女王の能力の秘密。勝機は、存在するか?
水城姉弟を撃破したサラは、2人が退場していくのを見送ってから、再び動き出していた。
最初のように目的を持って動いているのではなく、今はでたらめに色々な方向に進んでいる。
(……顔とか似てたあの2人は、姉と弟よね? 弟しか狙ってきてないから姉の方は分からないけど……弟の方も、実力は悪くない。経験を積めば、見込みはある……)
自らを狙う歩の反応に対する評価は、サラとしては上々な認識だったようだ。
そして、今度は香子の評価……なのだが、
(……ふん!! 上手く隠れていたみたいだけど大したことないわよね、あ~んな重ったるい体してる女なんて! 特に胸っ!! 何なのよ、あの下品でデカいだけの重量物! あんなのがあったら身軽に動けなくてまともに戦える訳ないじゃない! 戦場に脂肪の塊は要らないっての! あんなだからワタシを狙うのにコソコソしながらじゃないとダメなのよ! 弟とかあの灰色頭とかのがよっぽどワタシ好みな戦い方してくれてたわね!!)
などと、香子には辛口な認識。
特定の一部分に関しての風当たりが特に強く、香子の姿を思い出しては苛立ちが募る一方だった。
サラはふと、自分のその一部分を見るために走りを止めて視線を下げると、そこよりも足元の地面が広く見れてとても見晴らしが良かった。
障害物が何もないから視界が開けていると言えるだろうか。
絶壁にして絶景な自身の平原を再確認し、サラは顔の表情がピクピクとひくつかせている。
(……そうよ……邪魔でしかないのよ、あんなものは……だから、羨ましくなんか、ないわよ……! 羨ましくなんかぁぁ!!)
今度は歯をギリギリと噛みしめ悔しがり、若干涙目にすらなりかけてもいた。
情緒不安定にコロコロと表情を変え続けて数十秒。
た~っぷりとため息をついて気持ちと表情を落ち着け、今は香子を思い出さないという事で最終決定とした。
(……さて、次の獲物は、と…………あら? 制限時間が表示されてる? 両チームの人数合計が半分を切らないと出ないのに……今回は人数が近いから、ワタシが撃破してるだけじゃ時間は表示されないはず……という事は、仏田達の中の何人か減らされた?)
気持ちを切り換えてゴーグルの表示にも目を向けたサラはその事実に気が付き、ゴーグルを操作してチームの撃破状況を引き出して、現状を知る。
(……なっ!? 仏田達のユニット、ほぼ全滅じゃない!? 何をやってるのよ、もうっ!! って、言うほど単純なものじゃないわね、これは……! 仏田の守りが破られるなんて、今までなかったはずなのに……!)
多少動揺しかけるものの、サラはすぐに持ち直す。
タクティクス・バレット側のチーム編成が2~3人のユニットをいくつかに分けた形で組まれているというのは、サラも察している。
仏田達を全滅させたのもそうした2~3人ユニットの内の1つという事になる。
何だかんだ言いながら、同じチームとして仏田の防衛力の高さはサラも評価していた。
だからこその異常事態……押し切れるほど人数がいないはずのチーム相手に仏田達が崩されるとは思ってなかった。
だが熟考に持ち込む暇もなく、追い討ちをかけるように降り注がれるBB弾。
隙を突かれたように見えたが、サラは当然のように躱す。
「おお~! 今のも当たらないとはさすが女王様だにょ!」
「やっぱり間近で見ると迫力があるにょ~!」
似た声2つの主は、サラの前方から銃口を向けている。
タクティクス・バレットの双子、金瑠と銀羅がエリア5の広場で待ち構えていた。
「へえ~いい度胸してるわね? まさかそっちから勝手に出て来てくれるとは思わなかったわ!」
「むふふっ! キルちゃん達は生粋の目立ちたがりだにょ!」
「人気のある女王様のおかげで、ギラちゃん達もたくさんの人に見られてるにょ~!」
左右対称の動きで器用に決めポーズを取って、可愛らしく周囲にアピール。
カメラが捉えている事もきちんと認識している様子。
「あらそう。ワタシのおかげというなら、さっさと散ってくれるとありがたいわ。こっちは少し急がなきゃならなくなったからね」
「そうはいかないにょ! 結果も出せてこその派手演出だにょ!」
「後には引けない背水の陣……姿を見せるからこその覚悟と知ってもらうにょ~!」
言葉こそ迫力には欠けるが、サラに照準をきっちり合わせてからの2人は至って真剣な面持ち。
風鈴が練習の時に見た、真面目に取り組んでいる姿と同じだった。
2人は同じ愛銃、MC51を金瑠は右手、銀羅は左手と、スイッチングしてるように構える。
MC51はドイツの銃製造メーカー、 H《ヘッケラー》& K《コッホ》社が開発したG3シリーズをベースに、イギリスのイギリスのF.R.オーディナンス・インターナショナル社が開発したサブマシンガン。
コンパクトなサイズながらアサルトライフルと同等の実射性能と言われるこの銃をモデルとしたエアガンをチョイスしたこの双子は、強さとは外見で決まるのではないと主張したかったのかもしれない。
気迫伴う金瑠と銀羅に呼応するように、サラもダミーナイフを構える。
だが、目の前の双子だけに意識を囚われている訳でもなかった。
(……ワタシがナイフだけのプレイヤーと知っていたとしても、ここまであからさまに自身を押し出すのは、あまりにも不自然……一見して、確かに目立ちたがりみたいに見えるけど、恐らくはこれも陽動……さっきの撃破人数と、仏田達を崩した人員の予測人数とで照らし合わせれば、後1人くらいは別にいる可能性がある……!)
サラの予想は正しく、金瑠と銀羅がサラを引き付けている間に、同じユニットメンバーの角華がサラの来た道の横から回り込み、真後ろから死角を狙おうとしていた。
角華もサラの背中に銃口を向けている。
玉守から既に連絡を受けており、あわよくば合流して人員を増やしてから狙う手筈にはなっていたが、サラの方が先にエリア5に到着していた。
戦力優先のため、わざとサラを通過させてしまうことも可能であり、選択はユニットリーダーの角華に委ねられていた。
ここでの角華の選択は、攻めであった。
(ターゲットAの背後を取れた! ここまで狙いやすい理想的な状況、そうはないわ……なら、動かれる前に片を付ける! さあキルギラちゃん、そのまま撃っても良いわよ……! 私なら、いつでも大丈夫だから!)
射撃による音で後方からの気配を気取られないよう、双子の射撃に合わせての挟み撃ち攻撃。
「いざ!」
「尋常に!」
「「勝負っ!!」」
掛け声終えての、双子同時発射。
そして角華も合わせ撃ち。
音も重なり、完璧なコンビネーション。
(これで決まるはず! 相手が、類い稀な動体視力を能力に持っていたとしてもっ!!)
(……なんて、どうせ思ってるんでしょうね。ワタシの能力について何も知らないで、死角から撃てば勝てる気でいるなんて……浅はか過ぎる!)
双子の左右対称アタックを目の当たりにしながら、まるで角華の思考を読み取るように、勝ちを確信したように口の端を釣り上げるサラ。
(そんな単純な能力でっ! 今日まで勝ち抜いて来れるはずないでしょうがっ!!)
絶対的な自信からくる強い思い……その根拠は、既にサラの周囲に存在していた。
サラを中心に自身を取り囲む
サラが無敗記録を更新し続けられる要因……今までタクティクス・バレットのメンバーが動体視力と誤認していたサラの能力の本当の正体は、知覚ゾーンを周囲に展開させるというもので、一見してバリアーのようにも見えるが、他の誰にも見えずにサラだけが可視化して見えるそれは今までのサラの動きからも分かるように回避のためにある。
物体に触れた時、それが何であるかを瞬時に知覚、認識する事が出来るというのが基本特性で、それに加えて接近速度が速い物体、つまり自身に向けられたエアガンの弾などが触れると自動で脳内の電気信号による処理能力が引き上げられ、反射という形で対処が可能になる。
そのため、サラの体感的にはBB弾がとても遅く感じており、回避が容易となるのである。
(前方からの弾を知覚! このまま進んで……)
双子の連射を前に受け、躱して駆け出そうとしたその途中、後ろからの弾もゾーンに接触。
(……! 真後ろからも知覚! やっぱりねぇ!!)
サラは即座に横に避けて軌道から抜けながら、後ろを振り返る。
ゆっくりした弾の動きを認識しながら、その先にいる角華を目視確認。
サラは十分な時間感覚の余裕を以て、乱れ飛ぶBB弾を掻い潜り、角華に接近。
この状態のサラにとってはゆったりした時の流れに感じているが、外部の人間からは凄まじい速度で動いているように見えている。
(そんな!! 私の弾を……躱してこっちに来る!?)
角華も応戦するが、サラは回避を繰り返しながら尚も駆け抜ける。
「ヒメスミ先輩を援護するにょ!」
「後ろからの同時攻撃はどうだにょ~!」
やはり言葉自体は緊張感が感じられないが、本人達は至って真面目。
角華に向かって反転した事での、普通なら容赦無く思える背後からの並行連射だが、サラのゾーンに触れて知覚され、これも回避される。
「「避けられた!?」」
(当然よ! ワタシを誰だと思ってるの! 雷閃の女王と呼ばれるサラ・ランダルタイラーよ! こんな程度、当たる訳無いわよぉぉ!!)
舞うように華麗に躱し続けた末、サラのゾーンが角華にまで触れる。
その者の運命を無慈悲に切り裂く必殺の間合い……!
「はあぁぁぁ!!」
角華を完全に射程に捉えたサラが、ナイフの軌跡を描いて角華の胴を通過させる。
「うっ……!!」
反応など出来るはずもなく、角華のベストも染まる。
「「ヒメスミ先輩っ!!」」
叫ぶ双子だが、
「ふん! 他人の心配してる場合じゃないでしょ! 今度は、アンタ達の番だからね!」
角華を抜き去った後、慣性の勢いを強引に踏み留め、すぐさま反対の双子に向かっていく。
「銀羅っ! ヒメスミ先輩の犠牲を無駄にしないためにも!」
「うん! 今度こそ、2人のコンビネーションで倒すよ、金瑠っ!」
2人は全く同じように左右の後ろに下がって、サラに対して距離を取る。
双子ならではのシンクロが可能なこの2人は、お互いにどう相手を狙おうとしているかが手に取るように分かる。
1つのターゲットを狙うにしても、同じところにならないように、打ち合わせる必要も無く撃ち合える。
今回もエリア5の広さを利用して、左右からサラを討ち取るために見事なコンビネーションを披露するのだが、サラは問題にも感じないとばかりに弾を回避しながら突っ込んでいく。
双子を狙うサラの最初のターゲットは銀羅。
別に意味があって決めた訳でも無く、無作為に選んだに過ぎない。
迫るサラに何とか当てようとしているが、サラのゾーンは半球型で全方位に展開されているため、正面に捉える銀羅は元より、サラの移動に合わせて横から後ろからと狙っているはずの金瑠の連射すら避けている。
「な、何で……!?」
「当たらない……!?」
どんどんサラが接近して来る事に、普段から底抜けに気持ちが明るい2人ですら、焦りが出てくる。
そして、銀羅もまた、サラのゾーンに囚われ、
「ふんっ!」
すれ違い様に斬りつけられる。
「ああっ!!」
ナイフを受けたのが横からだった銀羅はベストを赤く染めながら反対の横に倒れる。
「銀羅ぁ!!」
叫ぶ金瑠、銀羅の仇とばかりに撃ち続けるが、サラもまた止まらずに金瑠に突撃。
(ワタシには、多対一という感覚は無い……例えどれだけ相手がいたとしても、避け続けて1人ずつ始末する! 相手の人数分で一対一を繰り返す! このワタシのゾーンがある限り、ワタシに弾は当たらない!!)
金瑠1人での射撃では、もはやサラは止められない……
(これがワタシの絶対的EXS! 『
サラのゾーンが金瑠に届く距離まで、あと僅か。
(や、やられる……!!)
金瑠は本能的に体を強ばらせて、ナイフの衝撃という危機に備えて目をギュッと閉じる。
引き金を引く余裕も無いままに、とうとう金瑠もゾーンに捉えられた……
(………………あれ?)
金瑠は目を閉じながら、疑問符が浮かぶ。
想定していたタイミングに、ナイフの一撃が来なかったためだ。
金瑠は恐る恐る、目を開ける。
もしかしたら、誰かが助けてくれて、サラを退けてくれたのではという期待もちょっとだけ込めていた。
だが、金瑠が見たのは奇妙な状況だった。
目の前にはサラがいた、というのは仕方ない。
そのサラは何故か顔をひきつらせて、ナイフを振り抜く姿勢のまま動きを止めていた。
別に気になる事があったからか、どこか躊躇しているように見られるが、見ようによっては隙ありと見えるこの状況も理解不能が過ぎるため、さすがの金瑠も動きが取れなかった。
10秒には満たないものの、まるで時が止まったように固まる2人。
「……こ……こっ……! こんのぉぉぉ!!!」
先に動き出したのはサラ。
どこか恨みがましそうに顔を歪めてる事を除けば、先ほどと何も変わらないナイフの一閃を、金瑠にきっちりお見舞いする。
「わああっ!!?」
金瑠の方も、いまいち状況が飲み込めない疑問を顔に含みながらヒットと倒れる。
一時停止から再生をしたような流れに、金瑠だけでなく銀羅や角華も首を傾げていた。
観戦エリアでも、見ている観客が同じようにしていた事だろう。
サラは余韻に浸ることなく、そのまま金瑠に背中を向ける。
(……むうう~。今の間は一体何だったのかにょ?)
サラの背を不審そうに眺めていた金瑠だったが、結局負けは負けなので何も返せず、顔を見合わせた角華と銀羅共々に退場していった。
その場に残ったのは、勝者のサラ1人。
(……ま、まあ……今回も、悪くはなかったわよ……ワタシの能力知らないから、死角から狙ってくるっていうのも分かるし、コンビネーション含めて、練度が高いのは認めるわよ…………だ……だけど……だけど!)
サラの脳裏によぎったのは、今しがた撃破した金瑠の事。
あの時動けなくなったのは、金瑠が原因だった。
素晴らしく高性能なサラの「絶対領域」ではあるが、その性質故に弊害も存在した。
まず、ゾーンに捉えた様々なものを知覚出来る性質を持ってはいるが、全てを知覚し過ぎないようにサラ自身がセーブしなければならなかった。
何故なら、全てを知覚してしまうというのは、例えば一般人なら地面の小さな砂利の1つ1つ、壁の色や状態といったとてつもなく細かいものまで認識しながら生活していくのと同じ。
普通に考えてそんな事は面倒過ぎるだろう。
加えて、物質透過の性質も併せ持っており、厚みのある金属でなければフィールドの壁やプレイヤーの衣服までも透過して知覚出来る。
壁に軌道を隠して飛鳥が放った「置き」や、罠のように壁に隠れて待ち構えていた香子を看破したのも、この透過によるもの。
ほとんどの局面において、この性質はサラに優位に働く。
だが今回に限り、例外が起きた。
金瑠をゾーンに捉えた事で、
(……あ、あの染めた金髪……! アイツ……! お、お……男じゃないのぉぉ!!!)
サラは知ってしまったのだった、金瑠が男だという事実を……
衣服も透かせられるサラにとっては、相手の手持ちの武器といった戦力を暴くなどもお手のもの。
性別判定も丸裸同然に知覚可能で、同性なら全く問題無く(ただし、胸の大きな相手の場合は腹立たしさを覚えるが……)、異性であってもそれと分かっていれば意識をせず戦力と行動予測という最低限の知覚のみで済む。
下手に意識しないようにするため、サラは常に予測も取り入れて「絶対領域」を展開していた。
自分が狙われる事は日常茶飯事という思いから、どの方向から狙われても動じなくはなった。
だが、自身の予測の範疇を超えるものは、対応が難しくなってしまう。
見えない触覚で素肌に触れるように正確な知覚が可能、と言えば多少マシな言い方になるが、サラからしたら男の全裸を手探りで認識するようなものだ。
性別判定も含めたら、股間のアレの確認にも繋がる……
双子を見た初見が色違いの女子という勘違いのせいで、金瑠の性別を看破出来てしまった代償が、サラに襲いかかる。
(うあぁぁ……!! も、もおぉぉぉ!! な、何であんな女子みたいな見た目なのよアイツはっ!! お、男なら男らしい格好というか見た目しときなさいってのよぉぉ!!)
女王と呼ばれて畏怖されるサラだが、実態は異性と近しくいる事にあまり免疫が無い年相応の女子高生。
常に一緒にいる仏田は性格や口調がアレなので気にも留めていなかったが、金瑠を思い出しては、顔が茹でたように真っ赤になってしまっていた。
※ ※ ※ ※
ユニット3をサラが全滅に追い込んだ一連の状況を、玉守と大和も外側から眺めていた。
「……角華君達までも、撃破されてしまったか……」
「そうですね……ですが、これではっきりしました。やはり、女王の能力は視力によるものでは無いですね。まだ正確ではないですが、恐らくは限定された範囲に入った物を認識して対応出来る類いの能力だと思います。姫野宮先輩に狙われて弾が至近距離まで迫った時に反応しただけでなく、女王の速度が急激に上がったのを確認しました」
「それが、大和君が気付いたという女王のEXSの性質なのか……いつ気付いたのかな?」
「違和感は試合の前から感じてましたが、気付いたのはついさっきです。今は時間が無いので詳しい解説はこの公式戦の後で話します」
「……分かった。だが、状況は絶望的という他は無いな……」
また相手を探しにサラが別方向に立ち去ったのを見送り、玉守はため息をつく。
落ち着いているように見えるが、多少なりとも戦線を共にした付き合いから、大和には気落ちしてるようにも見えた。
「そうですね……せめて、女王のEXSの範囲が特定出来ていれば……姫野宮先輩達の時は隠れながらで見ていたので、はっきり見えなかったですし……いえ、それでも狙える確率は恐らく2~3割が良いところ……人数も少ないですし、実際にはほぼ運頼みの選択肢でしか女王の撃破を実現する事は無理ですね……」
「…………ちょっと待ってくれ、大和君。今、君は運頼みと言ったね? 逆に聞きたい。例え運頼みだろうと、あの女王を撃破する流れに持ち込む事は可能なのか!?」
玉守は、今度は気落ちから驚きに表情をシフトしていた。
「俺は、あの実力を見て、運も何も通じない相手だと不覚にも思ってしまった……だが、大和君は運が良ければ僅かでも撃破出来る可能性があると言うのか!?」
「女王のEXS性能が自分の想定通りだとして、可能性だけなら何とかなるとは思いますが……どちらにしろ、あの女王はただ実力や人数が揃えば狙えるものでもなく、相当の運が必要になります。狙いどころや相手の思考など、色々な要素がありまして……」
「それでも……まだ、勝利を狙えるんだな? 今からでも間に合うのか?」
「出来れば、狙うのに3人……いえ、2人が最後のラインです。最悪、千瞳さんか玉守部長のどちらかと組めれば……ただ、さっきも言いましたが、範囲がどれくらいかを知らない事には……」
「ならば、俺が範囲の距離を測るために動こう! それを見れば、大和君は風鈴君と連携して女王撃破が可能になるかもしれないんだろう?」
「た、確かにそうですが、しかし……!」
食い下がろうとした大和の肩に、玉守は手を置く。
「風鈴君を逃がせれば、ギリギリで引き分けにはなるかもしれないし、俺達も女王撃破を諦めれば、チーム自体の勝利にはなるかもしれない。だが、それでは女王に完全に勝利したとは言えない……だから、諦めるのは最終の決断だ。そうだろう?」
「はい……」
「女王も含めた勝利は、完全撃破しきってこそだ。単純に勝率を上げる事だけに満足はしないでいきたい。飛鳥や角華君、それに他の皆も同じ事を言うはずだ。大和君が僅かでも可能性があるというなら、それに賭けようと思っている。だから、教えてくれないか? どう狙うべきかを……」
玉守の熱い語りに合わせるかのように、
『あ~……! あ、えっと、これで良いのかな? こ、こちら、せ、千瞳です! 何とか隠れてる1人を無事ヒットしました!』
風鈴からの連絡が来た。
「これで、大和君がいうところのギリギリ狙えるラインに届いた。どうかな? 例えこれで敗北したとしても、君を恨む事はしない。勝つための努力をしたなら、俺達は皆、悔いは無いさ」
大和も本当は最後まで狙いたいと思っていたが、チームのために勝率だけ優先にすべきかも迷っていた。
だが、チームのリーダーからの許可が出た。
大和は玉守からの言葉で気持ちが前向きになった。
「ありがとうございます! では、説明しますが、その前に千瞳さんに女王の居場所を確認して、それから狙う場所を決めましょう!」
「分かった。頼むよ」
玉守の頷きを確認してから、
「こちら、ユニット1の大和。千瞳さん、まずは女王がどこにいるか教えて欲しい。そして、今から千瞳さんにも作戦を説明するから、良く聞いて欲しい……」
大和は無線でやり取りをしている風鈴と、その内容を横で聞く玉守にも伝えていく。
『分かりました! その場所で待ってます!』
「こちらも了解した。では、始めるとしようか、大和君」
「はい、行きましょう! 女王討伐のための、ラストミッションをっ!」
大和と玉守は、か細いながらも勝利に繋がる可能性を信じ、女王のいる場所に向かってフィールドを駆け抜けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます