誤算の連続……敵を削り合う才能と、抗う意地
サラが飛鳥達、ユニット1を撃破した直後の事……
自らが斬り抜いて退場させた飛鳥の背中を見てすぐに離れたサラだったが、勝ちを喜ぶ顔でもなかった。
(……ワタシの勝ちは、当然…………でも……相手の動きというか、連携……そしてあの睨み男も、ワタシの動きを完璧に捉えてはいないにせよ、反応は悪くなかった……)
通常の殲滅戦として相手チームをどんどん消していくという、サラにとっては、いつも通りの内容のはずだった。
しかし、サラは違和感を覚えてもいた。
(……何なの? 何か分からないけど、今日の試合は…………胸の奥が、苦しい……何故?)
今のサラに、その感情が何かという答えは見つけられない。
モヤモヤしたものを振り切るように頭を振りながら、次なる獲物を求め、しばらくは何も考えずに自分の直感を頼りにして迷路のように入りくんだ通路を、ひたすら走り続けるサラ。
気持ちを上げていくために誰かを相手にしたかったところだが、なかなか次のプレイヤーと遭遇しない。
(……全然会わないわね。やっぱり人数少ないチームとの対決は遭遇率が普通よりも低いから嫌になるわ……仕方ない、一度仏田達のところに戻ってみてもいいかしらね?)
駆ける足を止め、サラは自陣方向の道を見つめる。
桂吾がわざわざ出てきた事を罠への誘導と同時に仏田ユニットに誰かが向かったとも見抜いていた。
このまま行けば、その誰かを狩れるのではという思いで足を向けようとした、まさにその時……後方からの突如の射撃音がサラに回避行動を取らせる。
撃ってきたのは、1年の歩。
少し緊張気味ではあるが、サラをしっかりと見据えている。
「ふん、散々動き回ってやっと次の獲物が見つかったわ! 何だか小動物みたいな雰囲気だけど、アンタはワタシを楽しませてくれるんでしょうねっ!!」
言い終えると同時に歩に突撃するサラ。
それを確認した歩は、逆方向に逃げるように走り出す。
(何よ、コイツも誘導? 良いわよ、退屈してたところだったし、こうなったらとことんやってやろうじゃない! どれだけ策を労しても、ワタシには通じないという事を思い知らせてあげるわ!)
ようやく気持ちが切り替わったサラは、自信に満ちた不敵な笑みを浮かべながら、歩を追いかける。
※ ※ ※ ※
「はぁ! はぁ! はぁ!」
息を切らせながら全力で走る歩。
そしてとある通路の奥の方で振り返り、少し離れた後方から追いかけてくるサラに向けて再び撃ち出す。
1年にして飛鳥に見込まれるだけあり、狙う姿はなかなか様になっている。
走ったせいで撃ち始めこそ多少肩が揺れてはいたが、撃ちながら息を整え、今は落ち着いて狙いを定めている。
常人の中では才能がある方なのだろうが、今回は相手が悪すぎた。
目の前で撃たれていながら避け続けて近付いて来られるなど、歩にとっても初めての経験。
(……す、凄い! 狙ってるのに当たる気がしない……けど、それも計算の内!)
内心、その回避性能に舌を巻く歩だったが、迫ってきている以上は感心してばかりもいられなかっただろう。
だが、歩はまだ焦っていなかった。
歩はサラに撃ち続けながら、悟られないように目の端に一瞬だけ意識を向ける。
(……だよね、姉さん!)
(もちろんよ、歩君!)
テレパシーでもないのだろうが、そこにいた香子は歩の声を聞いた気がして頷く。
今、水城姉弟のユニット4はいくつか通路が存在する広場のようなところにいた。
歩のいる広場の奥にサラが駆け抜けようとしている通路と平行している通路、その壁にしゃがんで隠れていた。
見つけた相手に向かっていくというサラの攻め方の傾向を事前に確認した2人は、狙い所にこの場所を選択。
歩からは香子が見えるが、サラの方向からは通路の壁があって香子が見えないという位置。
引き付け役の歩を撃破するため、サラがそのまま出口を飛び出したなら、そこから出て逆に後ろからサラを狙って挟み撃つ算段。
もちろん、香子からもサラの動きが見えておらず、通路出口を飛び出したサラがようやく見える状態だが、歩が上手く引き付けてくれるという信頼で、香子は息を殺してジッと待つ。
(もうすぐ姉さんが後ろから狙える位置に、あの人が来る! あれだけ速かったら、最悪僕はヒット受けてしまうかもしれないけど、姉さんが狙うための囮にはなれる! あと少し……通路を抜ければ……!!)
今も歩は撃ち続けるが、余裕で弾を避けて近付くサラ。
そして、それを罠として待機する香子との距離も近付く。
いよいよ引き付けきれると確信した歩だが、サラの取った次の行動を見た瞬間、背筋が凍る。
(……な、何で……!?)
そう思うのも、無理はない。
何故なら、サラが通路を抜ける前に止まったのだ。
いや、厳密には駆け抜けるのを止めただけで回避は止めてないのだが、あろうことか余所見すらしていた。
射撃をしている人間を目の前にして、顔を別方向に向けるなどあり得ないだろう。
だが、歩を戦慄させているのは、
(……何で……壁の向こうの、姉さんの方を見ているんだ!?)
余所見の方向が隠れている香子の方だった、という事。
香子がいる場所はサラのところからだと壁に隠れて見えていないはずで、普通に考えたら不自然。
そしてサラが、直進から急に道を変えた時、歩は咄嗟に無線を起動。
直接叫んでも、きちんと聞き取れないと歩は判断。
『ね、姉さん!! 後ろぉぉ!!!』
「ひゃあ!? な、何!?」
「見~つけた、っていうのよね? こういう時は……」
後ろからの声掛けに、香子は歩に聞き返すために無線を起動したタイミングで、歩と同じく凍りつく。
ぎこちなく振り返ると、嗜虐的な笑みを強く見せるサラがいた。
サラが変えた道は、香子の後ろに回り込むための道だった。
「……そ、そんな、嘘っ!?」
「まあ、そんな事だろうと思ったけどねぇぇ!!」
まだ背中を残して無防備な香子に、無慈悲なナイフの一撃。
「きゃあぁぁぁ!!」
なす術なく、香子は瞬く間に振るわれる一閃にて沈黙。
「……そんな……姉さんの方が、先に狙われるなんて……!」
「ふん。多方向からの攻撃だなんて、ワタシは特に問題とはしない。でも、距離が遠いと一々始末するのも面倒。だから通りすがりに至近距離で発見したやつから始末するようにしてるのよ」
だんだん絶望感が濃くなる歩に、サラは遠くから淡々と説明する。
「さて……これで邪魔は入らないはずよね? それともまだ伏兵でもいるかしら? いたとしても返り討ちにしてやるだけだけどね!!」
言葉無く座り込む香子を置き去り、サラは再び歩に襲いかかる。
「……ま、まだぁ!!」
歩も気を持ち直して何とか応戦、連射を轟かすもサラの絶対的回避は冴え、被弾に至らぬまま距離だけが詰まっていく。
「はあぁぁぁ!!」
「うわぁぁぁ!!」
単身で果敢に挑むも金星ならず、歩は女王の刃の前に真紅と散る……
※ ※ ※ ※
香子の悲鳴とナンバーが消えてからすぐ後に、歩のナンバーも消えた事を確認した大和と玉守。
「……香子君、歩君、両者の撃破を確認……!」
「くっ……!! まずいですよ、味方がどんどん女王に倒されています! このままでは、女王討伐のための戦力が自分達だけに……」
「仏田達を撃破した今、ここにこれ以上留まる理由は確かに無いな! 残っているのは角華君、金瑠君、銀羅君のユニット3のみ……合流のために連絡をしておこう! 大和君と風鈴君は弾の補充も含めて準備をしておいてくれ!」
「分かりました! 千瞳さん!」
玉守の指示に大和は頷き、風鈴にもその指示を伝えようと呼びにいったが、風鈴はどこか別の方を見ていた。
「……? 千瞳さん!」
「ふえっ!? な、何ですか大和さん!?」
「水城さんと歩君のユニット4が女王に崩された事は、確認してなかったかな!?」
「か、香子ちゃんと歩君がですか!? す、すいません、無線とゴーグル起動してなくて知らなかったです! でも大変ですね!?」
「ああ! だから早くユニット3の姫野宮先輩達と合流して女王撃破の人数を増やさなければならないんだ! 今から急いで準備して欲しい! スナイパーライフルはそれほど弾を使わないけど念のため満タンにすれば無難だ! それから……」
「あ、あのっ……!! ち、ちょっと待って下さい!」
話しながらも作業する大和を風鈴は止め、自分が今まで見ていた方を指差す。
「あの……あそこの奥の方、誰か隠れているんですけど……私達、誰か見逃したりしてるかもです!」
「……何だって!? 見逃しだなんて、そんなはずは……!」
風鈴の驚くべき報告に耳を疑い、大和は作業の手を止めてしまう。
(……いや、待て! 仏田部長まで撃破出来た事でターゲットDの全てを撃破したつもりになっていたが……確かに総数は数えていない!)
大和は急いで、ヒット後の撤退作業を終えて退場間近だった仏田達に振り返り、改めて見直す。
ターゲットDの総数は本来、女王サラを除いて9人。
大和が指差し、きちんと確認しての人数は…………8人。
(……ひ、1人足りない!? それじゃまさか……!!)
数えきった大和は偶然か、仏田と目が合う。
ヒットされた身である仏田は、当然ながら何も言葉を発しなかった。
しかし退場する出口に消え行く間際、大和に向けて一瞬浮かべたような薄い笑みがまるで、
『ふふっ、ようやく気付きましたか』
と言っているように、大和には思えた。
「しまった!! 玉守部長!!」
事の重大さを認識し、慌てて玉守に伝えに行く。
「どうした、大和君? 今、角華君達とは連絡が取れて……」
「やられました! ターゲットDはまだ全てを撃破出来てません!」
「何っ!? どういう事なんだ!?」
「先ほどターゲットDの総数を確認しましたが、1人足りませんでした!」
「バカな! 女王&兵隊が戦術を変えるなどという事は今までなかったはずだが!?」
「恐らく、仏田部長が自身の部隊の全滅を想定して、今回だけ敢えて1人外したのでしょう!」
「人数的にも終局に近付いている現状で、女王以外に1人残すというのはまずいぞ!!」
大和だけでなく玉守まで目に見えて焦り始める理由に、制限時間があった。
公式戦を行うにあたり、人数やフィールド状況などから算出された明確な制限時間を設ける決まりが出来た。
ただ、様々な競技での通常の制限時間のように開始から経過するのと違い、双方のメンバー合計が半分を切った時点から適用される。
それは、片方のチームが少しだけ撃破して時間切れ勝利を狙うといった消極的戦術をさせないようにという事での設定。
今回の規模では10分となり、それが長いか短いかは人によるが、仏田ユニットを崩しておけばサラを撃破出来なくても、風鈴ならEXSを駆使して逃げ切る事は可能という見込みで、最悪でも引き分けに持ち込めるという保険をかけていた。
女王&兵隊を相手に引き分けたともなれば、それでも初の快挙と認識してもらえる事だろうが、1人残っていては人数で敗北が決定してしまう。
「まだ時間はあるが、そこに向かうとしたら時間のロスは厳しいな……!」
「あ、あの……! 私、その人の場所は分かるので1人でも行けます! 玉守部長と大和さんは姫野宮先輩のところに!」
「それしかないか……! よし、大和君、俺達だけでも向かおう!」
「分かりました! 千瞳さん、後で合流しよう! だけど、もし俺達全員がこのまま全滅してしまった時は、もう無理はしないで逃げてくれ!」
「はい! でも急いで向かえるよう努力はします! 女王さんは……エリア8にいるので気を付けて下さい!」
一瞬目を閉じて「俯瞰図」を見た風鈴がサラの居場所を教え、玉守と大和は頷き返す。
「ありがとう、風鈴君! では、一時ユニット解除して、変更した各自の作戦を開始! いくぞ!」
「「了解!!」」
大和と玉守、そして風鈴はそれぞれ別方向に駆け出していった。
※ ※ ※ ※
退場口を出た仏田は、メンバーを引き連れて女王&兵隊側の控え室がある安全地帯の建物へと向かっていた。
「お疲れ~坊さん福隊長~!」
「まあ~後は女王様が頑張ってくれるから大丈夫だろうさ~!」
周囲の観客からの気楽な声援に、仏田はお辞儀と笑顔で応えながら進む。
何となくご利益がありそうという理由で、仏田が「副隊長」でなく「福隊長」などと呼ばれているという余談はさておき……
「皆さん、お疲れ様でした」
建物に入った仏田、開口一番でメンバーに労いの言葉を掛ける。
「少数の相手に一矢報いる事すら叶わずに人員のほとんどを討ち取られた事、隊を預かる者として申し訳なく思います」
剃り上げた頭を深々と下げて謝罪する仏田に、メンバー達の方が逆に恐縮してしまう。
「い、いやいや! 仏田部長は悪くないですよ! むしろいつも俺達に的確に指示を出してくれてるおかげで、何とかなってたようなものですよ!」
「そうそう! 俺達、何かと仏田さんに甘え過ぎてたというか、練習もサボり気味だったというか……」
「大概、うちのクイーンが何とかしちゃうからって思って、最近じゃ頑張るのも事務的になってたよな……」
「小林を別のところにやったのも、相手を苦戦させるって意味では結果的には良い判断だったんじゃないですかね?」
「運とかもありますし、今回は仕方ないですよ、仏田部長!」
「そう言ってもらえると気が楽になります。ですが、相手もかなりの手練れだというのが正直な感想でした。なので、相手の実力あっての結果と素直に認めましょう。その上で、クイーン・サラと小林君の健闘を期待しましょう」
仏田の総評にメンバーは頷き、部屋にあったモニターで観戦を始める。
(……運が悪かったどころの問題ではないですけどね、実際は……)
仏田もモニターを見ながら、静かにため息をつく。
その目は仲間のサラや小林の動向ではなく、相手メンバーの1人、風鈴に向けられていた。
(……私を討ち取ったスナイパーライフルのあの子……私のヒット自体はともかく、その前に前衛の隊員を狙ってこれた正確過ぎる狙撃……あれほどの実力があるのに、どこのチームもノーマークで大した評価が成されていないなんて……いえ、一番の問題は……)
仏田の脳裏に思い出されるのは退場間際に不意に聞き取れた、風鈴が大和に伝えていた情報……
『あの……あそこの奥の方、誰か隠れているんですけど……私達、誰か見逃したりしてるかもです!』
(……私は、小林君に正確な隠れ場所までは指定しませんでしたが、出来るだけ離れて見つかりづらい場所に隠れるように、とは言いました。だから、エリア3からすぐに見えるような場所に隠れるはずがない……それを、あの子は何故すぐに見つけられた!?)
大和には表面上でクールを装っていたが、内心の動揺を抑えるのに仏田は必死だった。
例え大和達の誰かが違和感に気付いたとしても、仏田ユニットの人数の少なさのが先であって、隠れさせた隊員から先に見つけたのでは順序が逆だった。
直接狙撃をしてきた相手……とても大人しそうで、外面上全くといっていいほどに悪意も脅威も感じない笑顔を見せる少女……その内側にある何らかの気配に、仏田は言い知れぬ悪寒を感じていた。
それは、対戦前にもタクティクス・バレットに感じていた気配……そして、自分のチームの絶対的エースの女王と初めて会った時に感じた気配と同質の物だった。
(……推測ですが、あの子はサラちゃんと同じスペリオルコマンダーなのかもしれません……どのような力かは定かではないですが、だとするなら今回の公式戦、勝負の行方は最後まで分かりませんね……!)
2つの大きな才能のぶつかり合い、人数的にだんだん近付く最終局面。
この戦線が辿り着く運命は、モニター越しに眺める仏田にも見通せない。
だが……先んじて語っておくと、通常の流れでは風鈴の能力をもってしてもサラの攻略は不可能であった。
何故なら、サラが自分のメンバーにすら明かしていない、彼女自身の能力に秘密があった。
それに一番最初に気付いたのは、大和であった……
※ ※ ※ ※
「玉守部長、姫野宮先輩達は確かエリア5にいるんでしたよね!?」
「ああ! そこの真ん中に広いスペースがあるのは覚えているか? そこで女王を待ち受けている形だ!」
玉守と大和は角華達ユニット3のいるエリア5に向かう途中。
急いで向かってはいるが、風鈴から聞いたサラの位置、エリア8はエリア5の南側に隣り合うところであり、サラの動向次第では先に遭遇してしまう。
全速力で急いで向かいたい2人だったが、風鈴の案内が無い今は通路の先の状況に細心の注意を払ういつものスタイル。
「飛鳥達も、水城姉弟もやられてしまうとはな……女王の実力はさすがとしか言いようがない……」
「ですが、自分としては腑に落ちない点もあります」
「腑に落ちない?」
「はい。何故、壁に隠れていた水城さんが先に狙われたのかという事です。水城さんや歩君から狙い方は聞いていましたし、その場所も確認していましたが、もし理想通りに誘い込めたとしたら壁の先の水城さんは見えないはず……」
「ふむ、確かにな……物理的に見えない以上は、あの場所の香子君を見つける事は難しいはずだ。動体視力の能力だけでなく、透視の能力もあったりするのかもな。女王の能力は未だに未知のものだからな」
話ながらも先を進む玉守が前と左右、大和が後ろをそれぞれ気にかけながら目的地まで進んでいく。
(……玉守部長も言うように、未知のものというのには違いない。けれど、どうにもしっくりこない……そもそも、女王の能力は視力由来のものなのか?)
大和は走りながら、ずっと気にかかっていた女王の違和感について、玉守を追いながら考察してみる。
いくつか想定していく内に、ふと思い付いた可能性。
それが、大和の中で組み合わされていく……
「よし、エリア5に着いたぞ! あとは角華君達を見つければ……」
「……そうか……!! もしかしたらそういう事なのか!?」
目的地のエリア5に到着したタイミングで、大和が何かを理解したように叫ぶ。
「どうした、大和君!」
「分かったかもしれません、女王のEXSの本当の性質について!」
「本当か!? どうして分かったんだ!?」
「詳しい話は後です! それより早く姫野宮先輩達に伝えないといけない事があります!」
「伝えないといけない事?」
「はい! もし、女王の能力が自分の予想通りだとしたら……普通にやってたら絶対に女王に弾は当たらない! だから、今は手を出してはいけないんです!」
「……急ぎなら、今はその内容を聞かないでおこう! そして、無線を使わずとも直接伝えられそうだな!」
玉守は大和に前を示す。
見ると、進む先に角華の横顔が見えてきた。
「本当ですね! 間に合ったようで良かっ……!」
そこまで言いかけて、大和は息を飲む。
だんだん見えてくる角華は、前に銃を構えていた。
そして、その先には……金色のウェーブショートの後ろ姿。
この現場の状況を、大和も一瞬で察する。
角華が一見隙だらけのサラの背中に向けて撃とうとしている。
サラはまだ、気付いていないようではあった。
(……女王がっ! まずい、既に遭遇していたのか! いけない、姫野宮先輩を止めたいが……もう間に合わない!!)
大和は瞬時に、玉守を横の障害物に押し飛ばす。
そして、自身も側の壁に隠れる。
直後、連射の音だけを障害物の影から聞く2人。
(大和君!? 一体何を……!?)
尻餅を付いたまま、反対側から視線で疑問を投げかける玉守だったが、大和は人差し指を口の前で立てて沈黙を強要し、前を示す。
玉守は黙したまま影から覗き見るように前方を確認し、今度は普通に声が出なくなってしまう。
数秒前には角華がサラの死角を狙い、視界が隠れた時には射撃をしていたはずだった。
障害物から覗いた玉守が見たのは、その角華に狙われたはずのサラがダミーナイフで逆に角華に斬りかかるところだった。
「きゃあぁぁ!!」
反撃にあった角華が散っていく様を目の当たりにし、疑問と驚愕が玉守の意識を支配する。
(……一体…………何が、あったんだ……!?)
そう考えることだけが、精一杯であった。
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