ホームフィールド

 しばらくして、桂吾と共に表れた郡司顧問。

 白髪混じりの髪と同色の口髭を持つ、人当たりが良さそうな年配の教師だった。

 聞けば、既に部室に向かっていたとの事で、桂吾が迎えに行く意味は特になかった様子。

 何か言いたげな桂吾の視線を、飛鳥は睨みで跳ね返す。

 入部手続きに関しては、時間などの都合上で仮入部扱いとした。

 諸々の手続き等は後日行われるとのこと。


 新河越高校サバゲー部のメンバーと大和達三人は今、メンバーが良く利用しているという学校外にある国営のサバゲーフィールドに向かっている。

 新河越高校自体は元々サバイバルゲームにそれほど力を入れていないこともあり、学校の敷地内には学校の教室そのものを利用したインドアフィールド(室内戦場)があるのみ。

 フィールドを設置すれば国から補助が受けられるようになったために学校側が用意しただけであり、実際にはとても狭くて小さい、フィールドとは名ばかりのお粗末な空間でしかなかった。


「俺達のチームはそんなに歴史がある訳じゃなくてな、比較的新しいチームなのさ。俺が入りたての頃はまだ実績がなくて、学校外のフィールド利用にもお金がかかるってことで、あの狭いインドアフィールドを使うしかなかったんだが……最近になってようやく実績ありと認められて、学校外のフィールドも利用料がかからなくなったんだ」


 学校外フィールドに向かう途中の道で、玉守が大和達にチームの歴史を語る。

 サバイバルゲームがまだ趣味の領域なだけでしかなかった当時は、それらフィールドも有料での利用が一般的であったが、WEE協約締結以降はサバイバルゲーム普及促進の国家予算が組まれたことにより、サバゲーチームとして正式に登録され、かつ多少実績のあるチームに関しては無料で利用出来るようになっていた。


「……ということは、それまで練習用に使う弾だとか備品の購入には苦労されたのではないですか?」

「ああ。サバゲーでの勝敗も諸事情あって敗戦も多かったし、チームや個人のサバゲーポイントもあまり当てには出来なかったな……バイトしてフィールド利用料や備品購入代を工面したり、他の生徒の中古品を譲ってもらったりで凌いでいたよ。まあそれでも、昔に比べたら大分マシになった方なんだろうな」


 当時の大変さを思い出したように、玉守は遠い目をしていた。

 玉守の言うサバゲーポイントというのは、公式に競技化させる程にサバイバルゲームをメインと据えるにあたって、WEE協約以降に全世界で導入されたものの一つ。

 ポイントカードのようなものと同じなのだが、それとの交換によって様々な物を利用したり、購入する事が可能となる。

 最初、ポイント交換可能な店はサバイバルゲーム関連の一部の店、それも小さな備品程度の製品に限られていたが、サバゲー普及に伴って年々利用可能な店や対象商品が増え続け、値の張るエアガンやサバイバルゲーム用の衣服など、関連するものならほとんど対応するまでになった。

 そのサバゲーポイント入手には、実際のゲームの勝敗が関わっている。

 当然ながら、勝てば多くのポイントが入手出来るとあって、サバイバルゲームを行うチームそのものの増加だけでなく、実戦さながらの本格的な練習をするチームも多くなった。


「あの、大和さん?」


 玉守と会話し合っていた大和に、風鈴が話しかける。


「何かな? 千瞳さん」

「その、サバゲーポイントって、個人とチームの両方があるんですか?」

「ああ、そうなんだ。主に一人一人の技量やゲーム毎の撃破数に応じて個人に付与されるポイントと、チーム全体での戦術や戦略や勝利数に応じてチームそのものに付与されるポイントの二つがある。他にも、ハンディキャップの有無、個人のランクによっても、そのポイント変動が細かく影響してくるんだ」

「そうなんですか、初めて知りました……それで、そのランクというのは、何ですか?」

「そうか。そういえばそれもあとで説明するって約束だったね。ランクっていうのも、何となく分かると思うけど、個人毎の成績に応じて付けられる、個人の強さを表す指標なのさ」


 大和は、ランクについても風鈴にきちんと説明をしていった。

 このランクというのも、サバゲーポイントと並んで全世界で導入された認定制度であり、生まれて戸籍を持つようになった時点でランクが付与される。

 つまり、赤ん坊から既にランクを持っているという事になる。

 もちろん一番下のGランクからではあるが……

 ランクはGから XX(ダブルエックス)まで存在する。

 XXやX+までいけば、様々な恩恵を受けられる上に、WSGCへの参加がほぼ確実なものとなる。

 現状、大和のランクはAであり、もう少しでA+となるという。

 A+の次がXであり、ともすれば大和がそのランクに到達するのも容易であると思われがちではあるが、A+からXまでの壁が実は相当に高いとされている。

 更に言うと、XXやX+まで到達出来るのはごく僅かで、いずれも、怪物、傑物、天才などと称される存在の者達だ。


 事情を知らない風鈴は大和の説明に、真剣に耳を傾けている。

 その後ろ姿を、飛鳥がまたも睨んでいた。

 その目からは、


(……ちっ! そんな事も知らないのかよ、トーシロ女が……)


 という意思をヒシヒシと感じる。

 なので、それを見た隣の角華が飛鳥の後頭部をひっぱたく。


「……っ!! 角華っ!! テメェ何しやがる!?」

「ふん、だ! 女の子にそんな血走った目を向ける危険な不審者に正義の鉄槌を喰らわしてやっただけよ!」

「んだと! 不審者って何だコラァ!!」

「今のアンタは不審者って言葉がぴったりなのよ!!」


 またも口論が始まった最上級生二人に、その後ろを付いてきた金瑠と銀羅が、


「これがいわゆる……」

「倦怠期の夫婦のやり取り!」


 といたずらに突っ込んだために、


「「夫婦じゃない!!」」


 それを聞き取った飛鳥と角華は振り返り、仲良くハモり答える。


「「お~!! さすが息ぴったり~! パチパチ~!」」


 こちらも双子らしくハモらせ拍手を贈ると、飛鳥も角華も顔を真っ赤にして、


「「……っ! ふ、ふん!!」」


 お互いにそっぽを向いてしまう。

 双子の後ろからは、しょんぼりとした二人、桂吾と香子が付いてきている。

 一緒に歩いているので関係がある二人かと思いきや、


「はぁ~……何でこんな面倒なことに……今日の練習はそんなにハードじゃないはずだったのにな~……飛鳥先輩、無駄にテンション上げすぎだよ……」

「はぁ~……歩君と一緒が良かったな~……いつもキルギラちゃんに邪魔されちゃうから、今日こそは付きっきりで練習教えられると思ったのに……」


 ため息が漏れるほど、お互いに個人的な鬱の事情がある模様。

 ふと、隣合う相手と目を合わせ、


「「はぁ~……」」


 再びため息。

 元からサボり屋な桂吾はともかく、香子のテンションが低いのはお気に入りの歩がいないからだった。

 部室での一件から、玉守が顧問の郡司に事情を説明し、歩を早退させたのだ。

 香子はブラコンというのが部内における認識であり、本人も自覚がある様子。


 様々な感情、思惑を胸に並び歩く十人十色なメンバー。

 善し悪しは別にして、部室と変わらず賑やかな一行であった。



 ※  ※  ※  ※



 学校を離れてからしばらく歩いて進み続け、ようやく目的の場所に到着した大和達。

 砂利道のようになっているところを踏みしめながら更に奥に向かうと、広い空間が大和達の視界に見えてきた。

 周囲に網を張り巡らし、入り口が大きめな木の板で仕切られている。


「ここが……」

「そう……ここが俺達、タクティクス・バレットのホームフィールド、〔DEAD OR ALIVE〕だ!」


 大和の呟きに、飛鳥がフィールドの場所名を言い放つ。

 今の時間はたまたま誰もやっていないということで、入り口からフィールド内を見せてもらう三人。

 この〔DEAD OR ALIVE〕というフィールドは、ところどころに木や草等の自然もあるにはあったが、全体の特徴としては人工物に囲まれたという印象の強い場所だった。

 入り口の板と同じ素材の箱を積み上げられたようなもの、壊れた自動車、コンテナやプレハブ小屋の扉が取り去ってあるもの等の人工物が遮蔽物として配置して組み上げられている。

 フィールドの奥の方には、鉄筋コンクリートで造られた倉庫も見える。


「なるほど、資材置き場型ですか。転校前にも、こういうタイプの別のフィールドでゲームしたことはありますが、ここも良さそうですね。広さもちょうど良い気がします」

「うわぁ~! すごいです! サバゲーのフィールドってこんな感じなんですね!」


 風鈴は初めて見るフィールドに興味津々。


「ふっ! 良いだろう? 狭すぎず広すぎずっていうのがやっぱり一番だよな!」


 ドヤ顔でホームフィールドの良さをアピールする飛鳥に対し、玉守はやや呆れ顔を覗かせる。


「飛鳥……自慢そうに言ってるが、別にここは俺達専用の場所じゃないんだぞ? 一応、ホームは学校内にあるからな」

「んな細かいことは気にすんなよ! 俺らの庭みたいなもんだろ? というか、あんな狭いとこはフィールドでも何でもねぇよ! フィールドと認める気にもならねぇからな!」

「ふっ……まあ確かに、このフィールドのどこに何があるかとかは知り尽くしているし、学校内のフィールドが狭いというのも分かるがな」


 苦笑しながら飛鳥に同意しつつ、玉守はメンバーを外に待たせて受付があるコンテナに向かう。

 受付の人としばらく話をしてから、また戻ってきた。


「あと一時間待てば、数時間の貸し切りが可能だそうだ」

「はぁ? 一時間!?」


 聞いた飛鳥が片眉を上げる。


「そんなにかかるのかよ!? 今はどうなってるんだ? 誰も使ってねぇじゃねえか!?」

「実は今の時間で予約していた団体が他にいたらしいんだが、まだ来てないとかで使わせてもらえなくてな……」

「はぁ!? 来てないんだったら良いじゃねぇかよ! 何がダメなんだってんだよ!?」

「短時間になっても、来るかもしれないからとりあえず空けておきたいとのことだ。大方、フィールド運営側にとっての上客からの予約なんだろ?」

「ちっ!」


 また不機嫌に戻った飛鳥は舌打ちし、近くにあったベンチを乱暴に蹴ってから、どっかりと腰を下ろす。


「来てねぇヤツなんてキャンセル扱いしろってんだよ! 使いたいやつが使えないだろうが!」

「飛鳥、行儀が悪いぞ? むしろ俺達が出入り禁止になるかもしれないんだぞ? とりあえず落ち着け」


 荒れる飛鳥をなだめながら、大和達にも事情を説明する玉守。


「……そんな訳で、少し待ってもらう感じになりそうなんだ」

「自分は問題ないですよ、玉守部長。フィールド内部について今のうちに把握しておきたいですし、千瞳さんに簡単なルール説明だとか出来た方が良いと思ったので……」

「あ、ここの設備とかなら、私案内してあげよっか?」


 大和達にそう申し出てきたのは角華だ。


「ルール説明するなら、フィールドもだけど、シャワー室の説明は必要なんじゃない? 同じ女子の私なら中に入って説明してあげられるし」

「確かにそうですね。お願いします」

「お願いします!」

「オッケー! 玉守君、そんな訳だからちょっと一緒に行ってくるわね!」

「ああ、すまないな角華君。頼むよ」


 角華に連れられ、大和達三人は施設内を歩いていく。

 その間、玉守ら他の部員達は暇となった時間を各自のやり方で過ごしていく。

 さすがに部活時間内ということで、ほとんどの部員が自分で持ってきた道具の状態をチェックをするなど、サバゲー部らしいことをしている。

 約一名、これ幸いとベンチの上で横になって寝始めた者もいたが、飛鳥にひっぱたかれてしぶしぶ同じように確認作業に入る。

 しばらくして、施設を見学していた大和達も合流し、それに参加する。



 ※  ※  ※  ※



 何だかんだで時間も経過し、もう少しでフィールドを使っての練習が開始出来るところまで来ていた。


「ふぅ~……ようやく、だな……待ちくたびれちまったぜ……くくくっ……」


 飛鳥が怪しげに笑うのを見て、双子が撮影モードの生徒手帳を片手にそぉ~っと近付こうとするが、バッと振り返って睨む飛鳥に慌てて携帯を隠す。

 ふんと鼻を鳴らした後、今度は大和に目を向ける。


「赤木、お前の実力というのを存分に見させてもらうぜ? まずは軽く紅白戦でもやるか。どこのスタートポイントを使うか、そっちが決めても良いぜ」

「自分はどちらでも構いませんよ、忍足先輩。フィールドの内部構造は把握しました。自分なりにどう動くかは考えてあるので」

「ハハハ!! 良いじゃねぇか! 楽しみにしてるぜ!」


 今度は飛鳥が大和と共に、意気揚々と受付のコンテナに向かう。

 受付には何人か別の客がいて、何やら話を聞いていた。

 ふと飛鳥は、その中の一人を見つけて足を止める。

 飛鳥の表情がみるみる変わっていく。

 先ほどまでご機嫌に話していたとは思えないほど、言葉を発しなくなった。

 受付の別のスタッフのところに向かい、


「……おい、そろそろ俺達が使っても良いんだよな?」


 静かに、そして脅しかけるように用件を短く問う。

 それに対し、スタッフは困ったように愛想笑いを浮かべる。


「も、申し訳ありません。もう少しお待ち下さい。只今、確認中でして……」

「はぁ? 何を確認する事があるんだよ? ずっと待ってるんだよ、こっちはな……」

「忍足先輩? そんなに突っかからなくても良いのでは?」

「お前は黙ってろ」


 大和にも睨みを向ける飛鳥。


「……ん? 忍足?」


 受付で複数いる男の内、飛鳥の名字を聞いた男が大和達へと振り向く。


「おお~! 誰かと思ったら、飛鳥君じゃないか~!」


 その男は大和達に歩み寄り、飛鳥に笑顔を向ける。


「やあやあ元気そうで何よりだよ!」

「……元気だったのはさっきまでな。テメエの顔を見たら途端に具合が悪くなった」

「おいおい~そうつれない事言うなよ。顔見知りの親友じゃないか?」

「誰がテメエなんかと親友だってんだ……勘違いも大概にしとけや」


 出会った二人の温度差が、とにかく激しかった。


「忍足先輩。こちらの方は……」


 大和が、飛鳥へと問いかけると、飛鳥が答える前に、


「俺は、 金蔵権二かねくらけんじだ。飛鳥君と大の仲良しで、親友で、ライバルというところだ」


 自ら名乗り、飛鳥の肩をポンポンと叩く。

 飛鳥はそれを嫌そうに払い除ける。


「気安く触るな! 話しかけるな! ついでに言うなら、仲良しでもなけりゃライバルでもねぇよ! そもそもテメエなんか眼中にねぇんだからな!」

「ふふふっ! 全く素直じゃないな~飛鳥君は。もう少し自分の気持ちに正直になると良いよ!」

「うっっぜぇ!! テメエはいい加減に人の話を聞きやがれ!!」


 会話の流れから、この二人の関係が分かった大和。

 それは、この金蔵の外見からも何となく理解出来た。

 飾り気のない飛鳥に対し、金蔵は耳にピアスを空け、着崩れた制服の中に見える肌にはタトゥーが入っていた。

 お世辞にも趣味が良いと思えない外見だった。


「ふふん! それはそうと飛鳥君。一緒にいる彼は誰かな?」


 金蔵が大和の事を興味深く眺める。


「あ、自分は……」

「ああ~! いやいや別にいいんだよ~! そんな律儀に答えてくれなくてもね~!」

「はい?」


 自分から振っておきながら、名乗り返そうとする大和に手を振って、答えを潰す金蔵。


「あれだろ? どうせ飛鳥君が無理矢理連れてきた助っ人君だろう? 飛鳥君は強引なところがあるからね~その辺りはちょっと困りものだと思うよ、うんうん」


 何やら自分で納得して頷く金蔵に、大和の頭上に疑問符が浮かぶ。


「はっ! 残念だったな権二! そいつは正真正銘、うちの入部希望者だ! いつもみたいな助っ人じゃねぇよ!」


 それに答えたのは、飛鳥だった。


「今度という今度はな、きちんとした正規の戦力なんだよ! しかも聞いて驚け! コイツはな、ランクAなんだよ!!」

「……何だって?」


 金蔵は、意外そうにして大和を再びまじまじと眺める。


「このパッとしない彼が、Aランク?」

「人は見かけによらないんだよ! 外見派手で中身スッカスカのテメエとは大違いだな!」

「……おいおい、飛鳥君。中身スッカスカとは聞き捨てならないね?」


 飛鳥の言葉に、大和を見ていた金蔵は飛鳥に睨みを向ける。

 先ほどの、金蔵流(?)なフレンドリー雰囲気が、一転して険悪なものになる。

 飛鳥も、それに同じような睨みで応じる。


「中身無いやつをスッカスカと言って何が悪いんだよ。なあ?」

「君には言われたくないな、俺よりランクが低い飛鳥君」

「う、うるせぇな! テメエがランクAだなんて俺は今でも認めちゃいねぇんだからな!!」

「醜い嫉妬は嫌だねぇ~。現実を直視しないと進歩は無いよ?」

「……っ!! っのやろぉ!!」

「お、忍足先輩! 落ち着いて下さい!」


 今にも飛びかからん勢いの飛鳥を、大和が慌てて止めに入る。

 本来なら、止めに入るべきフィールド運営スタッフは、この現状にオロオロとしては見守るだけ。


「くっ!! は、離せ赤木! このアホはぶっ飛ばしてやらねえとだな……!!」

「ぼ、暴力沙汰は起こしてはいけないですよ! フィールドが使えなくなりますよ!?」

「……全く。沸点が低い君には困ったものだな、飛鳥君。クールにならないと、この俺みたいに格好良くはなれないよ?」


 自慢げに自らを誇示する金蔵に飛鳥は怒鳴り散らしていくが、金蔵はそれを軽く無視する。

 そして再び、大和を見つめながら、


「それにしても、ランクAか……ふぅむ……」


 大和に話しかけているかどうか分からない大きさの声で呟く。


「……自分のランクが、何か?」

「よし! ではこうしよう!」


 飛鳥を何とか抑えながらの大和の問いかけには答えず、金蔵は何かを思い付いたように手を叩く。


「えっと、赤木君だったかな? 君の実力の程は、同じランクAであるこの俺が測ってあげよう」

「……はぁ? 意味分からねぇこと言ってんな! 赤木とやるのは元々俺が……!!」

「今から俺達はフィールドを使うのでね。大会に向けた調整のつもりだったから、他の参加者は入れないつもりだったけど、特別に初戦だけチーム戦をしても良いよ」

「偉そうに言うなってんだよ!! 話聞けや!! それにさっきから赤木とは俺が……」


 相変わらず話を聞かない金蔵に詰め寄ろうとした飛鳥、何かに気付く。


「……いや、ちょっと待て? 今から、って何だよ!? 今からやるのは俺達だぞ!! 何でテメエらが……!?」

「何を言っているのかな? 飛鳥君。元々、今からの時間を予約していたのは俺達なんだよ?」

「はぁ!?」


 詰め寄る対象を金蔵から運営スタッフにシフトする飛鳥。


「おいっ! これはどういうことだよ!? 俺達が使うって言って貸し切り頼んでおいたよな!?」

「は、はい! そ、そのはずだったのですが、実は手違いがありまして……その……」

「手違いだぁ!?」

「俺達もさっき聞いたところだったんだが、どうやら予約で登録する時間を間違えてたみたいでな」


 金蔵の説明によると、金蔵のチームが数日前から予約していた時間を、運営スタッフが間違えて早い時間で入力していたようだった。


「予約してたってのはテメエらだったのかよ! けど、それじゃこの場合どうするんだよ!? 俺達も待ってたんだぞ! 一時間もよ!?」

「それは御愁傷様だな。だがな飛鳥君、俺達も数日前から予約してたんだ。文句なら、正しく処理しなかったここのスタッフに言うんだな」

「くっ……!! テメエらおいっ!!」


 飛鳥の怒りは必然的にスタッフに向かう。


「す、すいません!!」

「すいませんじゃねえ! テメエらがきちんとしやがらねぇから、俺達無駄に待つことになっちまったじゃねぇか!! どうしてくれるんだよ!?」

「忍足先輩!!」


 もはや飛鳥の怒りは頂点に達しようという状態。

 止める大和も、もはや必死だった。


「ふふふっ! だから言ってるじゃないか? 俺が赤木君の実力を測ってあげようって」


 そんな飛鳥に、余裕な笑みを向けるのは金蔵。


「赤木君の実力を測るとなれば、当然君達のチームが参加することにもなる。時間を無駄にしてしまった君達を可哀想に思った俺からの、心からの恩情さ! 感謝して欲しいくらいだね?」

「ぐっ……!!」


 態度の大きい金蔵に、飛鳥はギリギリと悔しそうな歯軋りを隠さない。


「まあ、その代わり条件付きだけどね。それを受けてくれさえすれば、初戦を受けるだけでなく、今日の予定をキャンセルして君達にフィールドを譲ってやっても良いよ。ふふふっ……」

「……条件、だと?」


 飛鳥に匹敵する、金蔵の不気味な笑顔。

 自身を棚に上げて内心気味悪がる飛鳥と、黙って事の成り行きを見守っていた大和に、金蔵は条件を告げる。

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