公式戦・開始直前

 風鈴へのスナイパーライフル講習は、割とすんなり終了した。

 風鈴曰く、「使い方が難しくなくて良いですね!」との事。

 エアーコッキングのワルサーと扱い方が似ているからだろうと思うようにした大和だった。

 もちろん、大和からすれば認識上は別物な存在だが、使用する人間が違えば感じ方も異なる。

 本人が良いと思うならこだわりとなってくるので、それ自体は何も問題は無い……が、どんなに扱い方が似ていてやり易かろうと、それで戦績に結び付くとは限らない。

 連射が圧倒的有利とされるサバイバルゲームという戦場の中で、動作に手間があり、単発のみのエアーコッキングタイプのエアガンがどれほど心許ないか、それをサブと扱う大和は充分過ぎるほど理解していた。

 だが、今は深く語らないでおいた。

 それを風鈴が理解するのは、サバイバルゲームに実際に参加してからでも遅くはない、と……



 出来る限りの準備を整えた新河越高校チーム、タクティクス・バレットのメンバーは、フィールドの外にある広場にて、金蔵率いる茶川高校チーム、ブラットレインのメンバーと相対していた。

 ブラットレインは全員が男子という構成なのだが、それは実力云々というよりは単に茶川高校自体が男子高だからという理由であった。

 それらのメンバー全員が、タクティクス・バレットの女子メンバーに好奇な視線を送っていた。


(ううっ……! これがあるから、このチームとやるのは苦手なのよね……)


 開始前から具合が悪くなりかける香子。


「だ、大丈夫? 香子ちゃん」

「あ、あんまり大丈夫じゃない、かも……」


 風鈴が香子を気遣って声を掛ける。


 タクティクス・バレットは何気に女子メンバーが美人揃いで、この辺りでは実力も含めて人気があるようで、茶川高校と会うときは大概がこのような反応になっているという。

 香子が引き気味なのに対して、


「やっほ~ブラットレインのみんな~! 元気かにょ?」

「今日も一緒に、楽しくサバゲーするにょ~!」


 金瑠と銀羅は左右対称のぴったり息の合った動きで、元気良くノリノリに腕を振って応える。

 ブラットレインのメンバーも、


「待ってたよ~キルギラちゃ~ん!」

「今日は俺が金瑠ちゃん狙うぜ!」

「俺は銀羅ちゃん派だにょ~! いえ~い!」


 などと、まるでアイドルに声援を送るかのような有り様。


「なあ、桂吾……あっちのメンバー、金瑠が男だって、知らないのかな?」


 浩介がその様子を見て、金瑠を指差しながら隣の桂吾にこっそり聞いてみる。


「いや~知ってるはずっすよ? 性別は男だって、本人も自認してるし」


 桂吾もこの様子を眠そうに見ながら首を軽く横に振る。


「最初は向こうも知らなかったみたいっすけど。でも、知った後も、対応がそれほど変わらなかったところを見ると、それでも良いって認識なんじゃないっすかね~?」

「良いのか、それで……」

「金瑠ちゃん、見た目はあんな感じだし、性格も銀羅ちゃんと揃って明るくて受けは良いし、割と人気者っすから。茶川高校はムサい男子ばっかりだし、そっち方面の需要というか、可愛ければそれで良いって事っすよ、きっと……ふあぁ~~……」


 説明終えてから、盛大に 欠伸あくびをかます桂吾。

 浩介は、今も双子と楽しそうに交流している相手チームを見ていて、自分の国の将来に少しばかり不安を覚えたようだった。

 一方、それぞれのチームリーダー達はそれとは対照的に、落ち着いた様相で対峙している。


「やあ、金蔵。調子はどうだ?」


 と玉守が挨拶をしながら握手を求めれば、


「やあ、玉守君。もちろん好調だとも。君のチームメンバーは相変わらず元気そうで何よりだよ」


 金蔵も挨拶を返し、握手に応じる。

 チームメンバーも、というのは主に双子を見ていての感想であった。


「ハハハ! 皆、楽しそうに部活してるからな。俺としても、見ていて元気を貰っているよ」

「そうかそうか、共学の君達が羨ましい限りだよ。うちは男子高だから男しかいないからね。助っ人を求めようにも、定員は満たしているから、無理に入れる理由も無いし、男子だけのうちのチームに入ってくれる女子はいないよ。華があって良いな」

「人数足りてない俺達としては、金蔵のチームこそ羨ましいよ。きちんと鍛え込んだベストなメンバーで公式戦に臨めるというのは、素晴らしい事だと思うからな!」

「君も、相変わらずといったところだな」


 爽やかな対応をする玉守に、涼やかな笑みの金蔵。

 だが、金蔵の方はそこに幾分か嫉妬染みた表情が見え隠れしていた事に、玉守は気付いていなかった。


「ところで金蔵。飛鳥に公式戦を提案したと聞いているんだが……」

「ああ、まあね。いつもやり合ってる仲だから良いかと思ったけど、いけなかったかな?」

「飛鳥と同じ事を言ってるな……別に禁止する程ではないさ。ただ、せめてこちらにも相談して欲しかっただけさ」

「そうか、それは済まなかったね、玉守君。君のチームに助っ人ではない新しいメンバーが入ったと聞いてね。俺も実力が見てみたいと思ったのさ」

「それは、大和君の事か?」

「そうそう、そういえばそんな名前だったかな? 受付で飛鳥君と一緒になった時に付いてきていた、そこの彼だね」


 金蔵が玉守の後ろのメンバーを見ると、玉守も頷く。


「ああ、そうなんだ。今日転校したばかりで新しく入ってくれた赤木大和君だ」

「俺と同じくランクAだそうだけど、良かったじゃないか。飛鳥君が嬉しそうに語っていたよ。戦力として相当に期待しているのだと良く分かる程にね」

「期待の新入りという認識はあるんだが、今日来たばかりでそこまで期待するのも、大和君に申し訳ないんだがね……」

「ふむ。彼については良い勝負になることを俺も期待するというという事で、楽しみにしているよ。まあ、それはそれとして……」


 金蔵はそこまでで大和の話題については切り上げ、


「……他にも見慣れないメンバーがいるみたいだね? そちらはただの助っ人かな?」


 今度は別の新入りメンバーに目を向ける。

 特に、風鈴に視線を集中している。


「まあ、今は体験入部みたいなものだな。二人いるんだが、どちらも初心者みたいなんで、少しはお手柔らかに頼むよ」

「仮にも公式戦だから手は抜けないけどね。あまり酷くならないように善処するよ。あの女の子、入部の可能性があるのかな?」

「断定は出来ないが、意欲的ではあるよ」

「そうかそうか。是非とも今度は離れないようにすると良いよ。飛鳥君に潰されないようにしないとね」

「そうだな、分かってるよ。二人とも、大和君と一緒に来てくれた友達のようでね。まだ入部するかはっきりしていない内から、飛鳥が無理矢理公式戦に参加させてしまってな……」


 チームの現状の説明もし始めた玉守だったが、金蔵は興味が無いかのように、聞いていなかった。

 未だ香子を気遣う風鈴を見つめたまま、じっと考え込んでいる。


(……顔は地味めだが悪くない。見た目からして、純朴で穏和そうな感じが良い。スタイルは肉付きの良さがなかなか俺好みでグッドだな。特に胸が……水城ちゃんと並ばせると、素晴らしい組み合わせじゃないか……これは、終わった後が楽しみだ。むふふ……)


 おおよそ真面目とは言いがたい認識で、風鈴と香子を眺める金蔵。

 もちろん、そのような思考を悟られないようポーカーフェイスをしっかり装っている。


「金蔵君」


 呼ばれた金蔵が振り向くと、角華と飛鳥がいた。


「やあ、姫野宮さん。飛鳥君と一緒でどうかしたかな?」

「金蔵君、飛鳥と何か約束でもした?」

「約束? どうしてそう思ったのかな?」

「飛鳥の態度が怪しいのよ。飛鳥に聞いても、なかなか答えてくれないし……」

「ふっ、なるほどね」


 ニッと笑みを飛鳥に向ける金蔵。

 飛鳥は、逆に睨み返す。


「約束したと言えばしたよ。ただ、今はまだ伏せておこうかな」

「な、何でよ?」

「君達の仲間の飛鳥君が言えない事を、俺から言うつもりはないよ。まあ、軽い賭けをしたってところさ。その方がお互いに燃えるだろうと思ってね」

「賭け? 何を賭け合ったっていうの?」

「さあ~てね~? それこそ飛鳥君から教えてもらうと良いんじゃないのかな~?」

「おい、金蔵!」


 軽く気味の悪い笑顔の金蔵に、飛鳥が突っ掛かる。


「いい気になってるのも今のうちだからな! 今日こそはテメェらを完膚なきまでに叩きのめしてやるから覚悟しろよ!」

「おいおい飛鳥君。いかにも負けフラグな台詞は慎んだ方が恥をかかないで良いと思うけどね? せめて、チームが安定した実力を持ってからにすべきだよ」

「うるせぇよ! その自信過剰な面が二度と作れねぇようにしてやるからな!」

「面白いね。なら、こっちは逆に勝ち越して、その自信過剰な口を控えさせてあげようか。あと、約束忘れないようにね?」

「上等だオラァ!」


 本人的にクールな顔で自分のチームに引き返す金蔵に、敵対心剥き出しな飛鳥。


「……飛鳥、約束って……何? まさかとは思うけど……私達に関係してる事じゃないわよね?」


 叫ぶ飛鳥の背中に、冷ややかな角華の声が掛かる。

 一瞬、ビクッ! と肩を震わす飛鳥。

 その後、振り返る飛鳥の表情は何事も無いかのように無表情であった。


「……今は、余計な事は考えるんじゃねえよ」


 その台詞は、不信感を持った角華が今に至るまでに飛鳥に何度か問いかけた際の、一言一句変わらない飛鳥からの返答だった。


「……はぁぁぁ~~……この公式戦が終わったら、覚えてなさいよ……?」


 もはや諦めの長いため息をつくしかない角華。

 静かな怒気を声色に乗せて飛鳥に浴びせ、角華も自分のチームメンバーのところに戻っていく。


「飛鳥。角華君の気持ちも汲んでやれよ? 角華君くらいには、きちんと事情を説明した方が良い。幼馴染みから何も教えてもらえないと気分が悪く感じるのは、お前も同じだろう?」


 飛鳥の肩にポンと手で叩いてから玉守も戻る。


(…………分かってんだよ、んな事言われなくたってな……)


 残された飛鳥、メンバーとは普通に笑顔で接する角華を遠くから眺めながら、いつものような起伏の激しさはどこか神妙な面持ちに変わっていた。


(……理由を知ったら、角華が怒るっていうのもあるけどな……勝負に関しては、意地になっちまうんだよな……)


 自嘲気味の笑みを覗かせてから、飛鳥もメンバーの元に戻っていった。



 ※  ※  ※  ※



「金蔵さん! 今日はどんな作戦で行きます?」


 ブラッドレインのメンバーのところに戻った金蔵は、張り切るメンバーから問われる。


「ん? どうした? 今日はいつにも増してやる気に満ちてるじゃないか?」


 金蔵はメンバーを見渡して問い返す。

 もちろん、それが何に起因するかは分かっている。


「そりゃあ今日勝てば、向こうの女子メンバーにあんな事をお願い出来る約束を金蔵さんが取り付けてくれたんですから! 気合い入ってますよ~!」

「初めて見るあの子、かなり可愛いし胸も大きくて良いですよね! これは期待出来ますよ!」

「絶対に勝ちに行きましょうね! うひひ~!」

「全く、みんな現金なものだな? そして顔がニヤケ過ぎだ。落ち着かないと、怪しまれるから気を付けろよ? あと、新しい子は初心者らしいから、あまり苛めるなよ? 末永いお付き合いになるかもしれないからな」

「「「「イエッサー!」」」」


 金蔵から たしなめられ、メンバーは了解を示す。

 もっとも、金蔵本人も表情に出さず、言葉も選んで話すようにしているだけで、思考は大して変わらない。


「そういえば、金蔵さんがさっき話してた、ランクが同じやつってどんな感じのやつですか?」

「ん~どうかな。見た目は大してパッとしない感じだが、それだけじゃ判断はつかないな」

「大丈夫ですかね? もしかして、相当強いとか? だとしたら、うちらが負ける可能性も……」

「馬鹿を言うな。いくら強いと言っても限度がある」


 浮かれるメンバーが多い中で、マイナス思考な男子が不安そうにしていたが、金蔵は否定する。


「今日転校初日の人間が、初めて組むチームでいきなり公式戦をやるなんて、無謀も良いところだぞ? まあ、そこに気付かずに受けた飛鳥君が馬鹿なだけなんだがな」

「そ、そうなんでしょうが……」

「実力未知数だろうとも、ランクX+以上でもない限り、個人単体で戦局が決まるなんて事はあり得ないさ。チームワークなんて期待出来ないし、胸っ娘ちゃんを含めた新入り二名に至っては初心者らしいからな。勝算は当然あるさ」


 金蔵はここにきてニヤリと、飛鳥にも劣らない程に怪しい笑みを浮かべる。


「彼らのチームが弱いとは言わない。バランスは良いし、個々の戦力も高い事は認める。だが、交代要員がいない彼らは主力メンバーが常に出ずっぱりだから、その戦力も全て知れてるし、戦術幅は限られる。事実、勝率は俺達のが高いんだ。今さら強い人間一人増えたところで、どうにもならないさ」

「……で、ですよね! 金蔵さんがそう言うなら、安心しました!」

「君達はそれよりも、どの女子メンバーにどうなってもらいたいか、今のうちに楽しみにしていると良いよ。ふふふ」

「はい!」


 マイナス思考男子をプラス思考に変えて、金蔵も満足げ(怪しげ)に笑う。



 ※  ※  ※  ※



 〔DEAD OR ALIVE〕においては、エアガンを撃ち合うフィールドの左右それぞれの外側に、 安全地帯セーフティエリアが設けられていた。

 この安全地帯とはその名の通り、安全が約束された場所。

 そこでは空撃ちや試し撃ち等は禁止、というのは慣れたプレイヤーには当然の知識。

 一緒にプレイする者に誤射をしてしまう恐れがあるからだ。

 試し撃ちをする場合、安全地帯内に試し撃ちスペースがあるのでそこで行う。

 ただ、最近では試合を想定し、それぞれのチームがフィールドで相対する時まで会わないよう、安全地帯もきっちり二ヶ所に分かれて作られたフィールドも多くなり、その関係で一緒にいるのは見知った仲間達だけという事から、ふざけて撃ち合うというのも少なからずあるようだった。


 もうすぐ公式戦開始の時刻……


「それでは、最後の確認をするぞ?」


 タクティクス・バレット側では、玉守による最終確認が行われていた。


「ユニット1に大和君と桂吾君。ユニット2に飛鳥と角華君。ユニット3に金瑠君銀羅君と俺。ユニット4に香子君、風鈴君、浩介君。作戦は事前に話したように、新入り加入でのプランC変則バージョンだ。いいな?」

「了解です」

「了解っす」

「おうよ!」

「うん!」

「「了解だにょ~!」」


 主力メンバーほとんどが、玉守に応じる。

 応じなかったのは新入りの風鈴と浩介、そして香子だったが、しなかったというより、出来なかったというところだった。

 何せ、新入り二人は初の公式戦という事もあってガチガチになっていたからだ。


「うう~……き、緊張してきたよぉ~……」

「だ、大丈夫だよ、千瞳さん! こ、こ、こういう時は、昔から人っていう漢字を、て、手のひらに書いて飲み込むもんだって聞いた事が……! あれ、ひ、人って漢字、右からだっけ? 左からだっけ? え~っと……」


 試合前の緊張感に震える典型的な二人に、香子はクスッと微笑む。


「風鈴ちゃん、大丈夫! 私が一緒に付いてサポートしてあげるから! 初めてなんだから上手く出来なくても仕方ないよ! 気負わないで楽しんでいこうね!」

「う、うん、ありがとう」


 頼もしい香子の言葉に、風鈴も幾らか気持ちが落ち着いた。


「あの、水城さん? 俺へのサポートは……」

「男子が女子にお願いしちゃうの? 私、風鈴ちゃんのサポートで忙しいから、浜沼君は自分一人で何とかしてね?」

「うっ……! や、やっぱり?」


 男子の浩介に対しては手厳しい香子。

 素っ気なく拒否されてしまい、浩介も困ったように笑うしかなかった。

 一方、


「それじゃあ~一緒に派手に暴れてやるっすよ! ヨロヨロ大和君!」

「あ、ああ、よろしく頼む、桂吾。しかし、ずいぶん最初とテンション違うような気がするな?」

「へへっ! サバゲーやるのは好きなんすよ! そのために他では寝て体力温存してるって事っす!」


 急に顔付きが変わった桂吾に戸惑う大和。


「その寝坊助は、サバゲーやる時だけは元気なんだよ……普段からその勢いを保てってんだよな」


 隣で聞いていた飛鳥が呆れながら睨むが、今の桂吾は得意げで気にした様子が無い。


「いやいや~飛鳥先輩! 俺はこのチームのためを思ってやってるんすよ! 意味無い事じゃないっすから!」

「……ふん。まあいいさ、試合に勝ちに行く気があるんならよ。ドジ踏みやがったらタダじゃおかねぇからな!」

「お任せあれっす!」

「テメェらもだぞ! 死ぬなら一人でも多く道連れにしてこい!」

「偉そうに仕切ってるんじゃないわよ、飛鳥! 元はといえばウチらが追い込まれてるのはアンタが原因なんだからね!」

「さすがボッチ先輩、一人(飛鳥)でも多く、とは自分が率先して死ぬって事だにょ、きっと!」

「むしろ、先輩を道連れにしていくにょ~!」

「テメェらは黙ってろ!!」


 ……という感じに打ち合わせも終わり(?)、安全地帯からフィールドに繋がるゲートの前に集合したメンバー全員が、迷彩服の上に同色のベストを重ねて着る。

 このベストにはある特殊加工がしてあり、ヒットした際に連動して全体が赤く染まるようになっており、これで誰の目にもヒットしたというのが明らかになる。

 フィールドで貸し出していたりもするが、安価な物を使っているところもあり、ボロボロだったり色が剥げていたりというのもあって、自前で持ち込みをしているプレイヤーもいる。


『ゲームスタートまで、残り1分。安全地帯ゲートオープン。プレイヤーは速やかに所定の位置にて待機して下さい』


 電子音声が響き、目の前のゲートの扉が開く。


「……戦場への扉が、開かれた。生きるか死ぬかを決める戦いだ。後戻りは出来ない……覚悟は、出来てるな?」


 フィールドに進む間際、玉守が少し芝居がかった声で、メンバーに語り、問いかける。

 それを、全員が静かに聞いている。

 ふっと、玉守はすぐに笑みを浮かべる。


「……なんてな。実際に戦争をしたことがない俺には想像も出来ないが、こういう気持ちで臨んでいたのかもしれないな」

「ふん。いきなり何をぶっこんでんだよ? 将希」

「そうね、玉守君にしては珍しいわね?」

「ハハハ! 悪いな。何となく、そう思っただけさ。新入りが来てくれたから、雰囲気だけでも出したかったのかもな。俺にも、良く分からん」


 フィールドのスタート地点に足を踏み入れながら、すぐに豪快に笑い飛ばす玉守。

 他のメンバーは不思議そうにしている。


「まあ、本当に戦争するんじゃないし、そこまで追い込めとは言わないさ。楽しんでいければ、それが一番さ。だが、勝負事でもある以上、全力で挑みたい……そういう意気込みってところだな」

「アホか。俺は当然だし、コイツらも同じだっての」


 飛鳥の言葉に、全員頷き同意する。


「ああ、そうだよな。じゃあ時間も無いし、最後の一声としよう!」


 一呼吸、間を置き、


「この戦争を楽しんで勝ってくること! 以上!」


 全員に聞こえる大きな声で命じる。


「「「「「「 了解ラジャー!」」」」」」


 メンバーも、慣れたように声を揃えて応じる。


「総員、出撃準備!」


 玉守の号令に合わせて、全員が決められた組分けで集まり、スタートの扉の前に陣取る。


『ゲーム開始10秒前……9……8……』


 電子音声がメンバーの耳に付けたトランシーバーから流れて聞こえる。

 これ以降、最低限のアナウンスはこのトランシーバーを通してメンバーに伝えられる事になる。

 同時に、カウントダウンの数字がメンバーのゴーグルに映像として刻まれていく。

 このゴーグルも、最近のものは特定の機能が備わった物が多く出回るようになってきた。

 ボタンを操作してメンバーの撃破状況を映像で映してくれたり、自分がヒットされた時に視界が薄く赤く染まって知らせてくれる等、機能も様々。


(……さあ、新しいチームでの初戦、俺はどれだけ活躍する事が可能なのか……期待に応える事が出来るか……そして、どれだけメンバーを知る事が出来るか……重要な一戦だ!)


 大和は、登校初日、初めてのチーム、初めてのフィールド、いきなりの公式戦、という分の悪い条件にも関わらず、落ち着いていた。

 気負い過ぎず、それでいて抜けすぎない適度な緊張感で、開始を待つ。


『……3……2……1…… 作戦開始ミッションスタート!』


 告げられた開幕音声と同時に、扉がバッと開かれた。

 フィールドの風がメンバー達の間を軽く吹き抜ける中、屋外フィールドの大地を踏み込み、各組に割り当てられたルートの道に全員が向かう。


(行くぞ!)


 自らの心に強く言い聞かせ、桂吾と共に先陣を切る大和。

 大和に限らず、他のメンバーも同じような心持ちであっただろう。


 そんな中……


(……? あれ?)


 このメンバーの中でただ一人だけ、違和感を覚えた者がいた。

 しかし、メンバー達がその違和感を知る事になるのは、この公式戦を終えてからの話となる……

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