明かされる秘密……金蔵の真実

 角華から背中を踏みつけられる、という異質な状況の中、


(くっ……! 昨日は、マジで不覚だったぜ……!)


 飛鳥は言葉に出さず、後悔していた。

 後悔の内容自体は、女子メンバーにコスプレをさせようとした事ではなかったりするのだが。


(角華のやつ……柄にもなく、今までにないしおらしい雰囲気出しやがって……勘違いしちまったじゃねぇかよ!!)


 昨日の夜、角華が飛鳥に聞き出そうとしてきた言葉を飛鳥は思い出していた。


『あのね……飛鳥……その…………か、金蔵君と、何の条件を賭け合ってたのか、教えて欲しいの!』


(油断大敵とは、この事だな……内容聞いた時の角華の顔といったら、まるで修羅のようになってたな……女は怖いっていうのを、教えられた気がするぜ……!)


 告白でもしかねない雰囲気に勘違いした飛鳥は、正直に話すと約束してしまった。

 言ってから引っ込みがつかなくなり、お互いの証拠として金蔵との口約束を録音した生徒手帳を角華に差し出し、事態が発覚した。

 下を向いていた飛鳥がそっと角華の顔を覗き見上げると、冷ややか継続中の角華と目が合う。


「……何よ? 何か言いたい事でもある?」

「……ねぇよ……!!」


 飛鳥は苦々しく、下を向き直す。

 そんな飛鳥を見た角華、不満げではあったが表情は幾分か柔らかくなっていた。


(……何よ、飛鳥のバカ……私だって、本当はここまでするつもりなかったのに……昨日だって本当は……飛鳥が、後輩のみんなに先輩らしくしてるのを見て、飛鳥のくせに、何か格好いいかもって……雰囲気ヤバかったんだから……!)


 角華は角華で、昨日飛鳥から生徒手帳を渡される前の状況を思い出しては、顔が赤くなりかけるのを必死で耐えていた。


(……あの時、すっごい恥ずかしくなって、とっさに話題変えちゃったのよね……飛鳥が金蔵君と変な賭けなんてしてなかったら今頃……)


 飛鳥は勘違いとしていたが、実は途中まで勘違いではなく本当にその通りの雰囲気だったようで、場合によってはすごく良好な関係になってたかもしれなかったのを破綻させたのも、結局は飛鳥の自業自得と言えるだろう。

 まだ不機嫌には見える角華も最初よりは落ち着いたらしく、不満さを訴えるように足で飛鳥の背中をなぞる様子も、あからさまに痛みをもたらすものではないので、見る人によってはイチャついているように見えなくもない。

 最上級生が場の雰囲気の中心にいるため、それまでは誰も何も口出し出来ない状況ではあったのだが……


「「……う~~~……! ふはぁ~~!!」」


 それに我慢出来ないように動き出した部員がいた。

 毎度お馴染み、金瑠と銀羅である。


「や~もうこれ以上待ってられないにょ! この素晴らしきシャッターチャンス!!」

「今までにない孤独先輩のレアなお姿……永久保存版だにょ~!!」


 生徒手帳をいそいそと取り出し、踏み台飛鳥を色々な角度から撮り始める双子。


「だっ……!? テ、テメェら撮ってるんじゃ……んぐぐっ!?」

「は~い、もうバンバン撮っちゃって良いわよ! 悪い事したみせしめでこうなるって思えば、もう少し大人しくしてくれるだろうし!」


 撮影を阻止しようと威嚇し出した飛鳥の口を、気を取り直した角華が再び足で塞ぐ。

 それもまた、双子にバンバン撮られる。

 飛鳥はすぐに首を振り、角華の足をほどく。


「……ふはっ! 角華テメェ……!」

「ふふん、いい気味よ! これに懲りて、変な口約束して私達を困らせるんじゃないわよ、良いわね?」

「うぐぐっ……!!」


 勝ち誇ったような角華と心底悔しげな飛鳥。

 これでようやく角華の溜飲が下がったようなので、悪い雰囲気自体は解消された様子。

 他の部員もとりあえずは一安心……ではあったのだが、


「いやはや~それにしてもだにょ!」

「これは本当に良い傾向だにょ~!」

「ん? 何が良い傾向なの? キルギラちゃん」


 それだけで終わらないのが、この双子ならではというところ。


「いよいよもって、ヒメスミ先輩とボッチ先輩の仲が一層親密化したという事だにょ!」

「前々からのお二人の仲の良さがここに来て急接近! 一気に関係が進展してるにょ~!」

「…………はい?」


 一瞬、何の事か理解出来ずに呆ける角華だが、その意味を認識して慌て出す。


「ちょ、ちょっと待ってキルギラちゃん! わ、私と飛鳥の仲が進展って、何をどう見てそう思ったのよ!?」

「普段から、ケンカするほど仲が良いを地で行く二人が体を触れ合わせるところまで来たというのが親密さの証だにょ!」

「しかも、足元で足蹴にされるというマニアックな嗜好を発揮してるという、正にお似合いな関係になってるにょ~!」

「お、おい……! 俺は別にそんなマニアックな嗜好ある訳じゃね……」

「進展とかそういうんじゃないってば!!」


 否定しかけた飛鳥より早く、角華が焦ってソファーから立ち上がりながら否定するのだが、角華の足元には飛鳥がいるため、その背中にモロに体重をかけて乗ってしまう。

 四つん這いだった飛鳥は、急に重さが増したために体勢が崩れて腹部や胸部を床にドスン! と強打する。


「ぐはっ……!!!」

「わ、私……こんな事を好きでしてるとかじゃなくて……飛鳥を悔しがらせるために、やってるだけというか……」


 恥ずかしそうに言い訳をする角華だが、双子はニヤニヤとした笑みを崩さない。

 そして、飛鳥が踏み潰されている状況に、乗っている角華自身が気付いていない。


「土足じゃないのもポイントだにょ! 踏みつけるなら靴があった方が良いにょ?」

「そ、それは……! 上履きのままじゃ、飛鳥の背中に足跡付きそうで、それはさすがに可哀想かな? って思ったというか……」

「攻めに徹しきれないヒメスミ先輩の優しさは、孤独先輩への愛が見え隠れしてるにょ~!」

「ヒメスミ先輩のお尻に敷かれるボッチ先輩が、見られる日も近いにょ!」

「アンダー・ザ・フットから、アンダー・ザ・ヒップになる日も近いにょ~!」

「なっ!!?」


 尻に敷かれる女房、という意味を理解した角華、顔が真っ赤に染まる。

 告白しかけたというだけあって、飛鳥を変に意識してしまっている。


「も、もう!! キルギラちゃんってば、へ、変な事言わないでよ! わ、私まだ、飛鳥にお尻まで許すつもりはないんだから……! って、な、何か凄く恥ずかしい事言っちゃってる気が……!!」


 もはや、自分でも何を言っているかも分からないのかもしれない。

 聞き方によっては、色々誤解を招きそうな角華の発言。


「い、いやぁ~!! ひ、飛鳥!! へ、変な勘違いしないでよね!? わ、私別にアンタとそこまでの関係まで意識してる訳じゃ……って、あれ? 飛鳥?」

「……よくもまあ……俺の上で、そんだけ話し込めるよな……」


 声が聞こえた下を見て、飛鳥を踏み潰した事実に角華もやっと気付く。


「あっ!? ご、ごめん飛鳥! こ、ここまでするつもりは……! す、すぐに降りるね!」

「……ああ、そうしろ……さすがに重くてかなわねぇよ……」


 やっと解放されると思った飛鳥はつい、口を滑らせてしまう。

 飛鳥の背中から降りようとしていた角華の動きが、止まる。


「……? 何だよ、早く降りてくれ。もう十分だろ……」

「……お……」

「ん? 何つった? お?」

「……お……重いとか……! 年頃の女子に言うなぁぁ!!!」


 飛鳥の失言に、角華は今度は別の意味で顔を真っ赤にして、飛鳥の背中を、ドスドスと強く踏みつけ始める。


「ぐはっ!! ぐおぉ!! す、角華やめっ……ぐがっ!!」

「このっ! このぉ!! 重いって言葉が女子には禁句って言うのが分からない無神経男は、もっともっと反省しなさ~い!! 飛鳥のバカぁぁぁ!!」

「やめっ……!! ぐっ!! わ、分かった! 悪かった!! 重くねぇ! ぐあっ!! す、角華は重くねぇよ! 重くはねぇ、がこれじゃ、重くなくても……キ、キツい、だろうが……!!」


 飛鳥に乗ったまま強めの足踏みをお見舞いする角華に、飛鳥もなす術が無い。

 この状況を双子は完全に楽しみ、静止画から動画撮影に変更して映し出した。

 困惑していた部員も、その雰囲気が笑いに繋がり始め、吹き出した者も出てきた。

 未だに戸惑っているのは大和と風鈴くらいのものだった。


「だあぁぁ~ちくしょう!! 誰でも良いからこの状況何とかしやがれ~!!!」


 それは、飛鳥の心からの叫びだったのだろう。

 そしてそれは、叶えられる事になる。


「どうした? 何かあったのか?」


 全員の視線が、その声が聞こえた廊下へと向けられる。

 ここに今までいなかった部長、玉守だ。


「角華君と飛鳥の大きな声が廊下にまで聞こえてきたんだが……」


 玉守も部室の中の惨状(?)を目の当たりにする。


「……え、え~っと……た、玉守、君……これはその……何というか……」


 飛鳥に乗ったままの状態を見られ、角華も気まずそうにしていた。

 これを見ての玉守の反応に注目が集まる。

 玉守は、何やら小さくため息をつき、角華と飛鳥に歩み寄り、しゃがんで飛鳥に近づく。


「飛鳥」

「……何だよ?」

「あまり、角華君に失礼な事は言わない方が良いぞ?」


 呆れたようにそれだけ言って、玉守は再び立ち上がる。


「……この状況見て、それだけをピンポイントで汲み取れるのかよ? 将希」

「お前との付き合いもそれなりに長くなってきたからな、それくらいは理解出来るさ。とりあえず二人には、もう少し落ち着いた仲の良さを見せて欲しいものだな」


 そのまま今度は、まるでエスコートでもするかのように角華に手を差し伸べる。

 角華はまだ恥ずかしそうにしながら、玉守の手を取って飛鳥からやっと降りる。

 飛鳥もようやく解放され、立ち上がって体を軽く動かしてほぐす。

 周囲のメンバーのほとんどは、玉守が何かしらのリアクションを見せてくれるかと期待していただけに、少し残念そうだった。


「う~……体痛ぇ……ここまで踏むこたぁねぇのによ……」

「う、うるさいわね! 元はといえばアンタが……! なんて言い出してたらきりがないわね……もういいわ。それより玉守君。今日はいつもより遅かったわね? 頼まれ事が長引いたりした?」

「いや。今日は特に頼まれ事はなかったんだが……実は、郡司先生から昨日の一件での驚くべき重大な話を聞かされてな」

「昨日の一件?」

「ああ」


 聞き返した角華に頷き、部室全体を見渡す玉守。

 その顔は、良い方向の話ではないと誰もが分かる真剣さを帯びていた。


「みんな集まってくれてるのは良かった。このままミーティングといこう」


 玉守に促され、部室にある椅子に全員座る。

 メンバーが聞ける状態になったのを、玉守も確認。


「では、始めよう。まず、昨日の一件については、大体分かってもらえると思うが、ブラッドレインとの公式戦についてだ」

「金蔵君達との公式戦? それが何かあったの?」

「ああ。実は……」

「あっ……!」


 玉守の説明を遮った声の主は、大和だった。

 全員が大和へと振り向く。


「どうした? 大和君。何か言いたい事でもあったかな?」

「いえ……実は自分も、昨日の公式戦で気付いた事がありまして……もしかしたら、同じ事なのではないかと思ったもので……」

「ひょっとして、大和が教室で言ってた話したい事か?」

「そうなんだ、浩介」


 浩介が聞くと、大和は肯定する。


「ふむ。同じかどうかは分からないが、言いかけになるからまずは俺から先に話させてもらっていいかな?」

「はい、止めさせてすいません……続けて下さい」


 大和が下がると、玉守も仕切り直すように一呼吸おき、再開。


「では……心して聞いていて欲しい。昨日の公式戦において……」


 聞き入るメンバー達に、玉守は簡潔に内容を告げる。


「……金蔵が、不正を行っていた事が発覚した」

「…………は? 不正、だと?」

「ああ」


 最初に反応してきたのは、やはり飛鳥だ。


「……何だよそりゃ……どういう事だよ!?」

「私も信じられない……! 金蔵君が、不正だなんて……玉守君、何があったのか教えて!」


 角華も加わるが、言葉通りに信じがたいという気持ちが両者とも顔に表れている。

 他のメンバーも同じように驚き戸惑う中、玉守は続ける。


「まず、金蔵の不正が何であるかだが、一言で言えばハッキングだ。違法改造されたゴーグルを使ったらしい」


 玉守の説明によると、そのゴーグルには既存の機能の他にもう一つ、ゲーム中の相手チームの撃破状況を見る事が出来るとの事。

 WEE協約以降、技術向上に伴ってサバイバルゲーム用に様々な機能や性能を有するアイテムは増えてきた。

 ゴーグル一つにも、そうした技術が組み込まれてきた訳だが、近年のサバイバルゲームの性質上、逆に違反となってしまう場合もある。

 それが、ゲーム中に相手チームの情報を確認出来る機能。

 ゲーム終了後に相手の許可を取ったというならともかく、ゲーム中に確認出来てしまうと勝敗に影響が出てくる事も多く、禁則事項と定められている。

 ゲーム中のプレイヤーの動向は運営のサーバーに記録されていくが、金蔵のゴーグルはそこに不正にアクセスしてリアルタイムの相手チームの撃破状況を確認出来る代物だという。

 聞いていた風鈴が首を捻る。


「相手のチームの撃破状況って、そんなに重要なのかな?」

「例えば、相手が三人しかいないって時、目の前の障害物に隠れた相手チームのユニットが三人だったって、たまたま目撃しちゃったとするでしょ? そうすると、撃破状況知っていれば別のところから狙われる可能性も無いって分かるのね。まあ、場所をすぐに特定出来るとかいうのよりは重要性は低いけど……結局、運営側にまで関わってくる相手チームの情報は知ってはいけないってルールになっちゃってるの……」

「そういう事だな」


 風鈴の疑問に香子が答えると、玉守も頷く。


「相手チームに勝つための情報というのは本来、多いに越した事は無い。電子戦という言葉もあるくらいだし、本来の戦争だったならその技術向上で勝利を目指すのは至極当然の事だったかもしれないが、ことサバゲーに関してはある意味で逆なんだ」

「逆、ですか?」

「あのね、風鈴ちゃん。サバゲーって確かに戦争を模したものではあるけど、それは実戦に昔ながらの戦争らしさを求めるって事なのね。販売されていたエアガンの中には、本物みたいな 反動リコイル機能のある『次世代機』って呼ばれてたのもあって、リアル志向の人が使ってたのもあったの。もちろん今も使われてるんだけど……」


 玉守の説明に香子が別視点からの例を出して補足を加える。


「そういう意味でも、らしさというか古さを敢えて追求していくのが元々のサバゲーの在り方で、その運用や管理に最新技術を取り入れてるのが今の状況なの。だからこそ、ゲーム中に管理データを覗いてしまうとサバゲーらしさから逸脱してしまうって事で、その違反はとても重いのね」

「そうなんだ……知らなかった……」

「今さらそんな分かりきった事、俺にとっちゃどうだっていいんだよ……権二のやつがイカサマしてたって事実が全てなんだからな……!」


 香子の解説も、今の飛鳥には苛立ちを募らせるだけだった。


「将希……権二のやつ、いつ頃からそのゴーグル使ってたかって聞いたか?」

「昨日の段階で競技連盟が、金蔵の戦績データとフィールドの履歴データを全て確認していたようだが、結構前から使っていたようだな。だが、色々な場所で使っていたという訳ではなく、〔DEAD OR ALIVE〕の中だけで使うと限定していたらしい」


 金蔵が違法ゴーグルを使うのは、ホームフィールドの〔DEAD OR ALIVE〕の中だけに留め、他では使われていなかったという。

 それは、撃破状況のデータ管理がそれぞれのフィールド運営者に一任されていた事と、田舎に近いが故か〔DEAD OR ALIVE〕の管理態勢がずさんだったためにハッキングを仕掛けられても気付かなかった、という事情からそれを熟知していた金蔵が〔DEAD OR ALIVE〕のみで多用していたのだという。


「不正が今まで見つからなかったのも、ハッキング対象が撃破状況だけ、という微妙なところだけだったからみたいだ。位置情報クラスであれば、如何に田舎フィールドの運営とはいえ、発見も早まったのだろうが……」

「確かに、そんな情報だけで活かせるかは微妙っすね……」

「ああ。今回も、それが発覚したのは本当にたまたまだったようでな。運営スタッフのミスで金蔵のチームが予約していたのと違う時間に設定してしまっただろう? アルバイトが良く知らなかった事が原因みたいだが、あれの対応のために電気系統に詳しい上の社員が来て、社員教育のついでにサーバーを見直していたときにハッキングの形跡が過去にあり、昨日の時点でも金蔵が違法ゴーグルを使ってしまった事が発覚の決定打となったようだ」

「ある意味、金蔵さんも不運っすよね……でも玉守部長、うちらのチームはそれで一応負けさせられてた事もあるって事っすよね? そういう場合ってどうなるんすか? 不公平な負け方した事になるはずだと思うんすけど……」

「ああそうだ、桂吾君。その事も話しておこう……金蔵のチーム、ブラッドレインとの今までの戦績は、その違法ゴーグルを使われた日に関しては勝敗が無効となるそうだ」

「あの……じゃあ、昨日の試合も無効になったって事ですよね? それじゃあ、せっかく先輩達が頑張って勝ち取ったパーフェクトゲームの記録も、無効って事ですか?」


 昨日参加しなかった歩の問いに、玉守も一度深呼吸で間を取ってから答える。


「……そういう事になるな。残念ではあるが……」

「くそったれがっ!!!」


 突如、部室の机が壁に打ち当てられ、激しい音を立てる。

 飛鳥が怒りに任せて蹴り飛ばしていた。


「あの野郎っ!! あの、くそバカ野郎……!!」


 その怒りを隠そうともせずにギリギリと歯ぎしりして部室内を落ち着きなくうろつきだす飛鳥。


「(うひゃ~……! ボッチ先輩がとうとう、 激怒げきおこモードになったにょ……!)」

「(パーフェクトゲーム無効になった悔しさで机が尊い犠牲になったにょ~……南無南無……)」


 双子の言動が雰囲気と比して微妙に真面目と離れてはいるが、声を大きくしない辺りは空気を読めているようだった。

 ひそひそと話す二人に、


「(ううん……多分違うと思うよ、キルギラちゃん)」


 角華がそっと入り込む。


「「((ヒメスミ先輩?))」」

「(パーフェクトゲームまで無くなったのは、確かに悔しいかもしれないけど……飛鳥が怒ってるのは、それだけじゃないと思う。口ではあれこれ言ってるけど、幼馴染の金蔵君にはライバル意識も持ってただろうから……)」


 同じ幼馴染として、飛鳥のやりきれない気持ちを察する角華。


「……負けの方が多かった俺達としては、勝率自体は上がったとは思う。だが、気持ちの良いものでは無かったな……何にしても、これで金蔵はWSGCへの出場資格は無くなり、サバゲーの参加にも制限がかかる事だろう。言うまでもなく分かってはいるだろうが、俺達は引き続き、正々堂々としたクリーンな戦いを心がけていこう。俺からの連絡事項は以上だ」


 自身の話を締めた玉守はメンバーが同意で頷いたのを確認すると、


「それで、大和君の方はどんな話だったかな? 恐らく俺の話とは内容が違うとは思うんだが……」


 今度は大和に話を振る。


「……そうですね、違う話ではあります」


 大和は、少し考えてから答える。


「何となく違う話な気もしましたが、金蔵さんの話題だとは思いませんでした。しかし、納得は出来ました。自分が金蔵さんを狙った時、既にかなり焦っていました。きっと両チームの撃破状況を見れてしまったから、というのもあったのだと思います」


 大和は玉守の話を聞いている間、金蔵を狙った状況を思い出していた。

 周囲を警戒している金蔵の様子は、用心深いからとその時は思いつつも違和感があった大和。

 金蔵には、ゲーム中での両チームの異常な撃破状況が見えてしまっていたのだろう……

 相手チームが全く数が減らないのに、自分のチームが早いペースでどんどん減らされていくという事実が……


「そうかもしれないな。自分の撃破状況だけであれば、相手も多少は減っているだろうと前向きに思えなくもないが、金蔵の場合は相手のも見れてるからな。パーフェクトゲーム負けの方向に突き進んでいるのを目の当たりにして心にゆとりが持てなくなったか……不正をした事が、却って仇となった訳だな」

「はい。自分の疑問は晴れました。ただ、自分がこれから話す事は、違う意味での異常事態です。玉守部長と重ねるのでもないですが……どうか、心して聞いて下さい」


 玉守に代わり、大和もメンバー全員に向けて念を押す。


(……異常事態か……権二のやりやがったイカサマ以上に、驚くような事があるとも思えねぇけどな……)


 ほとんどのメンバーがそのまま真剣に聞く中、飛鳥だけは半ば自棄な心情だった……


「では、報告します。昨日の公式戦、パーフェクトゲームが達成された要因についてです」


 しかし、大和がこれから話す異常事態の内容がもたらした衝撃は、金蔵のそれを遥かに上回るものであった。

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