勝負の世界の非情な現実……戦場の宿敵こそが理解者
「立てるかな?」
「……うん」
大和が立ち上がって手を差し出すと、恥じらいながらも素直にそれを受けるサラ。
今までとは別人のように大人しくなっていた。
「すまない、女王」
「……何が?」
いきなり謝罪される意味が分からないサラは、大和に疑問で返して返答を求める。
「空中で動けなくなった君を、あそこまで容赦なく撃つこともないとは思った。しかし、君の実力を考えたら最後まで油断出来なかった……全力を尽くす事が礼儀だと思ったんだ。君を相手に油断なんていうのがそもそもの間違いでもあったけど……」
「……なんだ、そんな事……別にいいわよ。ワタシだって、立場が逆なら同じように全力を尽くしたと思うし……でも、ワタシの勝利記録がこんな形で止まるなんて、呆気ないわよね」
「本来の勝負なんて、いつだって可能性を秘めてるものだよ。むしろ女王、君が凄すぎたのさ。一度も弾に当たらないだなんて普通じゃ考えられないからね」
「……でも、その思い込みと過ぎた自信が敗北に繋がってしまった……」
「女王……」
弱々しく俯くサラに、大和は掛ける言葉が見つからなかった。
どこかで聞いた言葉、「勝者が敗者に掛ける言葉が無い」というのを改めて感じていた。
少しの間、話が途切れる2人。
「……あ、あのね!」
サラが何かを話そうとしたのだが、
「ん?」
大和の顔を見て、途端に顔を真っ赤に染めてプイッと顔を背けてしまう。
「そ、そういえばね! き、気になったんだけど! ワ、ワタシを狙ったあと1人! あれ、スナイパーライフル使ってたんじゃないの!?」
正面で見れないまま質問をしてみる。
態度から、違う質問だったようにも思えるが、
「ああ、やはり気付いたのか! さすが女王だ!」
大和はそのまま受け取る。
「ワタシに対して連射しないエアガン使うなんて!? って思ったんだけど、結局それに意識逸れちゃって負けた訳だし今更文句言わないわ……ただ、どんなプレイヤーなのか気になってね……」
「もう、公式戦も終わった事だし、君になら教えて良いかもしれないな。是非とも、千瞳さんの事を紹介したい」
「…………千瞳、さん?」
名前の雰囲気から何を感じ取ったのか、サラが少しムッとする。
しかし、大和はそれに気付かない。
「彼女の事を知れば、君とも仲良くなれるんじゃないかと思うよ……っと、噂をすれば……」
(……彼女…………やっぱり、女……しかも、何気に親しげ……一体、どんなやつが……)
性別を知って、サラは更にムムッと機嫌が傾く。
だが……
「や、大和さ~ん! 勝ちましたね~!」
通路から息を切らしながら走って大和に駆け寄ってきた風鈴を見て、それが一気に振り切れる。
(んがぁぁ!!!? な、な、なぁ!! 何よあの弾んでる物体はぁぁぁ!!!)
サラが信じがたい物を見るように、固まりながらも凝視するのは風鈴の大きな胸。
今しがた使用していたスナイパーライフル、L96を縦に抱えながら走っているのだが、それが真ん中の谷間に埋まって挟みながら走りに合わせて上下していた。
風鈴は意識している様子が無いのだが、サラにとってその光景の衝撃度は、今回の敗北の余韻を一時的に吹き飛ばすのに十分だった。
「紹介するよ、女王。彼女は千瞳風鈴さん。見ての通り、スナイパーを担当してるんだ」
「こ、こんにちは! じ、じゃなくて……! ハ、ハロー!? マ、マイネイムイズ……あ、あれ? 確か、名前が先だったような?」
風鈴は風鈴でサラを前にして少しテンパってしまっており、大和が日本語で話していたり、既に名前を伝えているのも頭から飛んでしまっている。
一方のサラは口をあんぐりと開けて、驚愕に呆けて動かない。
サラの心情には大和もだが、風鈴も気付いていない。
「うわぁ~……! 近くで見ると、本当に綺麗……同い年のはずなのにこんなに差があるなんて、やっぱり外国の人って凄いですね!」
「そうだね。それに体のしなやかさやバネ、総合的な動きのキレと、戦果を上げるに相応しいものもたくさん備えてる。EXSや体型という元々の資質もさることながら、それを長く持続出来るスタミナや様々な状況判断能力は基礎訓練や経験がものをいう。女王は才能に溺れず、努力もしている素晴らしい存在だよ」
「ううっ……頑張ってもあまり痩せない上に、未だにトロい私はまだまだですね……」
「千瞳さんも、これから頑張っていけばいい。でも、女王とは共通する資質が千瞳さんにもある。だから、女王ときっと仲良くなれると思ってる。生まれた国とか、学校やチームは違えど、同じ国でサバゲーをしている以上、仲間と呼べるはずなんだ。そういう訳で女王、良かったら千瞳さんとも仲良くして欲しい」
「えっと、じ、女王さん、よろしくお願いします!」
大和の紹介で風鈴はサラに向けて深々と頭を下げる。
しかし、そのせいでサラは風鈴の膨らみでその先が見えないという、それがある者特有の視界をまざまざと見せつけられる事となった。
自分が下を向いても障害物は無く、視界は良好。
重量も全く存在せず、機動力は抜群。
競技と発展したサバイバルゲームにおいて、優位性など比べるべくもなく、自身の圧勝とされる事実を再確認したサラは、しかし涙目になり肩をワナワナ震わせ……
「ノォォォォォ!!!!」
理想的な美しい発音でもって、フィールド全体に響く大音声で、全力で拒否したという。
※ ※ ※ ※
サラは大和、風鈴と共に出口を出た後、並んで外を歩いていた。
膨れっ面をして、完全にご機嫌斜めというサラは2人の話をあまり聞こうとしたがらなかった。
大和の言葉に関しては、それなりに聞き取ってはいた様子。
しかし、風鈴の秘密を聞いた時にはさすがに驚かずにはいられなかった。
「ええっ!? ア、アンタもワタシと同じスペリオルコマンダーなの!?」
「は、はい……そう、みたいです……」
サラから強く問われると、風鈴は逆に自信が無くなってしまい、声が小さくなってくる。
それを見て苦笑しながら、大和が解説する。
「千瞳さんは、『
「フィールドを見渡す? じゃあ、仏田達が全滅したのは……」
「そう。千瞳さんがそちらの仏田部長のユニットの位置を把握して、正確な狙撃で優位な状況に運んでくれたおかげなんだ」
「え、えへへっ!」
大和に褒められ、風鈴は照れて頬を染める。
それがサラには面白くないようで、また不機嫌になる。
「ふ、ふん! 狙撃に優れていても、ワタシを単体で狙うには役不足よね! ワタシがやられたのだって……ふ、2人でないと無理だったんじゃない!」
「そうだね、正にその通りだよ。千瞳さんのEXSだけでも君は狙撃出来なかっただろうし、俺だけでも駄目だった……何より今回は戦略で奇襲と分析を重ねた上で、相当の運に恵まれたおかげで君に勝てたようなものだ。対決する事がもし今後あったとして、次も勝つのは極めて難しいだろうね。やっぱり君は強いよ」
「ま、まぁね!! ワタシは超が付く実力者だから! 今回は本当に運が悪かっただけよね!」
打ち破った相手から、それでも高い評価を貰えた事に気を良くしたサラだが、その表情もすぐ落ち着いていく。
「……『
「……えっ?」
「ワタシの、EXSの名前……大体、半径5メートルのドームみたいなゾーンを張って、弾が入ってきたら、ゆっくりに感じるのよ。だから、避けるのが得意なの。他にも活用する形はあるけど……」
「それを、教えてくれて良かったのか?」
「べ、別に聞きたいなんて言ってないけど、そっちの秘密だけ話されて、ワタシが話さない訳にいかないでしょ!?」
変なところで律儀なサラはEXSでの自身の感覚を少しだけ語ってくれた。
おおよその性質については大和が予想していた通りで、答え合わせしてるようだったが、深くは言及しなかった。
出会ったばかりの頃と比べて感情豊かなのが本来のサラの姿であり、こうして話してくれるようになったのは心を少し許してくれたと分かったからだ。
「す、凄いです……ゆっくり感じるなんて……あれ? でもそういえば、ゆっくり感じるなら例えばさっきみたいに、空中にいた時にナイフで大和さんの弾を弾いたりとか出来たりしなかったんですか?」
「はあ!? アンタ何素人臭い事言ってんのよ!? 確かにやろうと思えば出来なくなかったけど、ルール上武器に弾が当たっても負けなのよ! 何でそんなのも知らないの!?」
「はうっ! ご、ごめんなさい!!」
「ああ、すまない女王。千瞳さんは実際、今年に入ってからサバゲーを始めたもので良く知らないだけなんだ。訓練に時間割いていて、相手に当たったら勝ちっていう大まかな解説しかしてなかったんだ」
「こ、今年……? ワ、ワタシ、今年始めたばかりのほぼど素人のアシストで、負けたの……? こ、こんな、重石2つ抱えたど素人にワタシが……!! うううっ~……!!」
「「重石??」」
サラはまたしてもショックが沸き上がって悔しそうにしてたのだが、表現については残念ながら大和も風鈴もピンと来ていなかった。
ちなみに、武器に弾が当たっても負けというのは、プレイヤーの装備品も含めた全ての物に弾が当たったら負けだとされている本来のルールを、WEE協約以降にきちんと厳密化させてヒット判定の中に組み込んだものである。
武器そのものに〔S・S・S〕は使われていないが、前述したように全ての武器には所有者特定のICチップが組み込まれており、記録以外にも撃ち出された弾が当たればそれを判定して、連動する特殊ベストや衣服を染める機能も備わっている。
小さな場所に当たった怪我や武器破壊も、戦場では死に直結するという認識からである。
3人が思い思いの感覚で会話しながら出口の通路を抜けると、その先で様々な者達が迎えてくれた。
「大和! 千瞳! やっと来やがったな、今日の主役がよ!!」
まずはタクティクス・バレットメンバーの先頭に、飛鳥が陣取り待っていた。
「忍足先輩」
「入って日が浅いくせにあの女王を討ち取るとか、マジで良くやった!」
「自分はまだまだです。皆さんが女王の戦力予測のために諦めずに戦ってくれた事と、千瞳さんが流れを作ってくれたおかげです」
「そ、そんな! 手数少ない私だけじゃどうにも出来ませんでした……女王さんには避けられちゃってましたし、大和さんや皆さんがいたから私も頑張れたというか……」
「まあ、自慢のメンバーだからな! だが、んなこと言ったら最初から俺達だけでどうにか出来たかも分からねえ!」
「飛鳥の言うとおりだ、2人とも」
飛鳥の後ろから玉守や角華、その他のメンバーも駆けつける。
「女王の実力は実際に間近で感じてこそ理解出来る部分があった。想定なんてしきれるものじゃない。試合中にその実力を理解した上で、実行に移して結果を出せる人間はそう多くはいない。女王を討ち取れた決め手は、やはり2人がいてこそだ」
「うん! 赤木君が転校してきてくれて、風鈴ちゃんを連れてきてくれたおかげね! 控え室なんて、みんなで大騒ぎしちゃってたし!」
「いやぁ~めっちゃカッコ良かったっすよ~2人とも! 勝ちが決まった瞬間、大喜びしてたんすけど嬉しさのあまりに走り回ってたキルギラちゃんにぶつかってぶっ倒されたんすよね~……」
「ゴメンだにょ、ケイゴン! でも、本当~に嬉しくてつい飛び回りたくなる気分だったにょ!」
「カオルンなんて、感動のあまりに泣き出しちゃってたにょ~!」
「ううっ……! だ、だってぇ~……ぐすっ! ふ、2人とも、本当に凄くて……あ、あんな強いチームに……勝てる、なんて……! うっ、うええ~ん!!」
「ね、姉さん……! な、泣きすぎだよ! で、でも本当に凄かったですよ、赤木先輩! 千瞳先輩!」
メンバーみんなに祝福され、大和も風鈴も自然と笑顔になって輪の中に入る。
そんな様子を、サラは何も言えずに離れて見ていた。
「クイーン・サラ」
こちらでも話し掛けてくる者がいて振り返ると、仏田がいた。
「……仏田」
「お疲れ様でした。今回は、残念でした。まさか負けてしまうとは思ってもみませんでしたが、こういう事があるのは本来仕方ないですからね」
「……そうね」
労う仏田にも返す言葉も少なく、サラは自分のメンバーの横に並ぶように歩を進める。
ふと周囲を見渡すと、観客の視線が気になった。
ここは、最初にチーム同士で挨拶を交わした広場。
最初と同じく観客が囲んでサラを見ているのだが、やはり今は向けてくる視線の印象が違う。
初めて負けた事に対しての興奮気味な好奇の感情ならまだ良い方で、そのほとんどはサラの勝ちを信じていたファン、またはサラの勝ちにお金を賭けていた者達で、負の視線が圧倒的多数だった。
(……そうよね。負けたら、何もかも……終わるものよね……でも、ちょうど良いわ。どうせワタシはもう……)
サラはため息をつきながらも耐えていた。
負けを1つの区切りのように考え、最後の決断を下そうとしていたからだ。
それを思えば、今の状況も受け入れるべきか、と。
自分のメンバーすら、きっと同じように思っているかもしれない。
そんな中、遠くから、
「くそっ! 小遣い稼ぎのつもりで賭けていたのによ! 金返せや!!」
「確実に勝てないとかふざけんな!!」
罵声を浴びせる輩まで現れた。
サラの耳にもそれは届く。
勝負の世界で本来確実など存在しないにも関わらず、100%の勝率と見応えのある戦いを見せ続けていたサラに対して、たった一度の負けでこのような手のひら返し。
だが、その理不尽が自分の諦めを後押ししてくれる。
そう心に言い聞かせ、何も言い返さないでいた。
「「黙れっ!!」」
そう一喝して観客を黙らせたのは、自チームのメンバーの誰かでなく、サラにとっては敵のチームだったはずの大和と飛鳥だった。
驚くサラの元に大和が早足で歩み寄る。
風鈴も一緒にくっついてきた。
「あんな声、気にする事は無い! 君は女王の名に恥じない素晴らしいプレイを見せてくれたんだ!」
「そうですよ! あんなに格好良く動けるなんて、女王さんのが本当は凄いです!」
「……な、何で……ワタシ、アンタ達の、敵だったのよ? さっきならともかく、こんなところで反発したら、他のやつらに何て言われるか!?」
「元々憎しみあっていたわけでも無いし、互いにルールに則って正々堂々とプレイしあったなら、称賛するのに敵味方は関係無いよ」
「あ、あの人達は女王さんを近くで見てないから分からないんですよ、きっと! もし何か言われたら、間近で見た私が女王さんの凄さを説明してもいいですよ!」
「べ、別に気にしてもいないし、頼んでもいないじゃない! そこまでされると逆にこっちが恥ずかしいから良いわよっ! 何でそんなお節介……!」
言葉こそ否定的だが、声は震え、涙目になりかけており、気持ちが揺らいでいるのが見て取れる。
だが、
『おぉいテメェら!! 耳かっぽじって良く聞きやがれぇ!!!』
会場全体に大音量が響き渡り、大和や風鈴、サラを始め、チームメンバーや観客のほぼ全員が耳を塞ぐ事態になる。
見ると飛鳥が運営からマイクをひったくり、ただでさえ圧力のある声を拡大させていたところだった。
『俺達はな! テメェらの小遣いのために強くなってる訳じゃねぇんだよ!! 自分で勝手に賭けて稼ごうがコケようが知ったこっちゃねぇよ!! そもそも真剣勝負の世界に確実を求めるなっ!! 今まで楽して甘い蜜を吸ってたのが一回負けてただけでその態度かよ!? 戦場で成り上がる気概もねぇ奴に戦場に立つ奴を貶す資格なんざねぇんだよ!!』
飛鳥の言い方は乱暴ではあったが、彼もまたサラの擁護のために声を荒らげていた。
しかし、それが観客の反感を買う。
「何だその態度は!? お前らがサバゲーやれるのは俺達が税金払ってるから国が援助出来てるんだぞ!!」
『国民の義務の税金だってんならテメェらだけで賄ってる訳でもねぇだろが!! 偉そうに言ってんじゃねぇよ!!』
「お前達が有名になっても応援しに来てやらないからな!?」
『上等だコラァ!! 欲まみれなテメェらの応援なんざこっちから願い下げなんだよタコッ!!』
「目付き悪くてこんな生意気じゃ、友達いなさそうだよな~?」
『だぁれが飛鳥ボッチだコラァ!!!』
最後のはもはや被害妄想に近かったが、これで会場の空気はサラに対するものから飛鳥に対するものへとシフト。
しかもより過激に、罵声どころか空き缶やゴミを投げつけられる事態になり、運営も物を投げないようにという対応やら何やらで忙しくなり、サラが負けたという事に頓着する者は激減した。
「な、何なの? あれ……」
観客を敵に回しても強気で喚く飛鳥を、サラはポカンと呆けて眺めていた。
「ハハハ……つくづく、色々な意味で手厳しい人だな、忍足先輩」
「手厳しいっていうか、あんなの変人レベルじゃない……」
「強気過ぎる部分があるのは確かだけど、あの人は根が純粋で真面目なんだ。こうして怒ったりしてるのも、君に対する不当な評価が原因だからね。それだけは分かってあげて欲しい」
「うっ……!! だ、だから誰もそんな事頼んで無いって、い、言ってるのに……! なんでこんな……ア、アンタ達のチームってそうお人好しばかり……」
幾分の苦味も混ぜながらも笑顔で飛鳥をフォローする大和の顔が眩しかったか、まともに見られなかったサラはまた顔を赤くさせながらそっぽを向いてしまうが、その先には何故かプルプル体を震わせながら
「……って、アンタはアンタで何してるのよ?」
「い、いえ……お、忍足先輩の、大きな声を聞くと……トレーニングの時の、鬼のような厳しさを思い出して……恐怖が……」
「忍足先輩は千瞳さんの実力も評価していて、千瞳さんが力をもっと活かせられるように、体を絞らせるためのハードなトレーニングメニューを組んでくれたんだ。指導の時もあんな感じで、運動経験が無くて慣れない千瞳さんには、期待の分だけ当たりも強くてね……」
「あ~……確かにアンタの体型じゃ、もっと絞った方が良いわね……特に、上半身辺り!」
「ううっ……これでも痩せてきた方で、初めの頃より2キロ位は痩せて、お腹回りとかもスッキリしてきたんですよ?」
「ハァ!? 2キロ程度!? しかも痩せてきたとか言いながらその体型!? どんだけ甘ったるい認識と体型してるのよ!? 今や競技として普及するまでになったサバゲーで国の代表に選ばれるのだって大変な事だし、ましてやその頂点目指すとなったら並大抵の努力じゃどうにもならないわよ! もっとスポーティーな体にしないと、いくらEXS使えても宝の持ち腐れで終わ……」
まるで飛鳥の意思に賛同するような説教をグチグチと風鈴に浴びせようとしたところで、サラはハッとなる。
「……ごめん……負けたワタシが、偉そうに語れる立場じゃないわよね……」
謝罪して顔を背け、それ以降は帰る間際になるまでサラが何かを語るような事も無かった。
※ ※ ※ ※
飛鳥が観客に食ってかかるという事態が運営の努力でようやく終結し、観客達は賭けの精算を終えてぞろぞろと帰宅に流れ、どこかドヤ顔でメンバーの元に戻ってきた飛鳥は角華に頭からひっぱたかれていた。
「……ってぇ~な、角華! 何しやがるんだよ!」
「何してるのかはこっちが聞きたいわよ、飛鳥! どうして毎回無駄に争いが起こる言い方しか出来ないのよ!? それに、一応観客なのよ!?」
「観客だろうがマナー求めて悪いか! 角華はあんな風に人を貶すような文句に納得出来んのかよ!?」
「そ、そりゃあ納得は出来ないけど、言い方とか反応が過剰なのよ、飛鳥の場合は!」
という、タクティクス・バレットではお馴染みな上級生コンビの言い争いが発生し、その様子を双子が撮影している。
「試合に勝った上に、さっきのマイクパフォーマンス騒動というボッチ先輩のブラックヒストリーが、また1つ追加されたにょ! むふふっ!」
「初期設定50GBの容量の大半が、ボッチ先輩とヒメスミ先輩関連の映像で埋まってきて、もうすぐいっぱいになるから追加してくるにょ~!」
「……キルギラちゃん、面白がり過ぎよ。また怒られるだろうからほどほどにね?」
香子の呆れと諦めの混じる顔も、それを他のメンバーが見守るのも、お馴染みになってきた。
一方、大和、風鈴、玉守に関しては女王&兵隊のリーダー組であるサラと仏田の2人と最後の別れの挨拶を交わそうとしていた。
「あらあら……ごめんなさいね、本来ならこちらが責められるだけで済んでいたはずなのに、大きな騒動になった上にあんな仲違いまでさせてしまって……」
「あの2人は気にしないでくれ、いつもあんな感じさ。それに、今回は飛鳥が悪目立ちしてしまったが、相手チームだろうと一生懸命戦っているプレイヤーを貶されて快く思えないのは皆同じなんだ」
「忍足先輩と言い争っている姫野宮先輩も、忍足先輩と比べて慎重で落ち着いた人なだけで、本当は観客に対して言いたい事はあったはずです」
「ありがとうございます。同じチーム員という事もあり、サラちゃんが観客の皆さんに対して反論出来ないのに、私達まで声を荒らげては騒ぎが悪い方向に大きくなってしまうと思い、フォローしてあげられませんでした」
仏田が申し訳なさそうに頭を下げると、剃り上げた頭が日の光を綺麗に反射する。
サラはまだ、無言のままだった。
「それじゃあ、今日のところは失礼しますね。では皆さん、引き上げますよ」
仏田がメンバーに帰る指示を出し、各自の荷物を持たせる。
見送るタクティクス・バレットのメンバー。
その最中に玉守は、サラがタクティクス・バレットのメンバーをチラッと見てきたのが気になった。
どこか寂しげな感じの目……それは、試合中に対峙した玉守が感じたサラの印象と同じだった事を思い出す。
「……ああ、そうだ! ちょっと待ってくれ!」
帰ろうとしていた女王&兵隊のメンバーを、玉守が呼び止める。
「はい? まだ何かありましたか?」
「実は試合中、女王が誰か探しているというのを聞いたんだ。だから、詳しく聞ければこちらでもネットワークを通じて調べてあげられると思ったんだ」
「うぐぅ……!! そ、それはもういいって……!!」
サラの顔に、しまったという焦りの思いが表れ、慌てて止めようとしたのだが、
「あらあら! サラちゃん、きちんと相談したんですね、玉守部長に!」
時すでに遅く、仏田が笑顔を輝かせる。
「そうなんですよ~! サラちゃん、日本に来たのはその人を探すために来日したみたい……」
「ち、ちょっと仏田待ちなさい!! ストップストップ!!」
話題を膨らませようとした仏田を強引に断ち切り、仏田を会話の距離の範囲から離し、周囲に聞こえないよう小言で話す。
「(もうっ!! やめてよ、これ以上恥を晒すのは!!)」
「(何を言ってるんですか、サラちゃん。人探しを恥だなんておかしな話じゃないですか? せっかくのご厚意で向こうから歩み寄ってくれてると言うのに、そんな事言ってるからいつまでたっても見つけられないんですよ?)」
「(ワ、ワタシにとっては恥ずかしいのよ! じ、女王と呼ばれて無敗を誇っていたワタシが特定の……そ、それも男子を探してるなんて知られたらプライドが……!!)」
「(その無敗の女王様は今日初めての敗北を喫したんですよね? なら、探し人聞くのも別に大したことじゃないですよね? 男子探して恥ずかしいというなら、ただの恩人と言葉を濁せば聞きやすいでしょう。普通の女王様になったならプライドなんて捨てて、聞きたい事は素直に聞いて下さいな。ほら、行きますよ?)」
「(ま、待ちなさいよ!! ま、まだ心の準備がっ……!!)」
女王というより、既に普通の少女という感じにアワアワとしてしまうサラの背中を押して、仏田は再び玉守達の前に戻る。
「ごめんなさいね~玉守部長! 人の情報のやり取りなだけなのに、サラちゃんってば急に奥手になっちゃって!」
「いや、無理に聞くつもりもなかったが……」
「いいんですよ、こうでもしないとなかなか話してくれなそうですから。さあ、サラちゃん! まずはサラちゃんが覚えてるその人の情報を話して下さいな? そうすれば皆さん、きっと協力してくれるはずですよ!」
「どうしたよ。協力って聞こえたが、何かあったのか?」
そうこうしている間に、他のメンバーも続々と集まってくる。
「ああ、女王が人を探していると聞いたんでな。わざわざそのために日本に来てくれたそうで、出来るなら一緒に探してあげたいと思ってな」
「人? へぇ~そのために来るだなんて、いい根性してんな! さすが女王ってとこか! それなら任せな! 俺も協力してやるよ!」
「あのね~……部員以外の交友関係が薄いんだから、飛鳥だけで勝手に安請け合いしないでよ。でも、困ってる人を放っておけないのは分かるから、私も探してあげる! 皆はどう?」
「「「「「「賛成~!」」」」」」
タクティクス・バレットメンバーも全員、ノリが明るく協力的だった。
「ア、アンタ達……ワタシのために、どうして……」
「ほら、言ったでしょう? 皆さん、きっと協力してくれるはずって。だからサラちゃんも、他の人をもっと信用しても良いと思いますよ?」
親切に接してくれる相手メンバーに、サラは目頭が熱くなるのを照れ隠すため、またそっぽを向いてしまう。
仏田から優しく促され、
「……そ、そこまで言うなら、仕方ないわね! 教えてあげるわよ……! 今まで、誰にも話した事ないけど……ワ、ワタシに勝ったアンタ達にだけ、特別なんだからね!!」
素直ではないものの、サラはメンバーと正面から向き合い、自分を晒す決意をした。
その場の全員が見守る中、どう話すか考えるように一度深呼吸で落ち着かせ、
「……彼と会ったのは、ワタシが幼い頃……ワタシのEXS『絶対領域』が、ただの病気扱いをされて病院を転々とさせられてた時の事よ……」
サラは、自分の過去を語り始めた……
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