偶然か必然か……仏田部長の選定眼

「……あ、赤木先輩? 理に、叶っているとはどういう意味でしょうか?」


 予想と違う答えの大和に、小波は目をぱちくりさせながら問い返す。


「サラの事だよ。一見すると確かに無謀に思えるけど、単騎でこの人数を相手にする以上、数が膨れきる前に相手をどんどん片付けていかなければ、さすがに不利になるだろうからね」

「そ、それだけですか!? もっとこう、驚くような感じとかは無いんですか!?」

「もちろん驚いてはいるよ。だけど、相手になりうる可能性がある以上、驚いてばかりもいられない。現状を知った上で倒し方を模索していかないとね。それに、自分だけじゃないよ。他の人も見てごらん?」

「へっ?」


 大和に示されるままに見ると、まずは食い入るように画面を見つめる飛鳥が目についた。


「ちっ! 思った以上にキレた動きしやがって! こりゃ狙うにしても骨が折れるな!」


 飛鳥は、苦々しく舌打ちをする。

 言葉も少し荒いが、こちらも悲観的ではなく、幾分か冷静に分析をし、どうしたら倒せるかを考えているようだ。

 そして他のメンバーも、同じく。


「凄いわね、これ……本当に綺麗に避けてる……まるで踊っているみたい。確かに、動きを先読みすれば済む話じゃないかもね」

「はぁ~……僕の先輩の代って、どうしてこんな凄い人達ばかりなんでしょうね……?」

「そんな感心してる場合じゃないにょ、アユムン! これを元に早速特訓だにょ! うちで一番素早いケイゴンには打倒女王のためにも、これを見て再現してもらうにょ! ミニスカで!!」

「いや~こんな動きはさすがに人間離れ……いやいやミニスカって必要無いっすよね!?」

「形から入るって大事だにょ~ケイゴン! それに出来る人が限られてきちゃうから、少なくともカオルンとかは無理だにょ~! 体型的に!!」

「ちょっと銀羅ちゃん!? それどういう意味!?」


 と、一部緊張感に欠けるやり取りに、小波は呆気に取られてしまうが、ハッとして持ち直す。


「ちょ、ちょっと待って下さい!!! 何で皆さんそんなに冷静でいられるんですか!? スペリオルコマンダーですよ!? こんなに凄い人だって小波は思わなかったですよ!!! だから見立てが甘かったって反省していた位なのに何でそこまで楽観的でいられるんですか!?」


 持ち前の大声でメンバーの注目を浴びる小波。


「別に楽観的でいるつもりはねぇよ。ただ、強いからって諦めるような腰抜けはここにゃいねぇってだけだ」


 小波の問いに、飛鳥が返す。


「そ、そりゃあ小波だって皆さんを信じたいですけど……」

「それに、とんでもない実力っていうなら、うちにもいるからな! そういう意味じゃ慣れてきてるんだよ!」

「へっ? もしかして赤木先輩の事ですか? それとも玉守部長? まさか……ご自身、とか……?」

「アホか! 後輩の手本になれるように鍛えてる自負はあるがな、自分がとんでもない実力だとか自惚れるつもりもねぇよ! って小栗お前、それが誰か知らねぇのかよ?」


 飛鳥はチラッと風鈴を見てから、すぐに視線を小波に戻す。


「し、知らないですよ!! 忍足先輩にそこまで言わせるって誰なんですかそれ!?」

「何だよ、お前の情報収集力もまだまだだな、ハハハ! まあ、それならそれで楽しみにしておけよ! もしかしたら今までとは違う結果になるかもしれねぇからな!」


 不敵に笑った後、飛鳥は席を立つ。


「この女王だとかいうやつの強さは分かった! 正直、相当な実力だってのは認めるし、勝てないかもしれねぇ。だが、小栗が始めに言ってたように、世界目指そうってやってきた俺達だからな、壁の高さなんて気にしてらんねぇだろ! そういう訳で金瑠の言うように早速特訓だ! 桂吾、お前手伝え!」

「えっ? 俺、やっぱり相手役をやる感じっすかね?」

「ふん! どうせあんな動き、誰にも真似られる訳ねぇだろうし、ビデオ見る限り一人じゃどうにもならねぇだろうからな、女王対策の基本戦術は二人以上で狙う! そのためのコンビ練習するんだよ。まあ、ユニット組むのは毎回してたからいつもと大きく変えるつもりもねぇけどな!」

「あ、なるほど。ふぅ~……ミニスカート履かないとダメなのかもって不安だったっすよ」

「俺がそっち方面を求める訳ねぇだろ!! 気色悪ぃ事言ってるんじゃねぇよ!!」


 安心した様子の桂吾を後ろから小突きながら、校庭の練習スペースに向かう飛鳥。


「……凄い、ですね……あんな実力を見せつけられたら小波なら萎縮しちゃうのに……それだけ、こちらにいる凄い人を信用してるという事でしょうか?」

「それもあるだろうが、飛鳥は強い相手に立ち向かう気持ちが強い男だからな」


 感心したように飛鳥を見送る小波に玉守が答える。


「もちろん、他の皆も同じくらいに気持ちが強いと思っているけどな。さて、俺は一度、女王&兵隊に試合の申請をしておこう。皆は先に行っててくれ」


 自分の生徒手帳を操作し始めた玉守を残し、他のメンバーも飛鳥を追って練習スペースに移動する。

 その途中、


「それで!! その凄い人というのは、誰なんですか!? 教えて下さい、千瞳先輩!!」


 小波は近くにいた風鈴に詰め寄る。


「ふえっ!? え、え~~っと……」


 小波の質問にどう返したらいいか分からない風鈴、困ったように大和や香子や駒木双子に助けを求めるように視線を送る。

 受けたメンバーは苦笑いで、双子はイタズラっぽさ全開な笑顔でその状況を眺めていた。



 ※  ※  ※  ※



 越山高校の公式戦から数日経過……

 大和達が打倒サラを掲げて猛練習を開始している頃、越山高校のサバイバルゲーム部の部室では、窓の近くの椅子に腰掛け、外を一人眺めるサラの姿があった。


「……ふぅ~……」


 何をするでもなく、気だるげにため息をついては、外界の景色を眺めるだけ。

 だが、容姿の美しさでただそれだけの事すらも様になっている。

 サラしかいない部室の扉を、コンコンと誰かがノックする音。


「……入りなさい」


 ドアに振り向きもせず、まるで命じるかのようなサラの言葉を受けて入ってきたのは、越山高校サバイバルゲーム部のスキンヘッドな丁寧おネエ系部長、仏田だった。


「こんにちは、クイーン・サラ。やっぱりというか、いつもながら部室に来るのが早いですね」

「ふん……教室にいても、退屈なだけよ……」


 笑顔も無く、話す言葉にも感情をあまり含ませず、外を見つめるだけのサラ。

 仏田は持ってきた段ボール荷物を部室のテーブルに置き、サラに近付いて一緒になって窓の外を覗く。

 今の時間帯は帰宅や部活中にあたり、仲良く喋りながら帰宅する生徒達や、他の部活の部員達がトレーニングに勤しむ姿を見る事が出来る。

 サラはそんな風にまとまって行動している生徒達を眺めては、どこか寂しそうな雰囲気だった。


「クイーン・サラ……あなた……」

「仏田、忘れた訳じゃないわよね……? 一年前、ワタシがチームを立ち上げた時に何て言ったのかを……」


 外を見ていたサラが振り向き、射抜く視線と言葉の圧力で、仏田はそれ以上の追及を封じられ、別の返答を余儀なくされる。


「……詮索や異議は認めず、命じた事以外の動きも認めず、如何なる事情があろうとも公式戦の時には必ず出場する事……」

「そう……余計な話は必要無いのよ。ワタシの言うことに従う事……それが全て。まあ仏田、アンタだけは一応部長でもあるし、実務的な事を任せてるから多少優遇してはいるけどね……」


 サラは椅子から立ち上がり、体を軽く動かして伸びをしたりする。


「……ワタシの事にいちいち首を突っ込まない。分かったわね?」

「分かりましたよ、クイーン・サラ」

「よろしい。それはそれとして、アンタまたその荷物持ってきたの?」


 体を動かしながら、仏田が持ってきた荷物を指差すサラ。


「ええ。今日もたくさん来てますよ」


 仏田は段ボールをひっくり返して中身を机の上にバラけさせる。

 散らばったのは手紙が入った便箋で、『サラ・ランダルタイラー様』と書かれている。


「そんなもの、ここに来る前に燃やしておきなさいって言ったじゃない……」

「それは可哀想ですよ。クイーン・サラに宛てたファンレターにラブレターなんですから、読んであげれば良いじゃないですか」

「ふん。勝手に出してこられても、ワタシは求めてないのよ……読む気もない手紙なんて持ってくるんじゃないわよ」

「読みもしないで、想いのこもった手紙を捨てるなんて出来ません。だから、クイーン・サラが読まないというので、私が代わりに読むんですよ」


 そう言って便箋を開け、中身を確認しだす仏田。


「……アンタ……ワタシに宛てた手紙なんて見て、楽しいの?」

「ええ。クイーン・サラに対する情熱が伝わってきて、嬉しくなってくるんですよ。とても素敵な手紙じゃないですか」

「アンタが喜んでどうするのよ……まあ、ワタシに読まれると思って書いたはずの手紙が、まさかオカマに読まれてるなんて面白い実状になってると思えば、持って来させるのも悪くないかもね」

「オカマだなんて言わないで下さいよ……私のどこがオカマなんですか?」

「アンタ、自覚無いの……? はぁ~……まあ、何でも良いわ。それより、次の対戦相手の候補決まっているなら教えなさい」


 呆れ気味なため息の後、サラは招きよせるように手をヒラヒラとして仏田に催促する。

 手紙をいくつか読んでいた仏田、それを聞いて手紙を下ろす。


「……ありませんよ」

「……はあ? そんなはずないでしょ?」

「条件に合うチームが、もう無いんですよ……」


 仏田は自分の生徒手帳を取り出し、いくつか操作して登録チーム検索を引き出して確認している。


「クイーン・サラ、あなたが対戦相手として希望する条件は、①埼玉県内のチームに限る、②ランクの高いプレイヤーが多く人数もかなり多い、③女王&兵隊と対戦した事が無い、というものでしょう? 条件を全部満たすチームが無いんです」


 検索を続けながら説明する仏田の話を、サラは無言で聞く。


「……クイーン・サラが何かこだわりがあるというのは感じますけど……どれかしらの条件を緩くしないと難しいですよ。厳しい条件を止めて妥協してしまえば……例えば、②の条件みたいに強いプレイヤーを求めるなら①を無くせば、東京なり千葉なり……特に千葉は強豪揃いですから、相手なんていくらでも見つかりますよ。ほら、あの三人も……」

「…………それしか……無いのよ……」

「えっ?」

「ワタシには……! そうするしかないのよ!!」

「サ、サラちゃん!?」


 突然声を荒げるサラに仏田は驚いて呼び方が変わってしまうが、肝心のサラは興奮していて気付いていない。


「小さい頃に出会ったのに離れてしまった彼を探すには、こうするしか……! パパから教えてもらった唯一の情報が、昔埼玉に来たことがあるって事だけ……! だから、そこだけは譲れないのよ!!」

「……サラちゃん、誰か男の子を探しているの? 恋人?」

「こっ!!! こ、恋人だなんて!! そ、そんなんじゃないわよ!!! む、昔ワタシにサバゲーを勧めてくれて、ワタシを変えてくれた恩人というか!! た、確かに憧れもあって、会えてボーイフレンドにでもなれたら言うこと無いと思ったりもしたけど!!」

「つまり、片思いしてる男の子が埼玉にいるのね? 素敵じゃないですか!」

「ううっ……!!」

「そして、安心しました。今のサラちゃんは出会ったあの頃のまま。優しくて思いやりがあって、希望に胸を膨らませたように明るかったサラちゃんですから」


 仏田の言葉に、綺麗な白い肌の頬を真っ赤に染めて恥ずかしそうにしていたサラだったが、キッと厳しい表情に戻すと、自分の腰に刺したダミーナイフを抜いて仏田を脅すように喉元に突き付ける。


「……これ以上……余計な事を……聞くんじゃないわよ……」


 ゆっくりと静かに、言葉の一つ一つに力を込めて、有無を言わさない威圧感を顔に貼り付けるサラ。

 対して、仏田は穏やかに微笑みながらサラを見つめ返す。


「……ふふっ、分かりました。そこまで決めた事があるなら何も言いませんよ」

「……分かれば良いのよ……そして、ワタシの事は……」

「ごめんなさいね、クイーン・サラ。とにかく、ただ強い相手を探している訳では無く、クイーン・サラなりに考えた条件なんですよね?」


 サラは、無言で頷く。


「それなら、まあ①の条件はそのままにするとして、せめて②の条件は少しだけ下げてみるとかはどうですか? ほら、何らかの事情でメンバーが少なくなってくるとかは良くある話じゃないですか?」

「……それは、まあ……」

「私なりに色々と情報を確認してみますから、少し時間頂いても良いですか?」

「……分かったわよ。仏田に任せるわ……」


 ようやく落ち着いたサラはダミーナイフを戻し、窓とは別のところに向かうサラ。

 そこには自分の鞄があり、それを開いて中を探る。

 鞄から引き出した手には、大事そうに布にくるまれた何かがあり、仏田から見えないようにしながら布を解くと中には別のダミーナイフがあった。

 柄など少し色褪せてところどころがボロボロになっているハンカチを鞘に巻き付けてあるもので、サラはその鞘からダミーナイフを引き抜いて中を確認する。

 本物みたいな輝きはさすがにないものの、ほとんど使用してないように綺麗なままのそれを見て、サラは懐かしむように優しそうな笑顔を取り戻す。


(……分かってるわよ、条件が厳しい事くらい……でも、彼は凄く志が高かった記憶がある……だから、強さの条件だけは変えたくない……きっと、もっと高みを目指すために努力を続けているだろうから……)


 それを再確認し、取り出したのと逆の工程を辿って鞄の中に大事そうにしまう。

 ふと、サラの笑顔が曇る。


(……でも、もし……このまま見つからないというなら……もう、やる意味は無い……諦めて、母国アメリカに帰るしか……)


 そんな寂しそうな表情のサラを、仏田は背中から見ている。

 顔そのものは見えないが、雰囲気は察している。


(……ん~困りましたね。出来るなら本人に会わせてあげられたらとは思いますけど、そんな都合良くは……その男の子の特徴とかも覚えてなさそうですし、あまり聞き出そうとしても、サラちゃん怒りそうですね……)


 サラに聞こえないように静かなため息をつきながら、仏田は再び生徒手帳を操作する。


(……まあ、それ以前にこちらの条件を合わせるのも大変なんですけど……実際、埼玉の中でランクの高いプレイヤーが多い学校はもう当たり尽くしてますからね。少しだけ、条件を緩くして探してみないと……人数はうちと同じく規定人数ギリギリまでに設定して……ランクだけじゃなくて、戦績でも光るものがないか細かく見てみますか……)


 検索条件を設定し直し、出てきたチーム情報を仏田は詳しく確認していく。


(……そもそも、どれくらい小さな頃かは分からないですけど、場合によっては埼玉から移動してる場合だってあるかもしれないんですよね……転校してたりとか……状況が変わる事も多いから埼玉だけで探すなんて、土台無理がある…………あら? このチーム……)


 いくつか探していた仏田は、ある一つのチームが目に留まる。


「……クイーン・サラ、このチームはどうですか?」


 生徒手帳をサラのところに持っていく仏田にサラは笑顔を消して、睨むような目を向ける。


「……どこ?」

「タクティクス・バレットという、新河越高校のチームですよ」

「新河越? あまり聞かないけど……」

「人数は登録上11人。規定人数ギリギリですけど、ランカーアベレージは評価Bと、割と高い戦力が揃ってるみたいですよ」

「11人? バカ言ってるんじゃないわよ。ワタシを誰だと思ってるの? 30人でも相手にならないのに、こちらとほぼ同数の人数なんかじゃ5分と持たないわよ。評価Bだろうと、ワタシからしたら大した違いは無いわ。選び直しなさい」


 人数だけで拒否反応を示すサラに苦笑する仏田だが、それを改めさせるあるキーワードを持ち出す事にした。


「……パーフェクトゲームを達成したことがある、と言っても興味が湧かないですか?」

「…………何ですって?」


 その単語に反応を見せるサラ。

 仏田は表示をそのままにして生徒手帳を差し出し、受け取ったサラはそのデータを確認する。


「チーム戦績を見る限り、ここ最近になって結果を残せるようになってきたみたいですね。きっかけとしては、この二ヶ月位前でしょうかね? この日の公式戦自体は無効になってますけど、リザルト上はパーフェクトゲームを達成してます。そして、私達の前回の試合よりも少し前に、もう一度パーフェクトゲーム達成。今度は正式な記録になってます」

「……確かに……対戦相手の人数自体は同数だけど、パーフェクトゲームとして記録されてる……」

「相手チームのランカーアベレージも同じ位で結構優秀みたいですがそれでも圧倒してます。パーフェクト達成は運の要素もありますが、全体的な勝率も高いとなると、実力はまぐれでもなさそうですよ。クイーン・サラのような実力者でもいるんでしょうかね?」

「ふん、ワタシのような実力があるプレイヤーなんてそうはいないわよ。まあ、仏田はワタシの事を分かってるようだから、その分析は確かみたいね、褒めてあげるわ」

「お褒め頂き光栄です、クイーン・サラ」


 さりげなく持ち上げる仏田に、サラもまんざらでもない様子。


「でも、確かに気にはなるわね。埼玉の中で大概のチームとは相手したはずだけど、まさかこんなチームが隠れていただなんて……」

「転校や転入、あるいは入学や卒業という諸事情で加入や脱退を経てチーム戦力が増減するというのは良くある話ですから、それで急浮上したチームかもしれませんね。人数もギリギリというのがまた……」

「理由なんてどうだっていいわ。それより、なかなか良いチョイスよ、仏田。興味が湧いてきたわ。このチームを次の 標的ターゲットにするわよ」

「お気に召したなら何よりです。ちょうど、こちらのチームから挑戦状の申請もある事ですし、お受けしておきますね。日程の調整は、先方の都合を加味して来週か再来週の日曜日位にしておきますか?」

「そうね。その辺も仏田に任せる……あ、やっぱり待ちなさい。今回はこちらから挑戦状を送る事にするわ」


 サラから生徒手帳を投げて返されるのを慌ててキャッチした仏田、少し意外そうな顔をサラに向ける。


「ずいぶんと珍しいですね? 今まで相手からの挑戦を受けてこちらのフィールドに来て頂く形を取っていたというのに……」

「ただの気まぐれよ。元々、挑戦するっていう言い方が好きになれなかったのよ。まるで、弱い人間が強い人間に挑むみたいな感じで……強者のワタシに挑むっていうのが普通っていう、ね。でも、たまには相手の得意なフィールドで相手を蹂躙してやるのも悪くないと思ったのよ」

「ああ、なるほど……なんというか、クイーン・サラらしい理由ですね」

「……どういう意味……?」

「いいえ、何でもありませんよ。では、こちらから挑戦状の申請を出しておきますね」


 きつめなサラの視線を笑顔で受け流しながら、仏田は手続きを始める。


(とりあえず、相手が見つかって良かったです。とはいえ、サラちゃんの求める相手であるかは望み薄な気がしますけど……運命の相手と運命的に出会えるなんて、そんな都合良くいくものでもないでしょうし……まあ、良い試合になるように、と拝んではおきましょう)


 申請を終えた仏田が自分の生徒手帳に向かって手を合わせて拝む、という周りから見たらお坊さんのようなご利益ありそうな姿も、西洋出身のサラにはあまりピンと来ていなかったのか、仏田に対して変な物でも見るような目で眺めていた。

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