雷閃の攻め、仏の守り

 WEE協約締結によってサバイバルゲームが急速に普及した現在、インドア、アウトドアを問わずフィールドでは日々、訓練をするチームで溢れていた。

 規模が大きなチームや高ランカーのメンバーが集うチームほど注目度も高く、それらの対決はフィールド運営の一存で見学自体にお金を取る場合もあるほどの熱狂ぶり。

 注目されるようになれば富や名誉に繋がる訳だが、その最高峰がサバイバルゲームの世界大会と言われるWSGC。

 高みを目指すのに本気なチームはこのWSGCを目標とする。

 そしてそれは、新河越高校サバイバルゲーム部チーム、タクティクス・バレットも同様。

 今日もメインフィールド、〔DEAD OR ALIVE〕で実戦を含めた訓練で汗を流していた……



 ※  ※  ※  ※



 木製の壁や人工物に囲まれた迷路のようなフィールド、〔DEAD OR ALIVE〕内を縫うように駆け抜けるプレイヤーが1人。

 タクティクス・バレット随一の素早さを持つという、明石桂吾。

 その速さはかなりのもので、灰白色の髪を後ろに流しながら軽快にフィールドを走っていく。

 しかし速いだけで勝ち抜ける訳でもない。

 普段の桂吾なら周囲に気を配りながら、壁から壁を抜ける時も敵の動きを確認したりもするのだが、今は全くそんな素振りもなく、ただ駆け抜け続ける。

 もちろん、これにも理由があった。

 桂吾が次の壁から壁へと移ろうと体を出したその一瞬、僅かに出ていた体の部分に弾が命中した。


「うっ……!」


 当たった反応で体を下げるも、ベストは被弾のため赤く変色。


『よし、ご苦労だったな桂吾!』


 ベストの変色のすぐ後、桂吾のイヤホンの無線に、飛鳥の声が入る。

 通路から顔を出して左右をきょろきょろ探ると、少し先の壁の裏から飛鳥が出てくる。


「あ~……凄いっすね、狙い通り。さすが忍足先輩……」

「ふっ! これくらいは当然だな。とりあえず、入口に戻るぞ」

「了解っす」


 一瞬どや顔を見せてから入口方向を指し示して歩き出す飛鳥を追うように、桂吾は先ほど軽快に走っていた時とは反対に、ゆったり歩きながら集合場所に向かう。


 数分後、フィールドの入口に桂吾が到着した時には、ほとんどのメンバーが集まっていた。


「ただいま戻りましたっす。いや~飛鳥先輩、相変わらず狙いが鬼凄っすよ」

「ふん、もっと前段階で狙えたはずだったからな、俺的にはまだ満足しちゃいねぇよ」

「いやいや、それでも凄過ぎ……ってあれ? 玉守部長は?」

「玉守君なら席を外してるわ。生徒手帳を見てたから、何かしらの連絡だと思うけど……」


 桂吾はここにきて、玉守だけがいない事に気が付いた。

 桂吾の疑問に答えたのは角華。


「どっかの誰かと違って、将希はサボりやがらねぇから抜けても安心だな!」

「……どっかの誰かって俺の事っすか? 何を言ってますか、俺だってやる時はやるんすよ!」

「確かに、最近は明石君も結構練習を普通にこなすようになってきたわよね」

「今さらかと言いたいとこだがな。真面目に練習やるようになったのは良い事だな」

「ふふふ! 新しくきた千瞳さんが頑張っているというのに、俺がやらないでどうするんだって事っすよ! だから、もっと体力温存出来るよう……居眠りする授業を増やしたんすよ!」

「授業も真面目に受けろやバカ野郎!!」


 親指立てた拳をドヤ顔で突き出す桂吾の頭を平手でひっぱたく飛鳥。


「……痛って~……! 飛鳥先輩、これはパワハラっすよ、パワハラ」

「やかましい! 補習とかでデカイ公式戦出られなかったらどうするんだよ!!」

「飛鳥、その辺にしておきなさいよ。それより、風鈴ちゃんに教える事あるんでしょ?」

「おお、そうだった! おい、千瞳!」

「は、はい!」


 飛鳥の意識が桂吾から風鈴にシフトして呼ぶと、後ろに控えていた風鈴が緊張感を持って応じる。


「どうだ? さっき桂吾を狙った俺の射撃は見てたか?」

「はい! 『 俯瞰図スカイビューマップ』で上から見てました!」

「……何もねぇのに上からって言われてもいまいちピンと来ねぇが、まあ良い! これが俺の考えた女王対策の1つ、『置き』と呼ばれる射撃テクニックだ!」

「『置き』……ですか?」


 聞き慣れない言い方に首を捻る初心者の風鈴に、飛鳥は頷く。


「千瞳、お前は今までそのEXSを活用して、壁や障害物を移りながら慎重に進んでくる敵を撃ち落とすという、初心者とは思えない実力を示してきた。それは凄いと思う。だが、動画に映った奴の動きを見る限り、フィールドを移動する速度が速すぎて狙い遅れる可能性がある。そういう奴を討ち取るのにうってつけなんだ!」

「そうなんですか?」

「ああ! すぐに身に付くようなものでもねぇが、千瞳のEXSを考慮すれば不可能じゃねぇと思うし、損はねぇはずだ! 覚える気はあるか?」

「はい! お願いします!」

「良い返事だ! じゃあ早速やってみるぞ! 桂吾、千瞳への説明が終わったら、仮想女王の的役をまた頼むぞ!」

「了解っすよ~!」


 そこから、飛鳥の熱血指導が始まる。


 飛鳥の言う射撃テクニック、「置き」というのは相手の動きを予測して弾を当てていく技術の事で、相手の進行方向の少し先にずらして狙い撃ち、ちょうど当たるように仕向けるもの。

 罠を置くようにしてゴールテープを切らせるイメージで狙い撃つ、と言えば分かるだろうか。

 飛鳥は風鈴、的役の桂吾、そして状況に応じた(パシリ含む)手伝い要員の水城姉弟を引き連れて、フィールドの障害物を利用して、遠くからでも聞こえる声で指導している。


「忍足先輩、今日も凄く気合いが入ってますね」

「まあ、飛鳥はやり過ぎる事も多いから、気合い入れるのは良いとしても、ほどほどにさせないと……しばらくしたら、私も行ってくるわ。風鈴ちゃんとか香子ちゃんとか歩君が心配だから……」


 飛鳥達を眺めながら、角華に話しかける大和。

 角華は見送ったは良いが、心配そうにしている。

 ちなみに、桂吾が抜けていた事については、桂吾なら心配ないと思われているのかもしれない。


「それにしても『置き』ですか……覚えておけば損は無いかもしれませんが、通常は千瞳さんみたいに経験が浅いプレイヤーがすぐに出来るものでもないはずですけど……」

「うん。それだけ飛鳥が風鈴ちゃんに期待してるってことなのよね」

「そうですね。確かに今の千瞳さんなら、すぐに出来てしまいそうな気にさせてくれますね」


 まるで我が子を見守る親のように、飛鳥の説明を一生懸命聞いている風鈴を微笑ましく眺める大和と角華。

 そう……飛鳥が教えようとしている「置き」という技術は、説明するだけならば簡単だが実際にやるとなると難易度はかなり高い。

 狙った場所に撃てるのはもちろん、相手の動きの速度や癖、弾の到達時間まで意識しなければ狙い通りに当てる事は出来ない。

 本来なら場数を踏んだ熟練者の域に達して精度を上げられるようになるのであり、経験値の低い風鈴がいきなり出来るものでもないのだが、それでも飛鳥が風鈴に「置き」を教えるのは、やはり風鈴の反則レベルなEXSに期待しての事。


「飛鳥が『置き』を割と得意にしてるのもあるんだけど、小波ちゃんがこの前言ってた、サラって子のEXS性能の推測があったでしょ? あれを聞いて、備えさせようとしてるみたいなの」


 角華が言っているのは数日前、サラのEXSの性能を小波が推測したことの話である。


『小波が思うに、あれは動体視力を高めた超反応ですよきっと!! でないと、あんなに早く動けて避けられるはずがないですから!!』


 との事。


「あれを聞いた時に飛鳥、『それなら死角から狙い撃ってやればいいだろうな!』って、考えたみたいなのね。赤木君はどう思う?」

「……動体視力からくるEXSということなら、その攻略法も有効だとは思います。ただ、本当に動体視力によるものなのか? という疑問があるのですが……」

「そうなのよね……私もそんな簡単に決めつけるべきじゃないとは思うし、飛鳥にもそれとなく言ってはみたんだけど……」

「忍足先輩はなんと?」

「『どうせ相手が教えてくれる訳でもないからな、それぞれ考えて片っ端から試してみりゃいいさ!』だって……」

「なるほど。確かに悩み過ぎて作戦の方向性が決まらないままでいるよりはいいかもしれませんね」


 決めたら深く考えるよりもその精度を上げる時間に費やせと飛鳥が言ってきそうな気がして、大和は声には出さず、軽く笑みだけ浮かべる。


「皆さ~ん!!!」


 聞き覚えのある大声が遠くから聞こえてきて振り返る大和と角華。

 かなり先の方から手を振りながら歩いてくる小波を見つけたが、隣には玉守も一緒に歩いてきていた。


「あら、玉守君も一緒だったのね?」

「ああ、途中で小波君を見かけたのでね」


 そういって頷く玉守。

 小学生的な小ささの小波と、背が高く体格も良く顔が年齢の割に若干渋い玉守が並ぶと、まるで親子のようにも見えてしまう。


「すいません!! 今日は新聞部の方でやることがあって、遅くなりました!!」

「えっと、小波ちゃん……元々、そっちのが本業なんだろうから、別にそれは構わない……っていうか、新聞部の方は大丈夫なの?」

「はい!! 最近、ネタがしょぼいのしかないからつまらない新聞しか作れないとかで部長が嘆いていました! こちらに来ているのは話してありますし、サバゲーに関することで良いネタを仕入れてきて欲しいって、むしろ応援されながら送り出されましたよ!!」

(……そんなんで新聞部、良くやっていけてるわね……廃部になったりしないのかな?)


 目の前で特に気にもしなさそうな笑顔の小波を見ていて、新聞部に少し不安を感じた角華だった。


「新聞部については大丈夫です! 今は皆さんのサポートに全力を注ぎますので、心配無用ですよ!!」

「頼もしいことだな。新聞部には申し訳ないが、ありがたく甘えさせてもらうよ。それで、どうだったかな? 小波君にはサラ、そして女王&兵隊の攻略のための情報提供をお願いしていたのだが、ここに来たからにはそれなりの調べはついたということかな?」

「そうですね!! 少しだけでも前進させるための情報は持ってきたつもりです!!」

「そうか。なら、確認のために一度皆を集めよう。俺の方も報告する事が出来たから、一緒に話す事にしよう。大和君、すまないが皆を呼びに行ってもらってもいいかな?」

「分かりました」


 大和は練習をしている部員を呼びに走っていった。


 20分後、フィールドの安全地帯の中にある建物の中に、部員が全員集まる。


「さてと、小栗! 集めた情報とやらを公開してもらおうか! 攻略成功のためにも必要なんだからな!」

「分かってますよ、ボッチ先輩!! 小波の考察も交えながらお話させてもらいますね!!」

「相変わらず声がデケェな!! そしていい加減ボッチは止めろってんだよ!!」

「分かりました!! 次から気を付けますねボッチ先輩!! では、女王&兵隊攻略に向けた情報公開といきます!!」


 もはやお馴染みないつものやり取り、飛鳥弄りをこなしつつ、小波は話し始める。


「女王&兵隊というチームを調べていて分かったのですが……女王個人はもちろんですが、チーム全体としても少し厄介な戦い方をしてきますね」

「厄介な戦い方? どんなやり方だってんだ?」

「このチームはですね、女王と部長の仏田という人以外、ランク上は大したことはないチームなんです。下位ランカーのメンバーがほとんどという極端なチームで、一見すると女王以外は気にする必要が無いように思えるんですけど、そう簡単にはいかなさそうです」


 サラの特攻が目立っていた女王&兵隊の戦術だったが、小波の調べで判明した本当の形……それは、サラとそれ以外とで攻めと守りを完全に割り切った極端過ぎる布陣。

 サラの絶対的な回避能力からくる攻めを基本としつつ、その他のメンバーがユニットを作って相手チームを寄せ付けない堅固な守りを展開する。

 メンバーのランクが低いのは守備ユニットが積極的にヒットに向かおうとしないからであって、全く攻撃をしない訳ではなく、近くに来た敵を迎撃する能力自体はかなり高い。

 その守備ユニットを率いるのが、部長の仏田。

 サラだけの一本槍なチームに見られがちだが、どうやらこの部長もなかなかの曲者なようで、相手の攻め手を封じるために人員を配備して指揮を取る防衛のスペシャリストとされる。


「そんなに凄い人だったのか、先方の部長は……」

「そうなんですよ、赤木先輩! 守りの指揮官として有名な人で『鉄壁の千手観音』と呼ばれていたとか。今は女王がその攻めを遺憾なく発揮していて、そちらの方が有名になってしまったみたいですけど……」

「あれ? サラの攻略とかじゃないのかな? てっきりそれを教えてくれるものだとばかり思ってたんだけど……」


 小波の話に首を傾ける浩介だったが、飛鳥がフン! と鼻を鳴らす。


「アホか、ボケ浜! 確かに女王野郎の攻略は優先課題だがな、個人を倒せば済む話じゃねぇよ! 基本はチーム戦だからな! 制限時間までに相手チーム殲滅させるのを目指す以上、他の奴らの情報もあるに越した事はねぇだろ!」

「うっ……すいません……」

「……女王の強さについては相変わらずですよ、浜沼先輩」


 飛鳥が怒鳴るだけでなく、小波も少し冷めたような目を向けてくるため、浩介は黙り込んでしまった。


「……コホン! とにかく、チームに勝とうと思ったら重要なのは2つ!! 女王自体を何とかする事と、仏田ユニットを崩すという事!! ですよ!!」

「なるほど。アタッカーとディフェンダーの極端な構図になる訳か。かなり偏った分担ではあるが、それが正常に機能している以上、崩すのは容易ではないな。ふむ……さて、どうするべきか……」


 相手チームの戦力状況を理解し、打開策を立てるために思案しようとした玉守に、


「玉守部長、自分から提案があります」


 大和が軽く挙手をする。


「何かな? 大和君」

「こちらも、同じような形で迎え撃ってみてはどうかと思うのですが……」

「同じような形?」

「はい。千瞳さんのユニットと、それ以外のユニットで分けて、それぞれのユニットをぶつけるんです」

「ふえっ!? わ、私ですか!?」


 急に自分の名前が出てきた風鈴は少し焦り気味な反応。


「そうだね。千瞳さんなら、出来ると思っての提案なんだ」

「ほほう! なるほどな。目には目を、って訳か! 面白そうじゃねぇか!」

「うん、風鈴ちゃんならいけるかもしれないわね!」


 大和の提案に飛鳥や角華も賛成してきた。

 他のメンバーも賛成や同意の声が上がる中、


「ち、ちょっと待って下さい!! 何で千瞳先輩なら大丈夫って確信持って言えるんですか!?」


 ただ1人、疑問を投げかけてきたのは小波。


「……そういえば、小栗ちゃんにはまだ千瞳さんの事を何も教えてないんだったね? 玉守部長、忍足先輩、そろそろ話してあげてもいいですか? 小栗ちゃんは色々協力的ですし、自分は良いと思うんですが……」

「俺は別に話しても構わないと思っていたが、飛鳥の意見も考慮した上での様子見だからな」

「こ、小波の事、信用してくれてなかったんですか!?」

「そりゃあいきなり部外者から、一緒にやりたいと言われてもすぐに信用したりはしねぇだろ? まあぶっちゃけ、途中から忘れてたってのが本音だけどな」

「ううっ……!! わ、忘れられてたという仲間外れ感が酷いですよ……!!」


 少し泣きかけな小波は、苛められている小学生のような風情で、大和達は少々罪悪感を感じる。

 その後、大和は数分を使って風鈴がスペリオルコマンダーである事、EXSでスナイパーライフルの名手である事を小波に説明した。

 全てを聞き終えた小波、


「…………な……なな……何という事ですか……!! せ、千瞳先輩がまさか……ス……スペリオルコマンダーだったなんて……!!」


 目を見開き驚く。


「どうしてもっと早く教えてくれなかったんですか!!! それを聞いていれば、小波だってあんなにガックリなる事もなかったんですよ!?」

「だから言ってんだろ? 部外者だからすぐに信用しないって……」

「もおおっ!! 意地悪っぷりはさすがボッチ先輩なだけはありますよ!!」

「ボッチ言うなコラァ!! ってかボッチ関係ねぇだろうが!!」


 安定なディスられっぷりにまたも飛鳥の怒鳴りが響くが、小波は気にしてなかった。


「ですが、それを聞いて納得もしました! 女王の事を知ったのに、皆さんが何であんなに落ち着いていたのか……千瞳先輩がいたからなんですね! 凄いです、千瞳先輩!!」

「ううっ……な、何だか恥ずかしい……」


 正面から尊敬の眼差しと言葉を小波から向けられ、風鈴は頬を染めて照れを見せる。


「そうなんだ。千瞳さんもEXSが使えるという事で、純粋な戦力という見方も出来るけれど、千瞳さんのEXSを知っていくと全てにおいて完全じゃないというのも知れたんだ。だから、女王も完全ではない可能性もあってね」

「確かにそうですね!! これは小波も希望が…………はっ!! ま、待って下さい……!! という事は、もしかして……今回の公式戦では、スペリオルコマンダー同士の対決が見られるという事なんでしょうか!!? もの凄い特ダネの匂いがしますよ!!」


 更に期待膨らむキラキラ輝きを増した目を大和に向ける小波だが、大和はちょっと困った笑顔を返す。


「……試合が終わった後なら、それも良いかもしれないけど、今はまだ明かさないでいてもらいたいんだ。もしかしたら、相手に知られたら勝機を失う可能性もあるからね」

「あ、ああ!! も、もちろんそれは大丈夫ですよ!! すぐに公開するつもりもないですし!!」

「それと、俺が考えてる戦術的には、もしかしたら直接対決にはならないかもしれないからね」

「そ、そうなんですか!? ど、どうして……」

「それも、今から提案しようと思っていたんだ」


 大和は、見る相手を小波から玉守に変える。


「玉守部長。今回、自分は千瞳さんとそれ以外でユニットを組むという提案をしましたが、戦術についても1つあります」

「そうか。それは是非とも聞かせて欲しいな」

「はい。では……」


 そこから、サラ及び女王&兵隊対策のための戦術を、大和は部員全体に提案していく。


「…………という感じなんですが、どうでしょうか?」

「……なるほど。それはそれで、ありかもしれないな」

「そう来たか! 良いじゃねぇか!」


 玉守も飛鳥も、そして他の全員もその戦術に納得した。


「うっし! 大分、方向性が固まってきたな! 後はあっちが俺達からの挑戦状を受け付けてくれりゃあ、俺達がチームに入って以来、初の大物喰いを目指せるって訳だな!」

「何を言ってるんだか……まだ私達が勝てるって決まってもいないのに、何だか気が早いわよ……」

「良いんだよ、それくらいの勝ち気で挑むってこった! おい将希! 女王&兵隊からの挑戦状受理とかはされてないのか?」

「いや、調べてみたが挑戦状の受理は行われていなかったな」


 玉守は飛鳥の問いに首を振る。


「……ねぇのか」

「当たり前でしょ? さすがにすぐは受け付けてはもらえないわよ。確か挑戦状を送信したのって、数日前位でしょ? 人気があるチームって他のチームからの挑戦状も多かったはずだし、何ヵ月も前から予約しても未だに受け付けてもらえない事もあるのよ。そんな簡単に受けてもらえる訳……」

「ただし、その女王&兵隊からの挑戦状なら来てるんだがな」

「…………えっ?」


 言葉の意味が一瞬理解出来なかった角華が少し遅れて玉守の方に振り向くと、玉守は自分の生徒手帳を操作し、その画面を示す。


「俺達からの挑戦状は受理されていない。だが、あちらからの挑戦状なら来てるって事だな」


 その意味をもう一度、端的に伝える玉守。


「……う、嘘……な、何で……?」

「マ、マジでかよ!!? 何で向こうから挑戦状が来てるんだよ!?」


 これには角華も、そして飛鳥ですら驚いた。

 全員が集まって玉守の生徒手帳を見ると、確かに女王&兵隊からの挑戦状が送られてきているのを確認出来た。


「……あの、挑戦状を送られてくるのって、そんなに凄いの?」


 事情が良く分からない風鈴が、隣にいる香子に尋ねる。


「そ、それはもう凄い事よ!? 普通のチームならともかく、女王&兵隊位に全国的に知られているような有名なチームなら、それこそ遠い県外のチームからも挑戦状が来る位なの!」

「逆に俺達は全国的に名前なんて知られていない田舎チーム……普通に考えて、俺達に女王&兵隊から挑戦状が来るなんて、あり得ないはずっすよ」

「更に言うと、基本的に挑戦状を送ったチームが、その相手チームの指定するフィールドに足を運ぶのが原則、というより礼儀なんだ。挑戦する意思はあるけど、こっちのフィールドに来てくれ、なんて失礼に当たるからね」

「そう言われてみれば、そうですね」

「ふ……ふふふっ……ふはははぁ~!!」


 香子の説明に、桂吾と大和も補足していたところ、飛鳥が突如高笑いをし出した。

 それを見て、双子が笑顔を見合わせる。


「おおっ! あまりの異常事態にボッチ先輩が壊れたにょ!」

「前からだけど、更に拍車がかかったボッチ先輩の壊れっぷりだにょ~!」

「やかましい!! あまりの僥倖に笑いが出ちまっただけで、これでも正常運転だよ!! だが、何にしてもこいつは最高な状況じゃねぇか! あっち指定のフィールドじゃ勝手が分からない事も多いが、これでこっちが慣れてる〔DEAD OR ALIVE〕に呼び込んで挑めるってもんだろ! 俺達の勝率が上がるってもんだぜ!」


 根倉な凄味全開の笑みで生徒手帳を見ていた飛鳥は、俄然やる気を出して振り返る。


「よっしゃ!! コンビネーションとフィールドの地理も活かして、サラとかいう女王気取りを仕留める! 桂吾、今からまた例のやつの練習行くぞ!!」

「了解っすよ!」


 飛鳥は桂吾を引き連れ、外に出ていく。

 他のメンバーもそれに続く。


「歩君! 私達も頑張ろう! 息ぴったりな姉弟の力を見せちゃおうね!」

「うん! 先輩達に負けないようにしないと!」

「むふふ~! コンビネーションと言えばキルちゃん達だにょ!」

「双子のギラちゃん達こそ、最強の組み合わせだにょ~!」

「小波も、もっと情報が何か無いか探してきますね!!」

「大和さん、『置き』の練習をしてみたいです! 良かったら手伝ってもらっても良いですか?」

「もちろん。それなら、浩介にも来てもらって良いかな?」

「いいけど俺、役に立てるか自信無いよ?」


 ほとんどのメンバーが練習のために建物を出ていき、残るは玉守と角華。


「本当にみんな、頼もしいな。部長として、頑張っているみんなに結果を伴わせてあげたいところだが、こればかりは努力と運の両方が必要だからな、俺が全てどうこう出来る訳でもない」

「気にしなくても良いんじゃない? 自分で努力していけるみんなだから、ちゃんと分かってるわよ! 私も先輩として、みんなに負けないように頑張らないとね! じゃあ、私も行ってくるわ!」


 角華もそれだけ言ってメンバーの後を追い、最後は玉守のみ。

 メンバーがいる間、涼やかな笑みを絶やさないままだった玉守だが、1人になった時はその笑顔も曇る。


(……努力していける、か…………普通なら、その努力が勝ち負けの確率に影響を与えてくれるものだ……何の気まぐれか、こちらのフィールドに乗り込んでくるという、俺達にとって運が良い状況となった。戦術も固まっているし、相手の情報も可能な限り小波君に集めてもらっている。何より、みんなが人一倍の努力をしている事も知っている。迎え撃つだけの準備はしてきたつもりだ……)


 玉守は自分の生徒手帳にある、女王&兵隊からの挑戦状を、じっと眺める。


(だが……世の中には、俺達が出来る限りの努力すら捩じ伏せる才能を持った人間もいるものだからな……戦術も、情報も、フィールドという地の理も、そして個人の鍛練さえも、その才能で潰されてしまう……風鈴君という高い才能を間近で見てきただけに、それが良く分かるんだ……)


 しばらく、生徒手帳を見つめていた玉守だったが、その画面を消して胸ポケットにしまう。

 そして、自分のエアガンを手にする。


(……双方、スペリオルコマンダーが存在する状況……だが、片やその能力に目覚めたばかりの初級者、片や無敗という記録を更新し続けている実力者……そして、その女王だけでなく、もう1つの統率の取れたユニットも相手にしなければならない……もし、勝とうと思ったら、相当な運の流れすらものにしなければ…………願わくば、公式戦を終えた後、努力は無意味などとみんなが諦めてしまうような結果にだけはならないようにしたいものだな……)


 エアガンに願掛けをするように強く握りしめながら、玉守もメンバーを追いかけ、練習に合流した。

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