第7話 薬剤師ギルド ☆

 その後、ダンジョンに行くなら回復薬ポーションを隣の薬剤師ギルドで買って持っていきなさいとフランさんに言われたので、ダンジョンに直行せず貰った服に着替えてから薬剤師ギルドへと向かった。

 

 冒険者ギルドを出るとお天道様がもう鳴りを潜め、空には誇張抜きで満天の星が瞬いており、僕たちに優しい光を注いでくれていた。

 時間帯は星が出ているということから分かるように夜だが、ダンジョンの中は外界の時間とは隔絶されていて四六時中明るいみたいなので、いつ行っても大丈夫らしい。



 地球ではどこに行こうが見れないほど幻想的な星空の綺麗さに見惚れつつ、隣の薬剤師ギルドの中に入る。

 中は他のギルドとは違って入り口からすぐにカウンターがあり、その背後の棚には赤や青、緑などの色々な液体が入った小瓶や、飴ぐらいの大きさの謎の粒がいっぱい入った大瓶など、如何にも薬だと分かる品々が山ほどあった。


「いらっしゃいませー!」


 フランさんを筆頭に見慣れてきてしまったこの世界の顔面偏差値で言うと、あまり器量は良くなく至って普通ぐらいなのだが、元気溌剌としていてとても愛嬌がある女の子が出迎えてくれた。

 もっとも、地球の基準で言うなら、クラスで1位,2位を争うほどに可愛いのだが。


「何をお探しですか?」


「えーっと回復薬ポーションが欲しいんですけど……」


回復薬ポーションですね。何級がよろしいでしょうか?」


 見た目で年齢推測すると10歳前後でまだ幼さが残る風貌ながらも、テキパキと慣れた手つきで注文内容を処理していく姿に驚きつつ、ナビーに回復薬ポーションの等級についてのアドバイスを仰ぐ。


(ナビー、何が良いのかな?)


(今のステータスですと、10級で事足りるかなと思います)


「じゃあ10級を5本ください」


「1本で300ベルなので、5本で1500ベルになります」


 異世界には学校やそれに近い機関が無いため、算術などは浸透していないことが多いらしいが、計算に慣れているこの少女は地頭が良いのだろう。


 僕は革袋から1500ベル――銀貨1枚と銅貨5枚を出した。


「すごく計算が早いんですね」


 女の子は尊敬の視線を向けながら、手提げサイズの麻袋を渡してきた。地球で教育を受けた僕にとってはなんてことのない簡単な計算なのだが、そこまで褒められると気恥ずかしさを覚えた。


「ありがとうございます。また来ますね」


「はい、お待ちしておりまーす!」



 店を出てから麻袋の中を確認すると、ファイトが一発で有名な栄養ドリンクぐらいと同じぐらいの大きさの瓶が5本入っていた。そしてそれに入っている回復薬ポーションは、黒みがかった緑色の液体だった。近い色で言うと、常緑樹の葉の色だろうか。


 絵に書いたような薬の色をしている回復薬ポーションに、確実に自分の口には合わないと思わずにいられなかった。が、良薬は口に苦しと言われるように、飲めばおそらく効くのだろう。


 味的にも、展開的にも出来れば飲むシチュエーションにならないことを祈りつつ、回復薬ポーションをコートの内側にある瓶専用収納スペースに入れ、塔へと歩き出した。



 塔を囲む広場にあと少しで出ると周囲の雰囲気から分かり、さあ初ダンジョンだ、と気合を入れ始めていたら、水を差すようにナビーから待ったの声が掛かった。


(塔に入る前にステータスを見ることをおすすめします)


(あっ、そっか!ゴブリン倒したから上がってるかもしれないよね)


 ステータスを見られないように、広場から誰も寄りつかないようなちょっとした路地裏に入り、


【ステータスオープン】


 名前 神宮寺 真冬


 種族 人族


 グレード1

 レベル1→2


 HP 400/400→420/420

 MP 300/300→310/310

 STR 250→253

 DEF 150→154

 INT 400→408

 AGI 210→213

 CHA 100→110

 LUK 200→200

 

 SP 0→4


 スキル 能力向上ステータスアップ 導く者ナビゲーター 言語理解マルチリンガル



 勉強会で改めて雑魚キャラと認識したゴブリンが1体だけだったので、案の定1レベルしか上がっていなかった。が、ナビーはそんな僕の不服とは違う種類の不服そうな声で、


(そのレベルでそのステータスは普通ではあり得ないですけどね。私もいますし!)


 何故か少しだけナビーが得意げになっていて、少し子どもっぽいと思ったり思わなかったりするのだが、これを言ったらおそらく怒られるから、蓋をした。



 それから路地を抜け塔の広場に出ると、横目で通り過ぎながら見た時とは全く違う顔を見せる塔に、再度圧倒された。


 人間では到達できない神のみぞ許された御技みわざは、感嘆を声に出して表現するのも忘れてしまうほどの造形美で、一目見た者は悪人だろうが、無神論者だろうが為す術無く、たちまち心を奪われてしまうだろう。

 そう思えるほどまで、神秘さと魔性さなど魅力という魅力を兼ね備えていた。


 目的はダンジョンの外観を仰ぐことではなく中にあって、その目的を達成するためにはずっと立ちっぱなしで見ているわけにも行かない。後ろ髪を引かれる思いではあるが、入り口へと足早に向かった。


 塔に入る直前、本当に何気なく両開きの扉の上部に視線を送ると、豚のような動物がデフォルメされ書いてあった。


 ――あれは……豚だよね。なんでこんなとこに豚が?


 この世界で読んだ本の中には豚の“ぶ”の文字も存在してなかったのに、と少し疑問に思いながら、その扉を潜っていったのだった。

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