殲滅の狙撃司令官
「……えっ、と……この質問にまさかそんな質問で返されると思わなかったけど……風鈴ちゃん、どういう意味?」
「いえ、その……姫野宮先輩は、私の動きとか、見えてなかったのかな? って思いまして……」
「み、見える訳無いわ……! 周りが壁や障害物に囲まれたフィールドなのよ!? でもそう言うからには、風鈴ちゃんには私が見えてたって事よね!?」
「はい、見えてました」
角華の問いに、風鈴はあっさりと答える。
「見えてたって……どうして!? どうやって!? 風鈴ちゃんには何がどう見えてるっていうの!?」
角華の矢継ぎ早な質問攻めにたじろぎながらも、少し考えてから答える風鈴だったが、その内容が衝撃的だった。
「え、えっと……それが良く分からないんです……スタートしてから外に出たら、周りというか……壁とか障害物とかが、薄くなるみたいに透けて見えるというか……」
「……す……透けて見える!!?」
「ふえっ!!」
それがあまりにも驚愕の答えだったためか、角華の声が大きくなってしまい、風鈴は驚いてしまう。
「ああっ! ご、ごめん風鈴ちゃん! で、でも、透けて見えるなんてどういう事!?」
「私、てっきりゴーグルでそういう機能が付いてて、他の人も利用してるのかと……ほら、このゴーグルって、何か色々な表示がされてるじゃないですか?」
「そんな機能ある訳ねぇだろ!!」
「ひゃあっ!!」
今度は飛鳥が別のところからこれまた大声で加わり、風鈴をまた驚かせる。
「いや、例えあったとして、そんなイカサマ機能付いたゴーグルなんて俺らが渡す訳ねぇよ!! テメェが他に何か変な小細工してやがるんじゃねぇのかよ!?」
「ううっ……そんな……わ、私……」
「待って下さい!」
飛鳥の前に立ち塞がったのは、大和だった。
「もしかしたら、分かったかもしれません!」
「分かっただと?」
「はい! 先ほどからの千瞳さんの反応を考えて、もしかしてとは思ってました!」
「一体、どういう事なの? 赤木君!」
「今からそれを確認してみます! 千瞳さん、一緒にフィールドまで来て欲しい!」
「い、一緒に、ですか?」
昨日今日の中で、何やら一番テンションが高い大和は、風鈴の手を取り、安全地帯の外に連れ出す。
「皆さんも、どうか来て下さい! 自分の予想が正しければ、とてつもない事実を知れるかもしれません!」
そう言い残し、大和は風鈴を連れてフィールドの方に走り出す。
「……な、何だろう……大和、異様に興奮してるように見えたけど……」
それまで雰囲気に流されるままで口を閉ざしていた浩介が、言葉を紡ぐ。
「とにかく、大和君達を追ってみよう」
「そうね! 何か分かったというなら行かないとね! 私もそれが知りたかった訳だし!」
「ふん、イカサマ検知の無効化テクニックとか見せられるようなら、こっちから願い下げだがな!」
「もしかしてこれは……愛の逃避行だったりするにょ?」
「愛しの恋人を孤独先輩から守るためだったら面白いにょ~!」
「しぃ~! 飛鳥先輩に聞こえたら怒られるっすよ、二人とも!」
「赤木君も風鈴ちゃんも、キルギラちゃんと違って真面目だからきっと違うわよ!」
「姉さん……キルギラ先輩とかには、結構ずけずけ言うよね……」
メンバー達も、大和達を追いかけて外に出る。
※ ※ ※ ※
WEE協約以降のサバイバルゲームにおいては、競技としての安全性と公平性を重んじる観点から、公式戦、模擬戦に関わらず、ゲームが始まる時にはフィールド内部の様々な存在に対して検知を行う。
規定の人数に変動が起こらないように、警報を鳴らすなどの処置をしてフィールド内部の人払いをしたり、不審な物が見つかればスタッフが調べに行ったりする。
そして、それらが全てクリアしてから、フィールドの様々な場所に存在する出入口を全て閉め切り、ゲーム開始で対戦チーム同士の入場するゲートだけが開くシステムになっている。
様々な場所の出入口というのは、ゲームが始まってからはヒットされた人間がフィールドから退場するために使われたりするものである。
安全地帯から飛び出した大和と風鈴、そしてメンバー達は、ゲームが終わって入れるようになったその出入口から、全員揃ってフィールドに入り込んでいた。
「さてと、千瞳さん。フィールドに来た訳だけど……」
風鈴にフィールドを見渡すように示す大和。
他のメンバーは大和が今から何をしようとしているのか、二人の後方から興味深く眺める。
「まずは、そのゴーグルを着けて周りを見て欲しい」
「は、はい」
風鈴は言われた通り、ゴーグルを着けて周囲を見渡す。
「……どうかな? 周りの壁とか障害物は、透けて見えてるかな?」
「……あれ?? 見えないです……」
「やっぱりね。じゃあ今度は目を閉じて、今から言うことを想像してから目を開けて欲しい」
「……? わ、分かりました」
風鈴は素直に、目を閉じる。
「……いいかい? 千瞳さん、君はこれから相手がたくさんいる戦場に行くというイメージをして欲しい。その戦場に今から飛び込んで、相手を倒しに行くイメージを頭に思い浮かべるんだ」
「……相手が、たくさん…………その相手を、倒しに……」
イメージを鮮明にするためにか、風鈴は大和の言葉を復唱する。
「……もうすぐ、スタートだ…………3……2……1……目を開けて!」
カウントダウンのタイミングで、風鈴の目を開けさせる。
「どうかな? 千瞳さん」
「……あっ! 見えます! 周りが何だか透けて見えます!」
「そうか」
風鈴の反応に驚くメンバー。
大和は、予想通りといった笑顔。
「じゃあ、その状態のまま、ゴーグルを取って、周りを見て欲しい」
「ゴーグル、取って良いんですか?」
「今は大丈夫。さあ、千瞳さん」
「は、はい!」
風鈴は、ゴーグルを外して、改めて周囲を見渡し直す。
「……あっ……!!」
「どうかな? 周りを見てみて……」
「……ゴーグル取っても……透けて見えます!!」
「「「「「「「えっ!!!」」」」」」」
メンバーのほとんどが、驚きを声に出してしまう。
「やっぱりだ。ゴーグルにそんな機能は本来付いてないし、このチームがそんな物を渡すはずもない。それで千瞳さんの発言からして、考えられるとしたら、千瞳さん自身も認識していないところに要因があるんじゃないかと思ってた……」
大和は、風鈴からメンバーに目を向け、
「千瞳さんは……スペリオルコマンダーで、間違いないと思います!」
そう宣言する。
「……ス……スペリオルコマンダーだとぉ!!?」
真っ先に反応したのは、飛鳥だった。
「そ……そんなバカなっ!! あり得ねぇ!! そんな……そんな、だらしない体型で、いかにも文化部っぽい運動すら出来そうもない、そのトーシロ女が……!! 数千万人に一人の大天才だとでも言うのか!!?」
「……ううっ……!! た、確かに、昔から運動苦手な文化部でしたけど……ひ、酷いですぅ……」
そのままにズバッと切り捨てるような言われように、運動苦手な大天才という事らしい風鈴は涙ぐみ、それに対して飛鳥は角華から後頭部を殴られる。
「アンタは何にでも悪口絡ませるクセを直しなさい! しかも女の子に向かって失礼な! でも風鈴ちゃん、本当にスペリオルコマンダーなの!?」
「わ、私も良く分からないです……! あ、あの、大和さん、その……ス、スペなんとかって、何ですか?」
「……簡単に言えば、戦場にその一人がいれば戦局が決定すると言われる程の存在で、特殊で強力な殲滅能力、通称 EXS《エクシーズ》を備えてると言われているんだ」
大和が語ったスペリオルコマンダー……それは、WEE協約以降、稀に確認されるようになった、殲滅能力と呼ばれる力を持つ人物の事で、「Superior=高次、優位、上位」、「Commander=司令官」の単語を合わせた造語。
そしてEXSも、「Exterminate=殲滅」、「Skill=能力」を合わせた造語の略読みに「Exceeds=超える」という本来の単語読みを重ね、人智を超えた力という意味の当て字となっている。
その力を運用すれば、大和の言うように勝利が確実な一騎当千の大戦力と言っても過言ではない。
「一口にEXSと言っても、人によって性質が変わるらしいし、忍足先輩も言ってたように数千万人に一人しか発現しないとされてる位に世界的にも希少で、その絶対数が少ないらしいから完全には研究されきってもなくて、まだ詳しく分かっていないみたいだけど……」
「そ、そんな凄く珍しいんですか!? その、えっと……エク何とかというのは……」
「そうだね。EXSは非常に珍しいし、千瞳さんの特殊な感覚もそのEXSという事なら説明がつくんだ。戦闘が始まる前の高揚感が脳に影響を与える事によって、開始時にまるで銃の引き金を引くようにEXSが発現される仕組みらしい」
「そうなんですか……だから、普段とかは見えなかったりするんですね?」
「そうだね。最初は安定して使えなかったりするようだけど、回数こなしていったり、それを意識して訓練したりすれば、そのEXSを自在に使えるようになったりして、日常にも活かす事が出来るようになるそうなんだ」
そこまで風鈴に解説をしてから、大和はメンバーに振り返る。
「……そういう訳で、パーフェクトゲーム達成を可能とした千瞳さんの戦績の謎……それは、千瞳さんがスペリオルコマンダーであり、EXSを行使した事によるものなんです!」
「……という事は、風鈴ちゃんは不正をした訳じゃないって事?」
「もちろんです、姫野宮先輩! 競技連盟が規定している不正というのは、機器を用いて機械的な干渉を行う事によるものですが、千瞳さんのそれは、名前が示す通りに人由来の能力……一種の超能力なんです。競技連盟もその存在について認めていますし、千瞳さんは何も悪くない……むしろ、今ここに凄まじい戦力のプレイヤーが誕生したという事なんです!」
「「「「「「お、おおおお~っ!!」」」」」」
その意味を理解し、メンバーの反応は大きく変わる。
「す、凄いわ風鈴ちゃん! まさか、風鈴ちゃんがそんな凄い存在だったなんて!」
「か、香子ちゃん! 私も、自分で聞いてて驚いてるの!」
「これは、誰もがびっくり仰天~! なビッグニュースだにょ!」
「カザリンは胸も才能もビッグだったにょ~!」
「ぎ、銀羅先輩!? そ、その言い方はちょっと……でも、本当に凄いです、千瞳先輩!」
「いやぁ~そんな超激レアな才能の持ち主が、まさかうちみたいなほぼ無名な学校にいただなんて、人生分からないっすよね~!」
風鈴の正体が悪いものではないと知れた事で、今までのメンバー達の重い雰囲気が嘘のような明るさになり、風鈴も戸惑いながらも笑顔で対応していると、
「ね、ねえ、風鈴ちゃん!」
「お、おい、千瞳!」
「ふえっ!? 姫野宮先輩に、忍足先輩!?」
角華と飛鳥が、同じタイミングで風鈴に話に来た。
「な、何よ飛鳥、アンタも何か聞きに来たの!?」
「す、角華もかよ!? し、仕方ねぇから先譲ってやらぁ!」
「ちょ、ちょっと! そんな言い方されたら気になるでしょうが! 私は後で良いわよ!」
「お、俺も後で構わねぇよ!」
「えっと……あの……」
詰め寄られた上に、目の前で繰り広げられる譲り合いに、風鈴はオロオロと狼狽える事しか出来ない。
「二人とも、とりあえず落ち着こうか。風鈴君が困っているよ」
「あっ……何度もごめんね、風鈴ちゃん! じゃあ、私から聞くわね!」
そこから風鈴は、角華と飛鳥からの質問攻めに合う。
まず角華が気になったのは、風鈴が行動記録を見た事があるという事について。
これについて、風鈴は厳密には行動記録そのものではなく、EXSによる別のものを見ていたようだった。
風鈴曰く、
「目を閉じて、フィールドの情景を思い浮かべてみるんです。すると、まるで自分が鳥になったように上から皆さんを見る事が出来たんです! 壁とか障害物の位置が同じだったので、これは見た事あるな~って思って……」
との事。
次に、銃の連射音が良く聞こえてたのは何故か? という疑問。
これは、風鈴自身がただ単に機械オンチのためにアサルトライフルの扱いが下手だったからという事で、奇しくも角華が予想した通りだった。
確かにサバイバルゲームのアサルトライフルは電動のものが多く普及されており、機械と言われればその通りなのだが、機械オンチについて恥ずかしそうに告白してきた風鈴を見ては、操作はそれほど複雑でもないはずなのに……と、苦笑しながら首を捻る角華なのだった。
次に飛鳥から来た質問は、何故アサルトライフルではなくスナイパーライフルなのか? という事。
実銃を使った実際の戦争であれば、性能に一長一短は存在したのだが、サバイバルゲームで使われるエアガンに関してはアサルトライフルの方が圧倒的に使いやすいというのが、一般的な見方。
人を殺めない遊戯戦争、とでも言うべきサバイバルゲームにおいては、死傷者を出さないようにとの配慮から、WEE協約以前からエアガンに出力の制限がかけられていて、それは今も変わらない。
そのため、射程距離がどちらも同じく30~40メートル、飛ばせても50メートル程度になっており、射程距離で優位性が無いとなると、構造的に音が出にくいという消音性を活かした隠密的な戦い方しかないのだが、相手の数が少ないならまだしも、複数の敵と出会い頭に撃ち合うなどもざらにある。
そうなると連射性能があるエアガンのが強いのは道理だろう。
その事を問う飛鳥に風鈴は、実演でもって説明をする事にした。
「えっと、何か的は……」
と言って探して来たのは、外の自販機に売っていた缶コーヒー。
それを買ってきて、開けて半分位飲んでから、そのまま近くにあった台の上に置いて離れる。
そして射程距離のギリギリ辺りから、スナイパーライフル特有のボルトアクションにて弾を込め、構えて撃ち出す。
弾は狙いすましたように缶に当たり、良い音を響かせる。
「どうですか?」
「……お、おう! よし、千瞳! 次はこっちに来て撃ってみろ!」
「はい!」
風鈴は、飛鳥の指定する場所に移動し、同じようにして撃ち、また缶に当てる。
「今度はこっちだ!」
「はい!」
「次はここだ!」
「……は、はい!」
色々と場所を変えさせるが、どこを指定して撃たせても必ず当ててくる。
確実に当てるというのはもちろんだが、風鈴の場合は構えてから射撃までがとにかく速い。
ボルトハンドルを引いて弾を込めて構えてから、ほぼノータイムで撃っている。
場所を急いで変えさせても、狙いを付ける時間などほぼ必要としていない。
(……これは凄いな、風鈴君!)
(……う、嘘みたい!)
(……マジかよ!!? この射撃性能もEXSによるものなのか!?)
先輩三人がそう思い、メンバーも同じように驚くのも当然だろう。
「……つ、次はここに来い!」
「……はあっ!……はあっ!」
前後左右に動かされ、風鈴は息が切れてきた。
「ここに着いたら……! 後ろの桂吾狙え!」
「は、はいぃ……!!」
そう命じられ、疲れながらもクルッと振り返る風鈴。
「……へっ!? えええっ!!?」
突然、的にされて避ける間もなく、風鈴のスナイパーライフルに狙われ眉間にクリーンヒットした桂吾、驚きついでに後ろにスッ転ぶ。
「だはっ! ひ、酷いっすよ~……」
「……ふえっ!? あ、明石さん、ごめんなさ~い! 勢いで撃っちゃいました~!」
「……い、いや、千瞳さんが酷いっていうより、主に飛鳥先輩なんすけど……でも、もう凄いとしか言いようがないっよ!」
慌てて謝る風鈴に、桂吾はヒラヒラと手を振って答える。
「こ、こんな感じなんですけど、どうですか? 忍足先輩……」
「うぐっ……! い、いや……た、確かに凄ぇが、それならアサルトライフルでも出来るんじゃないのか!? いざとなりゃ単発に切り替えも出来るんだしよ!」
「ダメなんです……スナイパーライフルじゃないと、線が見えないんです……」
「……線?」
またも聞き慣れない言葉に飛鳥が目を細めると、風鈴がその説明をする。
「……私、この、カチャってするところで弾を込めた時、撃つところから線が見えるんです! そこの線の先に目標を合わせて、撃っています!」
弾を込めるボルトハンドルを引く動作の後、銃口に指を触れてから線の軌道を表すように前を指差す。
「スコープ使いもしねぇで、勝手にレーザーサイト付いて狙えちまうようなもんかよ!?」
「ス、スコープ? レーザー?」
頭上に疑問符が浮かんで見える風鈴に、飛鳥は呆れながらも説明し始める。
スコープとは照準機と呼ばれ、銃の狙いを付けるために覗き見る物で、遠くにあるものを狙う時には本来必要になってくる。
スナイパーが銃を構えている姿を思い浮かべると何かを覗いているイメージがあると思うが、その覗いている筒状のものがそれである。
レーザーサイトも同じような用途で、的の場所にレーザーを当ててポインターを付ける事で視覚的に当てやすく出来る。
ちなみに、大和が貸しているL96にもスコープは付いていた。
「……はぁ~……これって、スコープという名前だったんですね」
「逆にスナイパーライフル扱う人間がそれすら知らねぇとか、マジに素人かよ……」
「……自分も千瞳さんに使い方の説明はしたのですが、名前までは言ってなかったですね」
「ふん……まあ、昨日初めての即席スナイパーじゃ、名前なんかより操作方法が優先だろうからな……だが、そうだとしても、スナイパーライフル使う事が何でその線とやらが見える事になるんだ?」
「自分の予想ですが、ルーティンのようなものじゃないかと思っています」
「ルーティン?」
「はい」
大和が話題に出してきたルーティン(ルーティーンやルーチンとも呼ばれる)とは、一連の動作や決められたパターンという意味の言葉で、物事の効率化を果たす役割を持っているが、人がスポーツをする際に何かしらの決まった動作をする事で集中力を高められる効果があるというのも、今では結構知られている。
「自分と千瞳さんは昔出会った事があって、その記念にワルサーを贈った事があるんです。そのワルサーも、ボルトアクションこそ無いものの、弾を手動で込めて単発で撃ち出すエアコキタイプです。それで良く遊んでいたそうなので、それが千瞳さんの中でルーティンのリズムになったのではないかと……」
「そしてそれが転じて、EXSで俺達には見えない線とやらが見える発動条件になった……って事か?」
「恐らくは……自分も確証は無いですが、可能性としてはあり得ると思っています」
「マジか……赤木が千瞳にワルサーを渡すとかいう面白状況が、そんな方向に発展しやがるとはな……とんでもねぇ素人だな」
大和と飛鳥の会話を少しは聞いていた風鈴だったが、途中から分からない単語が増えたために、諦めてスナイパーライフルに視線を戻していた。
ライフルを改めてまじまじと見直す風鈴を、飛鳥はしばらく眺めていたが……
(……まあ、知識なんざ後々いくらだって仕込めるから良い……が、この才能はなかなかに活かし甲斐があるじゃねぇかよ! うちの学校にスペリオルコマンダーがいただなんて知らなかったぜ!)
口の端をニッと歪める。
(聞けば元から新河越の生徒で二年……もし一年の時に見つけられてりゃ相当な戦力に仕上げられてたのに惜しかったな……だが、まだまだ挽回可能だ! 素人でこの実力……経験積ませりゃどれだけものになるか、今から楽しみだぜ……くくくっ……!!)
(……また怪しい顔してるわね、飛鳥……大方、風鈴ちゃんをスパルタで鍛えようとしてるんだろうけど、最初からそんなやらせる訳ないでしょ! 全く……)
飛鳥の根倉な笑みからその思考を推察する角華。
ジトっとした視線を投げかけるも、飛鳥は気付いていない。
(……それにしても……風鈴ちゃん、本当に凄いわよね。まさか、数千万人に一人の大天才だなんて……風鈴ちゃん見てても、未だに信じられないけど……)
風鈴に視線を移した時には、角華本来の慈しむように微笑んでいた。
その一方、大和は風鈴を見て考え込む。
(……しかし、千瞳さんがスペリオルコマンダーで、EXSを使えるってのは分かったけれど……色々都合が良すぎる気がするな……)
大和は自らの指を折り、数え始める。
(……まず、『障害物を透かせて見える』能力……次に、『上空から見渡せる』能力……最後に、『弾の軌道が分かる』能力……スペリオルコマンダーとはいっても基本的にEXSの性質は固有の一つだけだったはず……そんなに色々出来たりするものだっただろうか?)
三つ指を折り、眉間に皺を寄せる大和。
良い悪いに関わらず、性質を明らかにしておかないと大和としては何とも気になってしまうのだった。
「あの、千瞳さ……」
「よし! 千瞳、もう一度狙ってみろ! 今度はもっと早く指示を出してやるからな!」
大和が質問する前に、飛鳥が狙撃の催促をする。
「こら、飛鳥! これ以上やらせたら風鈴ちゃん疲れちゃうじゃない!」
すぐに角華が立ちはだかる。
「何言ってるんだ! 疲れてる時にも実力発揮してこそ一流だろうが!」
「素人の風鈴ちゃんに一流を求めてどうするのよ!? 運動経験だって全然ない子なのよ! 練習だって初めてなんだから優しくしてあげなさいよ!」
「初めてだろうが容赦しねぇのが俺の流儀だからな! 足腰立たなくなる位にガンガン激しくやらせてもらうぜ!」
「ただでさえ私と二回戦させちゃったんだから、私としてはいい加減休ませてあげたいの!」
新メンバーにとってもそろそろ見慣れた光景になり始めた三年生二人の言い争い。
やれやれと言った様子で、玉守が口を挟む。
「二人とも、いつもながらヒートアップし過ぎだ。破局しない程度にほどほどにな」
「「付き合ってない!!」」
そして答える時に大概被るのも、見慣れてきた。
声がハモった事を恥ずかしそうにしてそっぽを向き合う二人を、他のメンバーは微笑ましく眺め、風鈴も苦笑しながら見ていた。
「あ、でも少しだけなら大丈夫なので、もう一度狙いますね!」
言いながらボルトハンドルを引く風鈴。
「……あっ!」
缶を狙う風鈴はふと、何かに気付いたように声を上げる。
その直後、突如横から強い風が吹き出す。
「ちっ……風かよ……」
「あ~……これはさすがに狙うのは難しいわね……」
飛鳥と角華はこれで狙撃の難易度が上がったと即座に理解する。
軽いBB弾を撃ち出すエアガンは、実銃以上に風の影響を受けやすい。
それはサバイバルゲームの経験者なら誰もが分かる事であり、この場のメンバーもほぼ全員が同じ認識だった。
「仕方ねぇ。的当ては後回しだな。んじゃ、ボチボチ訓練やらせるとするか……」
「だから風鈴ちゃんは休ませてあげたいって言ってるでしょ!? いい加減にしないと……」
飛鳥の発言に角華が食ってかかるという、これまたお馴染みな光景になりかける……
それを、カン! という音が止める。
二人だけでなく、メンバー全員がそちらを向くと、
「大丈夫です! これならまだ続けられます!」
風鈴が笑顔で答え、ボルトハンドルを再び引いて缶を狙い、先ほどと同じように缶に命中させているところだった。
さすがのメンバーも、これには相当驚かされた。
「な、な、何で!!?」
「せ、千瞳!! お、お前どうやって狙ってやがるんだ!!?」
飛鳥と角華も、言い争いを止めて風鈴に詰め寄っていく。
「え、えっと……! ふ、普通にさっき言った線に合わせて撃ってるだけですけど……」
「その線ってのはどう見えてるんだ!? 真っ直ぐ一直線なんじゃねえのか!?」
「いえ、違います。今は曲がって見えます」
「……ま、曲がって見えるって……どんな感じなの? 風鈴ちゃん」
「はい! 直接缶に向けても、全然違う方に流れていっちゃうのでこうやって……」
風鈴はジェスチャーで線の軌道の曲がりを解説しつつ、風が吹いてくる方向に銃口を向ける。
「……こっちの方に少し向けると、線が缶の辺りに来てくれます! 後は缶にピタリと合わせてから撃つと……」
そう言ってから、引き金を引く。
結構強めな風が撃ち出された弾を押し流していくが、それが逆に缶に吸い込まれるような軌道の曲線を弾に描かせ、缶に命中させて音を鳴らす。
「ほら、きちんと当たってくれます!」
風鈴は少しずつ自信が付いてきたのか、当てられた事を嬉しそうに報告するようになってきた。
何度もボルトハンドルを引き、その都度銃口の位置を調節しながら撃ち、外す事無く缶に当て続ける。
そしてメンバーは、これを見て再び驚愕に言葉を無くしていた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます