小柄でビッグな新聞部員
金蔵チームとの対決があってから二ヶ月が経過したとある日に〔DEAD OR ALIVE〕で、二つのチームによる公式戦が行われていた。
模擬戦と違い、戦績が反映される公式戦はその様子がフィールド内部に設置されたカメラによって映し出され、公開される決まりとなっている。
それを外部から観戦して楽しむようにしてあるのがWSGCを意識しているためであるというのは、現代においてほとんどの人間には周知の事実。
ただ観戦するだけでなく、偵察目的の人間もいたりする。
まあ相当有名なチームでなければ、そこまでやる人間もチームもいないが……
今回の公式戦、片方はタクティクス・バレット、大和の所属する新河越高校のチーム。
もう片方はイーグル・クロウ、この近所でなら多少は名の知れたチーム。
そのメンバーの中には、玉守や飛鳥などの新河越古参メンバーと結構面識がある者もいる。
実力的に悪くなく、今までもタクティクス・バレットと勝率を競り合っており、それなりに見応えのある対決カードではあるのだが、この二つのチームの対決はこの近辺では割と見慣れてきたのもあり、最近では観戦者も疎らだった。
そんな中で、モニターに映るチームの対決を食い入るように、熱心に見つめる一人の少女がいた。
「お~!! おおお~!! 良いですね、良いですね~!!」
周囲の人間が、公式戦の内容よりもその少女に集中してしまう。
というのもこの少女、外見的にはかなり背が低く、顔も幼く小学生と思えてしまう位なのだが、その小ささに比べて声が異様に大きかった。
「やっぱり、
独り言にしては大きすぎる声で決意をする少女。
声だけでなく、リアクションも大きく、決意に合わせた頷きも動きが大袈裟に思える程だった。
そして何気に大きい前の膨らみも、頷きに合わせてプルプルと動いていた。
※ ※ ※ ※
公式戦が始まってからしばらくして、イーグル・クロウのチームリーダー、
(お、おいおい……! 試合始まってからまだそんなに経ってないのに、俺達のメンバーがヒットされるペースが早くないか!?)
壁に隠れながらゴーグルを操作して、撃破状況を確認した鷲木は我が目を疑う。
公式戦はまだ序盤であり、鷲木もそれほど警戒してはいなかった。
それが今や、半分以上は既に撃破され、残るは自分も含めて三人。
「……こ、こちら、イーグル α1! 人数は少ないが、何とか意地を見せて粘れ! それと、何故ここまで早いペースで落とされてるか分かるやついるか!? いたら返信くれ!」
そう言って無線を切った鷲木だったが、返信はあまり期待出来ないとも諦めていた。
粘らせている以上、周囲の状況に集中しなければならないし、相手の戦力をこの短時間で理解出来るとも思えなかった。
そもそもが戦術の相性や運、そして実力の差だと言ってしまえばそれまでだからだ。
(くっ……! 玉守のチームは今まで正規メンバーが足りてなくて、最近になってようやくメンバーが揃ったと聞いてはいたが、だからといってここまで変われるものなのか!?)
自身もとにかく一人でも多く撃破するために銃を構えようとした時だった。
無線に反応があった。
『……こちらイーグル γ2! やれるだけやってみる! それと、もしかしたらスナイパーがいるかも知れない! 一緒に組んでいたγ1が撃たれたが、射撃音がどこからも聞こえなかった! 信じられないが、スナイパーライフルからの狙撃の可能性が……うっ! …………ザザッ……!!』
「あ、おい……!!」
せっかくの意欲的な報告も途中からノイズに変わり、同時に撃破状況でイーグルγの二番を担当するメンバーのナンバーが消失……すなわち、撃破された。
トランシーバーなどの無線とも〔S・S・S〕との接続が成されており、ヒットされた後には連絡が取れなくなる仕組みになっている。
それも、ゾンビ行為によって情報が不正に流出するのを防ぐためである。
(スナイパーライフルだって……!? そんなバカな……! ライトプレイヤーの集まるチームがネタやエアコキ縛りでやるならともかく、公式戦に適したものじゃない……玉守達のチームはガチで勝ちを目指すチームだったはずだろ!? いや、待て……確かに一人、見覚えの無いメンバーの子がスナイパーライフルを持っていたような気がしたが……)
鷲木は新戦力のメンバーとして紹介された女子生徒を思い出す。
とはいっても、その時に目に付いたのは地味めながら可愛らしい顔立ちと、成長期であっても行き過ぎではと思える大きな胸……もとい、サバゲーには不向きに思える女子生徒の体型。
うっすらと確認した武器はスナイパーライフルだったかもと不確定な認識だが、鷲木の印象は総じてマスコット的な存在としか見えていなかった。
むしろ、もう一人の男子生徒の方が雰囲気があった。
顔付き、体格、そして挨拶した時の落ち着き具合と、どれをとってもサバゲーに通じるものがあり、本命をこちらに意識させられていた。
突撃要員である事も視野に入れ、慎重に動く方向で作戦を組んでいた。
それは本来、間違いではなかっただろう。
鷲木の判断を咎められる者はいない。
まさか、本命以上の大本命が、そのマスコット的な女子生徒だと判断出来る者が、果たしているのかどうか……
※ ※ ※ ※
〔EXS『
風鈴がフィールドの中心辺りの障害物に身を隠しながら、目を閉じてそう意識すると、風鈴の意識がまるでどんどん空を飛ぶように高く高く舞い上がる。
それでフィールド全体を見る事が出来る。
(……! フィールド右側に一人、奥の方に一人! 右側は私が狙える! 奥の人のところは……近くに忍足先輩がいる……なら!)
状況を把握した風鈴は、空に舞う自分の意識を本体の自分に戻す。
そして、トランシーバーを操作。
「こ、こちら千瞳……です! お、忍足先輩、近くに一人います!」
それだけ言ってからトランシーバーを切りつつ、意識を再び集中。
〔EXS『千里眼』! 『
目力を入れるような感覚で、発動の言葉と意識をイメージすると、自分の周囲から風が広がるかのような感覚と共に、どんどん障害物の色が抜けていき、隠れた先が見えるようになる。
風鈴は自分が確認した相手の近くに陣取り、相手が薄く見える障害物から出てくるのを待ち受ける。
しばらくしてその相手が、様子を見るために少しだけ体を出すのを見計らい、ボルトハンドルに手を掛ける。
〔EXS『千里眼』! 『
その言葉とタイミングでボルトハンドルを引いて弾を込めると、銃口から光るラインが瞬間で伸びていく。
少ししか見えていない相手の体……だが、ラインは確実に捉えている。
風鈴は迷わず、引き金を引いて弾を撃ち出す。
弾はラインを辿るようにして、相手の体に吸い込まれるように飛んでいき、見事に命中。
撃たれた相手はそれに驚いて反射的に身を引くも遅く、観念したかのように障害物から出て来て出口に向かう。
特殊ベストが赤く染まっているのが、ヒットの証。
それを見守って、にっこり微笑む風鈴。
(えっと、あとは最後の一人……確か、リーダーの方だって紹介してもらったような……)
風鈴が奥を見ると、ちょうど飛鳥も相手を見つけて狙い撃ったところだった。
相手チーム全員を討ち取った瞬間、風鈴のゴーグルに文字が表示される。
〔congratulation! perfectgame complete! winner is タクティクス・バレット〕
そう書かれた文字を、風鈴は不思議そうに見つめる。
(……えっと……確かこの前も、こんな風に出てたような……良く分からないけどつまり、私達が勝ったって事で良いよね?)
そう理解して、また満足げに風鈴は頷く。
元素人の風鈴にとって、パーフェクトゲームを再び叩き出したという偉業も、今は普通の勝利と同列の認識。
無知も、ここまで来ると大物に思える事だろう……
『千瞳!! ナイスな働きだ、良くやった!!』
「ふひゃあ!! ご、ごめんなさい!!」
惜しむらくは、飛鳥の声に対しては条件反射のように恐怖が先行してしまうのか、褒められたにもかかわらず謝ってしまうのが残念と言えるか。
※ ※ ※ ※
風鈴は元々真面目な性格だった事もあり、今日までの二ヶ月間、飛鳥考案(角華の修正済み)の基礎トレーニングには一生懸命取り組んでいた。
そのトレーニングの結果、風鈴は見違えるように運動性能が向上していた。
さすがに以前からのメンバーにはまだまだ身体能力で敵わないものの、入部当初と比べて心肺機能や筋力が鍛えられたため、一試合をこなすスタミナやフィールドを駆け抜けるための瞬発力も徐々に出来上がりつつあった。
何故か香子と同じく体のラインがほとんど変わらないという事だけは飛鳥も納得してなかったが、運動未経験から始めてまだ二ヶ月である事を考慮すれば十分な戦力と認めてもいた。
更に、大和からも二つほど提案があった。
一つは、風鈴の指示出しの簡略化。
別に詳しく説明などしなくとも、周辺にいるという事が分かるだけでもかなり違うという大和の見立ては正しかった。
出会い頭の急な対応になっても、相手がいるかを理解しているだけで反応は変わってくる。
それだけでも強みであり、そういう簡単な伝達だけなら風鈴でも可能だった。
そしてもう一つが、EXSの名前。
全般的な正式名称を、千里眼として大和が命名した。
それを、言葉と効果を意識して発動させるようにする事で、使用させるタイミングを任意ではっきりと分ける事が出来るという。
千里眼・
まあ、これは概ね理解は得られたが、本来の千里眼は読み方を clairvoyance《クレボヤンス》と言う。
これを角華から突っ込まれた際の大和の答えとしては、
「確かにそうなんですが、既存の千里眼でいうなら俯瞰や透視はあっても、軌道の認識まではきっとなかったはずです。千瞳さんのサバゲーでのオリジナルなEXSという意味もありますが、直訳で千の目という言い方にする事で、いずれ色々な事に目を向けたコマンダーになれるよう、という願いもあって、サウザンドアイズという読み方にさせてもらいました」
との事。
次はいよいよ実戦もこなしていこうという事になり、今回こうして公式戦を行う事にしたという次第で、そうした改善と、鍛えてきた基礎体力向上が実を結び、思い描いていた戦果をパーフェクトゲームとして今回上げる事が出来た。
「……くくくっ……ふふふふ~っ……! あ~ははははっ」
フィールドの外にて、飛鳥の高笑いが響く。
「そうやってバカみたいに笑うのは止めなさいよ飛鳥!」
「そうだぞ、飛鳥。落ち着くのが課題だと言ってあるだろう? イーグル・クロウのメンバーが早々と帰っていったから良いようなものだが……」
「良いじゃねぇかよ角華、将希! マジに気分が良いんだからな!」
角華や玉守が呆れるも、言葉通りに上機嫌な飛鳥は気にしていない。
「メンバーは助っ人頼みじゃなく正規メンバー、しかも極上もんの新人二人加入! 金蔵の時には逃したパーフェクトゲームをまた取れた! しかも、その理由もきっちり把握した上で活かしきれた! 微力っちゃ微力だが、補欠メンバーもいる! 俺達はようやく世界を目指すための一歩を踏み出せたんだぜ!」
「しょうがないわね~もう! まるで子供みたいね! くすっ!」
飛鳥のはしゃぎように、角華もつい笑みが溢れ、他にもそれを微笑ましく眺めるメンバーや、
「歓喜のボッチ先輩を激写だにょ!」
「動画も準備完了で激写だにょ~!」
と記念撮影するメンバーもいた。
それすらも今は気にしていない飛鳥、振り返って大和と風鈴に勢い良く近付き肩を叩く。
「これもお前らがうちに来てくれたおかげだ! 大和に千瞳!」
「こちらこそ、ここはやりがいがあって良いチームだと思えます!」
「あ、あの……! わ、私はまだ、そんな……あうっ……!」
大和は飛鳥の荒っぽい扱いにも動じず爽やかに返す。
一方、風鈴は謙遜気味に返そうと試みたようだが、飛鳥の肩を叩くのが少し痛いのか、体が傾いてくる。
なお、風鈴がスペリオルコマンダーだという公表自体は義務や強制はなく、公表する事のメリットも確かにあるが、現状では色々なチームに分析されてしまうデメリットの方が大きく、まだ公表していない。
「それにしても、風鈴君がスペリオルコマンダーというのが戦力として大きいのはもちろんだが、やはり大和君が加入してくれた事が重要だったな」
「ん? 大和君の方が重要なんすか? 玉守部長」
「ああ」
桂吾が首を傾げると、玉守は頷く。
角華も後に続く。
「そうよね! 今までうちに来てくれた子達は、飛鳥が独断と偏見で決めちゃってたからね! 飛鳥の初見じゃ風鈴ちゃんは完全にアウトだもの! 赤木君が風鈴ちゃんを連れてきてくれなかったら、風鈴ちゃんの才能は一生埋もれたままだったかもしれないのよ!」
「あ~……そういう……」
「う、うるせぇな……! それについては反省してるんだよ! 今は色々なやつに可能性があるかも知れねぇって思うようにはしてるんだからな!」
「まあ今日はとにかく、大活躍をしてくれた風鈴君に感謝だな」
「あ、あの……! ま、まだまだ全然ですが、頑張りますのでこれからもよろしくお願いします!」
風鈴を中心に和気あいあいとした雰囲気な中、大和はふと、浩介に目が留まる。
浩介も、見た感じは仲間の輪に入っているように見えたが、少し浮いているようにも見えた。
今回の公式戦では規定の10人で挑み、浩介の出番は無かった。
そういう意味では、仲間に入りづらいとも取れる。
大和は浩介に声を掛けようとした……が、それは叶わなかった。
何故なら、タイミング良く遮られてしまったからだ。
「よっしゃ! 今日は終わりにするか! 後で今日の公式戦の行動記録見て自分の動きの把握と反省点を考えておけよ? それじゃ撤収……」
「ちょっと待って下さいなぁぁぁ!!!!」
「「「どわぁぁ!!!」」」
遮ったのは飛鳥の声、ではなくそれ以上に大きな、爆音のような大音声。
メンバーは全員耳を塞ぐも、近くにいた浩介、桂吾、飛鳥が鼓膜に実害を被って倒れる。
「な、な、何!? 何が起きた!?」
「うああっ……! み、耳が……耳がぁ……!!」
「ぐおおっ!! うるっっせぇなぁ!! 誰だよ!?」
声がした方を振り向き、その主を見つける。
そこにいたのは、長さを切り揃えた黒のショートカットに花飾りの付いたカチューシャを付けている。
見た目が小学生に思える位に幼い顔立ちと低い身長の少女だった。
くりくりとした瞳にちょこんとした鼻など、低年齢を思わせるその姿。
だが、着ているのは大和達と同じ新河越高校の女子制服。
「……ん!? この制服、うちらの高校のっすよね?」
「おいおい……まさかと思うが、俺達と同じ高校生っていうんじゃねぇだろうな? 姉貴とかから借りて来たんじゃねぇのか?」
「失礼な事言わないで下さいな!!! これは正真正銘、小波の制服!!! ですよ!!!」
「「うっ……!!」」
この小さな体でどこから出しているのかと思うほどの大きすぎる声に、再び耳を塞ぐメンバー。
「……あ、あのな! 少しは声のボリューム下げろ! それ以前に誰だよお前は!」
「お~! 小波の事、気になりましたか!! では、自己紹介させて頂いてもよろしいでしょうか!?」
「……待ってました、って感じが気にかかるが、まあいい……簡単に話せ」
「はいっ!! それでは、『簡単』に自己紹介させて頂きますね!!」
そう言うと、その少女は自分なりの『簡単』な自己紹介を始める。
「今年に新河越高校に入学してから新聞部に入部して今に至るまで楽しい高校生活を送りつつ新たな出会いと発見を求めて特ダネ探しに奔走繰り返す元気印の美少女!! 同級生と一緒なのに私だけ補導されかけた事は数知れず、しかし持ち前の
「なっっげぇぇわぁぁぁぁぁ!!!!」
早口長文な自己紹介の途中から体をわなわなと震わせていた飛鳥が、自己紹介終了時に遂にキレた。
「俺は簡単に自己紹介しろっつったろうが!! 何がどう間違えばそんな長ったらしい紹介ぶちこんできやがるんだテメェは!!」
「はい!! ですからここまできっちりと私を自己アッピ~ルしておけば、次に説明する必要が無くなる!! 小波が再び紹介する手間が省けて簡単になるじゃないですか!!」
「テメェの手間の問題かよ!! 長すぎる上に早口すぎて『ザ・ロリ巨乳』しか聞き取れなかったじゃねぇか!!」
「ふふふふっ~……ロリ巨乳は小波のアイデンティティの一つでもあります! だから、それを覚えて頂けるだけでも十分です!!」
「じゃあ何のためにそんな長い自己紹介したんだよ!!?」
幼い顔に似合わない大きな前の膨らみを自慢げにふるんと揺らす小波という少女に食ってかかる飛鳥。
通常時からかなりの威圧感がある飛鳥が叫ぶと恐怖を感じる者も多く、風鈴もその一人なのだが、小波は普通に対応している。
声や胸だけでなく、神経も図太いと言えるか。
そんな突然現れたような小波に、目を輝かせる者がいた。
「おおっ……! おおお~っ!! これは……なかなかの大物が見つかったにょ~!!」
銀羅である。
バッと近寄り、その大きな胸をじっと見つめる。
「背が低いからこそ際立つこの大きさ! これは素晴らしい逸材だにょ~! 興味深いにょ~!」
「さすがは駒木銀羅先輩!! お目が高いですね!! 気になるならどうぞ確かめてみて下さいな!!」
「おおお~っ!! 自分から触らせるとは何という後輩だにょ~!! では、お言葉に甘えるにょ~!!」
手をわきわきとした後、その膨らみに伸ばす銀羅。
触れてムニムニと動かしては感触を楽しんでいる様子。
「ん~! カザリンやカオルンとはまた違う好感触でグッドだにょ~!」
胸マイスター(?)な銀羅が堪能している後ろでは、その様子を金瑠も見つめているが、同じ双子でも反応は違う。
「ふぅ~やれやれだにょ。そんな大きい胸のどこが良いのか、理解に苦しむにょ。女子が他の女子の胸に興味持ってどうするにょ?」
「……いや、そうだとしても、男の金瑠が女子に興味持たないっていうのもどうかと思うけどな……」
「チッチッチッ~! 金瑠ちゃんは男の子……もとい、『男の娘』だにょ、ハヌマン!」
「いや、何でも良いけどさ……っていうか、呼び方変わって何かあるのか? それ……」
肩を竦めながら説明する金瑠の感覚が理解出来ない浩介。
呼び方は同じなので、この場においては浩介もその意味が分からずじまい。
知ったところでこの先も分かるかどうかは微妙。
「なかなかに元気で個性的な自己紹介をしてくれたのは良い事だと思うよ。それで、小波君と言ったね。俺達を呼び止めた理由を聞かせてもらっても良いかな?」
「あっ、そうでした!!!」
玉守から用件内容を問われた小波は、銀羅に離れてもらって服装を直してリーダーの玉守に面と向かって、
「お願いがあります! このタクティクス・バレットで一緒に活動させてもらえませんか? ですよ!!」
用件を述べる。
「一緒に活動? もしかして、入部希望なのかな? だが、新聞部員とも聞いたが……」
「そうですね! 既に新聞部に在籍しているので、厳密には掛け持ちという感じでしょうか?」
「おいおいちょっと待て!」
この話に加わったのはやはりというか、飛鳥だった。
「いきなり来て、いきなり何をおかしな事言ってやがる!? 一つの部に集中出来ねぇやつなんていらねぇよ! 大体、新聞部にゃ何て言うつもりだよ!?」
「まあ、新聞部は結構暇してて、めぼしい活動が出来てないというか……小波がいなくても回していけそうかな~って思いますよ!!」
「期待の新人部員じゃねぇのかよ!?」
「もちろん、期待されていると期待しているんですよ!! って、ちゃんと聞いてくれてるじゃないですか忍足ボッチ先輩!!」
「くおぉらあぁ!! ボッチ言うんじゃねぇよテメェ!!」
「あら? 飛鳥がボッチって呼ばれてる事、良く知ってたわね?」
「ふふふふっ! そりゃあ情報収集は新聞部員として基本ですから!! そしてそれこそが、皆さんに売り込む小波のアッピ~ルポイントなのですよ!!」
体を反らせるとご自慢の前の膨らみの方もアピールするように震える。
それを見た角華は一瞬固まるものの、気を取り直す。
「……売り込むって、どういう事?」
「情報収集、それこそが小波の本領発揮分野なのですよ、姫野宮角華先輩! 先に言っておきますと、小波はサバゲー自体は上手くないです! ですが、皆さんを勝ち進めさせるためのサポート要員としてなら手助けが出来ます!!」
元気はつらつな笑顔で主張していた小波だったが、急に真面目な顔付きになる。
「皆さんがWSGC……世界を目指されているというのは聞いています。他の方はあまり信じてもいないようでしたが、小波は違います! 皆さんを勝たせるため、こうして志願したという事なのですよ!」
「釈然としねぇな……誰も信じないような俺達の目標を理解してるってのもだが、何で俺達にそこまで肩入れしようとする?」
「見たんですよ、皆さんが少し前にパーフェクトゲームを達成したのを……相手はブラッドレインというチームでしたね」
「金蔵の時のか……そういえば、確かにあの時も公式戦にしていたから、外部への公開はされていたんだったな。その時のを見ていたというのか?」
「そうです、玉守将希部長」
玉守に返答する今の小波は、最初の印象とは変わって落ち着いている。
「本当に偶然なんですけど……サバゲーフィールドの取材をするために来たら、皆さんが試合していて……結局その試合自体は無効になったんですよね? でも、それで皆さんがお強い存在と分かりました! 練習でも手抜かりはないみたいですし、チームワークも文句なし! 新規加入の赤木大和先輩も千瞳風鈴先輩もとてつもない逸材! メンバーも揃ってきたという事で世界を目指すのも分かるというものですよ!」
「ほう! なかなか見る目あるじゃねぇか!」
「そんな風に褒められる事って少ないから、ちょっと照れるわね」
「ですが、WSGCを目指すという事は、この日本国内の強敵達を相手に勝ち抜いて、ランクを上げていかなければなりません……厳しいトレーニングだけでは限界がある事でしょう……少なくとも戦う相手の詳細な情報が知れたらって思いませんか?」
「そうだな……俺達は人数がギリギリだったから、偵察よりもトレーニングを重視してきたよ。一年の歩君も貴重な戦力だったからな。情報も相手チームの過去のデータから引っ張りだして推測したりもしたが、現在の情報と食い違う事もあったな……」
玉守が昔を思い出すように目を閉じる。
飛鳥や角華も、そして他のメンバーも頷く。
「自身を鍛えるだけでは、同じ位の実力のチーム相手ならともかく、それより質も量も優れる強豪相手には勝てなくなります! だからこそ小波が皆さんのために有用な情報を収集、提供する役割を担いたいと思ったのです! 戦場に出るメンバーだけが戦力ではないですよ!」
「なるほど、情報収集専門の裏方に徹するという事か、一理はあるな。それなら俺達は安心してトレーニングに専念出来る。だが新聞部の方は良いのか?」
「ふふふっ! 問題ありません! これもある種のギブアンドテイクですよ! 皆さんが強豪を勝ち抜いていけばいく程、それがそのまま間近で見ている小波の新聞ネタになる訳ですから!」
「そうか! 見た目に似合わずしたたかだな。小波君はこう言っているが、みんなはどうかな? 俺は良いと思うが、みんなの意見も聞きたい」
玉守は深く頷き、周りのメンバーを見渡す。
「悪くはねぇな! 俺達の目標がどんどん現実になる実感があるからな! 何よりそいつは、向上心や行動力がある! そういうやつは嫌いじゃねぇ!」
「うん! 私達もどんどん出来る事が増えていくものね!」
「良いんじゃないっすかね!」
「私も良いと思います!」
「良いキャラしてるのは気にいったにょ!」
「そして胸が大きいのも気にいったにょ~!」
「同じ一年同士、よろしくね!」
「はい!! よろしくお願いします!!」
明るい性格なのもあり、小波は打ち解けるのも早く、メンバーも受け入れが早かった。
「さぁ~これは忙しくなりますね!! では今からさっそく情報収集に行ってきますよ~!!」
「凄いな、小栗ちゃん。入って早々、もう行動するんだね。そんなに急がなくても良いんじゃないのかな? なんてね、ハハハ……」
張り切る小波に、浩介も話に加わろうとする。
浩介としては感心も含めたニュアンスだったのだが、
「……甘いですよ」
「へっ?」
「甘過ぎですよ浜沼浩介先輩!!!」
「うはっ!!」
小波には言い方がよろしくなかったようで、空気を震わせる大きな声を至近距離からぶちかまされて浩介は再び倒れる。
「まるで……コーヒーに砂糖入れて飲むんじゃなくて、コーヒーと砂糖の分量を逆転させちゃった位に甘過ぎですよ!!」
「そりゃ甘いね!? もはやコーヒーじゃなくて砂糖そのものだよそれ! どう間違えたらそんな……ってそうじゃなくて……! 甘いって……そこまで言われる程なのかな?」
「当然ですよ!! 色々なチームの情報を仕入れるのはもちろんですが……まず最初に掲げるのは、打倒
「……え、越山……?」
「越山高校だと!!?」
小波の言葉に過剰に反応したのは、浩介ではなく飛鳥だった。
「小栗! お前、マジに言ってるのか!?」
「マジもマジ、大マジですよボッチ先輩!! 世界目指すっていうなら、県内最強を目指すところからがスタートラインじゃないですか!!」
「……小栗……お前、ガチな目標立ててきやがるとかマジにいかしてるじゃねぇかよ! ってボッチ言うなオラァ!!」
まるで漫才のようなやり取りの小波と飛鳥とは対照的に、メンバーは静まりかえっている。
「玉守部長、自分は県外からの転校だったので良く知らないのですが、その越山高校というのは強豪なんですか?」
「間違いなく、強豪だな。県内最強との呼び声も高いからな」
「一体、どんなチームなんですか?」
大和が尋ねると、玉守は少し考える。
「……チーム、かもしれないがチームとしてよりもそのリーダーのが有名だよ。なんせ、一騎当千の大戦力だからな」
「……一騎当千の、大戦力…………はっ! ま、まさかそれは!?」
「気付いたかい? そう、そのチームにもいるのさ。風鈴君と同じスペリオルコマンダー……『
玉守が振り返るその先に、状況が良く読めずに呆ける風鈴がいた。
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