第118話 力量の差 ☆
「――さぁ始めようぜ」
“ボク”の声に呼応するかのように、謎の何かが纏っていた黒い霧がすっかりと晴れ、一目見ただけで脳裏に刻まれるほどのおぞましいその姿を現わした。
身体の大きさはおそらく象を優に凌駕するほど。全身を覆い尽くすその肌は溶岩が冷えて固まったようにごつごつと歪な形をしていて、黒を煮詰め尽くしたような漆黒。頭には竜巻をそのまま封じ込めたような暴力的な螺旋状の角が存在感を更に強調させ、口から覗く牙は見ているだけで鳥肌が立ってしまうほどの鋭利さ。
そんな風袋の巨大な豚が、その見た目にぴったりな悪魔が笑ったような表情で、
「そなた、そっちが本性か?」
「本性も何もねえ――俺は俺だ」
“ボク”は悪魔のような見た目をしている豚にめがけて、全神経を戦いへと研ぎ澄ませながら突っ込む。僕が戦っていた時と比較すると身体の使い方、力の使い方そのどちらも“ボク”の方が圧倒的に上だし、単純な早さだけを挙げたら2倍近くまでになっていることだろう。
それに身体と力の使い方はそのまま実力へと直結する。実力が上がることで僕の親友が作ってくれた“持ち主の実力に応じて力を解放する剣”もそれに応えてくれるだろう。
余裕で勝てるとは微塵も思っていない、しかし実力が上がり、それに伴って剣の性能も上がっている今、互角の勝負で良いのなら“ボク”であれば十分可能だろう。そして戦いの最中でこの僕の身体に慣れ完全に力を引き出し、かつ成長してステータスと実力その両方が上がり、また武器の性能も上がれば勝てる見込みは十分にある。
――そんな裏付けのある確かな自信を詰め込んだ一撃を、悪魔の顔にめがけて音速に近い早さで振下ろす。
「喰らえ」
「他愛もない」
悪魔は軽いため息とともにボソッと呟いた。蚊が泣くような取るに足らない小さな一言だったが、腕の長さよりも少し長いぐらいの剣による攻撃を当てようと、目と鼻の先のごく至近距離まで近付いているボクには、はっきりとその言葉が聞こえた。
そして何に対して、と素朴な疑問が生じたと同時に、ボクの確固たる自信とありったけの力が籠もった一撃はあっさりと砕け散った。
「な!?」
「そなたの力はそんなものか?」
これからまだ伸び代はあるにしろ、この瞬間では最上の攻撃と胸を張って言える一撃は、数センチ先にいる悪魔を分断しないにしても、決して浅くない切り傷ぐらいは残せるかと思っていた。だが、その考えは見当違いも甚だしく、考えていた切り傷や掠り傷はおろか、剣の薄く鋭い刃が不気味な肌でぴたりと止められてしまった。
ダイヤモンドよりも硬いダンジョンの壁を軽く抉り取った攻撃、それ以上の膂力と切れ味を持ってしても、堰き止めしまうほどの硬い肉質。
いや、ただ硬いだけではない。仮にただひたすらに硬度が高かったとすると、“ボク”の剣は止まるのではなく、同等の力を持ってして肌に弾かれる。しかし弾かれなかったということは、悪魔は“ボク”が加えた衝撃を余すことなくその身に浴びていることとなり、その威力は“そんなもの”と称される位しか力を持っていなかった。
避けようと思えばこいつなら余裕で避けられたはず。それをしなかったのではない、する必要さえ無かった。人間がそよ風を避けられるとしても避けないように、ボクの会心の攻撃はやつからすると、所詮その程度のものでしかなかったというわけだ。
「ふん」
悪魔は深淵のような鼻孔からため息のように空気をそっと吐き出した。その時、地球上のありとあらゆる風を一箇所に集めたぐらいの致死的な暴風が、ボクの身体を無慈悲にも押し飛ばした。
果てしない宇宙のように壁や終わりの存在しない空間で、上下左右全ての平衡感覚が無と化した錐もみ状態の中だが、思考は決して辞めなかった。
「――――」
もみくちゃのまま飛ばされている状態では、体内を流れている血液がまずいことになりかねないため強引に体制を整えようと試みるも、幼児が操るマリオネットのように複雑かつ加減無しに暴れまわる身体は、それを決して受け入れてくれなかった。
その錐もみ状態が30秒ほど続いた後、ようやく勢いが弱まったこともあり乱雑な運動から何とか体制を整えられたボクは、星のように遠くの方にある悪魔と思しき点を見据えながら未だ飛ばされていた。
「――――」
あいつとの残酷なまでの力量の差を思い知った現状のままでは絶対に勝てない、とそう思った“ボク”はとりあえず今の戦闘で上がったはずのステータスを整理することにした。
【ステータスオープン】
名前 神宮寺 ???
種族 人族
グレード 2+1
レベル 31+142
HP 3105+4208/3105+4208
MP 2241+1472/2241+1472
STR 1284+768
DEF 1027+493
INT 842+697
AGI 4158+4008
CHA 846+743
LUK 6280+0
SP 0→504
スキル
ステータスは真冬のがベースに"ボク"のが足されている感じです。
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