第66話 壁
「ところで目的って何なの?」
「それは……言っても信じないと思いますよ」
こちらの世界にやってきた当日、スキルを取りに行くと言ってダンジョンに潜ろうとした差違の、フランさんの止め具合から考えて、僕の目的は信用して貰うことは愚か、呆れられるのが関の山だろう。
実際に勉強したことによると、外部からによる作用でスキルをダンジョン内で習得するには、魔物のドロップか、あるいは宝箱に入っているスキルの種の二つからしかなく、前者のドロップ率は街の何処かランダムに銅貨を置いてそれを見つけられる確率とほぼ等しいと言われている。
そして後者は、50年ほど冒険者として一線を張っていた猛者がやっとこさっとこ見つけられるか見つけられないかの瀬戸際など、そもそも宝箱を見つけられる可能性さえ0%に近いとまで言われており、もしも運良く発見し中を開けることが出来たとしても、その中の物がスキルの種である確率は、前者をも超えるといわれている始末だ。
言い換えれば、天文学的確率とも言えるだろう。
「真冬くんの言うことなら何でも信じるから」
「そこまで言うんでしたら…………僕の目的はスキルを取りに来ました」
僕が今回の目的を伝えると、フランさんは信じたいけどにわかには信じられないといった、葛藤を滲ませた様子で口を開く。
「本当なの……?」
その反応は正直なところ思っていた通りだった。
いくら信頼し、されている人だからと言って、宝くじを当てることが比にならないくらい低い確率の物を目的として動いていると知ったら、誰だってそういう反応になってしまうだろう。逆の立場でもきっとそうなると思う。
「はい」
しかし、ナビーにはその確率をもあっさりとひっくり返せてしまうほどの確かな実績があるので、僕は天文学的な確率とナビーの言葉を天秤に掛けたら、一瞬でナビーの方に傾くと思う。
それにやや人間じみてきたが、猫という動物であるみゃーこの野生の勘も加われば百人力だ。
「そっか、常識の面と確率の面では信じられないけど、真冬くんが言うならよく分からないけど信じられる気がするわ」
そんなこんなで話を終えた丁度タイミング良く、
(真冬さん)
「みゃー」
ナビーは頭に直接響く声、みゃーこは耳朶に響く声が同時に聞こえてきた。
「どうやらここみたいです」
二人が指したであろう場所を見てみると、一見周囲の壁と変わらないように見えるが、よく見てみると若干、本当に少しだけ色が変わっている部分があった。
「こんなとこ……普通じゃ見つからない」
フランさんが今言った通り、ここに何かがあると確信して、なおかつ壁に穴が空くほど目を凝らして注意深く見ていなければ見つからないほどの僅かな差違しかない壁は、普通に歩いていたら何も気にせず見逃してしまうだろう。それも違和感さえも抱かさせないほどに。
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