第116話 僕とボク
その時、僕の中でぷつんと何かが切れるような音がした。そしてそれと同時に目と耳が器官としての意味を無くし、世界で僕一人だけが取り残された。
静寂が支配する世界で僕の中に誰かが入ってくるような、否僕の中でそもそも存在していた何者かが僕の
「何だ……」
あけすけに僕の意識の中を我が物顔で闊歩し、その意識を乗っ取ろうとしている誰かは、自分と完全なる他人では無く、かと言って自分のもう一人の人格、つまり第二の人格でもないような気がしていた。それどころかむしろ懐かしいような感じさえしていたほどだ。
「――お前は弱い。だから俺にその器を寄越せ」
腐ってもこの身体とはこの世に生を受けてからの付き合い、無理矢理では意識を奪えないと察したのか、黒い姿をした僕に似た誰かは、僕が先程持っていた剣と瓜二つの剣をどこからともなく出現させ、振りかぶりながら向かってきた。
「――――ッ!!」
その向かってくるスピードはとても素早いが、全然反応できる速度だったため、僕もいつの間にか手にしていた同じ剣で対応する。
「(何で僕と同じ剣を持ってるんだ)」
間近で相対しているため更に事細かに見えた、奴が持っている剣はカイトが作ってくれたものと同じ形、同じ雰囲気をしていた。僕が剣を見てそんな疑問を思考した瞬間、その思考は普段なら頭の中だけで完結していたはずだが、気が付くと口から出ていた。
「何で言葉に出た?みたいな顔してんな。ここはお前の世界、言うなれば意識の中だ。だから思考は必然的に言葉となる」
ここに来た瞬間からもしやと薄々感じていたが、どうやらここは僕の意識の中らしい。といっても確かめる術が無いので、奴の言葉と先ほどから働いていた僕の直感を信じるしかあるまい。
そして、それがもし本当ならば、僕の意識と先ほどまでいた外界は隔絶されているため、時間の流れが全く違うだろう。だから一先ずは外の世界の事を心配するよりも、奴をどうしなくちゃいけない。
「ああ、ここはお前と俺だけの世界。外とは時間の流れが別だ」
そう言いながら左右上下と様々な角度、深度で切り込みを入れてくる人物。その剣の筋は非常に洗練されており完全に見切ることは出来ないものの、何故だか反応することは出来、捌くことも難なく可能だった。
「君は一体……」
「もう気が付いてるんだろ?あの時もあの時も――俺がいなくちゃお前は負けていた」
その言葉をきっかけに過去の戦いがフラッシュバックしてくる。
さくらとカイトとダンジョンに潜った際のオーク戦。
ガンダとの文字通り死力を尽くした一戦。
その時に無意識に繰り出していた剣筋と、目の前にいる“ボク”が繰り出している剣筋は酷似――いやそれと同様のものだった。
「やっと思いだしたか……それじゃあもっといくぜ」
言葉通り“ボク”は剣を振る速度と攻撃と攻撃の間を、早め、狭めたが次にどの角度で剣が振られるか、次の攻撃への僅かな間が手に取るように分かるためすぐに順応し、防御の対応した。
右から来るなぎ払いには、動線に剣を置く。
左から来る刺突には、剣先をずらすように剣を置く。
その他様々な位置からの多種多様な剣技に、僕は反りが合うように完璧な対応で完璧に対処した。
「やっぱり無理か……ならこれはどうだ!」
ボクは完璧に対応されることにじれったくなったのか、本人以外の誰もが想像もしないような、一歩間違えば死んでしまう驚きの行動に出た。
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