第65話 虚無
「それは……」
フランさんの言葉をきっかけに、地球からこの世界にやってきた経緯を思い出そうとしてある違和感に気が付いた。
いや、違和感というよりは喪失感の方が正しいのだろうか。
買い物に出掛け、店に着いた途端に何が目的で店に来たかを忘れてしまったような、そんなぽっかりとした喪失感が胸の中に在った。
元から何も存在していない無ではなく、何かが存在していたはずの場所に無が存在しているといった感じ。
(ナビー、どうだったか覚えてる?)
この世界にやってきた時からずっといるような気がするナビーに聞いてみる。
(すいません、私も真冬さんと同じような感じです。何か大事な物をこぼしてしまったような……)
どうすれば世界を往き来出来るかは何故か覚えている――呪文を唱えれば良い。
だが、その呪文を手に入れた経緯は?
もっと言えば、異世界に来ることになった理由は?
何故かその部分だけは思い出そうとしても無で塗りつぶされたように記憶が無い。
「どうしたの?」
フランさんは心配そうに、僕の顔を下から覗き込んできた。その綺麗な瞳に映っている僕の顔は、今までに見たことのないようなほど真っ青だった。
今にも倒れそうな血の気の失せた自分の顔を見て、これ以上心配を掛けないようにしないと、と思った僕は、頭を思い切り振って気持ちを強制的に切り替え、残りかすのようななけなしの元気を振り絞って、
「すいません、大丈夫です!それで質問の答えなのですが何かあんまり覚えてないみたいで……すいません」
僕がそう言うとフランさんはほっとした様子で「それなら良いの」と言った後にみゃーこを指さして、
「みゃーこちゃんが何か言いたげな様子だけど……」
フランさんの指がさしている方を見てみると、確かにみゃーこが何か言いたげな様子を見せながら、こちらを振り返っていた。
ここでさくらがいれば何を言わんとしているのか分かるのだろうけど、生憎ここにさくらはいなく、カイトとウィルと一緒に頑張っていると思うので、次点で分かりそうな人?に聞く。
(みゃーこが何を伝えたいか分かるかな?)
(おそらくですが、スキルの在処を指しているようです。私のデータと場所が一致しているので)
(分かった、ありがと)
データという単語に引っかかりもしたが、今はスキルの方が先決だ。
「みゃーこは僕の目的のものまで案内してくれるみたいです」
「じゃあ、みゃーこちゃんに案内を頼みましょ」
「みゃー!」
ダンジョンに向かうことになった先程よりも、みゃーこの人間味が増しているのは、度々僕たちから奪うように魔物を倒しているからだろうか。
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