第59話 へファイストス
「そもそもの話、ヘファイストスってどんな神様なんだ?」
今一要領を得てないといった様子で、カイトは納得の理解を示している僕たち三者を順に一瞥し、そう尋ねてきた。
「これは真冬くんとさくらちゃんの方がよく知ってるかな。僕だと大分主観が混じっちゃうだろうし」
主観ということは実際に会ったことがあるという証左だろう。それはさておき自分が見知っているヘファイストスの知識について分かりやすく噛み砕いてカイトに話す。
「まずさっきも言ったと思うんだけど、鍛冶、それと炎を司る神様なんだ。昔は雷と火山だったらしいけど、後にそうなった。ここまでは良いかな?」
自分の先祖かもしれないと思っているのだろうか、大変興味深そうに聞いているカイトに一番重要であろうところの確認を取った。
「ああ、続けてくれ」
「僕も生い立ちは詳しく知らないから置いといて、炎と鍛冶を司っていたから他の神様が使う強力無比かつ多種多様の神器を作ることが出来たんだ。有名どころで言うとゼウスの
ヘファイストスが作ったとされている神器関係を思い出していると、アテナことナビーのことも思いだしたので、ついでに反応を伺ってみる。
「すいません。何故だか先ほど真冬さんが挙げた盾の事を思い出そうとすると、記憶に霧が掛かるような感じがして……」
ナビーは悔しげな声音でそう口にした。
神話を少々嗜んでる身としては、生き証人であるナビーから神器やその他神話に関することを聞きたかったが、思い出せないなら仕方があるまい。話を続行する。
「それならしょうがないね、話を戻すよ。で、神様が何をしたとかまとめたものを神話って言うんだけど、その神話の中の特にギリシャ神話で登場する大半の神器は、このヘファイストスが作ったって言われてるくらい影響力のあった神様なんだ」
「良く分からないんだが、参考までに神器ってどれくらいの物なんだ?」
カイトが神話に登場する神器の凄さを分からないのは当然だろう。
地球ならば普通ではあり得ない超常と処理されるものでも、この世界ではそれがありふれていて、魔法という1つの単語で事が片付いてしまう。
超常のない世界――地球を0もしくは無とするならば、魔法がある世界は1か有、神話や神器などその存在は定かではないが、凄いと述べている人がいるので有と1以上ということは確定している。しかし、具体的な凄さは話だけでは分からないので、どれ程のスケールなど到底理解できない。
結果、魔法のある世界に元からいるカイトは、魔法の1と1以上が確定している神器の差が今一掴めないのだろう。
逆に僕たち地球人は元から0なので、魔法も神話も神器も、どれも存在しているだけで凄いと思ってしまうのだ。
「例えば、ゼウスの雷霆はこの世界を一瞬にして融解させて、宇宙……この世界の外も焼き尽くせる。アルテミスの弓矢は、女性に射ると苦痛無しに殺せる。それと地上に向けて射つと疫病と死をもたらす。で、最後のアイギスの盾は、どんな攻撃を受けても傷がつかないし、あらゆる邪悪も災厄もはね除けられる魔除けの能力がある」
その世界に存在の無い物を説明する場合、一見難しいように思えるが、その世界の尺度で話をしてあげられれば受け取り方は相手によって様々なものの、伝えたいことはしっかりと伝わるだろうと思い、神器の説明をした。
「……そんなの作れるってヘファイストスって何者なんだよ」
あまりの規格外振りに、乾いた笑いを浮かべながら感嘆するカイトにウィルが言葉を続ける。
「文字通り神だよ。そして、君の先祖だ」
「それは……間違いないのか?」
ウィルはカイトの目を真っ直ぐ見据え、頷いた。
「ちょっと待って!カイトがヘファイストスの子孫ってことと、そのせいで呪いに掛かってるってのは分かったけど、その過程が分からないんだけど」
「それは神に何故子孫がいるのかって話で合ってる?」
さくらは驚いた顔で何回も頷く。そんなさくらを見てウィルは苦笑いをしながら話しづらそうに、
「神も昔は人間と一緒に住んでいたからね。これ以上他人の恋愛のことについて語るのは野暮だと思うんだけど……さくらちゃんは聞いてほしい?」
さくらは反論の余地が無いことを言われ、顔を真っ赤にしながら押し黙った。僕もさくらとのあれこれについて知ってもらいたいわけではないので、正直な話ここで引いてくれて助かった。
「ともかくこれでカイトの呪いのことについてほとんど話したから、一端整理しようか」
ウィルはこちらを向いてよろしくという眼差しを送ってきたので、今までに出たやるべきことを挙げてく。
「まずはさくらとウィルでカイトの呪いをどうにかする。その後、炉の補強。そして、僕たちは地球に帰り、アーティファクトを取ってくる――で良い?」
「うん!それで今から解呪に取りかかろうと思うんだけど、二人とも準備は出来てる?」
さくらとカイトは静かに頷いた。
「真冬くんは……特にすることないから、どうしよっか」
まるでそこに関しては何も考えてなかったかのように言った。いや、まるででは無く、実際に何も考えていなかったのだろう。
何はともあれ、ここにいて見てても三者の気を散らしてしまうかもしれないので、とりあえず外に出ることにした。
「じゃあ僕は皆の邪魔にならないようにお暇するよ、頑張ってね」
徐々に集中力を高めていっている人たちに言い残し、扉を開けて外に出た。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
面白いと思っていただけたら、♡と☆をぜひお願いします!
感想も一言でもなんでも良いので、どしどし送ってください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます