第117話 "ボク"の目的

「やっぱり無理か……それならこれはどうだ!?」


 そう言葉を発した瞬間、左斜め下から襲ってくる切り上げに対応するために置いていた剣の先にめがけて、致命傷である首を剣に当てるように自ら突っ込んできた。


「――――ッ!!」


 “ボク“によるその自殺行為とも言える行動に、これが当たってしまったら殺してしまうのではないかと思った僕は、剣先を“ボク“に当てないように無意識な反射で引っ込めてしまった。


「――引っかかったな」


 僕が剣を引っ込めることは織り込み済みだったのか、”ボク”は口を嫌な三日月形に歪ませた。そして唇を歪ませたまま、防御が解かれがら空きとなった僕の左側の横腹に剣の峰を叩き込んだ。


「――――ッ」


 峰が入った左横腹から反対側の右横腹まで一瞬で貫いた攻撃によって、骨が砕ける不快感を呼び覚ます嫌な音と、内臓の上げる悲鳴が身体中に響き渡った。おそらく今の一撃で肋骨は数本持ってかれ、衝撃に貫かれた内臓は甚大なダメージを受けただろう。それでも当たる直前に攻撃をなす方向に向かって跳び、衝撃を多少なりとも減らしていたのだから、まともに当たっていたら今頃どうなっていたか想像に容易い。


「――――」


 抑えようといても込み上げてくる血を咳で吐き出していると、”ボク”はまるでなぶるようにゆっくりと近付いてきて、


「咄嗟に反対方向に飛んだか、なかなかやるな……。でももう動けないだろ」


「……目的は……何?君は何が、した……いの?」


 ようやく咳は治まったが、息も絶え絶えな状況から絞り出した言葉は、聞き苦しいほどに途切れ途切れだったはずだ。しかしここは僕の意識の中、その中で”ボク”は僕の訊きたいことを完璧に理解し、顔をこれでもかと言わんばかりに酷く歪ませた。


「弱いお前を見てるとイライラするんだよ!今みたいに相手を傷つけると思ったら咄嗟に剣を引っ込めるとかさ!それは優しさじゃない。醜い弱さだ!!お前は変わったつもりでいるかも知れないけど、何にも変わっちゃいない。弱くてちっぽけで弱さを優しさって勘違いしてて、助けて貰ってばかりの屑だ!お前は変わらない、変われないんだよ。だから強い俺がお前の代わりになってやる」


 苛立ち、憎しみ、悲しみ、その他負の感情を煮詰めに煮詰めたようなドス黒い表情を”ボク”はしていた。しかし、僕の目には何か別の違う感情を抱えているように映った。


「――大人しく寝てろ!!」


 僕の意識は、自分と瓜二つの少年が涙を流している姿を目に焼き付け、そこで途絶えた。

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