第58話 呪いの正体

「そのアーティファクトがある場所の目星は付いてるの?」


「大体……はね」


 何とも言い難い歯切れの悪い回答に困惑を感じ、僕は思わず眉を顰める。


「いやーなんせ僕、こっちの人だし……」


 ここに来てようやくウィルでもすんなり行かないことが見つかり、ウィルでも上手くいかないことがあるんだな、と感じなくもないが、こんなところで足踏みしてられないとすぐさま思い至り、解決に努める。


「それはしょうがないか。でも、大体ってどういう意味なの?」


「んー、ヒントみたいなことは本人から一応聞いてるんだけど、どこどこにあるかまでは分からないから」


「それって大体じゃないよね……」


 ウィルの辞書に載っている大体の定義が、かなりアバウトなもので苦笑いする他ない。


「ちなみにそのヒントというやつは?」


「長い靴」


「…………」


 ウィルって意外とお馬鹿さんなのかな……。


 そう考えていると、君はどうなんだよといった具合で、ウィルが聞いてくる。


「何か心当たりないの?」


「ん―……」


 候補は、長靴の発祥の地。長靴をはいた猫の2つだけしか思いつかない。

 確か、長靴はウェリントンブーツが元になってるからイギリスで、長靴をはいた猫はヨーロッパに伝わっている萬話だから……。でも、それじゃ何かが足りない気がする。


 ――決定的な何かが。


「僕が考えているものが合っているとは、今一思えないんだよね」


 長い靴というワードで発祥の地とか、それを一部題材に扱った作品をヒントとして出すには、心なしか弱いと思う。つまり、何か決定的なヒントとたり得る理由が足りないということだ。


「それってイタリアじゃない?」


 出されたヒントの情報量の少なさの前に八方ふさがりかと思われた謎かけに、泣き止んださくらが突如として、ほぼボツと確定していたイギリスではなく、ヨーロッパではあるがその中のピンポイントで国名を出した。


 確証は無さげだが、ポロッと思いついたように言ったさくらに根拠を聞く。


「その心は?」


「ほら、イタリアって確か長靴って言うか、ブーツって言うか……そんな形してない?」


 地図の形を全て把握しているわけではないが、言われてみると確かに長靴っぽい形をしていた気がするし、そんな話を聞いたことがある気もする。


「言われてみれば……」


「しかも、前読んだ本にエクスカリバー……だっけ?そんな伝説の剣が岩に刺さってる修道院がある国もイタリアなんだよね」


「――――!」


 アーティファクトはこちらの世界からあちらに持ち込まれている。

 国が長靴っぽい形している。

 岩に刺さったエクスカリバーと称される剣がある修道院がある。


 ――これらが符合する答えは、


「そうそう確か、エクスカリバーって言うやつ!!」


 ウィルはお年寄りが思い出したような口ぶりでそう言った。


「「じゃあ、そこに行けば剣はあるんだね!」」


 僕は伝説の武器と対面できるかもしれないという男の子の流行病から、さくらは自分の発した答えが合っているかもしれない期待感から、口とテンションを揃えてウィルを見やる。


「あー、えーっとね、多分あるにはあるんだけど、見つかったとしてもすぐ使えるわけではないんだ」


「「どういうこと?」」


 何かしらの問題があることが予想されるウィルの言いように、僕は伝説の武器と対面できるし、さくらの答えが合っているとほぼ確定したのに、何故だが水を差された気分になり、またしても二人は口を揃えた。


「いくらアーティファクトと言えど、何年もの間放置されて無事なはずがない……まあ端的に言うと、修繕が必要ってことなんだけど……」


 ウィルは、知る由もない単語が飛び交う場を戸惑いを示しながら眺めているカイトに、目をやりながら応えた。


「それは君に頼みたいんだ」


「お、俺が?」


「うん、君じゃなきゃ駄目なんだ」


 場を読めなかった時よりも困惑を深めているカイトに向かって、ウィルはキッパリと断言した。


「アーティファクトには、作った人や手直しした人の魂が宿るんだ。真冬くんが使うならカイトくん――君ほど適任な人は他にいないんじゃないかな」


「少し……いや相当難易度は高いんだろ?」


「そうだね、どれくらいって言われると上手く言葉にすることが出来ないけど、少なくとも君の兄二人を超えられないとまず無理だね」


 得も言われぬ重い顔を見せるカイトに向かって、ウィルは言葉を続ける。


「それとカイトくんが思っている呪いに関して関わることなんだけど……聞く?」


 呪いというワードが出た途端一層深める表情に、改めてカイトの背負ってきた重みに気付かされる。


 自分の所為で仲間を失うことはもちろん辛いが、他の誰でもない肉親を失ったとすればその辛さ、悲しさ、悔しさはこの世の大半の負の感情を煮詰めても比類するものはないだろう。

 それほどのものだとカイトの今までの言動から理解できる。


 比べるのも申し訳ないが、僕も似たようなこと――さくらに遠ざけられた時のことでさえ思いだしても胸が張り裂けそうなのに、カイトは他人ではなく肉親で、しかも生き別れではなく死別で、そんな重い過去を独りで背負ってきたのだ。


 そう考えていたらカイトはこちらを向き、優しげな顔をしながら、


「そんな心配しないでくれ。お前らがいればもう怖くないから。ウィル、続けてくれ」


 と、安心させるような声音で言った。

 こう言われてしまっては、後は同情になってしまうので微かに余韻は残ってしまっているが、気持ちを切り替える。


「カイトくんの呪いは、厳密に言うと呪いではないんだ」


「どういうことだ?」


「簡単に言うと先祖返りかな」


 先祖返りとは、何代も前の先祖が持っていた遺伝子がその子孫に突然発現することだ。

 でも、それがカイトが魔物の魔物に狙われる、魔物の素材を扱いづらいことに、どうやったら繋がるのかが全くもって理解不能だ。


「何の先祖返りだ?」


「――ヘファイストスって分かるかな?」


 ウィルはそう言った後、こちらを向いて真冬くんなら分かるよね、と聞いて来たので応える。


「うん、鍛冶の神様のことなら……」


「鍛冶神ヘファイストス、それが君の呪いの元凶なんだ」


 堂々と言い切ったウィルとは対照的に、へファイストスという神物自身も、鍛冶神さえも知らないカイトは然ることながら、サブカルチャーとして馴染み深い僕とさくらの地球組でさえ疑問符を頭の上に何個も浮かばせていた。


「まずダンジョンはヘファイストスが筆頭で作られたんだ。その中の魔物も直接ではないにしろ、間接的に多く関わった」


 神がダンジョンを作ったことは聞いていたので、そこまでは何となく想像がつく。


「魔物で知能のあるレベルになってくると、おそらく産みの親の匂いをかぎ分けられるんだろうね」


「それだと好意的に接触してくるはずなんじゃないか?」


「自分の親の匂いがその親と圧倒的に身分の低い、それこそ神と人間ぐらい差があったらどう思うかな」


 ――答えは排斥したいだろう。


 それに思い至ったカイトは押し黙る。


「で、実はカイトくんの家系はヘファイストスの家系で、その名残がカイトくんだけに先祖返りとして宿ったという事」


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