自己紹介
「何ですか?」
自己紹介を止めてきた飛鳥に、大和が問い返す。
「……テメェは、少しはまともなんだろうな?」
「まとも? それはどういう……」
「聞いての通りだよ! さっきから聞いてりゃ、まともな実力の人間が一人もいねぇじゃねえか!?」
飛鳥は睨みを強めて大和に凄んでくる。
直接受けてない風鈴の方が、飛鳥の形相に怯えていた。
「飛鳥、そろそろいい加減にしたらどうだ?」
「そうよ! さっきからランクの話ばかりで! 今はランク低くたって、歩君みたいに少しずつ上がっていければ……」
「少しずつだなんて悠長な事言ってる場合かお前ら! 俺達は何を目指してると思ってるんだ!? WSGCだぞ! 今年のWSGCに参加するのが俺達の目標じゃねえのかよ!?」
部室の外にまで響く、飛鳥の怒鳴り声。
他の部の生徒が、何事かと覗きに来ていた。
「俺からすりゃ、歩も実力的にはまだまだだけどな、アイツはあれでまだ一年だし、部活は
「まあ、歩君が本当に真面目に頑張ってるのは分かってるけど……」
「全員が出れる訳じゃねえにしろ、チームやってりゃどうしたってメンバー個々の実力が関わってくるんだ……歩は水城の弟ってんで割と筋が良くてギリで見込みあるからあれこれ教えてやってんだよ! 上位ランカーなんて贅沢は言わねえがな、途中参戦してくるヤツを一から育成していく時間的余裕なんてねぇよ!!」
ひとしきり怒鳴った後、飛鳥は大和に振り返り、威圧をかける。
「……それを踏まえた上で、聞かせてもらうぜ? テメェの事をな……自分から進んでここに来たくらいだ、半端な実力じゃねえんだろうな? もし、テメエまでただ興味本位ってだけで来やがった雑魚野郎だってんなら、ただじゃおかねえからな!」
そのついでのように、手持ちの銃の銃口を浩介と風鈴に向ける。
マガジンが入っていないので、脅しで向けただけと見る者が見ればすぐ分かる。
だが、飛鳥の雰囲気にはそれでも人を殺せてしまいそうな殺気が宿っていた。
マイクでも向けるかのように、銃を大和に向け直す飛鳥。
答え次第ではどうなるか……という、一触即発の雰囲気が部室内に広がる。
緊張感にほとんどの人間が声を出すことも出来ないまま、その視線を飛鳥から大和に移す。
当の大和も他の者と同じように、口を開く事はなく、静かに飛鳥を真っ直ぐ見つめて黙ったままだった。
だがしばらくした後、大和はフッと笑みを浮かべる。
「……おい、何笑ってやがる?」
「いえ、安心したんですよ。活気に満ちているというだけでなく、上を目指す意識がある。今まで、何度か転校を繰り返してきましたが、このチームが一番しっくり来ますよ」
「何だと!?」
戸惑いを見せる飛鳥の銃を手でゆっくりと下ろさせる大和。
そして、自分の姿を全体に見せるように後ろに下がる。
「では、自己紹介に移ります。自分の名前は赤木大和。ランクは、Aです」
ランクを聞いた途端、部室内がざわめく。
「ほう!」
「A、ですって!? 私や飛鳥や玉守君より上じゃない……! 凄いわ!」
「お~上位ランカーだにょ!」
「転校生がもう最強だにょ~!」
「ふぇ~……そんな凄い人が、僕達のチームに……」
部員達から驚き、感嘆の声が上がっていく。
さすがの飛鳥も、すぐには言葉が出なかった。
「……おい、赤木とかいったか?」
「はい?」
「テメエ、吹かしこいてんじゃねぇだろうな?」
「なんだったら、生徒手帳見ますか?」
そういうと大和は、制服の胸ポケットから何やら薄い機械を取り出した。
大和の手のひらに収まるスマートフォンのような機械。
『生徒手帳』と現代の生徒達から認識されるこれは現在、全国の小・中・高や大学で導入されている。
かなり前から、生徒手帳を紛失したり粗末に扱う生徒が続出する事がちょっとした問題になっていた。
一方で、携帯・スマホの多様化で学校に持ち込む生徒も増加している。
国は携帯電話会社と提携して一律の機能を備えたこの通信機械に生徒達の情報を取り込ませ、生徒手帳という形で配布するようになった。
通話、メール、SNSなどの一通りの機能を、基本使用料含めて全て無料(アプリやコンテンツ等、一部例外あり)で行えるため、あまり裕福でない家庭でも気軽に利用可能。
また、国家や警察との連携でGPSを始めとした機能による防犯対策が強化されたこともあり、子供を持つ家庭から大きく広がるようになった。
この生徒手帳は携帯と同等の機能を有するが、同時にその生徒の個人情報も付加されている。
よって、扱いに細心の注意が求められ、生徒達自身の管理意識向上が紛失防止に繋がるようになった。
生徒手帳の液晶に触れていくつか操作した大和は、飛鳥にそのまま差し出す。
飛鳥はそれを受け取り、その画面を確認する。
他の部員も、飛鳥の横や上から覗き見に来た。
画面に表示されているのは、大和のプロフィール情報。
様々な情報が出ている画面をスライドして、飛鳥は目当てのものを見つける。
それは、大和のサバゲーでのランク。
そこにははっきりと、〔rank:A〕の表記があった。
「……嘘は、ついてねぇみたいだな」
生徒手帳を大和に返す飛鳥。
その表情は、最初よりも幾分和らいだものになっていた。
「まさか、俺達以上のランクのヤツが転校してくるとは思わなかったな……それじゃあれか? お前も、WSGC出場を目指してるってのか?」
「出場はもちろんですが、自分としては優勝するのを目指しています」
「……は?」
一瞬、理解出来ない言葉を聞いた、というように飛鳥の表情がまたもや変化する。
「……今、何ていった? 優勝、目指すっつったのか?」
「はい。日本を世界一にするために、WSGCで優勝することが、自分の目標です」
当たり前、とでも言うように優勝を口にした大和に、部室内が再び静まり返る。
「……お前、自分が何言ってるか分かって言ってるんだろうな?」
飛鳥が、声を抑えながら問いかける。
大和も、それにきちんと応える。
「もちろんです。自分が目指したいと決めて、そのための努力は積み重ねてきました」
「WSGCだぞ? それだけでも目指すのは大変だってのに、世界の頂点が目標? こんな実績も何も無いような高校に来て、それでも目指せると思っているのか?」
「そこにいる人が上を目指すと本気で決めたことなら不可能ではないでしょうし、実績は関係ないと思ってます」
「……ガチで、言ってるんだろうな?」
「はい」
そこまで聞いた飛鳥は今度は黙り込み、静かに大和を見据える。
睨むではなく、ただ真剣な面持ちで大和と相対する。
どれほど長く続くだろうかと、見守る部員達も心配になる中、
「……くっ……くくくっ……!! あはははっ! 面白ぇじゃねえかこの野郎!!」
ついに飛鳥が口を開いた。
しかも、えらく上機嫌になっていた。
「ほう、珍しいな? 飛鳥。お前が笑うところなんて、相手のヒットを取った時くらいだったのにな」
「ふん! 今回はそれ以上の収穫だと思えたもんでよ!」
飛鳥は玉守の言葉に鼻息荒くし、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「今まで俺達が散々WSGC出場掲げても、誰も信じやしねぇし、付いてもきやがらねぇ……見学や体験入部に来るのも、志低い冷やかしみたいな奴らばっかりで、正直うんざりしてきたところだったんだ……今回は逆に俺達よりもランクも目標も高い奴が自分から来てくれたからよ! 嬉しくてテンション上がりまくりなんだよ……くくくっ……!」
「出ました~! ボッチ先輩恒例のキモスマイル!」
「孤独な先輩の根倉な微笑み……訪れた決定的瞬間!」
飛鳥のニヤケ顔に生徒手帳を向け、
「「いざ! シャッターチャ~ンス!!」」
パシャパシャと写し始めた金瑠と銀羅。
「くぉらぁぁ!! ディスりながら写メってんじゃねぇよバカ双子ども!!」
対して、唾を飛ばしながら怒鳴り散らす飛鳥。
部室内に再び騒々しさが戻ってきた。
それを良いタイミングと見た玉守、手を打ち鳴らして周囲の意識を変えさせる。
「よ~し! 新たなメンバー候補三人、君達の自己紹介、聞き届けさせてもらったよ、ありがとう! では今度は大和君の要望通り、俺達の番だな! まずは、部長の俺からいこうか!」
大和達三人から少し距離を取り、姿がきちんと見れるようにする玉守。
「俺は三年の
ハキハキとした自己紹介を、三人は三者三様の面持ちで聞いている。
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく! では次は、他の部員の紹介といこう。まずは飛鳥、頼むぞ!」
「おうよ」
玉守の最初の指名は飛鳥。
「
ようやく自己紹介したかと思えば、飛鳥は大和に近付き、先ほどと同様の不敵な笑みを向け、
「……赤木っつったな? 今は俺よりランク高いからって調子に乗るなよ? 俺はもっと敵を撃ち抜いて勝ちまくる! テメェを越えてやるからな!」
向上宣言をした。
すると、
「ちょっと飛鳥! どうして毎回そんな突っ張った言い方しか出来ないのよ!? 今後一緒にやっていってくれる仲間になるんだから少しは抑えなさいよ!」
角華と呼ばれていた女子生徒が、逆に飛鳥を睨みながら食ってかかる。
「うっせえな~角華……俺にとっちゃランク高い奴は敵味方や上級下級関係なく、踏み越える障壁に過ぎねぇよ!」
「言い方考えなさいっての! アンタがそんなだからうちの部は……ったくもう……」
敵意多めな飛鳥に、角華も呆れ顔。
大和達に対しては困ったようにではあるが、優しく笑いかける。
「ごめんね? このバカっていつもこんな調子でさ、私も嫌になっちゃうのよね……最悪、この飛鳥ボッチの言ってる事は気にしないでも良いからね!」
「テメッ……! っのやろ、また……!!」
飛鳥が顔を真っ赤にして何か言いかけるが、そこからは無視を決め込む角華。
「私は
「はい! よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
風鈴と大和は角華に対してそれぞれらしい対応を取り、浩介は無言で頭だけ下げる。
「三年は以上だな。では次は……」
「「はいは~い!」」
角華が下がるのを見届けた玉守が、次に誰を指名しようか選ぼうとすると、元気な二重声を響かせながら、金銀サイドテールの双子が手を上げてアピールしてきた。
「よし! では、次は金瑠君に銀羅君だ! いってみよう!」
玉守もその勢いそのまま、双子に任せる。
双子はヒョイと飛び、角華がいた位置に仲良く降り立つ。
そこから、双子の雰囲気が少し変わる。
「……戦場、という名の花畑……」
「……散らせるは、己か敵かの血飛沫花吹雪……」
「……そこに輝き咲く花2輪……」
「……可憐で華麗な
「「『新河越高校の双子彼岸花』! その名もっ!!」」
役者のような台詞を交互に述べ、その場で変身でも決めかねないような大袈裟な動きの後、
「
「
ビシッとポーズを決めながら名乗る双子。
それを、風鈴は「お~!」と感心したように見ながら、パチパチと拍手している。
「どう? この自己紹介、どうだったにょ?」
「えへへ~! これ、二人で考えたんだにょ~!」
「はい! 凄かったです! 可愛いというか格好いいというか……とにかく、何か凄かったです!!」
「「やった~!!」」
風鈴に褒められた双子は、元の雰囲気に戻り、嬉しそうにピョンピョンと跳び、金銀の髪も正に尻尾のように跳ねる。
「(……けっ! 何が『新河越高校の双子彼岸花』だよ……名前ダセぇし誰も呼んでねえし……)」
「(名前ダサいとか、アンタ人の事言えないでしょうが!)」
その振りを眺めていた飛鳥が小声でぼやき、角華に軽く小突かれる。
「キルちゃん達は二年生! そして、ランクはBだにょ!」
「みんなもギラちゃん達とタメだからタメ口で良いにょ~!」
「了解。呼び方は金瑠さんと銀羅さんで大丈夫かな?」
「堅苦しいけど、呼びやすい呼び方でいいにょ、ダイワン!」
「カザリンとハヌマンも、これからよろしくにょ~!」
「はい! よろしくお願いします!」
「よろしく……って、ハヌマンって何かどっかで聞いたことあったような……」
(……ダイワン? ああ、俺の名前、大和をダイワと呼んだからか……)
初対面にして、アダ名を付けられた大和達。
明るさの種類こそ微妙に異なるが、角華と同じく友好的な双子のやり取りに風鈴、そして大和も自然と笑顔になる。
「良い流れで来てるみたいだな! では次は
玉守が今度は別の方へと顔を向け、大和達もそれを追うように振り向く。
集中する視線の先、指名を受けた生徒はというと……
「…………ぐぅ~~…………ぐぅ~~…………むにゃむにゃ…………」
椅子に座ったまま、頭を突っ伏して寝ていた。
この男子、大和達が部室を訪れた時から既にイビキをかいて寝ており、騒がしい喧騒の真っ只中においても起きてくる気配がなかった。
玉守の呼び掛けにも、当然ながら無反応。
「……飛鳥、悪いが桂吾君を起こしてやってくれるか?」
玉守が飛鳥に頼むと、飛鳥は舌打ちをしてからその生徒の近くに早足で歩みよる。
接近の勢いで作った拳骨を、惰眠を貪る無防備な頭に容赦なく振り下ろす。
「ぶっ!!」
ゴンッという机の鈍い音の一瞬後、潰れたような声を出し、額を痛そうに押さえながら慌てて顔を上げる男子生徒。
「す、すいませんっ!! ち、違うんす先生!! 別に寝てた訳じゃなくて考え事するために頭伏せていただけなんすよ! だ、だからこれ以上課題出すのだけはどうかお許し……を……」
何やら言い訳を早口にまくし立てるその男子は、周囲の状況からようやく違和感を覚えて鎮静化していく。
「……あ、あれ? ここ、部室……? あ、そっか、もう授業は終わったんだった。ふぅ~焦った~~……」
「焦った~~じゃねえんだよ、この万年寝坊助野郎……!」
胸を撫で下ろす寝坊助男子の顔に、飛鳥は手持ちの銃の銃口を向ける。
それに気付いたその男子は、顔をひきつらせながら飛鳥から後退り離れる。
「……ひ、飛鳥先輩……!? ちょ……ちょっと待っ……!! じ、銃をそんな風に人に向けちゃいけないっすよ! 危ないじゃないすか!」
「サバゲー部員らしくねえ返しだなぁ……心配するな、マガジンは抜いてあるだろ……いくら俺でも弾が入ってねえ銃じゃ撃てねえよ……」
「い、いや……左手に、そのマガジン握ってるっすよね……?」
男子はめざとく、飛鳥が左手に持つ弾入り弾倉を見つけて、恐る恐る訴える。
それに対して、悪そうな笑みを浮かべる飛鳥。
「ただ持ってるだけだろ? ああ、でもふとした拍子にうっかり差し込んじまって、そのままうっかりトリガー引いちまうかもしれないけどな? その時は、不慮の事故って事で勘弁しろや」
「いやいや!! そうなったら絶対わざとっしょ!? 目が本気な上に笑顔が何か恐いっすよ!!」
「テメェまで笑顔云々
(え~……起きたばかりなのに、なんすかこの無茶振り……)
という思考が顔の強張りからありありと見てとれる、桂吾と呼ばれた男子生徒。
桂吾はしばらく言葉を飲み込み、再び周りを見回し、大和達を確認。
「……え~~っと……もしかして、新しい入部希望?」
「そういう事だな。桂吾君、簡単に自己紹介を頼むよ。ちなみに先に言っておくと、全員君と同じ二年だな」
「……了解っす……ふわぁぁぁぁ……」
玉守から改めて依頼され、男子は眠そうにしながら体を起こし、アクビをしてから大和達の前に立つ。
彼の見た目に関して言うと、全体的に薄いという印象。
白っぽい灰色に染めた髪は、寝癖であるかのようにところどころが跳ねている。
本当に寝癖なのか、本人が敢えてそうセットしたのかは不明。
「……俺の名前は
「は、はい、よろしくお願いします……」
「……よろしく」
言われた通りに、簡単に自己紹介をこなす桂吾。
声がまったりしており、眠そうな顔と相まってやる気が感じられない。
明るい女子陣が続いただけに、テンションに落差があって大和達も若干戸惑い気味。
「桂吾君はかなりマイペースな性格でな。だがやる時はやる男だ。戦場ではきっちりと仕事をこなしてくれるから期待しててくれ。さて、後はそこの二人だが……」
桂吾について補足した玉守、一度ソファーに目配せをする。
「まずは香子君から頼めるかな?」
「は、はい、玉守さん」
玉守から促され、ソファーから体を起こす香子。
「二年の
丁寧にお辞儀をする香子に合わせ、
「よろしく」
「よろしくお願いします!」
大和と風鈴もお辞儀する。
「後は歩君だけだが……大丈夫かな?」
「は、はい! 自己紹介だけですし、僕は全然……」
「そうか、では無理しない程度に頼むよ」
「分かりました!」
スッと立ち上がり、香子と並ぶ歩。
香子は、何とも心配そうな表情で歩を見守る。
「一年の、
歩のお辞儀に、風鈴も同じように返す。
「よろしくお願いします!」
「よろしく」
学年上は風鈴の方が上のはずだが、元々低姿勢な風鈴の雰囲気だと敬語でもあまり違和感がない。
「よし、これで全員の自己紹介は済んだな! ようこそ大和君、これが新河越高校サバゲー部チーム、〔タクティクス・バレット〕だ!」
玉守の歓迎の言葉に、部員全員の目が大和に集中する。
視線を一身に浴びる大和、
「はい、これからよろしくお願いします!」
堂々と、全員に声を届かせる。
今にも拍手が起きそうな歓迎ムード(一部除く)の中、
「まあ、そうは言っても正式な手続きは郡司先生が来ない事にはどうにもならないがな」
玉守は軽く肩をすくめる。
「とりあえず今日のところは、大和君も部活の様子を見学しておくといい。そこの二人も、まだ本参加するとも決まってないことだしね。まずはこの部の雰囲気に慣れてから……」
「おい、赤木!」
部の説明をしようとした玉守の言葉を遮り、飛鳥が大和に再接近。
「これからこの俺が直々にテメェの実力を測ってやる。WSGC優勝だなんてイカれたことを平気で口走るくらいだ、俺からの挑戦を受けて立つくらい、何てことはないだろうな?」
威嚇とも睨みとも取れる程に凄みを帯びた笑みを大和に向ける飛鳥。
これには、玉守も渋い顔をする。
「おいおい飛鳥。大和君はまだ正式に入部してもいないんだぞ? それを……」
「さっきコイツは、すぐに部活に参加したいって言ったんだぜ? つまり、今日すぐにでもやり合う準備が出来てるってことだろ? なら、早速そのご自慢の腕前とやらを拝ませてもらおうと思ってよ!」
「いや、そうは言ってもだな……」
「自分は構いませんよ、玉守部長」
飛鳥を止めようとした玉守を、大和が制する。
「自分も、色々な事が知りたいんです。忍足先輩の実力はもちろん、ここのチームの皆さんの実力、ホームとしている
「大和君……君まで……」
「ハハハハッ!! 分かってるじゃねえか大和! ますます気に入ったぜ! テメェとは気が合いそうだ!」
高笑いする飛鳥に、涼やかに微笑む大和。
対照的ではあるが、どちらも臨戦態勢と見受けられる。
「おい桂吾! テメェひとっ走りしてうちの顧問呼んでこい!」
飛鳥はちょうど椅子に座り、再び頭を伏せようとした桂吾に命じる。
「え~……俺、これからまた一眠りしようと思っ……」
「もうすぐ部活だってんのにまた寝ようとしてんじゃねぇよボケッ!! いいから早く呼んでこいや!!」
「ううっ……わ、分かりましたよ……もう……」
飛鳥に凄まれ、仕方なしに立ち上がり、とぼとぼと部室を出ていく桂吾。
「……ったく、真面目にやれってんだよ、あのバカは……」
桂吾が出ていった扉を睨み付ける飛鳥に、大和は苦笑を浮かべる。
「彼には、ずいぶんと辛く当たってるようですね?」
「ああでもしないとなかなか動かねぇんだよ、あの面倒くさがりのサボり魔はな……はぁ~……」
やれやれとばかりにため息をつく飛鳥。
その表情は、苦々しさこそ残るものの、キツさはなくなっていった。
「あのバカもよ、俺は認めちゃいるんだよ。状況対応力はあるし、身体能力はむしろ高い方なんだよ。機動力だけなら、うちのチームで一番かも知れないからな。それだけに惜しいんだよ、努力すりゃ良いとこ行くはずなのに、度々練習サボるからスタミナが無いんだよな……」
「(そこまで考えてるのに、本人目の前にしたら罵倒しかしないんだから、コイツも大概バカなんだけどね!)」
飛鳥言、ならぬ独り言気味に小言を言う飛鳥に聞こえないよう、大和達のところに回り込んだ角華が三人に耳打ちする。
飛鳥も、それを目ざとく見つける。
「……おい、角華。テメェ、ソイツらに変なこと吹き込んでねぇだろうな?」
「べっつに~!」
「ふん! まあいいさ! とにかく、今日は久しぶりに気分が良いからな! 気の済むまでやり合おうぜ、赤木!」
「分かりました、よろしくお願いします、忍足先輩」
見えない火花が散るかの如く、戦意を交錯させる大和と飛鳥。
その様子に、風鈴と駒木双子はワクワクと事の成り行きを見守るが、それ以外のメンバーは何とも言えない表情だった。
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