部室訪問

 初日の授業が終了し、現在は放課後。

 浩介の案内でサバゲーチームのある場所に向かう事にした大和だが、出会った縁ということで風鈴を誘ってみたところ、一緒に行くこととなった。


「いや~千瞳さん、サバゲーチームのところに大和案内するだけなのに、大和が無理に誘っちゃってごめんね?」

「い、いえ! 私は大丈夫です!」

「そう? 嫌なら嫌って言ってくれて全然良かったんだからね?」


 自分の部活に向かうために廊下を行き来している他の生徒と同様に廊下を歩きながら会話をする風鈴と浩介……そして大和。


「浩介、俺が千瞳さんを誘うのがそんなにいけない事なのか?」

「あのな~大和……久しぶりに出会ったからその女の子誘いたくなるのも分からくはないけど、無理に付き合わせたら可哀想だからな?」

「そういうもの、か……俺は俺なりに良かれと思って千瞳さんを誘った訳だけど……」

「女子全員が興味持つとは限らないだろって話だよ。ハキハキした性格の人ばかりじゃないんだ。千瞳さんだって本来は、内気で大人しい子なんだからな?」

「あ、あの……本当に私、大丈夫ですから……」


 風鈴は、大和と浩介のやり取りを聞いていたが、入り込めそうな雰囲気を見て取って、自分を何とか会話に滑らせる。


「……私、サバゲーも、実は興味ありました。でも、私なんかが参加しても、他の方に迷惑をかけてしまうと思って……私、性格的にもとろくてどんくさいし、運動とか昔から苦手で……動きが鈍いんです……」


 動きが鈍い、というのがどこから来ているのか、思わず目がその原因に向きかかってしまう大和だったが、自分の不甲斐なさに困ったような笑顔を浮かべる風鈴を見ていて、その気持ちを納める。


「千瞳さん。今でこそサバゲーは世界的な競技になった訳だけど、昔はストレス発散のために参加するような、楽しむ事を目的にした人が多い趣味の領域だったんだ。その流れを汲むライトなプレイヤーが集まったチームだって未だにある。俺自身はWSGCに参加するのを目指してはいるけど、興味を持って参加してみたいと思うのは悪い事じゃないよ」


 大和が語るのを、風鈴はじっと目を向けて真剣に聞いている。


「これから行くサバゲーチーム、そこで千瞳さんも一緒に参加させてもらえないか聞いてみよう」

「大丈夫でしょうか? 私、チームとかに参加した事ないですけど……」

「誰だって初めはそんなものさ。でも、チームプレイが重要なサバゲーにおいて、メンバーとの連携は必要になる。まずは一歩踏み出して集団の中に参加してみる事が大事なんだ。心配なら、俺が教えられる事は俺が教えてあげても良いからね!」


 言葉終わりを強調させ、風鈴を安心させるように努める大和。


「は、はい! よろしくお願いします!」


 その甲斐あってか、風鈴も今度は明るい笑顔を見せてくれた。


「おっ! 大和、もうすぐサバゲーチームのいる部室に着くよ。ほら、そこの右側の部屋がそうだからさ」


 話のキリの良いタイミングで、浩介がサバゲーチームの部室場所の到着を教えてくる。

 今歩いている廊下は部室棟になっており、色々な部室があった。

 多くの生徒が、その部活のユニフォームに着替え、この廊下を行き来していく。

 大和達が目指すサバゲーの部室は、少し奥の右側にあり、引き戸タイプの扉の右側には『サバイバルゲーム部:タクティクスバレット』という部活、そしてチーム名の表記があるプレートが付いていた。


 ……余談だが、サバゲーの活動を行うにあたり、その学校や会社の名前を冠して活動する場合と、別にチーム名を作って活動する場合の二種類が存在する。

 この高校を例に取ると、前者の場合は『新河越高校サバゲー部』みたいな呼び方になったりする。

 どちらで活動しても差し支えないが、とある事情から割とチーム名で活動する場合が多いようである。


 それはさておき……


 大和は、部室の扉の前に陣取る。

 部室からは、内容こそ聞き取れないものの、明るく感じる話し声が聞こえる。

 雰囲気は良さそうだった。


「浩介、ここまで案内してくれてありがとう」


 大和は、嫌な顔もせずにここまで連れてきてくれた浩介に礼を言う。


「別に気にしなくても良いよ! 大和のやる気見ていて、少しお節介したくなっただけだからさ! んじゃ、俺は戻るよ! 頑張ってな~!」

「ああ、ありがとう!」


 浩介は手をヒラヒラと振って、元来た道を引き返す。

 大和も手を振り返してから扉を見据え、拳のように手を形作る。

 もちろん殴る用途ではなく、扉をノックするための軽いもの。


(……この中に、俺が戦線を共にするであろうメンバーがいる。どんなメンバーなのか……)


 大和は、新たな出会いを純粋に楽しみにしているように、ドアを前にして薄く微笑む。

 同時に、隣で緊張に顔を強ばらせる風鈴の事も参加させられるだろうか、などとこちらも少し心配しながら扉をノックしようとして……


 その手が空を切ってしまう。

 何故なら、大和がノックするのと同じタイミングで、引き戸が開いたためだ。


「ひいぃ~!!」


 そしてそんな叫び声と共に誰かが飛び出してきた。

 大和も、まさかここまでピッタリのタイミングで扉が開いた上に人が出てくると思っていなかった。

 ノックのために振るわれた大和の右手は裏拳の如く、飛び出してきた生徒にぶつけられた。

 その生徒が不運だったのは、背が低かったという事。

 大和のノックの位置がちょうど顔面の高さであり、鼻に撃ち込まれる形になってしまい、その生徒をぶっ飛ばしてしまう。


「ぶっ……!!」

「なっ!? お、おい! 大……」

「「ありゃりゃ~?」」


 大丈夫か? の一声でも掛けようとした大和だったが、続けて響く二重声を聞いた大和が顔を上げると、二つの物体……否、人が二人、大和に向かって飛んできていた。

 既に目前まで迫ってきている二人を避ける間もなく、ダブルのフライングボディプレスを喰らい、己がぶっ飛ばした生徒とは反対に倒された大和、背中を強打。


「ぐっ……! おおっ……!」


 幸い頭を打つ事もなく、普段体を鍛えていることもあって大事には至らなかったが、二人分の重量物込みで倒れれば、背中で受けても衝撃がかなりキツい。

 肺の空気を呻き声で押し出しながら横たわる今の大和の思考は、しばらくは背中の痛みを知覚する事しか難しいかもしれない。


「や、大和さん!? 大和さん大丈夫ですか!?」

「お、おい大和!? ど、どうなってるんだこれ!?」

「……ど……どうなってる、のかは……ぐっ! お、俺の方が……知りたい、よ……」


 心配としてくる風鈴と、いきなりの騒ぎで再び戻ってきた浩介に、大和はそう返すしかなかった。

 大和も早く起き上がりたいと思ってはいるが、今は二人に乗っかられており、なかなか起き上がれない。


「うにゅ~……」

「ふにゅ~……」


 この時点で大和が分かったのは、自身に向かってダイブしてきたらしきこの二人、一瞬だけだったので詳しくは分からないが、顔の感じがほぼ同じで恐らく双子、そして女子用の制服姿から女子であろうということ。

 このままの状況でいるのは、大和も色々な意味でまずい気もしたため、どいてもらおうと話しかけようとしたのだが、


「ああ~!! だ、大丈夫!? あゆむくん!!」


 奥から聞こえる悲鳴じみた別の女子の声にタイミングが奪われてしまう。


「大変! 歩くん頭打ってない!? 怪我してない!? もう、遊ぶ目的で歩くん追い回すのは止めてっていつも言ってるじゃない、キルギラちゃん!」


 続けて非難するような言葉が聞こえてきたかと思うと、「むむっ!」という声と共に今度は大和の上に乗っていた二人が同時に起き上がる。


「それは聞き捨てならないにょ! カオルン!」

「そこまで言われたくないにょ~! カオルン!」


 起きてそのまま振り返り、大和に跨がったまま反論を開始する二人。

 やり取りから察するに、大和が下にいることに気付いていない様子。


「カオルンはいつもアユムンと一緒だからズルいにょ!」

「アユムンはみんなのアユムンなんだから、独り占めは良くないにょ~カオルン!」

「な、何でよ!? あ、歩くんは私の弟なんだから、一緒にいるなんて当たり前でしょ!? そ、それに部の先輩としても、玉守さんから教育を任命されてるのは私なんだから! 私が近くで教えるのは私の仕事であって……」

「あ~あ~うるせえな~テメェら……こっちは今、ミカエルを手入れしてるんだ、騒ぐなら全員外に出てろや……」

「ちょっと 飛鳥ひとり! アンタ女の子にそんな言い方することないでしょ! というか銃にそういう名前付けて呼ぶのとかキモいし!」


 扉が開け放たれてから色々と声が聞こえてくる。

 思った以上に騒がしい、というのが初見での大和の感想だった。

 覆い被さった二人が起き上がってくれて視界が開けたおかげで、大和の近くにいる風鈴と浩介の姿がようやく確認出来たが、こちらはこちらで両者固まってしまっている。

 大和も対応に困る状況、それも致し方ないかもしれない。


(まずは俺の上にいる二人に離れてもらうしかないか。話を聞いてくれれば良いのだけれど……)


 大和が声を出そうとすると、自分の顔に影が落ちる。

 横たわる大和の頭の側に、1人の男子生徒が近付いていた。

 近すぎて全身は確認出来ない。


「おっ! みんな、揃ってるようだな!」


 深みがある渋い声のその男子生徒は、しかし威圧感はなく楽しげにしている。

 この感じから、この男子生徒こそがチームのリーダーだと大和は直感した。


金瑠きる君、 銀羅ぎら

君、部室の前でどうかしたのかな?」

「「あっ、玉守部長さん! こんにちは~!」」


 声を聞いた大和の上の二人は座ったまま再び振り返り、そこにいる男子生徒に挨拶する。

 大和の思った通り、肩書きのある人物だった。


「ね~ね~部長さん、聞いて下さいにょ! カオルン酷いんですにょ!」

「カオルンがみんなのアユムンを独り占めしてるですにょ~!」

「ちょ!? ひ、独り占めとか、人聞き悪いってば~!」

「あははは! そうかそうか。二人も歩君と遊びたいのは分かっているよ。 香子かおるこ君とも要相談だな。今の状況はその関係なんだろうが……」


 玉守と呼ばれたこの男は二人に微笑んだ後、視線を下、つまり倒れて下敷きになっている大和に向けてくる。


「金瑠君、銀羅君。君達はそろそろ、その場から退いた方がいいと思うぞ? お客さんが君達二人の座布団になってしまっているからな」

「「ほよ?」」


 玉守の言葉に目をパチクリさせた後、その視線を追うように下を見る。

 そこでようやく大和の存在に気付いたようだった。


「にゃにゃ!? キルちゃん達の下に人が!?」

「にゃにゃ~! どおりでギラちゃん達痛くなかった訳だね!」


 双子の二人は互いに顔を見合せ、納得したように頷いていた。

 この二人の顔も、この時点でようやく見えた。

 少し幼い少女二人といったところだが、印象的なのがそれぞれの髪と瞳の色。

 片方は金色染めの右留めサイドテール、もう片方は銀色染めの左留めサイドテール。

 そして金髪の方は右目が薄い赤色、左目が水色をしており、銀髪の方は右目が緑色、左目が紫色をしている。

 この新河越高校では、外見について自由な校風であると大和も聞いており、カラーコンタクトでオッドアイを模しているのだろうと当たりを付ける。


「ふむ。察するに、歩君を追いかけて部室を飛び出そうとしたら、手違いでこのお客さんに二人が衝突したというところではないかな?」

「お~! 部長さん、正解だにょ!」

「さすが部長さん! 良く見てるにょ~!」

「君達二人が歩君を追いかけるのは日課のようなものだからね! ただ、こういう事もあるから、今後は控えた方が良いかもしれないな」

「「は~い!」」


 声を揃えて返事をした後、乗っかる位置をズリズリと下がらせる金銀の双子。

 大和から体をどかし、その頭を深々と下げ、


「「見ず知らずさん、ごめんなさい」」


 金銀のサイドテールを垂らしながら大和に素直に謝罪してきた。


「い、いや。俺はまあ何とか無事だったからいいよ。それに君達二人も無事で何よりだ」

「「おかげさまで!」」


 大和の返答に寸分違わず同じように返す辺り、双子ならではというところ。


「キルちゃん達って好きな物はとことん追いかけちゃう質なんだにょ!」

「ギラちゃん達は二人して好み同じだから、一緒に突っ込んで良くぶつかるにょ~!」

(何だか、猫みたいだな……)


 好み云々はともかく、言い訳とするには衝動的な印象を受けた大和だったが、頭を上げての明るい笑顔がどことなく憎めないところは浩介と通じる部分があるかもしれないとも思えていた。


「さて! 部長としても、部員の無礼を詫びなければならないところだが、同時にお客さんとして来てくれたのだから、おもてなしもさせてもらわなければな!」


 双子が退いたことで立ち上がれた大和を、玉守は部室へと促す。

 この部長の姿もようやく全容が確認出来た。

 角刈りに近い短髪に精悍な顔付き、大和より頭1つ分以上高い身長、制服の上からでも分かるガッシリした立派な体格等々、高校生とは思えない雰囲気があるが、それでも威圧感が感じられないのは、清々しい笑みとハキハキとした明るい声質によるものだろう。


「さあ、遠慮しないで入るといい!」

「はい」

「君達もどうぞ!」


 玉守は、大和の近くにいた風鈴と浩介にも声を掛けた。


「は、はい! よ、よろしくお願いします!」

「あ、すいません。俺は違うんですけど……」


 風鈴は緊張しながらも付いてきたが、浩介は及び腰だ。


「ん? 君も一緒に参加するために来たのではないのか?」

「いや~……俺は、ただの案内役、というか……」

「案内役?」


 言葉を濁すような言い方の浩介を、玉守は何も言わずにじっと見てくる。

 脅しかける雰囲気ではなかったが、浩介は居心地悪そうに目を逸らしていた。


「……君。もし暇で何もやることがないなら、良かったら話だけでも聞いていかないか?」


 やがて、玉守が元の明るい笑顔に戻しつつ、提案をしてくる。


「へっ?」

「君は、どこか他の部活に参加していないんじゃないかな? 部活に向かう今の時間で、こうして道案内出来る余裕のある生徒は少ないはずだからな」

「あ~……まあ、確かに、帰宅部です、けど……」

「そうか! ならばこれも縁と思って一緒に参加するのも良いと思うぞ! お友達と一緒にどうかな?」

「い、いや、でも俺は……その……」

(……浩介?)


 煮え切らない浩介の態度に、何か引っ掛かりを感じた大和だったが、玉守はそんな大和と浩介の二人の肩をガッシリ掴む。


「へっ!? ちょ、ちょっとあの……!?」

「中で飲み物くらいは用意出来るし、今回は部活としての話を聞くだけで構わんよ! さあ~遠慮せずに入りたまえ!」

「「は~い! 三名様、ご案内~!」」


 部長らしく、自分の部活への勧誘も積極的な玉守に強引に部室に連れ込まれ、沈黙を余儀なくされる。

 三人が中に入ったことを確認し、扉を閉める双子姉妹。


 部室は教室と近い位の広さがあった。

 ロッカーや机といった一般的な備品の他に、いくつかのエアガンやそれらのパーツ、工具などが置いてある。

 そして、何人かの生徒が既に集まっており、それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。

 携帯を見ていたり、銃の手入れをしていたり、寝ていたり。


(ここが……新河越高校サバゲー部の部室か……環境は悪くなさそうだな)


 サバゲーの雰囲気に慣れ親しんだ、大和らしい感想だった。

 一方、隣のクラスメイト男女二人は揃って落ち着きがない。


「顧問の郡司先生はまだ来てないし、部活の開始時間までゆっくりしてると良い。飲み物は今から用意するが、何が良いかな?」

「いえ、お気遣いなく。それより、先ほど自分が倒してしまった彼は、大丈夫でしょうか?」


 大和は、奥にあるソファーに目を向ける。

 部室の横長のソファー、そこには一組の男女がいる。

 片方は歩と呼ばれた男子で、不覚にも大和が入口で倒してしまった男子生徒。

 もう目を覚ましてはいるが、鈍い痛みでも残しているようにしかめた顔をしたままソファーに腰掛けている。

 全体的に線が細くて小さな男子で、ややベージュでウェーブがかった髪から覗くその幼い顔立ちは金銀髪の双子よりも更に若く、というより幼く見える。

 もう片方の、香子と呼ばれた女子は、歩と並んで腰掛けている。

 歩とは逆にとても大人びた綺麗な顔立ちの女子で、垂れ目の優しげな表情が若々しく見えなくはないが、三年生どころか成人といっても通じるかもしれない。

 ウェーブな長めの髪色が同じで、先ほどのやり取りから、二人は姉弟と大和も理解した。


「歩君、具合はどうかな?」

「……まだ少し、フラフラする感じですけど……大丈夫だとは思います……」

「無理は良くないからな。保健室に行ってみてから、念のため病院に行った方が良いかもしれないな」

「はい……」


 玉守の問いに弱々しそうに答える歩。


「歩くん、私に出来る事あったら言ってね? 何でもやってあげるからね!」

「あ、あはは……ありがとう、姉さん。でも、そこまで酷くもないから大丈夫だよ……」


 香子は歩の頭を優しく撫でながらやる気をみなぎらせていたが、歩自身はそれに対しても困ったようにしていた。

 そんな様子に、大和は罪悪感を感じていた。

 ソファーに近寄り、


「申し訳ない……俺のせいでこんな……」


 歩に向けて謝罪する大和。

 それを見た歩は慌てたように手を振る。


「い、いえ! いきなり出た僕が悪い訳で! 僕もあんなタイミングに外に人がいるとは思わなくて……僕の方こそすいません……」

「どっちも悪くないよ! 悪いのはキルギラちゃんなんだから!」


 お互い謝りあう大和と歩に首を振って否定した勢いで、香子は双子をムスッと睨み付ける。

 その双子はというと、


「「アユムン、ごめんにょ~!」」


 声を揃えて、歩に謝罪していた。

 ただ、二人の明るめな雰囲気のためか、いまいち申し訳なさそうな感じがしない。


「まあ、状況を聞けば、そちらに非がない事は分かる。気にしないでもいいさ」


 玉守は緩やかに首を振る。


「そうですか……分かりました。では、それはそれとして……良かったら、部員の皆さんを紹介して頂けると有難いんですがよろしいですか?」

「ん? それは別に構わないが、入部する前から聞くつもりかい? 最初はサバゲーの魅力を伝えてから入部してもらえるように仕向ける予定だったんだが……」


 大和の提案に、玉守は首を傾げる。


「いえ、自分は既に入部の意思を決めてます。転校したらすぐにでもサバゲー部に入部して、部活に参加させて頂こうと思っていました」

「ほお~! 二年生で一人転校生が来たというのはそれとなく聞いていたが、君がそうか! 転校初日から入部意欲があって、しかもすぐに参加したいとは、ずいぶん有望じゃないか!」

「ありがとうございます。チームワークを築いていくなら、少しでも早く参加した方が良いと判断しまして。まずは俺から自己紹介しますので、聞いてもらえますか?」

「ハハハ! 何とも頼もしいことだな! そちらの君達はどうかな? 紹介ということで良いかな?」

「は、はい! 私は大丈夫です!」

「えっと……それじゃ、俺も、まあ、大丈夫です……」


 浩介だけは微妙な返事であったが、紹介の方向で話が纏まる。


「よし分かった! では、君達の事を教えてもらおうか! ただ……えっと、大和君、と言ったかな?」

「自分の事を知ってるんですか?」

「いや、俺がこの部室に来る時に、廊下でそこの二人が君の名前を叫んでいたのを聞いたのでね! 君は、出来れば最後で頼みたいのだが……」

「それは構いませんが、その理由は一体?」

「大した事ではないよ! 君があまりにもやる気に満ちているのでね、期待を込めてトリをお願いしたかったのさ」

「そういう事ですか。分かりました」


 大和は頷いて了承する。


「では、流れで順番を指定させてもらおうかな。まずは……君にお願いしよう」


 玉守が指名したのは浩介。


「えっと……」

「簡単で構わないよ。名前と、今現在のランクを教えてくれるだけでね」

「じゃあ……浜沼浩介です。ランクは、Fです……よろしく、お願いします……」

「はぁ? 何だよ、雑魚じゃねえか……」


 浩介の紹介を聞いてすぐに反応したのは玉守ではなく、椅子に座って自分の銃を手入れしていた男子。

 大和と同じような黒髪に見えるが、ややボサボサで伸ばし気味な髪は純粋な黒ではなく少し焦げ茶色が混じる。

 飛鳥と呼ばれた目付きのキツいその男子は、顔の向きも変えず、作業も止めないまま話してきた。


「おいおい飛鳥、それは……」

「飛鳥! また相手に失礼な事言って!」


 嗜めようとしたらしい玉守よりも早く、近くの女子が飛鳥に食ってかかる。

 聞くだけでそれと分かる快活な声の女子。

 見た目もその快活ぶりに準じているような感じで、明るいオレンジカラーショートカットのさっぱりとした髪に勝ち気そうな目が印象的。

 総じて、飛鳥とは正反対なタイプと言えるだろう。


「雑魚は雑魚だろ 角華すみか! ランクFだぞ!? 下から三番目の初級者ランクだぞ!? 歩よりもランク低いじゃねえかよ! 一年の歩よりランク低いってんなら、雑魚以外の何物でもねぇよ!」

「だからってそういう言い方することないでしょって言ってるの! そんなひねくれて偏った考え方だから 飛鳥ひとりボッチだなんて言われちゃうんでしょ!」

「ひ、飛鳥ボッチとか言うんじゃねぇよ! ガサツ全開のじゃじゃ馬女!」

「ガ、ガサツ全開って何よ!? このネクラ男! 大体アンタはねぇ……!」

「うるせえな! テメエは俺のオカンかよ!? テメエはいつもいつもなぁ……!」


 とうとう、激しい口論に発展してしまったこの二人。

 自己紹介そっちのけでの言い争いに、風鈴はオロオロと見守るばかり。


「二人とも、皆困ってしまうからな。夫婦喧嘩はそれくらいで切り上げてくれ」

「夫婦じゃねえ!!」

「夫婦じゃないわよ!!」


 更に状況が激化すると思われた時、玉守が介入したことで二人仲良く(?)玉守に抗議。

 意図せずハモったのが気まずくなったのか、お互いにそっぽを向いて黙りこくってしまった。


「すまないね。飛鳥は実力を判断するのにランクで認識する傾向があってね。他の部員は君のランクがどうだろうと、あまり気にしたりしないから、君も気にしないで良いよ」

「は、はぁ……」


 玉守がフォローを入れるも、浩介は浮かない顔のままになった。


「……さて、気を取り直して、二番目は君にお願いしよう」

「は、はい!」


 次に指名を受けたのは、風鈴。


「あ、あのっ! 私の名前は、千瞳風鈴です! よ、よろしくお願いします!」


 緊張気味な風鈴の自己紹介に、主に女子部員が興味津々。


「名前の後は、ランクですよね!? わ、私のランクは……! ランク、は……え~っと……」


 尻すぼみに言葉が小さくなっていくのを、緊張や自信の無さからきているものだろうと思い、急かさないで静かに聞く聴衆部員達。

 やがて、風鈴は振り向き……


「や、大和さん! あのっ……! ランクって……何ですか!?」


 助けを求めるように大和に尋ねた。


「……えっ?」


 大和はポカンとしただけだったが、それ以外のメンバーがずっこけた。


「うおおぉい!! そっからかよ!?」

「ひぃっ!!」


 いち早く立ち直った飛鳥が風鈴を睨んで怒鳴りつけ、風鈴は萎縮してしまう。


「もう、アンタはいちいち喧嘩腰になるんじゃないわよ! 風鈴ちゃん恐がってるじゃないの! アンタのテンションに慣れてないんだからね!」


 角華が風鈴を庇うように飛鳥の前に立ち塞がる。

 次いで、風鈴には優しく接する。


「ごめんね、風鈴ちゃん。でも、風鈴ちゃんってランクの事、本当に何も知らないの?」

「あ、あの……はい、知らない、です……」

「驚いたな。まさかランクそのものすら知らないとは……まずはそこから教えないといけないか……」

「それなら自分が後で教えます。千瞳さんも、さっき俺に聞こうとしてたみたいですし……」

「分かったよ。それは君に一任しよう。では最後に、決めてくれるかな?」

「はい」


 風鈴のランクについては保留とし、いよいよ最後指名の大和の番。


「自分の名前は……」

「ちょっと待ちな!!」


 大和が名を名乗る前に止めてきたのは、飛鳥だった。

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