意外な伏兵……パーフェクトゲーム達成のキーパーソン?
「……おい、ちょっと待て、赤木……そりゃどういう意味だ?」
引っ掛かりを感じた飛鳥が、すぐに大和に問いをぶつける。
「パーフェクトゲームに運以上の要素なんてねぇだろうがよ! ツキがあってもメンバー全員被弾ゼロなんて滅多に出ないこたぁサバゲーやってりゃ分かるだろうが!」
「その通りです。ただ、昨日の公式戦のデータを見て頂ければ、それが普通の運によるものではないと分かるはずです」
「……昨日のデータ?」
「はい。ここにいる全員に一応確認しておきたいのですが、昨日の公式戦のリザルトを見直した人はいますか?」
飛鳥に話していた大和は部室にいるメンバー全員に問い直す。
「ん~……昨日は、見てないかな……」
「確認するのかったるくて、見てなかったっすね」
「「見てないにょ~!」」
「やはりそうですよね」
メンバー達の答えは大和の予想通りだった。
「玉守部長も確認してないですよね?」
「そうだな。部活の中でみんなと一緒に確認しようと思っていたが、金蔵の事があったからな。内容云々よりそちらを意識してしまったよ」
「赤木君、昨日のデータの何がどうだったの?」
「それは自分の口で説明するより、実際に見た方が早いです」
「分かった。じゃあ、今からデータを見てみようか。結果としては非公式になってしまったが、記録だけは今も残ってるはずだな。俺がアクセスしよう」
玉守が自分の生徒手帳を操作し、昨日の公式戦のデータを検索し始める。
「それと、データ見る前に聞かせて下さい。昨日、誰がどれだけ相手を撃破したか覚えてますか?」
大和の質問に、メンバーは首を傾げる。
「あ、私は1ヒットだけ取ったよ! たまたまだけど……」
「……俺は取れてねぇな……角華は取れてたのに、こっちは全然狙えなかったぜ……」
「キルちゃん取れてないにょ!」
「ギラちゃんも取れてないにょ~! そういえば部長さんは1ヒットしてた気がするにょ~!」
「私達は遭遇すらしていなかったです」
メンバーの話を纏めると、角華と玉守が一人ずつヒットしたという事になる。
「……ん? こんだけいて、2ヒットしかしてねぇのかよ? んじゃ、後は赤木と桂吾のどっちかが全員ヒットしたってのか!?」
「い、いや、俺も誰もヒットしてないっす! 確か大和君が何人かヒットしてた気がするんすけど……」
「自分は、最初に会った人とリーダーの金蔵さん、2ヒットだけです」
「……?? 数合わねぇじゃねぇかよ!? 相手も10人いるんだぜ? 残りの6人はどうしたよ!?」
「……アクセス出来たぞ! 数が合わないという事の理由が今から明らかになる訳だな」
飛鳥が、その疑問に到達したちょうどのタイミングで、玉守が昨日の公式戦データにアクセス完了。
玉守の周りにメンバーが集まり、生徒手帳を覗き込む。
「さて、ではメンバーの撃破状況のリザルトは、と……」
目的の項目までスライドさせて開く。
明かされた撃破状況の内容を見たメンバーの反応は……
「……………………は?」
飛鳥がそう溢しただけで、他のメンバーは見た瞬間には声が出なくなっていた。
ヒットしたメンバーの内訳は、先ほど挙がってきた名前でほぼ合っていた。
そして残りは、意外な人物がたった一人で他全員のヒットを取った事になっていた。
『千瞳風鈴 6ヒット』
「……そ……そんな……か、風鈴ちゃんが、残り全員ヒット……!?」
「これで分かってもらえましたか? パーフェクトゲーム達成に運の要素が関わっているのも否定しませんが、その一番の立役者は自分などではなく、千瞳さんなんです」
香子の呟きに答える大和に合わせて、メンバー全員が一斉にバッ! と、風鈴へと顔を向ける。
「ふえっ!?」
風鈴は風鈴で、まさか自分がいきなり注目されると思っていなかったのか、メンバーのその反応で逆に自分が驚いていた。
「……あり得ねぇ……トーシロのはずじゃ、ねぇのかよ……!? いや、それ以前にそんな記録が普通に出るはずは……!」
「〔S・S・S〕とかの故障とか誤作動じゃないっすかね!?」
「いや、それはないだろう、桂吾君。〔S・S・S〕は現在のサバゲーの生命線みたいなものだ。これが正常に機能しないとなると、フィールド運営側にとっては相当問題だろうからな、メンテナンスだけは怠っていないはずだ。それに他のメンバーは数が合っていた訳だしな」
「風鈴ちゃん……これ、本当なの……?」
「あ、あの……! 私、何か変でしたか!?」
飛鳥から不信な目で見られるだけでなく、角華からも信じられないような顔をされ、メンバー間にも混乱が生じている。
風鈴は不安が増してきていた。
「変じゃないわ……むしろ、結果を考えたら、凄い事なのよ!? 一人でほとんどヒットしただなんて! どうして黙ってたの?」
「ごめんなさい! 私、何人当てたのか良く覚えてなくて……とにかく、無我夢中だったので……」
「無我夢中だろうが、トーシロのまぐれでこんな結果はあり得ねぇんだよ! どういう事か説明しやがれ千瞳!」
「ふええっ……!!」
本来なら褒められる功績だったにも関わらず、逆に責められるように飛鳥が詰め寄ってこられる恐怖に耐えかねた風鈴は顔を背け、助けを求めるように近くにいた香子を見るが、その香子も今はただ驚きの表情を見せるのみ。
「……か、香子ちゃん?」
そして周りを良く見れば、他のメンバーも同じように、黙り込んだまま見てくるだけ。
あの騒々しい金瑠と銀羅ですら、何も言ってこない。
つまりは、それほどの状況だという事を、風鈴は理解した。
「……や、大和さ……!」
「さあ! どうなんだ千瞳! きっちり説明してもらおうか!!」
「ひいぃ!!」
大和にも救いを求めようとした風鈴だが、途中で飛鳥に遮られてしまう。
「こんだけの事が出来るなんざ並の人間にゃ到底不可能なんだよ! テメェまさか、権二の野郎みたいにイカサマしやがったんじゃねぇだろうな!?」
「……ち、違い、ます……」
「俺はな、実力もねぇのに不正で登り詰めようっていう奴らが許せねぇんだよ!! 何でこんな事が可能なのかはっきり説明しろ!!」
「あううっ……!!」
風鈴は既に泣きそうになっている。
飛鳥の剣幕に怯えるその姿は、肉食動物に襲われそうな小動物さながらに哀れだが、それでも誰も助けに入れないのは、やはり風鈴という少女の存在を図りかねているのだろう。
「あ、あの、忍足先……」
「待って、飛鳥」
大和が止めに入りかけた時、角華が風鈴と飛鳥の間に入り込み、詰め寄る飛鳥を離れさせる。
「んだよ角華! 俺はコイツにな……!」
「待って、飛鳥」
興奮が抑えられないような飛鳥を、もう一度同じ言葉で、そして真剣な眼差しで角華は落ち着かせる。
風鈴に振り向いた時も表情を変えないまま、風鈴を見つめていた。
何を言われるか不安だった風鈴はもう泣き崩れる寸前……
「……あ……あの……ううっ……! わ、私……」
「……落ち着いて? 風鈴ちゃん」
角華は、そんな風鈴に柔らかい笑顔を見せる。
「大丈夫、怒るとかそういう事はしないから。飛鳥もみんなも、驚かされる事が続いたから、どういう対応すればいいか分からなくなってるだけなの。だから泣かないで落ち着いて、ね?」
角華からの優しい言葉に、風鈴も少しずつ気持ちを落ち着けていく。
「大丈夫? 風鈴ちゃん」
「は、はい、大丈夫です」
「なら良かったわ! 飛鳥が迫ってきて怖かったでしょ? ごめんね?」
「い、いえ! 私の方こそ、ちゃんと話せなくて、すいませんでした……」
角華からの非難じみた言葉に舌打ちする飛鳥だが、反論はなかった。
「あのね? 今回、風鈴ちゃんが凄い記録を出した事について、私は最初から疑うつもりもないのね。初心者のはずなのにこれだけの事が出来るとなったら凄いし、信じてあげたいとは思うんだけど……」
風鈴を落ち着かせる角華の笑顔が、ちょっと困ったように曇る。
「……でも、飛鳥も言ったように、普通にやってこういう結果になる事がないのも事実なの。それなりの経験者がやったとしても、ここまで極端な事にはならない、っていうのは風鈴ちゃんも分かってもらえる?」
「は、はい……」
風鈴の撃破状況を知った後のメンバーを見ていて、それが普通ではない事を、風鈴も理解していた。
「どうやってこれだけの事が出来たのか……聞き取るのも良いけど、私としては自分なりに納得出来る形で知りたい。だから……風鈴ちゃんの事、試させてもらっても良いかな?」
「……私は、何をすれば良いんですか?」
「難しい事じゃないわ! 私と、一対一で何度か対決して欲しいの!」
「私が、姫野宮先輩とですか?」
「そう! それが一番分かりやすいと思うの!」
角華の提案は、昨日公式戦を行った〔DEAD OR ALIVE〕で一騎打ちを行う事だった。
実力を知るならば実戦、というところだろう。
「もちろん、お互いに手を抜かないでやり合うのは当然だけど、模擬戦と同じだし公式戦みたいに気負わなくて良いからね! 風鈴ちゃんの自由に動いてくれれば良いの! どう?」
「自由に、動いて大丈夫なんですか?」
「うん! そういう訳だから……」
角華は、途中から黙って成り行きを見守っていた飛鳥に振り返る。
「風鈴ちゃんは私が見極めるから、それで良いわよね? 飛鳥」
「……ふん。好きにしやがれ」
受けた飛鳥も、不機嫌そうではあったが反対はしなかった。
「玉守君、私の勝手で今日の予定組んじゃったけど、大丈夫だった?」
「ああ、それは構わないよ、角華君。飛鳥が勝手に予定を変更するという前例もある事だしな、慣れてるよ」
部長の許可も下り、この日の部活の方向性が1つ決まった。
サバイバルゲーム部の活動内容については、全てが生徒に一任されている。
方向性がサバイバルゲームに沿うものであれば、基本的に自由。
特にフィールド利用による実戦的な内容に関しては、〔S・S・S〕によって内容が記録されたりもするため、良く部活に取り入れられる。
「それとみんな、悪い事したって分からない内から、すぐに疑ったり態度変えたりしちゃダメよ。分かった?」
「は、はい!」
角華に言われてすぐに返事をしたのは、香子。
他のメンバーもリアクションに多少の違いはあるものの、了解を示す。
「オッケーね! じゃあ、この話題はひとまず保留ね! もう少ししたらフィールドに行こうと思うけど、大丈夫?」
「はい! あの……ありがとうございます! 模擬戦、よろしくお願いします!」
「うん、こちらこそよろしくね!」
風鈴が頭を下げ、角華が笑顔のまま下がると、
「か、風鈴ちゃん! その……ごめんね!」
入れ替わるようにして香子が申し訳なさそうに謝罪してきた。
「風鈴ちゃんは、そういう不正するはずないって信じてあげたかったのに、びっくりして何も言えなくて、その……」
「ううん、大丈夫! 私が、きちんと説明出来なくてこんな事になっちゃって……」
謝りながらも仲良く話し始めた二人の姿に、部室内もようやく緊張感が解ける。
「さて、それじゃ時間になるまでは各自、必要な作業をしながら待機しててくれ」
玉守がそれだけ指示を出して部室から出ていく。
「玉守部長」
その後を、大和が追いかけていく。
「どこに行かれるんですか?」
「手洗いだが、何かあったかな?」
「いえ、その……すいませんでした」
大和は、玉守に頭を下げる。
「どうして謝るのかな?」
「自分があのような話題を振ったせいで、あんな状態になったもので……責任を感じまして……」
「大和君が謝る必要はないさ。昨日の公式戦をきちんと確認してみれば誰かしらおかしいと気付けたはずだ。君には感謝こそすれ、悪いと非難する事はないよ」
大和の謝罪にやんわり否定をしてから、玉守は歩き出す。
大和も、それに付いていく。
「どちらかと言うと、風鈴君のが精神的にキツかっただろうな。針のむしろという感じだったからな……角華君が止める前に何か言い出そうとしたのは、風鈴君を擁護するためだったんじゃないかな?」
「はい。自分としてはどうしてあのような記録を作れたのか、千瞳さんの口から理由を聞きたかっただけでして、責めさせるつもりもなかったんですが……」
「何とも間が悪かったというところだな。金蔵の不正騒動のすぐ後だったせいもあるし、悪い男ではないんだが飛鳥は口調がキツいからな。風鈴君には後でフォローに行ってあげるといい」
「はい。これも、姫野宮先輩のおかげです。あの場での姫野宮先輩のフォローが無ければどうなっていたか……」
「そうだな。角華君の優しさに救われたと言えるよな。俺も、そうなる気がしたから、最後まで何も言わなかったりもするのさ」
玉守の話によると、過去にも飛鳥の対応によるトラブルが数多くあったという。
サバイバルゲームに対して、自分にも他人にも厳しさを求めるストイックでスパルタンな一面があるせいで、辞めていった同級生や後輩達が多くいた。
今いるメンバーの何人かも、飛鳥の厳しさに辞めそうになった事もあったそうだが、それを留められたのは角華のフォローがあったからだという。
そのため、部内においての影響力は飛鳥はおろか、時として部長の玉守すら上回る。
メンバーを落ち着かせられたのも、そんな角華の優しさの賜物なのだと、大和も理解した。
「あの場をまとめられたのは角華君だからこそだと思う。俺に謝罪するのではなく、角華君に礼を言う方が良いと思うぞ」
部室から離れたところにあるトイレの前まで二人は到着した。
「そうですね、戻ったらお礼を言ってきます。では、最後に聞かせてもらっても良いですか?」
「何かな?」
「玉守部長は、さっきの状況で千瞳さんの事を信じられましたか?」
大和から問われた玉守は、少しだけ考え込む。
「……全面的に、とは言いがたいが、信じてあげる気持ちは持ち合わせていたよ」
やがて、玉守は答える。
「まだ昨日今日だけの付き合いでしかないが、風鈴君の人柄に嘘偽りは無いと思っているよ」
「そうですか」
「まあ、腑に落ちないというのが一番の理由なんだがな」
「腑に落ちない?」
眉をひそめる大和に、玉守は頷く。
「昨日の公式戦の戦績を見た時に違和感を覚えてな。今回、金蔵に不正が発覚し、続いて風鈴君にも疑いが掛かった訳だが……風鈴君まで不正したと仮定して、では何故不正が明るみに出たのが金蔵だけだったのか? とね」
「……!! 玉守部長もそこに気が付かれましたか!?」
「ああ。正式に競技連盟から調査の介入があったならば、データ確認が徹底的に行われたはずだ。公式戦の内容位は当然把握しているはず……それを踏まえれば、金蔵より風鈴君の方が不正の疑いが掛かりそうなものだろう? 風鈴君を信用しないという訳ではなく、そういう意味で腑に落ちないと思ったのさ」
WSG競技連盟は近代サバイバルゲームにおいて非常に厳格な存在であり、データ管理と運用を担うだけあってシステム全般のアクセスが可能であり、ひとたび調査が始まればそこに関わるプレイヤーのサバイバルゲーム情報など、丸裸にされる。
そしてその調査能力たるや、
今回も金蔵の不正に関して、その媒体がゴーグルである事や使用頻度まできっちり調べあげ、不正を明らかにして厳正な対処を行った。
それ故の、違和感……普通なら不正によって有利な情報を得られた金蔵のチームが、逆にパーフェクトゲーム負けを喫するという状況。
あからさまなスコアを叩き出し、勝利に貢献してしまった風鈴は不正の疑い無しという判断。
昨日の段階でリザルトを確認した大和と、今日確認したメンバー中で玉守だけがその違和感を感じたようだった。
「競技連盟すら欺けるような不正技術を使ってるとなったら、それはそれで驚きだな。だが、風鈴君がそんな事に手を染めてると思いたくはない。正々堂々な実力である事を願うばかりだ。もっとも、今回の事で風鈴君が本当に初心者なのかどうかも、良く分からなくなってしまったが……」
「そうですね……姫野宮先輩が千瞳さんと模擬戦を行う中でそれが確認出来れば良いんですが……」
そこまでで話題は打ち切り、用足しのためにようやくトイレに入っていった。
※ ※ ※ ※
金蔵の不正発覚と風鈴の不正疑惑でのトラブルから数時間後、新河越高校メンバーは再び〔DEAD OR ALIVE〕へと到着していた。
そこに至るまでに、メンバー間では多少のぎこちなさがあった。
やはり風鈴への不信が影響しているのは明らかで、風鈴自身も理解はしているものの、模擬戦が始まるまで浮かない面持ちだった。
前日と同じ工程で準備を進めた風鈴と角華は、模擬戦の対決を前にして向かい合っていた。
「よ、よろしく、お、お願いします! 姫野宮先輩!」
「くすっ! よろしくね!」
少し緊張気味な風鈴に対し、角華は笑顔で応じる。
「さっきも言ったけど、気負わないで自由に動いてくれれば良いからね? 勝敗とかじゃなくて、風鈴ちゃんの実力を知りたいだけだから! 昨日のが本当に実力通りなら、私なんて圧倒しちゃうのかもしれないけどね!」
「と、とんでもないです! 姫野宮先輩が昨日の公式戦で正確に相手の人を狙っているところを見た時、すごいって思いました! どこまで出来るか分かりませんが、頑張ります!」
「褒めても手加減は出来ないからね? でも、ありがとう! じゃあ、行こっか!」
「はい!」
お互いに左右の安全地帯に別れて入る風鈴と角華。
ここからどのように動くかは、二人に委ねられる。
参加しないメンバーは半々に分かれてそれぞれのプレイヤーがフィールドに向かうのを安全地帯から見守る。
不正防止のため、フィールドに持ち込む全ての物は事前に検査を通し、念のためフィールド運営に事情を説明してセキュリティも通常より強化してもらい、サーバーを始めとした電子関連に何かしら干渉があればすぐに分かるようになった。
これで、不正対策は完璧。
あとは模擬戦の開始を待つのみ。
(風鈴ちゃんが不正だなんて……そんな事、無いよね?)
フィールドに続く扉の前に一人立ちながら、そんな事を考える角華。
角華ももちろん、風鈴の出したスコアの異常さは理解していた。
そして、もしそれを実行に移すとなれば、金蔵のやったようにハッキングでもして位置情報を特定する位しなければならないだろう。
風鈴がどう動き、何をするか、一騎打ちを行う事で炙り出して風鈴の事を見極める役割を買って出た角華だが、角華自身も風鈴が不正をしたと思ってはいなかった。
だが、それにも関わらず角華が行動に移したのは、飛鳥に詰められる風鈴が可哀想に思えたからだった。
『姫野宮先輩が昨日の公式戦で正確に相手の人を狙っているところを見た時、すごいって思いました!』
(あんな風に、気持ちを素直に言ってきてくれる風鈴ちゃんが悪い事するはずないよ! そう、これは何かの間違い! だから、今からやる事は本来意味が無い事のはずなのよ! うん!)
風鈴が先ほど自分に向けてくれた賞賛の言葉を、角華は思い出してそう思い込む事で自分を納得させようとするのだが、
(……でも、風鈴ちゃん……私が相手を狙ったところを見たって言ってたけど、そんなに余裕があったの? たまたま、私がヒット取れた瞬間を見てた? 急にやる事になった初めてのサバゲーで、しかも公式戦やらされて、慌てる事なく冷静に状況確認出来たって言うの? 私だって、初めての時は緊張して、どう動いたか覚えてもいなかったのに……)
風鈴を信じたい角華も、不信な部分が存在してしまうと疑惑の思考が働いてしまう。
(風鈴ちゃん……本当は経験者だったとかなのかな? でも、雰囲気的には未経験っぽいし……それも演技? どちらにしても、あの記録は普通には無理よね? 風鈴ちゃん、あなたは一体……)
『ゲームスタートまで、残り1分。安全地帯ゲートオープン。プレイヤーは速やかに所定の位置にて待機して下さい』
昨日と同じく電子音声の案内と共にフィールドへと続く扉が開かれ、角華は深呼吸一つで気持ちを切り替える。
開始時間が近付くにつれ、角華の表情も引き締まっていく。
(……今は、この模擬戦をきっちりやりきる事だけ考えよう! 風鈴ちゃんを、素人扱いはしない……同じ経験者相手にするつもりで挑むわ!)
集中力を保ったまま、角華は目の前の扉が開くのを待つ……
※ ※ ※ ※
フィールド外の安全地帯に、他のメンバーが集まる。
「もうすぐ始まる時間だな。対決後にリザルトを確認するのが楽しみだよ」
玉守が落ち着いた笑みのまま、用意された椅子に腰を下ろす。
「ふん! 少しでも怪しいと思ったら、問いただしてやるからな!」
こちらは同じく椅子に座るでも、動作が荒っぽい飛鳥。
「飛鳥、風鈴君側に行ってみたんだろ? どうだ、風鈴君は怪しい動きでもしてたか?」
「入るまでは何ともな。プルプル震えて緊張してる感を装ってやがったが、それも本当かどうか怪しいもんだがな!」
「か、風鈴ちゃんは怪しくなんかないですよ!」
疑惑を隠そうとしない飛鳥に、香子が抗議する。
「緊張するなんて当たり前じゃないですか! 風鈴ちゃん、サバゲー未経験の素人なんですよ! しかも誰も頼れる人がいない一騎打ちだなんて……姫野宮先輩が相手だからまだ良いですけど……」
「そのトーシロがおかしい記録作りやがったから怪しいって言ってんだろうが! それとも何か? そんなトーシロでも楽勝にやれるもんかよ、このサバゲーがよ!?」
「そ、それは……」
「もう良いだろう、飛鳥。それを今から検証するために角華君が試そうとしてるんじゃないか。何かあるなら、結果が出てからでも遅くはないだろう」
「ふん! あの6ヒットが納得出来る程の結果が見られるってんなら是非とも拝ませてもらいてぇもんだな!」
飛鳥は座りながら行儀悪く足を揺らし、床に苛立ちのリズムを刻む。
あからさまに機嫌が悪い事が窺え、金瑠と銀羅も迂闊には話を振らない。
「不正でもしない限りは、今回の事は説明がつかねぇんだ! 魔法でも使えるとかって言うなら別だろうが、んな事信じられると思うか!? どっちにしても怪しい事に変わりはねぇ! とにかく、俺は千瞳のやつを信用してねぇからな!」
飛鳥がそう言い放った直後、安全地帯の中にあるフィールド使用を示すランプが点灯する。
このランプが点灯してからは、情報漏洩防止の観点から、外側からの如何なる干渉も出来なくなる。
公式戦が行われる場合に限り、その内容をライブのようにして外部のテレビに写したりもする。
それは、WSGCで観戦される事を意識している為である。
逆に模擬戦を行う場合は練習内容等を外部の人間に知られたくないプレイヤーもいたりする関係で、通常は非公開となっている。
「……始まったな。この模擬戦は角華君に託そう。俺達は、角華君の観察眼とプレイヤーの行動記録を後で照らし合わせて判断しよう」
玉守のその言葉を最後に、安全地帯内での会話は
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