協調性皆無……チームらしからぬチーム

 女王&兵隊からの挑戦状を受けて、公式戦を行うのを来週の日曜日と設定して返信し、その間に打倒女王&兵隊を掲げて訓練を行ってきたタクティクス・バレットメンバー。

 訓練に訓練を重ねる日々であっという間に時間が過ぎ、その公式戦の当日……

 自分達のホームフィールド、〔DEAD OR ALIVE〕に到着した、チームタクティクス・バレット。


「……こ……こいつは、すげぇ……!!」


 そこでの現状に、飛鳥は目を見開いた根倉笑顔を見せていた。

 普段の〔DEAD OR ALIVE〕では考えられない程に人で溢れていた。

 公式戦開始は午後からであり、準備のために大和達は午前中に入った訳だが、開始時間まで全然先であるにも関わらずの入場者の数。

 これらは、女王&兵隊経由のファンであったり、偵察要員という構成になるのだが、規模がタクティクス・バレットとは桁違い。


「本当に、凄いわね……! 私達目当てじゃないと分かってはいるけど……こんな数の観客がいたことなんて無かったわよね!?」

「これでもまだ序の口だろうな。これは時間的に、席を早く確保する人員であって、開始時間になれば更なる人数が押し寄せてくるだろう事は想像に難くない」


 角華は元より、冷静に説明している玉守も、表情にどこか僅かに浮いた感じが見受けられる。


「ふ、ふええ~っ……! ひ、人が……こ、こ、こんなにいっぱい……!!」

「か、風鈴ちゃん! ふ、不安にならなくてもだ、大丈夫……! この観客の人達が、何かしてくる訳じゃ……な、ないから……!」

「ね、姉さん落ち着いて……! そ、そういう僕も、そんなに……余裕ある訳じゃ、ないけど……!」

「こ、こ、こういう時こそ……! ひ、人という字を、て、手のひらに3回書いて、飲み込めばなんとか……! か、書き順はきちんと復習してきたから今度は大丈夫……あ、あれ? い、今、書いたの何人目だっけ……?」


 という、緊張感丸出しのメンバーもいれば、


「……むふふ! ついにやってきたにょ……大勢の人達にキルちゃん達の活躍を見てもらえる千載一遇のチャンスだにょ!」

「『新河越高校の双子彼岸花』の名前が、全国的に知られるまたとない機会! 女王様に感謝だにょ~!」

「いや~まあキルギラちゃん達が女王以上の実力を見せれば覚えてもらえるんじゃないっすかね? それより、こんなに人いたら、体力温存昼寝をしたら飛鳥先輩に怒られそうっすね……」


 と、緊張とは無縁そうなメンバーもいる。


「狼狽えてんじゃねぇ!!」


 飛鳥がメンバーに向けて、やや苛立ったように声を張り上げる。


「これから人が増えてくるって将希も言ってただろうがよ! 本番はこんなもんじゃねぇんだからな! だがもっと言えば、俺達が目指してるのはWSGC……世界戦の代表ともなりゃ世界中の観衆の目に晒される事になるんだ! 今日の観客数すら及ばないくらいになるんだからな! 目指すもんのデカさを考えりゃ、こんな程度で参ってるんじゃねぇ!」

「は~い、分かったにょ! でもキルちゃんはだんだん楽しみになってきたにょ!」

「人が多い方がむしろ燃えてくるから、ギラちゃんは全然参ってないにょ~!」

「誰もテメェらが緊張するようなタマだと思っちゃいねぇよ!」


 ムードメーカー、というよりムードブレイカーないつもの双子に怒鳴る飛鳥だが、それが良い意味で雰囲気をぶち壊してくれたおかげか、メンバーの緊張感が和らぐ。


「まあ、こういうところはコイツらを見習っていけよ! ここに来た奴らのほとんどは向こう贔屓だろうからな、もしかしたら下らねぇ野次だとか飛ばしてくる輩もいやがるが気にするな! 外野のせいで力が発揮出来ないってんじゃ話にならねぇからな!」


 試合開始前から演説気味にメンバーの奮起を促そうという飛鳥。

 周りでは、その様子を見る見学者が好奇な視線を送ってきており、メンバーの中には恥ずかしそうにしている者もいたが、そんな飛鳥に近付いて来る存在があった。

 最初に気付いたのは、玉守と角華。


「おい、飛鳥……」

「今から相手するのは埼玉最強だなんて言われてるチームだが、臆する事はねぇ!! やれるようなら遠慮無くぶっ倒せ!!」

「ち、ちょっと飛鳥……!!」

「だあぁ~何だよ将希に角華! 俺はこれから打倒女王&兵隊のためにコイツらに気合い入れさせようとしてだな……」

「あらあら、それは勇ましいですね」


 背中側からの声に飛鳥が振り返ると、頭を剃り上げた長身の男がにこやかな笑顔で立っていた。


「ぬおぉ!! テ、テメェは女王&兵隊の……!!」

「はい。越山高校サバイバルゲーム部の部長、女王&兵隊サブリーダーの仏田安平です、よろしくお願いします」


 打倒を掲げようとした相手チームの部長いきなりの登場に初めは驚いた飛鳥だったが、それを聞いていたにも関わらず気にする事なく丁寧に挨拶してお辞儀をする仏田を、今度は困惑して眺めていた。

 飛鳥が更に何かを言う前に、玉守が歩み寄ってきた。


「新河越高校サバイバルゲーム部の部長で、タクティクス・バレットのリーダー、玉守将希だ。わざわざこちらまで足を運んでくれたことに感謝するよ」

「いえいえ。挑戦状の申請を頂きながら、逆にこちらから挑戦状を送り返すとしたにも関わらず、受け付けて頂きましてありがとうございます」


 玉守は爽やかに、仏田はにこやかに、それぞれが部長らしく落ち着いた笑顔で握手を交わす。

 それから仏田は、他のメンバーにも同じような柔らかい対応で握手して回る。


「皆様、本日はどうぞよろしくお願いします」

「お、おう……って、今来てるのはアンタだけか? 他のメンバーというか、あの例の女王……サラって奴も来てたりするのか?」


 飛鳥も握手を求められ、少し引き気味に応じながらも仏田に問う。


「いいえ、サラちゃんは毎回ですけど時間ギリギリになってから来ますよ。他の人達も、今日の開始時間の1~2時間前を目安に到着する見込みです。私は、フィールドの感触を掴んでおきたいので、先に来ただけでしてね。見させて頂いてもよろしいですか?」

「部長自ら下調べとは真面目だな。もちろん構わないよ。仏田、君なら分かっているだろうが、公式戦で使われるフィールドは今や国の管轄だからな、俺達が占有出来る訳じゃない。構造の事前確認は行われて然るべきだし、俺達に断る権利は無いよ。良かったら、俺が案内しようか?」

「あらまあ、玉守部長直々に案内して頂けるなんて光栄です。お願いしても良いんですか? 相手に塩を送るような形になると思いますけど?」

「もし逆の立場なら、君が案内してくれそうだと思っただけなんだがな。フィールドの案内くらい、どうという事は無いさ。こちらの戦術まで明かす訳でもないしな」

「そうですか。私も確かに案内してたかもしれませんね、うふふ。では、お言葉に甘えさせて頂きます」


 男ながらにコロコロと笑う仏田を、玉守は特に気にせずフィールド案内のために連れ出していく。


「……仏田部長自らフィールド視察とは……良い見方をすれば真面目で熱心な部長であると捉えられますが、メンバーが全くいないのには何か理由でもあるんでしょうか?」

「そうだよな。フィールドを見て回って作戦考えるってんならチーム全員で回りゃ良いのによ。まあ、フィールド内部の地図なら各フィールドの運営が配布してるから、それだけで事足りるのかもしれねぇが……」


 談笑しながらフィールドの奥に消えていく部長2人を見送りながら、大和と飛鳥はふと気になった疑問を口にする。



 ※  ※  ※  ※



「……ふむふむ、ここはあっちの道と繋がっているんですね……そしてあちらの道は……なるほど、さっきの道の分岐がここになるわけですね……」

「おっと仏田、そこの道は少しだけ荒れているからな、地図を見ながらだと躓くかもしれない。一応気を付けてくれ」

「あら、本当ですね。教えて頂いてありがとうございます、玉守部長」


 〔DEAD OR ALIVE〕のフィールド内部を地図と照らし合わせながら確認して進む仏田と、案内の玉守。

 ある程度時間をかけ、仏田は詳細を理解したようだった。


「大体、ここの構造は把握しました。玉守部長、私のような、本来なら相手チームの人間であるにも関わらず、親切丁寧なご案内をして頂けまして、重ねてお礼申し上げます。ありがとうございます」

「気にすることはないさ。敵味方なんて言ったところで、実際に憎しみあっているわけではないからな。遠くからわざわざ来てくれた相手に対して、それくらいはしておきたいと思っただけでな」

「そうですか。お気遣い、感謝いたします」

「ただ、少し気になったんだが、聞いてもいいか?」

「はい、何でしょうか?」

「ここの構造を理解するなら、他のメンバーも一緒の方が良いかと思ったんだが、1人で見に来ても問題はなかったのか?」


 玉守も、大和達と同じように気にしていたようで、仏田にその疑問を振ると、仏田は一瞬言葉を詰まらせる。


「……ご心配には及びませんよ。私が詳しく覚えていれば良いだけなので。こちらの戦術はご存知かと思いますが、基本的にサラちゃんがほとんどメインで動くようになるので、そんなに覚える事も無いんですけどね」

「だが、肝心の女王も来てないようだが……」

「サラちゃんは天才ちゃんなんですよ。だから、私達が気にかけるまでもないという事みたいです」

「……そういうものなのか?」

「はい。とりあえず、この話題はこれで切り上げさせて頂いてもいいですか? 一応、こちらの戦術に関わる事にもなりますので……」

「あ、ああ、そうだな。すまない」

「いえいえ。それではまたのちほど……」


 深々と頭を下げ、仏田は一番近い出口に向かう。


(……戦術、か……本当にそれだけなら良いんだが……)


 仏田の立ち去る後ろ姿に、どことなく寂しさを感じた玉守。

 それは、質問した際の仏田の表情でも、笑みの中に同様のものを感じていた。


(……埼玉最強という看板……しかしそれは、チームとしての名声であると胸を張って言えるものなのかどうか……なんてな。そんな事を考えてると飛鳥が知ったら、呆れられてしまうかもな)


 これから対決する相手にも関わらず、その内情にまで気を回してしまう玉守だった。



 ※  ※  ※  ※



 公式戦の開始時間が刻一刻と近付き、女王&兵隊のメンバーが1人、また1人と集まり始めてくる。

 それと比例するように観客の数も増えていく。

 偵察のために撮影の準備をする者もいれば、アイドルファンが応援するような揃いの服装で何やら打ち合わせをする者達もいる。


「う~ん、羨ましいにょ! あんなにファンが付いてるなんて、さすがは女王だにょ!」

「これで今日勝てたら、あのファンがこっちに付いてくれたりするなら、もっとやる気が出るにょ~!」

「キルギラちゃん……ファン争奪戦じゃないんだから、変な目立ち方だけはしないでね……?」


 相変わらずなポジティブ思考を発揮する双子に、香子が突っ込む。

 緊張していたのも、ようやく落ち着いた様子。

 桂吾は近くの椅子に腰掛け、顔合わせの時間まで寝て待っている。

 タクティクス・バレット側は全員、サバイバルゲーム用の迷彩服と特殊ベストを着込み、各自エアガンも用意してある。

 もちろん、〔S・S・S〕も既に完了しているのだが……


「……もう少ししたら顔合わせの時間だってのに、向こうのチームは準備どころか、未だ全員集まらず……舐めてんのか、アイツら……!!」


 のんびりとした雰囲気の女王&兵隊の状況に、飛鳥はギリギリと歯を食いしばる。


「一通り見てみましたが、女王の姿も見かけないですね」


 大和が見ている先には、仏田の姿があった。

 仏田は到着したメンバーから順に地図を見せつつ、身振り手振りを交えて何やら話している。

 大まかな作戦を伝えているものと察した。


「時間まではまだちょっと先ですから、問題無いと言えば無いですが……」

「それにしてもチンタラし過ぎなんだよ! フィールドやら戦術の確認のためにもっと早く来るのが普通だろ! しかも初めての場所でよ! それにバラバラに来るのも納得いかねぇな! チームなんだから集まって来いってんだ! 何で現地集合なんだよ!? まともなのは、あの仏田って部長くらいじゃねぇかよ!」

「仏田から聞き取った限りでは、一枚岩のチームではない印象を受けたのは確かだな」


 大和と飛鳥の会話に、玉守も加わる。


「女王と仏田、そして他のメンバーという構図で分かれているイメージを感じたな。小波君によれば、今集まっているメンバーは女王&兵隊結成当初から変わらないメンバーらしいが、元から仲間意識が強い訳でもなかったようだな。あれだけバラバラなチームにも関わらず、県内無敗を続けられてるという事だが……」

「それもこれも、全てはサラ……彼女のスペリオルコマンダーとしての実力によるものという事実ですか……」

「強いやつが1人いれば、メンバーがバラバラでも問題無いってか? たまたま、うちにもスペリオルコマンダーはいるが……なあ、千瞳?」


 飛鳥が風鈴に呼び掛ける。


「は、はい!」

「お前は経歴は浅いが、既に俺達の中で1番強い事だろう。なら、お前1人だけで十分だと思うか?」

「そんな事は無いです! 私はまだまだ経験不足ですし、知らない事はたくさんあります! それに、例え経験が積めたとしても、メンバーの皆さんとはずっと一緒に戦っていきたいです! チームってそういうものだと思います!」

「だよな? 良い答えだ、千瞳! その通りだ! だからこそ、俺は女王を認めたくねぇ! いくら優れた個人技を持とうと、連携の流れで活かすつもりがなきゃ、それはチームじゃねぇ! ワンマンプレイより、ワンフォーオールの精神がサバゲーじゃ必要なんだよ!」


 普段は根倉と言われる飛鳥が、サバイバルゲームの中では熱く語るのもタクティクス・バレットではお馴染みな光景であり、ここから角華と言い争いになったり、双子に弄られるのが常になるのだが、そうなる前に突如大きな歓声が〔DEAD OR ALIVE〕の外から響き渡る。


「……どうやら、観客にとっての主役がようやく到着したようだな」


 玉守が見据える先をメンバーも追っていくと、入口からやってきたその姿を全員が視界に捉える。

 黄金のウェーブショートに青水晶色の瞳、シルクホワイトの肌という西洋を象徴するような美しさを持つ少女を遠目からでも確認出来た。

 女王&兵隊のリーダーにして、雷閃の女王という異名を持つ絶対的主戦力、サラ・ランダルタイラー。

 彼女の出現で、その場の空気が一気に変わる。

 最初こそ興奮気味だった観客の歓声も、サラが歩を進めて施設に入ってからは逆に静まりかえる。

 そして歩く進行方向に合わせて道の先にいた観客は、邪魔にならないように左右に分かれ、テーマパークのパレードのように人の道が出来る。

 その人の道の到着地点は、タクティクス・バレットメンバーのいるところ。

 悠然とした足取りで近付いてくるサラを迎えるタクティクス・バレットチーム、緊張感を隠せず黙りこむ。

 この事態に気付いた仏田が、慌てたように走ってきてサラと途中で合流する。


「サ、サラちゃ……!! ん、んんっ……!! ク、クイーン・サラ……!」


 サラちゃんと言いかけたのを喉奥に押し込めて言い直す仏田を、サラは睨み返す。


「……何よ? 仏田」

「い、いえ、来たなら相手チームの皆さんのところに向かう前にまず私のところに寄ってもらいたかったんですよ……」

「……何でわざわざ、アンタのところに寄らないといけない訳?」

「そりゃあそうですよ、クイーン・サラ。まず、来たばかりで私服のままじゃないですか。それに〔S・S・S〕だってまだですし、うちのチームメンバーはひとまず全員来てますけど準備も出来てないですし……せめて、顔合わせの時はお互いに集まって挨拶するのが礼儀……」

「顔合わせの時に私服だろうと、〔S・S・S〕が済んでなかろうと、公式戦開始に間に合えばルール上は問題無いじゃない。むしろ感謝して欲しいくらいだわ。本来、顔合わせなんてしなくても良いところを、わざわざ出てきてるんだから。あと、ワタシは別にチームの認識なんて持ってないわよ。サバゲーはチームじゃないと公式戦出れないから、仕方なく寄せ集めただけだもの」

「寄せ集めだなんて言わないで下さいよ、もう……って、話してたら着いちゃいましたね……はぁ~~……」


 仏田としては多少説得しておきたかったようだが叶わず、チームメンバーもろくに集まらないまま、サラと仏田だけでタクティクス・バレットとの顔合わせ。

 まずは、仏田からの挨拶。


「……コホン! え~皆様、本日はお招き頂きましてありがとうございます。とりあえずは全員揃いましたが準備がまだでして……時間も押してしまったので、先にご挨拶をさせて頂きます。私自身はもう朝に挨拶に伺ってご存知のことと思いますが改めまして……越山高校サバイバルゲーム部部長、チーム女王&兵隊のサブリーダーの仏田です。そして……」


 仏田はここで一度サラの方を見てみるが、サラは不機嫌そうにそっぽを向いていて挨拶しようという気配も無いので諦めた。


「……こちらが、チーム女王&兵隊のリーダーのサラちゃんです。女王とか、クイーン・サラと呼ばれるのを好むみたいなので、良かったらそうお呼び頂ければ……」

「だからちゃん付けはやめてよ、仏田! それに軽々しい説明してるんじゃないわよ。それじゃ単なるあだ名みたいじゃない。もっと敬意を持たせて呼ばせなさい……って、時間も無くなるし、もういいわ……それはそうとアンタ達」


 挨拶する気は無いが、自分勝手に会話に入り、タクティクス・バレットのメンバーを呼ぶサラ。


「呼んだかな?」


 部を代表して、部長の玉守が対応。


「……! アンタが、リーダー?」

「ああ。新河越高校サバイバルゲーム部部長、チームタクティクス・バレットのリーダーの玉守将希だ。よろしくな」


 背の高さからなのか、少し驚いたように見上げてくる背の低いサラに、玉守はいつもの落ち着いた対応で握手を求める。

 対するサラは、玉守の手を少し見ただけに留めて握手には応じなかったが、玉守の顔をジッと眺める。


「……? 俺の顔に何か付いてるかな?」

「……っ!? な、何でもないわ!」


 サラは玉守の問いにハッとして、顔を背ける。

 心なしか、顔が少し赤い。


(……あら? サラちゃん、いつもと反応が違いますね? これはもしかして……)


 この反応に、今までサラを見続けていた仏田が何かを感じ取る。

 いつもと違うらしい反応を見せたサラは、深呼吸を1つしてから自身を落ち着かせ、改めて玉守に向き直る。


「……リーダーやってるくらいなんだから、アンタが1番の実力者って事で良いのかしら?」

「どうかな。部長やリーダーというのは他の皆が推してくれたのでやってはいるが、それで1番であるかは別だと思っているよ。もちろん、皆の手本となれるよう、訓練を欠かした事は無いけれどね」

「じゃあ、誰が1番なのよ?」

「俺個人は1番を決めたいと思わないが、候補ならいる。だが、1つだけ聞かせて欲しい。何故、そこまで1番の相手に拘るのかな?」

「そ、それは…………べ、別に何でも良いでしょ!? 単純に興味あるだけなのよ! 悪い!?」


 玉守の返しに一瞬言葉を詰まらせた後、一気に捲し立てるようにサラは反論する。


「……いや、こちらもこちらで気になっただけさ。興味あるというなら、それは構わないよ。さて、1番の実力者という事だが……」

「チームのエースが誰かってんなら、それは俺だ!」


 玉守が答える前に、後ろからやってきていた飛鳥が名乗り出る。

 いきなり乱入してきた飛鳥に、サラは怪訝そうな顔を見せる。


「……アンタが?」

「そうだ! 新河越高校3年、忍足飛鳥だ! 良く覚えておけよ? 今日の公式戦で俺がテメェを仕留める事になるかもしれねぇんだからな! 県内最強の看板は、公式戦無敗の記録と共に撃ち落としてやるよ!」

「……凡人の分際でワタシにそこまで言えるのは大したものだけど、所詮は弱さを隠す 愛玩犬ペットの遠吠え……アンタこそ、今日ここで格の違いを思い知る事になるわ」

「誰が愛玩犬だってんだ!? せめて狩猟犬ってとこだろ!」

「自分が犬だって認識じゃ実力の高も知れるというものね……」

「先に犬の喩えを持ち出したのはテメェの方だろうが!? この女王気取りのちんちくりんが!!」

「……っ!! ちんちくりんって失礼ね!! そしてワタシの事はクイーン・サラと呼びなさいよ!! 根暗を拗らせて独りよがりなプレイで満足してそうなポンコツエース!!」

「くおおらぁぁ!! テメェまで飛鳥よがりとか弄ってくるんじゃねぇよ!! 失礼なのは対して変わらねぇじゃねぇか!!」


 だんだんと、見るに堪えない言い争いに発展してきた2人。

 飛鳥は更にヒートアップしてきたが、最初は冷たさを装ってみえたサラの方も、感情を荒ぶらせてきた。

 近くに控えていた玉守と角華、そして仏田が慌ててそれぞれを引き剥がす。


「飛鳥、落ち着け! 名前は別に、意識して言ったんじゃないはずだぞ!」

「そうよ! それにアンタは普段からボッチしてるんだから、プレイスタイルだって反論しきれないでしょ!」

「こらぁ角華!! ボッチ言うんじゃねぇよ!!」

「クイーン・サラも落ち着いて! 相手の方はサラちゃんに慣れてないだけですから、そんなに目くじら立てちゃダメですよ!」

「だからって、レディに対してちんちくりんとか失礼極まりないわよ、あの男!!」


 お互いに火花が散りそうな睨み合いは、当人同士は大人げない罵り合いも含むやり取りではあったが、サラも飛鳥も表情の中に迫力が備わっており、外側で見ている方は未だ緊張感が解けなかった。


「……フン!」


 先に視線を外したのはサラの方だったが、それが飛鳥の圧力に屈したからではない事は誰もが理解出来た。


「いいわ、そこまで自信があるというなら、見極めてあげるわ。無様なリザルトを記録させないよう、せいぜい努力する事ね。もっとも……そんな努力すら無駄に終わる絶望を味わう事になると、覚悟もしておきなさい…………仏田!」


 振り返る勢いそのまま、サラは仏田を呼ぶ。


「はいはい、どうしました? クイーン・サラ」

「シャワー室はどこ? 〔S・S・S〕使うから案内なさい!」

「それは構いませんが、もう顔合わせの挨拶は終わりですか?」

「これ以上言うことは何も無いわ。後はフィールドでのリザルトだけが全て……さあ、行くわよ!」


 サラはそこから仏田と共に早足でスタスタと離れ……


「ま、待ってくれ!」


 その背中に、声が掛けられる。

 サラは立ち止まるも、何も反応しない。

 声を掛けた者は、それで察する。


「……待ってくれ、女王」

「……誰?」


 それでサラは後ろこそ振り返らないが反応し、問いかける。


「新河越高校2年、赤木大和」

「……まだ何かあるの?」

「俺にも1つ聞かせて欲しい、女王。君は……サバゲーを楽しめているか?」


 その質問に対し、サラはしばらく何も言葉を発する事なく、動きも止めてしまった。

 背中だけを見つめる大和には、サラが今何を考えているかを窺い知る事は出来ない。


「…………サバゲーを楽しむ認識だなんて、必要無い……そんなものはもう、持ち合わせてないわ……ワタシはワタシ自身を納得させるために、戦い続けるだけよ……戦いに勝つ事を突き詰めれば、楽しむなんて気持ちが如何に無駄なものであるか……アンタ達に、厳しい現実でもって分からせてあげるわ!」


 結局振り返らないまま、サラは仏田を案内させながらシャワー室に向かっていった。


(……勝つ事を突き詰めれば、か……間違ってはいないかもしれない……でも、楽しく思えないものを続ける事は、辛いだけだと思う……)


 大和はサラの後ろ姿を目で追い続け、いなくなってから自分も振り返ると、メンバーが待っていた。


「俺は、楽しむ事は重要だと思ってるぜ、大和!」


 声を掛けたのは飛鳥。


「へえ~飛鳥、アンタも楽しむ事は重要だと思ってるんだ? 普段、あんなに訓練とか厳しくしてるくせに」

「勝負に勝つための努力をするのは当然なんだよ! だけどな、勝負の先に互いを認め合えるようにするためには、結局楽しむ気持ちは大事だってこった! あの女王気取りは相手を……今日は俺達だが、完全に見下してやがる……! やっぱりアイツを認めたくはねぇな!」

「さすがは我らがボッチ先輩、エースを名乗るだけはあるにょ!」

「今度から、孤独エース先輩に改名するにょ~!」

「テメェらはテメェらで俺をディスり過ぎなんだよ!! だが、とにかく今回はいつも以上に勝ちに拘るからな! 気合い入れてけよ!!」

「「「「「了解!」」」」」


 鼓舞する飛鳥に呼応する後輩メンバー。

 チームタクティクス・バレットも作戦の最終確認のため、自陣の安全地帯内にある部屋に集まっていく。


 いよいよ開始となる、チーム女王&兵隊との公式戦。

 サラ達はまだ知らぬことではあるが、事実上のスペリオルコマンダー同士の対決。

 絶対的存在とされるサラによる、鮮やかな完全試合達成が大部分の観客達の見込みではあるが、この対決はどちらに軍配が上がることになるのか?

 女王と呼ばれるサラに、風鈴の力は通じるのか?

 そして、その先にどのような結末が待っているのか?


 この戦いの未来を予測しうる者など、今のこの場には存在しない。

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