雷閃の女王、戦線離脱……その後の動向
「……仏田……アンタの言ってる意味が分からなかったんだけど、もう一度聞かせてもらえるかしら?」
理解出来ないとしながらも、和やかムードから一転、サラは険しい表情を自身のチームの副リーダーへと向ける。
「いいですよ。良く聞いてくださいね? あなたには、このチーム、女王&兵隊から外れて頂きます、と言ったんですよ。サラちゃん」
「……っ!! やっぱり意味が分からない事を言ってくれるわね仏田! 確かにアンタは最初からいたメンバーで、部活としては部長も兼任させてはいたけど、このチームはワタシがリーダーとしてメンバーを集めてワタシが作ったのよ! アンタが色々便利だったからワタシの気まぐれで留まらせてやってればつけあがって……」
「サラちゃん。あなたは、このチームを設立するにあたって、私達に条件を提示していましたね。覚えていますか?」
「当然でしょ! ワタシが考えたんだから! 詮索や異議は認めず、命じた事以外の動きも認めず、如何なる事情があろうとも公式戦の時には必ず出場する事よ! それがどうしたって……」
「では、その条件に対するサラちゃん自身の誓約も覚えていますよね?」
感情的なサラに対し、静かに言葉を告げるような仏田。
少しの間サラは黙りこむが、仏田は沈黙も想定内であるかのように続ける。
「サラちゃんが述べた条件は……自身が能動的に動いてチームの勝利に貢献し続けるという誓約を果たす限り有効である、とも言ってましたよね?」
「……ふん。良く覚えているじゃない……」
「覚えていますとも。そして今回の公式戦は敗北となりました。つまり、誓約は果たされなくなり、条件に沿わずとも問題にはならないということになりますよね?」
「……今までワタシがこのチームを勝利に導いてきたというのに、一度負けただけで即、手のひら返しとはね。良い性格してるじゃない……!」
「あなたが自分で言った事ですよ。確かに勝利し続けてはきました。ですが、それは全てあなた自身のためであって、チーム全体を考えての事ではないでしょう? そんな事では、メンバーが心から付いてくる事はありませんよ」
「勝利すればチームだって自然と引き上がっていくものでしょうが! ワタシが個人的に動いていたのは否定しないわよ! でも結局は勝ちこそが全てじゃない! チームが有名になったからアンタ達も色々と優遇されるようになったでしょ!!」
仏田以外のメンバーを睨み付けるサラ。
だが、メンバーは仏田の側に寄り添うように無言で集まる。
「なっ……!! アンタ達まで……!」
「勝利という結果は大事ですが、それだけが必ずしも人を導く事になるとは限らないんですよ。この1年ほど、サラちゃんに従ってはきましたが、チーム戦略の方向性に疑問もありました。私だけでなく他の人達もね……だからこそ、これがその意思の表れではないでしょうかね?」
サラに反旗を翻すメンバーの偏りは、皮肉にもこれまでサラが戦略として作り上げた攻守の極端な分担人数そのままだった。
「……そう……まあ、言われたらその通りかもね……アンタ達の意見も何も聞いてこなかったワタシに付いてくるやつなんて、いないわよね……ワタシが、そうさせていたのよね……」
サラも事実を認めて諦める。
悟ったような面持ちだったのは、どこかそうなる予感がしていたからかもしれない。
「……では、サラちゃん。今までお疲れ様でした」
「ふん、ずいぶん早く追い出したそうね、仏田。言われなくてもすぐに辞めてあげるわよ、こんなチーム……」
強制でサラの脱退を急遽決定させた仏田は、剃り上げた頭を深々と下げてサラを送り出す。
サラは踵を返すと、早足で振り返る事なくその場を立ち去る。
サラが女王&兵隊のプレイヤーとして二度と戦線に立つ事が無くなった瞬間だった……
※ ※ ※ ※
サラのチーム脱退がタクティクス・バレットのメンバーに知られたのは公式戦の翌日。
数日の内には全国に広まり、サラの動向について心配していた大和達ではあったが、それからしばらくは慌ただしい日々を送っていた。
というのも、女王&兵隊との公式戦からタクティクス・バレットの取り巻く環境は大きく変わる事となったからだ。
まず、新河越高校内での人気が急上昇し、チームの待遇が良くなった。
ほとんどのメンバーはサラに撃破された訳だが、最終的に勝ち星に向かう戦略としてチームプレイを評価をされ、メンバー全員が最低でも1つ以上ランクが上昇し、中でも風鈴は元々1番ランクが低い事もあって上昇幅が大きく、大和のアシストをきっちりこなしたとしてB、つまり今までのメンバーのランクに匹敵するまでに成り上がるという大躍進を遂げた。
男女共にファンが増え、目立ちたがりな金瑠と銀羅は大歓迎な一方、注目され慣れていない風鈴や香子、寝てばかりだった桂吾などは絡まれやすくなって対応に困ってもいた。
また、サラを撃破したチームという事で注目度も格段に上がり、練習試合や公式戦を申し込んでくるチームも増えてきた。
WSGC出場を目指すためにランクアップするなら、やはり公式戦を回数こなさなければならないため、試合が増えるのはメンバーとしても望むところであり、特に飛鳥などは嬉しさのあまり上機嫌に笑いっぱなしで、双子の撮影の的だった。
平日休日問わずに連戦を続け、2週間ほどした頃……
「はぁ~……今日は部活も試合も、お休みですね~……」
教室の自分の机で風鈴が突っ伏しながら、朝からため息をついている。
側には大和と浩介もいる。
「最近は連戦が続いているからね。さすがに休日は設定しないと質の高いパフォーマンスは望めない。それにしても、大分疲れた顔をしているな? 浩介」
「そりゃそうだろうさ~……っていうか、こんなに試合組まれるとか、女王&兵隊との公式戦以前には考えられないんだよな~……部活も手抜きしてないし……いい加減、休ませて欲しかったから助かったよ……」
「なんでも、試合組み込んでたのは忍足先輩だったらしい。少しでも早くWSGCに出場したいからとかで、本当なら今日も試合組まれる予定だったらしい。それを、姫野宮先輩が止めたみたいなんだ」
「マジかよ!? 危なっ……! 姫野宮先輩グッジョブあざ~す! でもさ、千瞳さんも良く耐えられてるよね?」
「……ふえっ?」
いきなり浩介から話を振られ、一瞬遅く反応する風鈴。
「え、えっと、何ですか?」
「いや、だから最近部活と試合ばっかりなのに、千瞳さんも良く頑張ってるな~って思ってさ……」
「私は凄く楽しくて、大丈夫ですよ! 色々な人と交流出来るのもですけど、試合に出たら自分の力で皆さんを助けられるっていうのがあってやりがいがあります!」
「……千瞳さん、何気にタフだよな~元々運動部でも無いはずなのに……ランクも凄く上がって俺なんて抜かしちゃうくらい順調だし、活躍出来るスペリオルコマンダーだもんな~羨ましいよ……」
「ありがとうございます!」
いい笑顔でお礼を返す風鈴だが、何やら思い出したように真顔に戻って考え込む。
大和と浩介は顔を見合せ、
「千瞳さん、何か気になる事でもあるのかな?」
大和が聞き取ってみる。
「……えっ?」
「さっきから様子がおかしい気がしてね。何でもないなら良いんだけど……」
「あっ……えっと……女王さん、今どうしてるのかな~って思って……」
「女王?」
「はい。女王&兵隊の名前が出たので、思い出して……」
「あ~……脱退したって噂だよね。チームのメインプレイヤーなのに、確かにどうするんだろう? 大和、何か聞いてないのか? 知り合いだったんだろ?」
「本人の連絡先は聞けなかったから分からないけど、俺も気にしてはいたよ。越山高校のサイトにも何度か確認してみた。そしたら……」
大和は自分の生徒手帳を操作し、風鈴と浩介に見せる。
画面には越山高校の紹介が表示されていた。
「何日か前に越山高校のチーム名が変更されていたよ。そして女王は……越山高校を退学したらしい」
「「退学!!?」」
風鈴と浩介の驚愕の声にクラスメイトの視線が集まるが、構わずに浩介は大和の生徒手帳をひったくるようにしてサイトを確認する。
「えっと、越山高校チーム紹介……チーム仏滅!? チーム名が様変わりし過ぎじゃないか!?」
「リーダーが正式に仏田さんになった事で、名前だけじゃなく戦略も一新して再スタートすると記載されてる。そして紹介文の最後に、女王退学のお知らせも載せてある……」
チームの近況報告欄を指差す大和。
そこには仏田自ら更新した紹介文の最新情報があり、サラが退学したという内容が簡単にだが記されていた。
「本当ですね……あんなに凄い人が、どうして……」
「アメリカに帰っちゃった、とかなのかな?」
「そうかもしれないけど、現状では情報が少なくて何とも言えない。こんな事になるなら連絡先の交換でもしておけば良かったと後悔してるよ。後で玉守部長にも確認して……」
そうこうしていると、もうすぐ朝のホームルームが始まり、担任の吉川がやってくる時間だが、
「あ、赤木先輩~~!!!!」
それよりも先に大和を呼ぶ大音声が教室に響き渡る。
「きゃっ!!」
「こ、声デカっ!!」
「小栗ちゃん? もうすぐホームルームだけど、どうかしたのかな?」
風鈴と浩介が声に驚く中、肩で息をする小波に訪ねる大和。
小波は慌てた様子で、何かを伝えようとしていた。
「……あ、あのっ!! い、今さっき、下で……!! あ、あの人見たんです!! じ、じょ……じょ、じょ……!!」
「へっ? ジョ○ョ? メチャクチャぶん殴る幽霊みたいなのでも見た?」
「ち、違います浜沼先輩!! いっそ浜沼先輩がぶん殴られて下さいよ!! ってそうじゃなくて!!」
「お~い、何大声出してるんだ? 早く自分の教室戻りなさい」
伝える前に担任の吉川が到着し、小波は注意を受ける。
「あっ!! す、すいませ……はっ!!」
吉川を見た後、隣に目を向けて小波は口をあんぐりと開ける。
そして、もはや声にもならない中、大和に指差しのジェスチャーで示して最後の悪あがき。
「「「??」」」
結局、大和達には伝わらずじまいでホームルームを迎える事となるが、ホームルームで小波が何を伝えたいかがようやく判明した。
「さて。ホームルームを始める前に、今日は転校生を紹介する。入りたまえ」
「はい!」
元気な声で教室に入り、チョークを手に取って黒板いっぱいに大きく自分の名前を書き込んで振り返る転校生女子にクラス中、そして大和達も言葉を失う。
「今日からこの新河越高校に転校してきました、サラ・ランダルタイラーです! 皆さん、よろしくお願いします!」
男女共に見惚れてしまう西洋美な外見の美しさを持つその女子の事は、名乗る前から大和達は知っていた。
「女王さん!?」
「……女王、君が何故ここに……?」
「えっ~と、成り行きというか何というか……ま、まあワタシの事情は何でもいいのよ! 来ちゃったのは仕方ないでしょ! それよりも大和! そして風鈴!」
「「は、はい!」」
どこかあたふたと焦りながらも勢い良く接近するサラに、風鈴だけでなく大和も背筋を正して身構えてしまう。
「これからはワタシの事、女王だなんて呼び方でなく、ちゃんと名前で呼びなさい! 一度負けたワタシに、女王なんて肩書きを名乗る資格はもう無いわ……特に2人はワタシを追い詰めて倒した張本人だもの、親しみを込めて呼び捨てにしなさい! 風鈴は敬語も無し! いいわね!」
どことなく偉そうではあるが、はにかみながら呼び方を指定するサラ。
何とも吹っ切れたような笑顔のサラに、再び顔を見合せた大和達も自然と笑顔になる。
色々と聞きたい事もあったが、それは後でも可能であり、今はまずサラの要望に応える事にした。
「えっと……よ、よろしくね、サラ!」
「これからよろしく、サ……」
風鈴は早速名前呼びをしたのだが……
(……いや、待て……名前は名前でも、名字の方が良いんじゃないだろうか? 銀羅さんに関しては双子だから例外として……千瞳さんにしても名字で呼んでる訳で……となると、ランダルタイラーの方が良いのかな?)
大和の方は呼ぶ前に数秒、思考で固まる。
(……だけど、ランダルタイラーじゃ正直呼びにくくないか? ここは短く切って呼んだ方が良いかもな。そう、あだ名のように……ランダルタイラーを半分で切って、どちらかで呼ぶべき、か……)
目の前で待つサラは、大和が自分の名前を呼んでくれるのを、今か今かと心待ちにしているようだった。
頬を赤らめているのは、知り合いとしての親しみ以上の感情が見て取れるが、その心情に大和が気付いているとは言い難い……
(……しかし、ランダル、だなんて普通呼ぶだろうか? 外国のセンスは測れないけど、名前がランダルっておかしい気がするな……となると消去法ではあるけど、1番の候補は……)
大和の中で、呼び方が決定した。
「これからよろしく、タイラー!」
大和もサラに合わせるように笑顔で、その名を呼んだ瞬間……サラの笑顔が、凍りつく。
「ん? どうかしたのか? タイラー」
もう一度、その名を呼ぶ大和。
再び呼ばれる名前に、サラの表情がだんだん変化していく。
心なしか、髪が逆立っているようにも、見える……
クラスメイトは風鈴を除いて、
(……よりによって、何でその呼び方?)
という疑問を浮かべながら、2人から少し遠ざかる。
「あれ? みんな、どうして離れ……」
「……た…………た……」
「えっ?」
風鈴以外が距離を置く事に首を傾げつつ、プルプルと体を震わせながらサラが何か言いかけていたのを聞き取り、
「……タイラー?」
三度目の名前呼びを大和が実行した時……
ブチッ! という音を、全員が聞いた気がした。
サラの周囲に、サラを中心として広がる半球状のゾーンが出現。
サラのEXS、「
サラのみが知覚可能なそのゾーンは、至近距離にいた大和を既に捉えている。
その状態でサラはカッと目を見開き、ものすごい形相で大和を見据え……
「……平らって!!! 言うなぁぁぁぁ!!!!」
大和の頬に拳をぶちこんだ。
ゴキッ! という骨が軋むような音は全員、ハッキリと聞き取れた。
スローモーションのように大和がぶっ飛んでいく様子は、サラからは普通にEXSの性能で知覚出来たが、クラスメイトも見れたような気がした。
教室の半分近くまで大和をぶっ飛ばしたサラは、倒れて動かなくなる大和を今度は涙目で睨み、
「う~~~~!! 大和の…………大和のっ……!! バカぁぁぁ!!!」
悲痛な声で罵倒した。
(……平らと言った訳じゃないよね……?)
という突っ込みをしたら今度は自身に回ってきそうだと直感し、「平ら」はサラの
ただ、サラも大和を心から憎く思った訳でもなく、風鈴が倒れる大和に慌てて近寄り、
「だ、大丈夫ですか!? 大和さん!!」
大和の体を心配そうに起こし、意識を確認しようとした際、風鈴の大きな膨らみが大和に触れていたのをサラが目撃し、今度は風鈴に食ってかかる。
「ち、ちょっと風鈴!! アンタ何を当て付けてるのよ!? 離れなさいよ!!」
「だ、だって大和さんが大変な事になってて……! サラはどうして大和さんにこんな酷い事を!?」
「ア、アンタには一生理解出来ないわよ!!」
「とにかく大和さんを早く保健室に連れていかないと!」
「ワタシが殴っちゃったんだから、ワタシが付き添うわよ!」
という騒動で初日からバタバタしつつ、強烈な印象を与えたサラ。
そして大和は薄れゆく意識の中、
(……ああっ……戦場も、女性も……地雷というものは……分かりにくい、ものだ……な……)
心に留め置き、風鈴やサラや浩介、そしてクラスメイトに見守られながら目を閉じ、静かに息を引き取る…………かのような流れで気絶してしまう。
幸い大事には至らず、すぐに目を覚ました大和が自力で保健室に行ける程度で済んだ。
※ ※ ※ ※
サラが転校してきた事は新河越高校全体にすぐに伝わり、歓迎ムード一色だった。
興味津々で話しかけるクラスメイトにもきちんと対応し、コミュニケーション能力の高さを見せた。
その美貌と実力から知名度は相当あったが、前々から尊大な印象の噂が広まっていて悪いイメージもあったせいで、初めは近寄り難い雰囲気も若干含んでいたが、数時間もすればすっかり打ち解け、そのイメージのギャップから親しみやすさが強調され、瞬く間に人気者となるサラ。
休み時間に大和達が学校内を案内した時も、サラ見たさにファンが押し寄せて大混乱に陥る現場を、駆けつけた教師が何とか抑えるという事態にまでなっていたが、それ以外は終始何の問題もなく部活の時間まで過ぎていく。
今は同じクラスという事で、風鈴がサラを部室の扉前まで案内してきたところだ。
「ここが部室だよ、サラ!」
「ここね~……越山と比べたら、学校自体がもう古くさい感じなのもあるけど、部室も似たようなボロさね……広くもなさそうだし……」
「越山は元から大きな学校だったし、設備も凄いと聞いたよ。比べられてしまえば、確かにうちは設備では劣ってしまうと思うけどね……」
「あっ……! ま、まあでも設備だけ良くてもきちんと活用しきれなかったら宝の持ち腐れだし! ワタシくらいになれば設備云々の差なんて関係無いし! というかぶっちゃけ……や、大和がいるところなら、どこでも良いというか、その……」
風鈴にはやや不満げな態度だったが、後ろにいる大和の困り顔を見て慌ててフォローを入れるサラ。
モジモジしながらで最後の方はハッキリと聞き取れないという、サラらしくない声になってしまうが大和にはちゃんと届いていた。
「ありがとう、サラ。でも、設備が良いならそれに越した事は無いけどね。あまりにも設備が酷すぎたら勝ち抜くには厳しいし……ここはメンバーのみんなが凄く頑張ってる。だから、あとは設備を充実させられたら良いんだけど……」
惜しむらくは、いまいちサラの気持ちが大和に伝わってないようなところだろうか。
(う~……じ、自分でもちょっと大胆発言な気がしたけど反応薄い……もっと押していくべきかな!? 何か恥ずかしいけど……でもメンバーを立てる大和、優しくてやっぱり素敵♪)
自己紹介時に自ら大和を殴り倒したのも忘れたかのように、サラはサラでめげずに大和に熱い視線を送っている。
そんな様子を、風鈴はにこやかに見守りつつ、
「じゃあサラ、扉を開けてみて?」
サラを部室扉の前に立たせる。
だが、すぐには開けず、少し間が空く。
そして、
「……ふぅん。中に何人かいるわね。8人? 大和達も合わせたらこれで部員全員?」
開けてもいないのに、サラが中の人数を言い当てる。
「うそっ!? サラ、分かっちゃったの!?」
「部屋に入る前とか物が隠れている時は『絶対領域』で中を確認するのが癖なのよね。ちゃんと顔と名前を覚えたら、今度は誰がいるか当ててあげても良いわよ?」
「うへぇ~EXSとか本当に反則だよな……」
「いつもは水城さんとか金瑠や銀羅さんも一緒だけど、サラを部室で歓迎したかったから先に行ってるんだ。まさか開ける前に当てるなんて本当に凄いな、サラ」
「ま、まあね! ワタシにかかれば当然よ!」
大和に褒められたのが1番嬉しかったようで、自慢気なまま扉を開けるサラ。
すると、
「「ウェルカァ~~ム、サララ~ン!」」
という二重声を響かせ、金銀の双子がサラに向かって飛んできていた。
「ふんっ!」
サラは瞬時にしゃがんで、双子の飛翔抱きつきを見事に回避。
「「ありゃりゃ~?」」
(またか……)
間抜けな感じに声を間延びさせながら、サラの後ろに飛んでいく双子。
状況は正に大和の入部初日と似ており、サラの後ろにいた大和はデジャブを覚えていた。
繰り返される金銀双子のフライングボディプレスを再び食らう大和、またも背中を強打。
「ぐふっ……!!」
2人分の体重を受けたまま廊下の床に打ち付けられ、圧力で肺の空気を押し出される。
金瑠と銀羅を頭上で通過させてからサラは立ち上がり、ニッと笑みを浮かべて振り返る。
「アンタ達がいたのは気付いていたわよ! そう来るだろうっていうのもね、ふふんっ!」
「「お~!」」
ドヤ顔のサラに、大和の上にいた双子は体を起こして拍手する。
「金瑠ちゃん達のフレンドリーダイブを躱すとは、流石はサラランだにょ!」
「そりゃあワタシのEXS『絶対領域』なら朝飯前……って、アンタは男なんだからいきなり飛びついてくるんじゃないわよ! というか何で女子の制服着てるのよ!?」
「金瑠は可愛いもの好きな男の娘だにょ~! そして銀羅ちゃんも可愛いもの好きだから、2人ともサラランについつい飛びつきたくなるにょ~!」
「男の娘って何よ!? でも、ワタシが可愛いとか見る目はあるわね! しつこくしなきゃ仲良くしてあげても……って、銀羅って言ったわね! いつまで大和に抱きついてるのよ! いい加減離れなさいよ!!」
入口の時点から既に騒がしくなり始めたサラ達。
「だああっ!! バカ双子どもにいつまでも付き合ってんじゃねぇよ! そいつらは毎回そんなだから放っとけ!」
「やあ、いきなり手荒な歓迎で申し訳ないね、サラ君」
「新河越高校サバイバルゲーム部、タクティクス・バレットの部室にようこそ、サラちゃん!」
奥にいた飛鳥がまず黙らせ、次いで玉守と角華が歓迎の挨拶をサラに送る。
部室内にはサラの見立て通りに部員全員が集まっていたが、部室内を見回した風鈴は首を傾げる。
「小波ちゃんがいませんね?」
「小栗さんなら、『新聞部が本格的に活動して忙しくなったので、後でまた来ます!!』って言ってましたよ、千瞳先輩」
「まあ、小波君はそちらが本業だから仕方ないさ。さて……」
歩の対応に玉守が合わせながら話を切り上げ、サラと改めて向き合う。
「仏田から、サラ君が退学するという話と共に、断定ではなかったがもしかしたらこちらに転校してくるかもしれないという話も聞いていたよ」
「あ~やっぱり仏田、事前に話していたのね?」
「まあね。不確定な情報だったので皆には黙っていたんだが……本当に来ると聞いて驚いたよ」
(……全くもう、仏田のやつ……サプライズしようと思ったのに、最後までお節介してくれちゃって……)
玉守の返答でサラは、やれやれというようにふっと柔らかい笑みを浮かべる。
「サラ君にはこうして部室に来てもらって早速で申し訳ないが、名前とランクを改めて聞かせてもらってもいいかな?」
「ワタシにそれを今さら聞くの?」
「例え相手が有名人だったとしても、これからは戦場で仲間として戦い抜く以上はきちんと聞いておきたくてね。意気込みも聞けたら、なおありがたいよ」
「ふぅん。まあ、良いわよ! 良く聞いておきなさい!」
サラはタクティクス・バレットメンバーに向けて、
「ワタシの名前はサラ・ランダルタイラー! ランクはX+! ワタシは努力しない奴は認めないし嫌いよ! でも、上を目指す努力を怠らないというなら、アンタ達を世界に引っ張り上げてあげるわ! ワタシの背中に付いてこられるよう、せいぜい走り続けなさい!」
尊大にも思える強気な自己紹介を繰り出す。
これを聞いて黙っていられないのが、毎度お馴染みの飛鳥だ。
「……参加する前からこれかよ、上等じゃねぇか! 努力しない奴は認めないだぁ!? WSGC目指してるうちのチームに、引っ張られて満足だけして努力はしねぇだなんていう奴いねぇよ! テメェこそ、実力あるからって現状に満足してんじゃねぇぞ!」
強気な笑みから睨みを効かせる飛鳥だが、そんな事で怯むサラではなく、
「ふふん! ワタシとしてはここにアンタがまだいるというのが驚きよ。実力の差を思い知って、悔しすぎて部を辞めてもおかしくないと思っていたもの。立ち直りの早さと諦めの悪さだけはトップランカーね、自称エースなポンコツ先輩?」
逆に煽り返すだけの余裕も見せる。
しかし、飛鳥もそんなサラに怒りで応じる事もない。
「ハッ!! 全く可愛げがねぇ生意気な後輩が来やがって! いつかテメェの意思で尊敬しやがるくらいに実力上げてやるからな、見てろよサラ公!!」
「ふん、いつになる事かしらね? 土下座でもする勢いなら、すぐにでも先輩って呼んであげても良いわよ?」
「アホか! んなみっともねぇ事する訳……」
「そうだにょ、サララン! ボッチ先輩はこう見えて、足蹴にされて喜ぶドMだにょ!」
「むしろうちの部の女王様、ヒメスミ先輩みたいに踏んであげて欲しいにょ~!」
「えっ、何それドン引きなんだけど……」
「真に受けるな!! コイツらは話をねじ曲げたり盛ったりすんだよ!!」
「そ、そうよ! 私だって自分からしたかったんじゃないし、飛鳥が勝手な事しなければ……!!」
「とどのつまり、飛鳥と角華君はとても仲が良いとまとめても良いだろうな」
「「良くない!!」」
最上級の先輩と双子のやり取りがこんな感じなので、あとはいつも通りの騒がしさが部室内に広がる。
今まで会話に参加していたサラも、他のメンバーの騒々しいやり取りをしばらく黙って見ていたが、
「……プッ! アハハハハッ!!」
何故か突然、笑い出す。
それで、メンバーの騒々しさが収まる。
「サラ? どうかしたの?」
その真意を風鈴が問うと、サラは笑い過ぎて逆に潤んできた涙目を拭いながら落ち着いていく。
「はぁ~……だってこのチーム、良く分からないんだもの。真面目にWSGC目指してるって言いながら、実態はこんなふざけた感じだから……」
「う~ん……キルギラちゃんが凄く場を和ませてくれるおかげというか何というか……」
「図に乗るからコイツらフォローしなくて良いぞ、千瞳」
左右対称にポーズを返す双子に、困り顔の風鈴と呆れ顔の飛鳥。
「……まあ、こんな感じではあるけど、これでも俺達は本気でWSGCを目指してるよ。だから、サラが来てくれた事は正直、心強いと思ってる。サラに頼りきりにはしないつもりだけど、同じ肩を並べる仲間として、力を貸して欲しい」
大和が最後にまとめて締め、サラに握手を求めて手を差し出す。
男らしく力強さ溢れる大和の手を、サラは頬を上気させながら見つめている。
それが何を意味するか、周囲のメンバーは見ただけで察していたが、大和本人はサラが緊張して固まっているものだろうと勘違いして気付いていないのが残念なところだろうか。
「……もう、大和ってばズルいよ」
やがてサラも手を伸ばすが、握手に応じる前にその手のひらを指先で意味ありげに軽くつつく。
「えっ? ズルいとは……俺が何か卑怯な事でもしたのかな?」
「そうじゃないけど……大和からそんな風に求められちゃったら、例えチームに不満があったとしても、断れないじゃない!」
綺麗な顔に可愛らしい笑顔を浮かべながら、ようやく握手に応じるサラ。
「これから、仲間としてよろしく、大和! そしてみんなもね!!」
「「「「「「「「おお~っ!!!」」」」」」」」
サラの呼び掛けに一斉に応えるタクティクス・バレットメンバー。
ふと、サラの脳裏によぎるのは仏田や元女王&兵隊のメンバー達の姿。
サラが仏田にチーム脱退を宣告されたあの日……実は続きがあった。
まがりなりにも一年間、チームとしてやってきたメンバー。
最初は裏切られた思いに塞ぎこみかけていたサラだったが、帰宅してから、生徒手帳に仏田からこんなメッセージが届いていた。
『いきなり冷たい態度を取ってごめんなさいね、サラちゃん。でも、奇跡的に恩人をようやく見つけられたのですから、どうせなら一緒のチームで頑張って欲しいと思いました。メンバーの皆さんが私側に付いたのも、私から話していたからです。恩を返すためだけにたった1人で母国を離れたあなたなら、学校を変えるくらい問題にはしないでしょう。これで私達のチームに何も気兼ねせずに、行きたいところに行けますね? 元メンバー一同、あなたの活躍を心から応援してますよ』
このメッセージを見た後、不覚にもサラは自室で涙を流したのを覚えている。
(……仏田、ワタシという戦力を追い出した事をメンバー共々後悔させてあげるわ……そして、同時に誇らせてあげる……世界で活躍するワタシの、日本での最初のチームメンバーだった事をね!!)
記憶の中にいる仏田に強く宣言すると、
『それじゃあ、楽しみにしてますよ、サラちゃん』
そう言われた気がした。
こうしてサラを加入させたタクティクス・バレットは、これを機に、風鈴をスペリオルコマンダーとして公表する事を決定し、2人の大戦力を有するチームとして、今まで以上に躍進していく事になる。
遊戦記 -サバゲー・ライフ- 陰木 陽介 @voxvox
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