第26話 ガンダ

 真冬と自称精霊の目の前には、さっき殴って壊しす前のものと酷似した小屋があった。


 今度こそ本当にこの小屋にさくらと、もしかしたらフランさんが捕まってんだよな……。――早く行かないと。


「精霊というやつ。あり――え?」


 お礼を言おうと光が漂っていた方向を見ると、真冬の目は驚愕へと変わっていった。


 光がいたはずの場所には、何かをぶつぶつと呟いている10歳ぐらいで金髪の女の子が居た。


「中が静かすぎる……」


精霊の眼エレメンタル・アイ


 その呪文を唱えた瞬間、女の子の眼の輝きがより一層増した。


「うーん、ユニーク魔法遮断魔法ブロッキングか……。真冬く――ん?どうしたの……?」

 

 真冬は、目の前で起こっていることについていけず、呆然と立ち尽くしていた。

 ――光が女の子になって、次に女の子の目がなんか光ったよな……!?こいつは本当に精霊なのか……?


 呆然自失としている真冬に向かって、女の子は真剣な表情で声を掛ける。


「とりあえず何を仕掛けているか外からじゃ分かんないから、家を壊すよ!」


 女の子は人型から再び光の状態に戻り、真冬が腰に携えている剣に吸い込まれるようにして入っていった。


「なんだ……?」


 光を吸い込んだ剣を鞘から抜いてみると、その刀身が神秘的なまでに光り輝いていた。


(僕が指示するから、真冬くんはその方向に従って剣を振って!)


 女の子の声が頭に響いてすぐ、視界には何かしらのゲームのチュートリアルのような半透明な線が現われた。

 

 これに合わせれば、良いんだよな。


 真冬の中では、最初に訪れた小屋がはずれで立ち往生していたところ、ボアが居るであろう小屋に導いてくれたので、この自称精霊は信用に値する存在になっていた。

 もっとも、それは精霊特有の神聖感によるものも多分にあるのだが、無意識下なので真冬は気付いていない。


 先ほどよりも煌めきが増した剣を上段に構え、モンスターハウスで使った剣技の要領で線に合わせ、一気に振り下ろす。


 キィィン!!


 可視出来るほどの圧倒的なエネルギーを含んだ剣撃は、半透明な線と寸分違わず、飛んでいった。

 剣を振るってからまもなく剣撃は小屋の壁に当たり、そのまま小屋を貫通し反対側まで斬りながら通っていくかと思ったとき、耳をつんざくような甲高い音を立てて霧散してしまった。


 壁の内側に何かしらの堅い物があり壁一枚は切断に至ったが、その何かが小屋を両断することを妨害したようだ。


(これでいいのか?)


 なんとなく精霊の予想していたことだろうなと思い、本人に出来映えを聞いてみた。


(うん、ばっちりだよ!ってそろそろかなー)


 その声にタイミングを見計らったように、剣撃が当たった壁に線が入り、そこから一気に崩れた。

 完全に崩れ何も意味を為していない壁は、奇しくも少し前に殴って壊した小屋みたいに、口が開けっ放しのごく一般的な倉庫のようになっていた。


 壁が崩れ落ちた影響で舞っていた埃が晴れると、そこには――


 ボスの風格が漂う2mを優に超している大男と、そいつの手下と思われる柄の悪いやつらが10人の、計11人が怒りの形相でこちらを睨んでいた。


「お前ら、あの小僧を殺せ!!!」


 大男の低く轟くような声を皮切りに、10人の手下がカットラスと呼ばれる曲刀を振りかぶりながら、声を荒げながら向かってきた。


「――――」


 俺はそれらをステータスの差を生かして、躱して身体を切りつけ、躱して喉元を切り付けを、合計で10回、人数分繰り返した。


 全員斬り倒したところで、後ろでふんぞり返っていた大男が、値踏みするような表情から獲物を仕留めんとする目つきに変え、こちらにゆっくりと歩いて来た。


「やるじゃあねーか。これでこそ倒し甲斐があるってんだよ!安心しろ、お前のところ小娘には手出してねぇからよッ!!」


 その言葉を言い終わると同時に、オークとは比べものにならないスピードで飛び出してきた。


「――ッ!はやいッ!!!」


 その早さで攻撃してくる大男に、AGIを前よりも3倍にあげた今の真冬でも、攻撃を当たらないように対応するので精一杯だった。


「――――」


 時間して約10分、何時“真冬が”死んでもおかしくないほど、緊迫した剣の打ち合いをした後、どちらからともなく一端、お互いに間合いを取った。

 

 大男は、息一つ乱れていなくまだまだ余裕が見て取れたが、対する真冬は息も絶え絶えで、身体が空気を求めて喘いでいた。


「お前ほどここまでやれるやつは今まで見たことねーよ。名はなんて言うんだ?――殺す前に覚えといてやるよ」


「はぁ、はぁ……。ま、真冬だ。」


 答えながら息を整えるのに専念する。


「お前の方こそやるな。斬る相手は覚えとかなきゃいけねーから、名前を教えろよ」


 呼吸がひとまず落ち着いた真冬も負けじと、売り言葉に買い言葉で返した。


「小僧のくせになかなか言うじゃあねぇか!ガンダだ、冥土の土産に覚えとけや」


「……最後に一つ聞いて良いか?何でお前はそんな強えーのに、盗賊なんかやってるんだ?」


 真冬は疑問に感じていた。

 これほどの実力者なら食い扶持を稼ぐどころか、1年かもう少し真面目にダンジョンに潜れば、遊んで過ごせるほど稼げそうだからだ。


「時間稼ぎか?……まあいいぜ。話してやるよ、ある男の喜劇を――」



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