動きならば数十分先だろうが完璧に読むことが出来る。従って、相手の攻撃は避けるのも防御するのも容易く、相手の防御は意表を突くのも裏をかくのも容易だ。


「本当はもっと後に教えるつもりだったけど……予想してたよりもずっと成長が早いから」


 何でも中途半端な実力で気が読めるようになってしまえば、同じ実力を持っていたとしても相手の行動が丸分かりになってしまい、結果的にその瞬間瞬間で作戦を立てて攻略するよりも、気を読んで相手の行動を筒抜けにすることばかりに頼ることとなり、ステータスに頼りっきりで動いていた頃と本質的に何も変わらなくなってしまうのだという。


 そのため、余りにも強力な技術を習得する前にしっかりとした基礎の土台を築き、その上で習得せねばならない、というのがリリスさんの教育方針らしい。


「それじゃあよろしくお願いします」

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