第63話 文献

 ボス戦は思っていたよりも呆気のないものだった。前にさくらやカイトと潜った時に出てきたオークのような、身の毛もよだつほどおぞましい妖気を放つ魔物は出なく、僕一人であっさりと倒した。


 フランさんが倒したいと声を挙げたので任せても良かったのだが、万が一を考えたのと、調査と銘打って同行を許可して貰った次第なので、一応遠くから見物してもらった。


 因みにだが、戦闘を遠見してもらったが何一つ変わったことはなかったらしい。


 正直なところ、あの時のことはあまり覚えていないが、さくらが駆け込んだ時のことからこうなることは大体予想していた。


 かくして、僕たちは24層へと到着した。


(ナビー、どこに行けばいいか分かる?)


 そう聞いたのは、ダンジョンの構造がここら辺から結構入り組んでくるからだ。どこを曲がろうが最終的には同じ場所に着き、行き止まりは存在しないのだが、しらみ潰しで周っていくのは何とも骨が折れる。


(案内します)


(分かった、ありがと)




「フランさん、こっちです」


「今度はそっちです」


「次はあっちです」


 ナビーの指示通りにフランさんとみゃーこを連れ歩みを進めていると、フランさんが心底不思議だというような顔をして聞いてきた。


「真冬くん、どこに向かってるの?」


 フランさんや第三者から見れば、僕はただ闇雲にダンジョンをほっつき歩いているように見えるのだろう。なので、もっともな質問だと僕も思う。


 だが、僕はどう返すべきか悩んでいた。


 ナビーことアテナが僕の中にスキルとして存在していることは、この前集まったメンバーには知れ渡った。当然フランさんはその中にいて、しっかりと覚えているだろう。


 だから、はぐらかしたり隠したりで悩んでいるのではなく、どこまで言っていいものか悩んでいるのだ。


(フランさんになら全て打ち明けても大丈夫かと思いますよ)


 悩みに悩んでいると、ナビーがそっと背中を押すようにそう言ってきた。


 ナビーが今しがた発した"大丈夫"には様々な意味があるのだろう。そしてその意味は全て、僕の懸念に対して言っているのだと直感した。


「――今から僕が話すことは、他言無用でお願いします」


 僕の周囲の空気が変わったことを察したのだろうか、フランさんは厳かに頷いた。


「まず初めに、僕はこの世界の人ではありません」


「……それは異世界の人という意味で合ってる?」


 おずおずと訊いてきたフランさんに、僕は驚きを隠すことが出来なかった。

 そんな僕を見てフランさんは確信したようで、やっぱりと合点の意の前置きをした後、記憶を探るような素振りを見せながら、、話を続ける。


「前の集まりの後、色々気になったことがあって冒険者ギルドに残されている文献を漁ったの。その中に異世界からこちらの世界に度々、人が来ることがあるって見つけた」


 これはウィルが話していたことと一致しているので、確かな文献なのだろう。


「それでその人たちは、文献によって旅行者トラベラーとか、転生者リンカーネイターなど様々な呼び名で呼ばれてる。だけど、どの文献にも共通してる呼び名があった――それは変革者チェンジャー



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