女王の色褪せぬ思い出の人……蹂躙と探索の公式戦

 正式な公式戦を行うなら必ず利用することが義務づけられた〔S・S・S〕併設のシャワー室もある、〔DEAD OR ALIVE〕内に建てられたログハウス調の更衣室。

 そこで今、サラがシャワーを浴びていた。

 その湯の温かさに目を閉じながら、金色の頭頂から湯の雨を降らせ、白くしなやかな体を伝わり床へと流し落としていく。

 〔S・S・S〕の前にシャワーを浴びるのは、軽く汗や汚れなどを流し、ナノマシン付着が阻害されないようにとの各人の配慮によるものだが、多少汚れていても〔S・S・S〕の吹き付けが不十分だという報告は競技連盟には上がっておらず、あくまでも気分の問題とされる。


(……う~なんなのよもう! 何様のつもりよ、失礼極まりないあの睨み男! あんなのがエースだなんてチームとしての品格を疑いたくなるわね!)


 視界を暗闇に落としながら、飛鳥とのやり取りを思い返しては閉じた瞼を腹立たしそうにギュッと閉じるが、


(……でも……ワタシに対してあれだけ強気なのも、最近のプレイヤーにしたら珍しいわ……実力が知られてなかった昔ならともかく、有名になった今じゃ、『 生贄サクリファイスプレイヤー』なんてつまらないのが挑んでくる事も多かったもの……)


 それもすぐに落ち着かせ、これまで戦ってきた相手チームを軽く流すように思い出しながらタクティクス・バレットと比べていく。

 WEE協約以降、サバイバルゲームでのランクの価値がステイタスと認識されるようになってきた。

 実力に加えてルックスも申し分無いプレイヤーに関しては、テレビや雑誌等に取り上げられ、知名度が格段に跳ね上がる。

 特にサラのような、それらに加えてスペリオルコマンダーという希少性まで備えるようになれば、その扱いは正に芸能人並。

 そこまで来ると、倒したいとか勝ちたいという本来の目的とは別に、そのプレイヤーに会いたいという理由だけで公式戦を申請してくる者も出てきた。

 芸能人に関わりたいファンの心境のようなものかもしれないが、公式戦での負けはランカーとしての戦績にも響いてくる。

 それも厭わずに敢えて挑み、相手に白星を与える代わりに、あわよくばお近づきになろうという負け前提なプレイヤーが増え、いつからか『生贄プレイヤー』と呼ばれるようになった。

 この単語は、戦績が反映されるようになったWEE協約以降に言われるようになったもので、単に『生贄』と呼ぶ者もいる。


(……そうかと思えば……サバゲー楽しむだなんていうのがいたり……勝ちでしか価値を認められない勝負の世界で、そんな甘い事を口にするなんて……あのチームは一体何なの!?)


 サラの脳裏に大和の言葉も響き、目を閉じたまま気持ちを否定するかのように頭を左右に振るが、その言葉がサラの心をざわつかせる。

 シャワーを止めてから、サラは慣れたように〔S・S・S〕起動のボタンを押す。


『スキン・スキャニング・システム、キドウシマス』


 感情の無い機械的な電子音声の後、噴霧口からナノマシンが吹き出される。

 静かに全身に受けているうちに、サラも少しずつ気持ちが落ち着いてくる。


(……そうよ、別に気にする事は何も無いわ。ただ、勝てばいいだけ……いつもと同じく、今までのチームと変わらずにワタシが圧倒して、あのチームも蹂躙してやればいい……勝ちという結果が伴わなければ意味が無い事を思い知らせてやれば……!)


 無意識的な気持ちの引っ掛かりを無視するように決意するころには〔S・S・S〕も終了し、シャワー室から更衣室に移ったサラは着替えを手早く済ませる。

 サラを知る者にとってはお馴染みの迷彩柄のタンクトップとミニスカート、そして2つのダミーナイフを腰の後ろのホルダーにしまい、更衣室を出る。

 扉の外では、仏田が待機していた。


「準備は完了したみたいですね、クイーン・サラ。他の皆さんも準備は出来ています。公式戦までもうすぐですから、行きましょうか」

「分かってるから、そう急かすんじゃないわよ」


 急かすと言えるほど慌てた感じではない仏田を引き連れ、サラは公式戦開始のためのゲートへと向かう。


「……あ、そういえばクイーン・サラ? 今は2人きりですし、他の皆さんがいない内に話しておきたいことがあります」


 ふと、仏田がサラに前置きをする。


「……何よ? 今から公式戦なんだから急げっていうのは仏田じゃない。聞いてあげるけど、歩きながらよ?」

「ええ、それで結構ですよ」


 時間の余裕の無さに自身が関わっていることを棚に上げ、面倒そうにしているサラに、相変わらずな笑みの仏田。


「……あの玉守部長、クイーン・サラの会いたかった方だと良いですね」

「そうね。そうだとワタシも嬉しいんだけ……ど!!?」


 最後まで言いかけたところで、その意味に気付くと過剰な反応を見せるサラ。

 慌てたように仏田に振り返る。


「な、ななな、何でいきなりそんな……!? ワ、ワタシがいつそんな事を気にしてるだなんて……!!」

「あら。だって玉守部長が挨拶された時にクイーン・サラ、じっと顔を見ていたじゃないですか。気付かれてないと思ったんですか?」

「た、対戦相手なんだから、ど、どんな相手なのか気にするのなんて、と、と、当然じゃない!?」

「それを言ったら、他のメンバーの皆さんも気にかけて良いと思いますよ? 明らかに特定の個人だけを気にしてたじゃないですか」

「うっ!! そ、そんな事……」

「うふふっ。そんなに綺麗な顔を真っ赤にして、ただでさえ可愛らしいのに、何だか恋する乙女みたいになっちゃってますよ? サラちゃん」

「……ぅあっ……!! だ、だ……誰が、こ、こ……恋する乙女ってぇぇ……!!」


 またも否定したかったサラだが、今度は見た目にも分かる恥ずかしさから、上手く言葉に出来ないようだった。


「良いじゃないですか。否定するのにもそんなに動揺しちゃうくらいなら、もっと素直におなりなさいな。もし威厳を持たせたかったなら、それを認めつつ、気持ちを静かに話してくれた方がよっぽどクールだったと思いますよ。ね?」


 仏田が軽くウィンクする余裕ぶりなのに対して、サラは声には出せないまま、表情だけがコロコロ変わる。

 良く観察すれば、きっと表情から思考が読み取れてしまったかもしれない。

 さりげなく、クイーン・サラからサラちゃんに呼び方が変わっていても返せないまま、軽く1分くらい経とうとしていた。

 サラは何かを諦めたように、ため息をついて目を閉じる。


「……分からないのよ、もう……」

「分からない? どういう意味ですか?」

「その彼と会ったのはかなり小さい頃だったから、今の彼がどんな風貌なのか、想像もつかないのよ……名前だって知らないし……」

(……ああ、やっぱりそうでしたか……)


 ポツポツと溢し始めたサラからの情報は、仏田の予想通りの内容だった。


「……それと……もし奇跡的に会えたとして、その彼が……その…………ワタシが、会った当時のような、サバゲーに熱意を持ったままの彼なのか……もしかしたら、大きくなって気持ちが変わって……情熱が無くなってしまっていたら、って…………会って良いのか、分からない……というより、怖いのよ……」


 だんだん気持ちを乗せるように、言葉を紡ぐ度に表情が曇っていくサラ。


「……今までワタシが設定していた対戦相手の条件は、彼がそうなるだろうって予想なのよ。あの頃のままの彼なら、きっと高みを目指す。チーム自体の強さは上の目指しやすさでもあるから」

「そういう事ですか。今まで部長やチームリーダーを気にされていたというのも……」

「当時から、サバゲーに対して熱くて、責任感のある言動をしてた記憶があるわ。だから、周囲を引っ張っていく存在になってると思ったのよ。その彼に初めて会ったのは、ワタシが小学に入る前くらいだったと思うけど、WSGCに出場して日本を世界一にするんだって言ってたわ」

「あらまあ、その頃から随分と高い目標持っていたんですね」

「そうなの! でね、彼ったらワタシと接する時とかも……」


 などと、思い出にある男子の話をするときのサラには明るさが備わっていた。

 一時は暗くなりかけた雰囲気を心配していた仏田も内心胸を撫で下ろし、サラの会話に相づちを打ちつつ、聞き取りを続けていた。

 サラも気持ちと表情にゆとりが出てきた頃には、ゲートまでもうすぐだった。


「……情熱、という点でいうなら、あの忍足君も悪くないと思いますよ? チームのエースと言っていた彼ですね」

「はぁ!? あの目付き悪い睨み男は絶っっ対に違うわ!! アイツがもし思い出の彼だとしたら、すぐにでもアメリカ帰ってやるわ!」

「そんな事言わないで下さいな。彼は彼で、サバゲーに対して情熱的な気がしますよ? まあ、その条件なら確かに玉守部長が1番近いとは思いますね。確証は持てないですけど……」

「……その辺は戦いながら見極めてやるわ。あの根倉は認めたくないけどね! でも、まあ……話したら、何だかスッキリしたわ。ワタシから望んだ訳じゃないけど、一応礼を言っておくわ。ありがとう、仏田」

「いえいえ。気持ちが落ち着いたなら、それは何よりです。ただ、最後に2つ……公式戦に挑む前に聞いてもいいですか?」

「まだ何かあるの?」


 仏田に不思議そうな顔を向けるサラだったが、その表情に刺々しさはもう無くなっていた。

 逆に、今度は仏田の方が真面目な様子でサラを見つめていた。


「まず、その彼が仮に相手チームにいるとして……ご自身の本気で挑むつもりですか? スペリオルコマンダー、『雷閃の女王』サラ」


 仏田の改まったその呼び方が何を意味するのか、サラもすぐに察した。

 スペリオルコマンダーとしてのサラの実力は、並のプレイヤーでは万に1つも勝ち目が無いと言っても過言ではない。

 それが本気を出せば、サラの話す思い出の彼すらも、蹂躙の対象となる事だろう。

 だが、サラは不敵な笑みを浮かべている。


「……ふふん、愚問ね! 彼がもし、熱意を持ったまま育ったとしたなら……誰が相手だったとしてもきっと、手加減なんてするな! と言ってくるに決まってるわ。そう……ワタシみたいなスペリオルコマンダーが相手だったとしても、ね! だから、彼がいたとしても、ワタシは加減するつもりはないわ! それが彼への礼儀だもの!」

「あらまあ、ずいぶん思い出の彼の事を高く買っているんですね。そこまで認めている彼に、出来るなら会わせてあげたいくらいですよ。では、もう1つ聞いていいですか?」

「良いわよ! この際、聞きたい事があるならどんどん聞きなさい!」


 もう気持ちが知られた事で誤魔化す必要も無くなったからか、笑顔を振る舞うサラ。

 そんなサラを微笑ましく眺めていた仏田だったが、


「顔を覚えていないその彼を、今まで何でもって判断してたんですか?」

「……えっ?」


 その質問に不思議そうな顔を返すサラを、仏田は訝しむ。


「いや、えっ? じゃありませんよ、クイーン・サラ。探していたというくらいですから、顔じゃないにしても、目印としている何かがあったのではないんですか? 特徴というか……」

「……だ、だから、責任感がある上位ランカー、というか……部長だとか……」

「そんな条件だけじゃ、決定的な判断材料にはなりませんよ。全国にいくつチームがあると思ってるんですか? チームを纏める部長というなら、大概は責任感があるものですよ。それ以前に、環境によっても状況は左右しますよ? 例えば、仮にどこかのチームのリーダーとか部長だったとして、家庭の都合で転校せざるを得なくなったとかだと、その転校先のチームに参加出来たとしても、部長やリーダーにはなれないでしょう。そうなったら、部長という条件自体も危うくなりますよ?」

「た、確かに……」

「……チーム結成して1年くらいになりますけど、もしかして今までそんな雑な条件で人探しなんてしてたんですか?」

「ううっ……!」


 言葉を詰まらせ、先ほどの勢いが失速するサラに、仏田は呆れた様子。


「……もう……それならそうと早く相談してくれれば良かったものを……きちんと教えてくれていれば、相手のサバゲー情報からそれらしいプレイヤーをピックアップする事も出来たのに……今までのチームの中にも、もしかしたらいたかもしれないじゃないですか……」

「や、やっぱり、そう、なのかな……?」

「今となったら、探すのはかなり厳しいですよ。何せ私達は、一度戦ったチームとは再戦しないと全国のチームに認知されていますから。こちらから厳しい条件出しておいて、再び連絡を取るなんてしたら、何事かと不信感を抱かれかねないですよ? 確実にすぐ見つかるならまだしも、下手に動いて変な噂が回ったりして、探索に支障が出るのも嫌でしょう?」

「…………うん、ごめん……」

「素直も今さらですけどね……はぁ~……」


 女王と称される威厳もどこへやら、しょんぼりと縮こまるサラに仏田はため息を返す。


「もう過ぎた事ですから、気持ちを切り替えましょう。まずは今日の勝敗を決してから、詳しく聞く事にします。クイーン・サラは今日の相手チームの中にその彼がいる事を祈っていてくださいな」

「う、うん! わ、分かったわ!」


 仏田の落ち着いた雰囲気で気持ちを立て直したサラは、フィールド出入口のゲートがある部屋に入っていく。


(……本当にもう……さっきみたいに素直に接していたら、サラちゃんの探し人ももっと早く見つかったかもしれないものを……)


 部屋に入ってからは、そこで待っていた他のメンバーにはいつもの威厳で接するサラを、仏田は何とも残念そうに見つめながらサラを追って部屋に入っていった。



 ※  ※  ※  ※



「では、今回の作戦を再度確認しよう」


 女王&兵隊のメンバーがようやく集結したのと違い、タクティクス・バレットのメンバーは既にゲートのある部屋に揃い、玉守主導のもと、作戦の最終確認を行っていた。


「俺達のチームが勝利するための条件は2つ。1つは、ターゲット A《アタッカー》の女王サラの撃破。もう1つは、ターゲット D《ディフェンダー》の仏田ユニットの撃破。これについては理解しているな?」


 玉守が全員に問うと、メンバーは無言で頷き返す。


「それに対する俺達の戦術はまず、ユニット1に俺、大和君、風鈴君で組んでターゲットDを崩しに行く。いくら防御に長けていても、仏田も俺達と同じ普通のプレイヤーのはず。風鈴君がいれば、隠れた場所にいても相手を捕捉出来る。俺と大和君でフォローすれば、少人数でも撃破出来るという見込みだ。大和君、風鈴君。よろしく頼むよ」

「こちらこそよろしくお願いします」

「よろしくお願いします! 私、頑張ります!」


 大和と風鈴に目配せする玉守に、2人も応じる。


「そして、ユニット2に飛鳥、桂吾君、浩介君。ユニット3に角華君、金瑠君、銀羅君。ユニット4に香子君、歩君。これらユニット2、3、4の複数人でターゲットAを各ポイントにて迎え撃ってもらう。死角を狙える多方向から仕留めにいく形が望ましいが、状況にもよるから不測の事態においては、各自の判断での対応を頼む」

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」


 それで他のメンバーもスタンダードな返事を返す。


「あと、外部にいる小波君から最終通達だ。まあ、やはりというか、女王に関する情報に変化は無いそうだ」


 次に玉守は、今も観戦エリアにいる小波からの報告を伝える。

 試合が始まる時間になれば、エリア内外の相互通信は遮断され、フィールド内部での参加プレイヤー間のみでしか繋がらないようになる。

 遮断されるギリギリまで、小波は女王&兵隊の情報を調査し続けていたのだった。


「小波君も良くやってくれてたからな、これ以上を望むのは酷というものだ。あとは俺達が結果を出すだけだな」

「おうよ! さあ、もうすぐ試合開始だ! 桂吾に浜沼! 準備出来てるか?」

「バッチリっすよ!」

「お、俺も、す、少し緊張してる以外は、何とか……」

「むふふ! ヒメスミ先輩! ムサイあの男子ユニット2には負けないにょ!」

「ちっぱい3人のコンビネーションで、ちっぱい女王撃破を目指すにょ~!」

「……銀羅ちゃん……何か私、逆に気持ちが削がれそうなんだけど……」

「歩君! (コンビネーションプレイで)2人の(姉弟)愛の繋がりを見せつけちゃおうね!」

「……姉さん……その言い方、色々勘違いされそうな気がするよ?」


 それぞれが組んだユニットごとに気持ちを高め合い(一部下落)ながら、位置や動作確認をしていく。

 そんな中、大和は何も言葉を発する事なく、静かに目を閉じていた。


「大和さん?」


 呼ばれて大和が目を開けると、風鈴が心配そうに上目遣いに覗き込んでいた。


「大丈夫ですか?」

「えっ? 何がかな?」

「いえ。ずっと黙ったままなので気になって……」

「ああ、ごめんね。ちょっと気持ちを落ち着けていたんだ」

「そうなんですか?」

「お? どうしたよ、大和! 緊張してんのか?」


 途中から、飛鳥も会話に加わる。


「そうですね。確かに緊張は幾分かはあります。ですが、これは良い意味での緊張感だと思っています。どんな時でも油断しないでいられると思うので。今回は相手が相手だけに、気を緩ませる事は欠片もないですが……総じて、いつも通りですね」

「ハハハ! 良いじゃねぇか、頼もしいぜ! さすがは上位ランカーなだけはあるな! エースとして認められる器だ!」

「ありがとうございます。ですが、自分はまだまだですね。忍足先輩がチームのエースを背負っている事こそ頼もしい限りですよ」


 大和の賛辞に、飛鳥は少し考え事をするように眉を潜め、会話の間を置く。


「……あの生意気女王が近付いてきた時に話してる内容が聞こえたんだよ、チームのメンバーを寄せ集めただけだってな……」

「そうですね、そんな事を言ってたように自分にも聞こえました」

「俺はな、戦線を共に潜り抜ける仲間を寄せ集めと切って捨てるアイツが許せねぇんだよ! チームの認識がねぇだ!? 何様だってんだよ!」


 飛鳥がだんだん感情熱く高ぶっているのが見て取れたが、いつもなら止める役に回る玉守や角華も、それを止めようとしないで語らせる。


「……さっきのエース宣言な、あれはわざとだよ」

「わざと?」

「アイツが俺をエースと認識するかは微妙だが、あの宣言で少なからず俺に意識を置くはずだ。俺を倒したとなれば、それ以外は楽勝とでも思ってくれる事だろう。俺達の最大戦力の大和と千瞳を温存してるとも知らずにな……」


 飛鳥が、大和と風鈴に真っ直ぐな目を向ける。

 いつの間にか落ち着いたその目には、飛鳥の真摯な気持ちが宿っていた。


「この公式戦、鍵になるのは……間違いなくお前達だ、大和、千瞳。お前達の力を活かすためなら、どんな手だって打ってやるさ! 例えそれがあの生意気女王のメンタルに微々たるものしか響かせられないとしてもな! 仲間意識の無いヤツに……仲間の力で勝利をもぎ取るんだ!!」


『ゲームスタートまで、残り1分。安全地帯ゲートオープン。プレイヤーは速やかに所定の位置にて待機して下さい』


 言葉に合わせるかのようなタイミングの良さで電子音声が響き、ゲートが開く。

 飛鳥はハッと我に返ったように、ゲート方向に回れ右で向き直る。


「……お、お前らならやってくれるって信じて託すんだからな! 大した戦果もなく落とされやがったら承知しねぇからな!?」


 背中越しに、照れくさそうな飛鳥の声が響き、ゲートの先にあるフィールドへと続く扉の前で待機する。

 それを見て、メンバーは笑顔で見合わせる。


「(飛鳥ってこういうところがあるって知ってたから、エース宣言してた時は黙ってたのよね!)」

「(まあ、俺は飛鳥もエースを名乗れるだけの存在だと思ったから黙っていたのもあったよ)」


 飛鳥に聞こえないよう、大和や風鈴に小言で耳打ちする角華と玉守。


「(こんな暑苦しい男が先輩って、2人はどう思う?)」

「(自分はむしろ誇らしいですよ。これだけチームを思える人ですから)」

「(私もそう思います! 努力だって凄いしてましたし!)」

「(ふふっ! それを言ったら飛鳥も喜ぶかしらね! 今みたいに照れちゃうかもしれないけど!)」


 飛鳥が喜ぶ、という以上に飛鳥が褒められた事で自身が嬉しそうな角華。


「おい! 何をコソコソ喋ってるんだよ!? 早く位置に着きやがれ! もう時間になるぞ!」

「はいはい、分かってるわよ~!」


 飛鳥の声に返す角華。


「さて、それじゃ最後にいつものように締めさせてもらうぞ……この戦争を楽しんで勝ってくること! 以上!」

「「「「「「「「「「 了解(ラジャー)!」」」」」」」」」」

「総員、出撃準備!」


 玉守の号令を最後に、メンバー全員が待機位置にて静かに開始を待つ。



 ※  ※  ※  ※



「クイーン・サラ、作戦としては……」


 タクティクス・バレットとは反対の安全地帯からのゲート。

 そこで待機しているチーム女王&兵隊。

 作戦内容を話そうとしている仏田に、表面上はクールを装うサラが睨みを送る。


「作戦なんて、ワタシはいつも聞いてないじゃない、仏田。アンタ達はそっちで勝手に作戦を立ててればいいわ。ワタシはいつも通りの事をするだけよ」

「ですよね……」

(……相手チームに探し人がいるかもしれないのに、お構い無しのいつも通り……礼儀を重んじて全力疾走するのも結構ですけど、見つけたいなら少しは加減しないと通り過ぎてしまうでしょうに……)


 答えも決まっているので、仏田も諦め気味。

 口には出さず、何か言いたげな視線だけ返してから、思考を公式戦方向に切り替える。


(まあ、今に始まった事じゃないですし、いつもだったら気にはしないところなんですけど……探し人云々の前に、今日の相手はいつもとちょっと違う気がするんですよね…………何というか、勘でしかなくてはっきり断定出来ないですが……あのチームに得体のしれない大きな何かがあるような……そう、最初にサラちゃんを見た時のような、大きな……)


 仏田は指を顎先に当てながら考え込む。

 チームに挨拶をした時、仏田はタクティクス・バレットの中にあるその気配を、直感で感じていた。

 それと似た感覚は、サラと初めて出会った時にもあった。


(…………まさかとは思いますけど……念のため……)

「……小林君、ちょっといいですか?」


 仏田はメンバーの1人に声を掛け、何かを耳打ちする。


(……ふん……そんなにワタシの事を気にしてるんじゃないわよ、仏田のお節介焼き……)


 チラッと仏田を覗いては、仏田が気付く前に扉に向き直るサラ。


『ゲーム開始10秒前……9……8……』


 公式戦開始のカウントダウンに呼応して、呼吸を整えつつ、サラがだんだん前傾姿勢になっていく。

 体勢からも分かる、フィールドへと一気に飛び出すスタンバイフォーム。


(……今は、思い出の彼がどうとかなんて、考えない……! いつものように……全身全霊で相手に見せつける! ワタシの、絶対的才能というものをっ!!)


『……3……2……1……作戦開始!』


 その電子音声で扉が勢い良く開き、待ちかねたようにサラが飛び出していく。


 その先に待つのは、サラによる殲滅の未来が待ち受けているのだろうか?

 それとも……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る