第115話 謎の何か
――気配も予兆も無く、突然現れた“謎の何か”
僕は一瞬ほど遅ればせながら生命の危険を感じ、さくらとみゃーこを殴りかかるように思いっきり掴み、そのまま遙か後ろへと全力で跳躍した。
遠くの方にぼんやりと浮かび上がるシルエット、その大きさは決して大きいものではなく、現れた直後の目測ではせいぜい小型自動車並の大きさ程度でしかない。だがそいつが存在しているだけで滲み出てしまっている、気を抜いたら意識を飲み込まれそうになる暴力的な程までの存在感の所為で、“謎の何か”から物理的な距離をいくら離せども、間合いからは絶対に逃れられないという、そんな見えない鎖に縛られているような気さえしていた。
「神の因子を取り込む子よ――」
思わず頭を垂れ、発せられたこと全てに従いそうになるほど威圧感に
おそらくあいつが本気で僕たちを殺しに掛かれば、瞬きをしている間の刹那に首と胴体が離れ、その2つは死別していることだろう。しかし、現状首の皮が繋がっているということは、あいつはまだ僕たちを殺そうとしていないということの何よりの証拠だ。そして、そうしないのには何かしらの理由が必ずあるはず。だから、発する言葉の一言一句も逃さないように心血を注ぐしか他ない。
「そなたは今までに何人たりとも犯さなかった、いや犯せなかったダンジョン内での唯一にして絶対の禁忌――ダンジョンを故意に破壊せざるべし――を犯した」
「――――」
そんなダンジョンに潜る上で、何が何でも伝承しなくてはいけないほど何よりも重要なことを、真冬はギルドで読んだ本の中で見たことも無いし、フランさんやアルフさん、ウィルからも聞いたことも無かった。
「存在していた。しかし、ダイアモンドなどとは比べものにならないほど掠り傷をつける事さえ困難な材質故、受け継がれずに次第には人々から忘れ去られたのだろう」
フランさんが自然魔法を用いり、思わず僕が意識を飛ばしてしまったほどの破壊力でもって壊したあの壁と、あいつの言うダイアモンドでは比肩することさえ出来ないという普通の壁を比較すると、おそらく普通の壁の頑丈さは隠し部屋へ繋がる壁を軽く凌駕することだろう。
「知らないとは言え、伝承しなかったのは
その瞬間先ほどから流れ出ていた威圧感、存在感が、思わず首元を触れ生きているのを確認してしまうほどまでに膨大に膨れあがり、腕に抱えているさくらとみゃーこから苦しそうな
「――と言いたいところなのだが、我はそなたに少しばっかし興味がある。少しだけ話そうか」
”謎の何か”がそう言い切った後すぐに、扇子で軽く仰いだときのような木の葉が数枚散るほどのほんの軽い風僕の全身を撫でた。
「――――!」
気が付くと腕の中にいたさくらとみゃーこは姿を消していた。一挙手一投足、言葉の一つ一つ全てに神経を張り巡らせていたのに、2人が奪われたことに気がつけなかった。
レベル、いや格、いや次元が違う。あいつが本気を出さなくても、犬が甘噛みをするような感覚で僕はたちまち殺されてしまう。
しかし、僕が殺されようと何だろうと、連れ去られ姿が見えないさくらとみゃーこだけは助けたいと思った。
「返せ……2人を返せ!!」
その時、僕の中でぷつんと何かが切れるような音がした。
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