vs女王&兵隊戦開幕 勝利を掴むための初手
『ゲーム開始10秒前……9……8……』
チームタクティクス・バレット vs チーム女王&兵隊の公式戦開始までのカウントダウン。
観戦エリアでは、観客が叫ぶように大きな声で、モニターに表示されるタイミングに合わせて数字の声を張り上げる。
声援の大部分は、もちろん雷閃の女王サラに向けられている。
誰もがサラの勝利を疑わず、賭けのオッズは常に9割超えでサラの一点張り。
もはやチームの勝敗では賭けがほぼ成立せず、女王&兵隊勝利までの時間が数分刻みの間隔で設定された賭けをしている者達すらいた。
そこまで極端ではないが、公式でもベーシックな形で賭けが組まれており、やはりオッズは女王&兵隊に偏り過ぎていた。
(……う~……思っていた通りではありますが、本当に女王の人気は凄すぎですよ……)
そんな女王贔屓メインの観戦エリアで、立場も無く縮こまってモニターを眺める小波。
声高々にタクティクス・バレットの応援をしたいのは山々ではあったが、ここまでサラの応援が多い中では、応援を届かせる自信はある小波もさすがに声を出すのは気が引けた。
タクティクス・バレットのホームフィールドのはずなのに、アウェーでやっているような錯覚すら覚える。
『……3……2……1……作戦開始!』
スタート表示と同時に、フィールド全域を映し出すモニター内で両チームの扉が開かれ、互いのチームがそれぞれの作戦に合わせた通りの動きを見せる。
観客のテンションも加速して上がっていく。
(……皆さん、頑張って下さい!! 小波は、皆さんが勝つって信じてますよ!!)
モニターを見守る小波は、声に出せない思いを握りしめた拳に表しながら、表面上は無言で大人しくしていた。
※ ※ ※ ※
「総員配置に就け!!」
「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」
玉守の鋭い号令を受け、メンバー全員が声を揃え応じながらフィールドの通路を走り駆け抜けていく。
この号令は、単純に雰囲気作りのための意味合いであって、作戦が既に決まっている以上は必要ではなく、簡略化しても構わない。
あまり大きな声で指示を送ると相手に位置を割り出される可能性もあるため、ほぼ最初だけに限られる。
ユニット2、3、4のユニットメンバーは、事前に決められた作戦の内容に従って、先んじて行動している。
一方、肝心のアタッカーであるユニット1、スタート地点にまだ留まったままだが、もちろん理由がある。
大和と玉守がフィールドの通路の先を注意深く警戒しながら待機し、もう1人のメンバーの風鈴はスッと目を閉じて集中する。
〔EXS『
そう念じると、まるで意識が切り離されたように、風鈴は自らが空を飛んでいくような感覚を得る。
風鈴のEXS、「千里眼」による上空からのフィールド全域の確認作業。
これにより、普通の人間では確認出来ない相手チームの位置を掴む事が可能となる。
風からの伝達情報を元に位置を知覚出来るという、正に反則技と呼べる認識能力ではあるのだが、これには弱点も存在する。
意識を切り離してしまうため、「千里眼」の「俯瞰図」を使っている間、本体の風鈴自身は動けずに無防備な状態となる。
そのため、乱発して使う訳にも行かず、要所要所で使わなければならない。
今やっているように、こうして最初に使うという事なら相手もほぼ寄っては来れないので、問題は無い。
それはさておき、上空から知覚する風鈴、素早くフィールドの状況を確認。
(見えた! 仏田さんのユニットは右奥の隅にまとまってる! そして女王さんは……あっ!!)
瞬時にフィールドを把握した風鈴は戦慄する。
自分達のポジションを確立させて防衛の陣を展開する仏田ユニットに対してサラは単騎で、風を切るようなものすごい速さで中央のルートをタクティクス・バレットのスタート地点、風鈴達ユニット1が現在待機している場所に迫ってきていた。
意識をすぐに本体に戻して目を開けると、近くで待機している大和と玉守に報告する。
「も、戻りました!!」
「戻ったか、風鈴君! それで状況は……」
「じ、女王さんが真ん中のルートを一気に走ってきます! すぐにここに来ちゃいます!!」
「すぐに!? 公式戦は始まったばかりなのに!?」
驚く大和は真ん中のルートが見えるように通路から覗き込む。
声には出さないが、玉守も表情に少し驚きを滲ませながら、大和と同じように確認する。
〔DEAD OR ALIVE〕というフィールドは、上から見ると少し縦長な長方形になっており、玉守達はそれを横3×縦4にエリア分割をし、場所をそのままエリア1~12と呼んでいる。
真ん中のルートというのはエリア2から縦に突っ切るルートで、そこには障害物があまり配置しておらず、奥まで確認が出来るために見つかりやすいルートとなっており、本来はあまり活用されないルートのはずだった。
だが、風鈴が話したすぐ後に見た大和達も捉えた……
奥からその中央ルートで隠れもせず、全速力かつ最短距離でこちらに向かってくる、サラの姿を……!!
「くっ! 速すぎる! 被弾を恐れない故の特攻戦法!」
「まずいぞ! このままではすぐに交戦になる! 俺達がもしここで撃墜されればミッションは絶望的だ! 2人とも急いでここを離れるぞ! 風鈴君、案内を頼む!」
「は、はいっ!!」
場所を認識した風鈴を先頭にし、サラを避けるように回り込むルートを選択して駆け出す大和達。
同時に玉守が走りながらトランシーバーで全メンバーに通信を入れる。
「……こちらユニット1玉守! ターゲットAを確認、前評判通りの中央突破だ! やはり隠れながら進もうという気は、先方には更々ないみたいだな! そして速度が思った以上に速い! 各自、狙う際は気を付けてくれ! 以上!」
通信を切り、後ろを警戒しながら風鈴と大和の後を追うように玉守も通路を走り抜ける。
ユニット1が移動してから時も経たず、入れ替わるようにしてサラがそのスタート地点に到着。
一度立ち止まったサラ、相手を探すように周囲を見渡す。
(……撃たれそうな真ん中通ってきたのに、どこからも襲撃も遭遇も無いまま、最深部到達……ワタシがそうすると見越して、罠を張るために左右から回り込んだ? ふん! まあ、ワタシ相手なら当然ね!)
誰もいないのには特に驚きもなく、すぐに移動を開始。
折り返す形で左右どちらかのルートを選択する事になる。
そこでサラが選択したのは……
※ ※ ※ ※
先頭を走る風鈴の案内で、仏田ユニットのいる右奥の隅に向かう大和達ユニット1。
(……うん、もう少しで仏田さんユニットの陣地……その近くまで行ける!)
風鈴は走り続けながらも、仏田ユニットの位置を確認し続けていた。
風鈴のEXS、「千里眼」の特性2つ目、「
風からの伝達情報の知覚変換により、風が通り抜けるところなら障害物を透過させて見られる力。
これにより、隠れている相手も狙い撃てる。
もちろん、相手が攻め込んできた時にも回避が可能となる。
ただ、こちらも微妙に弱点があり、透過させて見えると場合によっては壁との判断がつきにくくなり、その壁にぶつかる可能性もあった。
なので、移動する時にはそれを細切れにしながら使うようにしていた。
弱点の対策も、事前に大和達が風鈴のEXSを調べ上げた事による賜物だった。
「大和さん、玉守部長! 仏田さん達がいるところに……はっ!!」
自分が見た情報を大和と玉守に伝えようと後ろを振り返った風鈴の顔が強ばる。
「どうしたんだ、千瞳さん!?」
「う、後ろから女王さんが追いかけてきます!!」
「何っ!?」
風鈴の慌てた声に大和と玉守がバッと振り返る。
「透視画」で障害物を透過させられる風鈴には、サラが後方のいくつかの壁の先から猛烈な勢いでこちらに向かって走ってくるのが見えていた。
2人の目には通路の壁しか映っていないが、風鈴が警告している以上は疑う余地もなかった。
玉守は瞬間の判断でトランシーバーを手に取る。
「ユニット1よりコードE!! 現在エリア4、後方よりターゲットA接近中!! 誰でもいい、フォローを頼む!!」
メンバーに短く状況を説明してから無線を切り、後方に自身の銃を構える玉守。
大和と風鈴も手持ちの銃を撃てるように準備をする。
「くっ……!! 女王がこちらの場所を特定しているのではないにしても……懸念されていた最悪の事態になるとは……!!」
大和の言う懸念……それは、大和達ユニット1が最初にサラからの襲撃を受けるという状況。
女王&兵隊に勝利するために編成した今回の戦力において、ユニット1が唯一仏田ユニットであるターゲットDを撃破するために組まれたもの。
よって、ターゲットD撃破の前にサラと鉢合わせするのが最も都合が悪い。
スタート地点で風鈴が「俯瞰図」でもってターゲットの位置を確認するまでは良かったが、そのために出足が遅れてしまった。
サラの到達速度の速さ、そして大和達が進んだ方向に運悪くサラが折り返してしまったことが、現状に繋がっている。
「はうぅ……! じ、女王さんがどんどん近付いてきます!」
「コードEもここまで相手が速くてはあまり期待出来ないですね……! どうしますか、玉守部長!?」
(せめて風鈴君と大和君だけでも進ませたいが……いや、どのみち2人だけではさすがに仏田ユニット全てを崩すのは手数で無理がある、か……ならば、今ここで……!)
時間が無い中で、玉守は選択の決断を下す。
「風鈴君! 大まかで良いから女王がその通路に現れるタイミングをカウント出来ないか!? こうなっては、このまま俺達が対応するしかないだろう!」
「わ、分かりました! あと、じ……き、9……! 8……! 7……」
下手に後ろを狙われるより、待ち伏せの形で女王と対決する事を選択。
壁の先を見つめながらカウントを始める風鈴。
カウント速度にズレがあるのは、体感的にサラの近付く速度を正確には測りづらいためだろう。
それでもサラの接近が間近なのは玉守も大和も理解出来る。
(千瞳さんのおかげで、女王を狙うタイミングは合わせられる! だが……)
(それでも捉えられるかどうか……スペリオルコマンダーの実力は破格な上に未知数……! 出たとこ勝負だな!!)
通路の先を睨み、タイミングを合わせる3人。
待ち伏せを受けているサラだが、知ってか知らずか、迷わず構わず止まらずに通路を突き進む。
(……そろそろ相手が見つかっても良いはず……! 速攻で終わらせてあげるから、覚悟しなさいタクティクス・バレット! さあ、最初の獲物は誰かしらねぇ!!)
ぐんぐん速度を上げるサラ。
このまま進めば、その先の曲がり角を進めば、少し広いところに出てくる。
そして途切れない壁沿いの通路に入れば、ユニット1の3人が構えるところに到達する。
「4! 3! 2!」
風鈴のカウントダウンが、いよいよ最終を告げようとしていた。
(女王……! いざ!)
(勝負だ!!)
大和と玉守も、トリガーにかける指に力を伝わらせながら、銃口の狙いを定める。
「……い…………あっ!」
最後のカウントダウンの数字が発せられる前に、風鈴は何かに気付いて別方向を見つめる。
その異変を大和と玉守が問い詰める間もなく、風鈴が見た方向……2人からは壁しか見えないが、そちらから銃撃の連射音が鳴り響く。
(……っ! ふんっ!)
待ち伏せされる通路の曲がり角を進む寸前で、サラは体を後ろに反らす。
サラがいた場所を、射撃音に連動した連続するBB弾が通過する。
弾が飛んできた方向にサラが目を向けると、
「あちゃ~きちんと狙ったはずなのに当たらなかったっすね~!」
横の通路の先に、桂吾が銃を構えて立っていた。
風鈴も、桂吾がやってきたのは気付いていた。
「見つかったからヤバいっすね~これは! 女王様に狙われる前に退散させてもらうっすよ~! まあ、俺は足が速いから女の子には追いつかれない自信があるっすけどね~! それじゃ!」
少し演技がかった台詞を飛ばして、桂吾はサラに背を向ける。
そんな桂吾を見たサラ、
(……わざとらしい口調と行動……これは、罠っぽいわね?)
すぐに狙いが別にあると看破し、少し思考を巡らせる。
(……自分の方に誘導させるかのような言い回し……アイツの先に罠が仕掛けられてる可能性はもちろん、遮るように撃ち込んできたタイミング的に、この先に進まれたら都合が悪い状況があるとも言えるわね……)
サラは自分が進もうとした通路の方に一瞬視線を送る。
(……あんな安っぽい挑発なんて無視してアイツらの企みを打ち砕くくらいは容易い……相手に完璧な仕事をさせない事も、踏みにじる形に繋がる…………でも……)
フッと笑みを浮かべ、視線を逃げ態勢の桂吾に移す。
(……今回は敢えて相手の挑発に乗っておいて、その上で相手の策ごと潰してやるのも良いかもしれないわね。どうせ相手チームはワタシのチームとほぼ同数の少数編成。それでいて、ワタシに勝とうなんて不遜も良いところ……なら、どれだけ上等な策を見せてくれるのか、楽しみながら……希望を全てへし折ってやればいい……!!)
笑みを嗜虐の形に変化させ、サラは桂吾の方に方向を切り替えて突撃再開。
「わぁ~! 逃げろ~!」
桂吾は未だに芝居染みた口調のまま、自分が来た方向に引き返す。
(さあ、3人とも! 今のうちっすよ!)
走りながら、桂吾は心の内でユニット1のメンバーを送り出す。
それを聞き取った訳でもないが、桂吾の真意は玉守達も理解出来た。
「……よし、良くやった桂吾君! さあ大和君、風鈴君、作戦続行だ!」
「「はい!」」
2人は小さく頷き、再び風鈴を先頭にして通路を駆け出す。
※ ※ ※ ※
(……よし! コードEなんて滅多にないから一瞬焦ったけど、女王をこっちに誘い出すのは成功っすね!)
桂吾は声に出さず、心中でガッツポーズを決める。
玉守が発したコードE、これは
これで、他のメンバーに助けを求める事が可能。
とはいえ、通常の殲滅戦のような戦線ではチームであっても基本的には個人での対処が原則。
無理に別のメンバーを動かせば、今度はそのメンバーのリスクが高まる。
よって、どれだけ窮地に陥ろうとも、普段から助けを求める事は出来ず、それが適用されるのは優先順位が明確に決められたメンバーがいるときのみ。
例えば、サバイバルゲームには大統領選というオプションルールがあり、リーダーを1人決め、そのリーダーが倒されたら負けになるというもので、リーダーが倒されないように配慮しなければならないため、状況によってはコードEの対象となる。
ただ、いきなり敵と出くわす事も多いサバイバルゲームでは使用頻度もかなり少ないが……
今回、ユニット1が優先順位が高いと全メンバーが認知しており、近くにいた桂吾が対応に当たったのだった。
(いや~それにしても、このままいったら俺、大活躍間違いなしって感じじゃないっすかね~! こうして仲間のピンチに駆けつけられるだなんて、控えめに見てもカッコいいっすよね~俺!)
自画自賛でニヤケながら走る桂吾の姿がカッコいいのかは微妙だが、誰かに見られている訳でもないので、それだけは幸いかもしれない。
(それに、いくら動きが速いっていっても相手は同い年の女子な訳で……陸上短距離選手並の俺にはさすがに追い付けないっすよね~きっと! もしかしたら俺が1人で雷閃の女王撃破だなんて快挙達成も夢じゃない……)
などと都合良い妄想を絡めかけていた桂吾に、
「へぇ~アンタ、なかなか良い足を持ってるじゃない!」
という称賛の声が後ろから掛けられる。
「いやいや~それほどでもある……」
ニヤケがまだ直らないまま、後ろを振り返った桂吾……
「……げっ!!?」
その顔が驚きに歪む。
軽快に駆ける桂吾に声をかけてきたのは、金髪な同い年の美少女にして、現サバイバルゲーム界屈指の実力と称される女王サラ。
かなり速く走っている桂吾の少し後ろを同じ位の速さでピッタリ付いてきている。
「それだけの速度で走れるなんて、なかなか優秀じゃない。ワタシのチームでも、ワタシ以外追える人間はいないかもしれないわね。逃げ足だけは褒めてあげるわ。まあ、ワタシもまだまだ本気じゃないけどね!」
(う……嘘っすよね!!? お、俺これでも結構頑張ってる方なんすけど!?)
走りながらも余裕で話しかけてくるサラに対し、桂吾には振り向いて表情を変えるくらいしか出来ない。
「……なんて顔してるのかしら? ワタシを誰だと思ってるの? 雷閃の女王と呼ばれるこのワタシから逃げ切れるなんて本気で思っていたのかしらね!!」
サラはそんな桂吾の顔を見てその心中を察したようで、余裕の中にも自信に満ちた強い笑みを上乗せする。
トレードマークの金髪ショートのウェーブと迷彩色のミニスカートを靡かせながら、猛烈に桂吾を追い込んでいくサラ。
(……くっ!! ピンチ救って今度はこっちがピンチって、状況が状況だけに文句も言えないっすよ!! でも、悲観してばかりもいられないっすね!!)
桂吾は逃げながら、自分の肩からベルトで下げた愛銃、Vz.61を利き腕の右手に持ち、左腕側に回して脇下から銃口を後ろに向けて引き金を引く。
エアガン特有の連射音を鳴らしながら、弾を後ろに飛ばしていく。
後ろに向け、ほとんど見もしないで撃ちながら逃げるという、ナイフで追うプレイヤー相手だからこそ成立する、普段ではなかなかお目にかかれないような射撃を披露する桂吾。
後ろ向きな上に走りながらのためにろくに狙いも付けられない、マナーに欠けた射撃ではあるが、それが良い意味で弾の軌道をばらけさせてくれた。
(これで当たってくれれば御の字……っていうか普通なら当たってるっすよねこれ!?)
撃ちながら桂吾はスッと振り返る。
後ろからピッタリ付いてくる相手にこういう射撃で上手い具合に撃てていれば、通常のプレイヤーなら確認するまでもなくヒットを取っていたことだろう。
だが、今桂吾の後ろにいるのは常識から外れた存在。
振り返った桂吾が目にしたのは、凄まじい速度で至近距離から撃たれる弾を難なく躱し続けながら、なおも桂吾に接近し続けるサラの姿だった。
(……うへええっ!!? ヒットどころか掠りもしてない!!? というかどんどん近づいてる!!?)
サラは踊っているかのように、それでいて確実に弾を避け続けていた。
桂吾に限らず、そんなことは有り得ないとサラを初見で相手したプレイヤーの全てが、同じ感想を抱くのがこの瞬間。
しかし、〔S・S・S〕の恩恵によって確実なヒット判定が下せるようになった現代において、専用の特殊ベスト、及び専用の衣服が赤く変色していないというのは、未だヒットが取れていないことを表しており、サラの衣服はスタート時と変わらない色のままだった。
「ふんっ、笑わせて……! くれるわねっ……! 複数相手に……! 弾を……避け続けてきたワタシがっ……! 単騎如きに……! 墜とされる訳ないでしょうが!!」
「ひっ……!!」
バラける連射すら避けながら迫るサラに、さすがの桂吾も恐怖とプレッシャーが増してくる。
そうこうする間にも気付けば弾倉の中身は空になり、引き金を引いても弾は出なくなる。
予備の弾倉に切り替えなくてはと桂吾も分かってはいるが、追われる恐怖感にそこまでの余裕も無い。
「さあて! 他にも狩る奴がいることだし、そろそろアンタとの鬼ごっこも終わらせてもらうわ!」
その宣言からサラは速度のギアを上げ、距離も徐々に縮まっていった。
(ヤ、ヤバいヤバいこれはヤバい追い付かれるっすよ~!! こうなったら……!!)
もはや、このまま逃げを継続するのは不可能と判断し、せめて少しでもサラをユニット1から離そうと自陣方向にルートを変えようとした時だった。
桂吾の反応が、少し変わった。
後ろで見ていたサラには、内容こそ分からなかったが、それが桂吾の無線からの何らかの連絡だろう事は理解出来た。
そこから、逃げる桂吾の速度が幾分か上がった。
桂吾を追っていくつか角を曲がり、右に進む通路のある
「桂吾っ!!」
浩介が銃を構えて陣取っていた。
「へへっ! これでこっちは数で有利っすね! 卑怯だとか思わないで欲しいっすよ!」
先に進んだ桂吾が浩介と並んで振り返る。
弾倉も新たに替えて弾を補充し、サラに銃口を向けて対峙する。
だが、サラはサラで一度立ち止まった上で余裕の笑み。
「ふん、不確定な遭遇の多いサバゲーで卑怯も何も無いわ。むしろ、相手がアンタだけで少な過ぎて退屈してたところよ」
「むむっ!? それなら、このチームワークを見事越えてみるっすよ! 浩介君、いくっすよ!」
「ああ!」
桂吾と浩介が、引き金に指をかける。
それを見たサラはナイフを逆手に構えて体を一瞬沈ませ、先手必勝とばかりに弾かれたように飛び出す。
同時に、桂吾と浩介も引き金を絞る。
2つの銃口から撃ち出される弾がサラめがけて乱れ飛ぶも、サラの神がかり的な回避によって外される。
まるで弾が体をすり抜けたかのような速さで、近くで見ると残像が見えるほどにキレがある。
(……アイツが受けたさっきの通信はこのパッとしない男から? 何がチームワークよ、バカらしい! ワタシはもっと大勢から何度も狙われてきたこともあるのよ? それを、こんな素人っぽい奴と組んだ程度でワタシを討ち取ろうなんて……!!)
途中で参戦した浩介を見て、サラは苛立つようにギリッと歯を食い縛る。
「……身の程を!! 知れぇぇ!!」
その苛立ちを晴らすように叫びながら、弾を掻い潜りながら距離を詰めていく。
ナイフが2人に届く射程距離まであと僅か……!!
※ ※ ※ ※
観戦エリアからモニターで現状を見ながら、
(……今です! 忍足先輩!!)
小波は祈るように両手を握りしめる。
サラが丁字路の横の通路を越え、桂吾と浩介を仕留めるべく飛びかかる……
その横の通路に、その瞬間のサラを狙い撃つために銃を構える飛鳥がいた。
今こそ飛鳥の真骨頂、「置き」の仕掛け時……!
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