322話 VS 終極神
「全員衝撃に備えろ!」
私がそれを感じてすぐにその衝撃が世界全土へ向けて放出されていく。
そして衝撃以上に立っていられないほどの強烈な事象エネルギーが体にのしかかってくる。
「チッ……クショウ! どうなって……やがんだ」
「魔導戦艦の制御も……効きませんわ!」
突然の出来事に機内は軽くパニック状態に陥ってしまう。機内の警告アラームも鳴り止まない……これはレオンのディーオによる神器の制御が上手く機能していない証拠だ。
「神器所有者は己の中にある事象を安定させることに集中するんだ!」
焦るな、これは終極神による事象操作だ。
ならば神器所有者は己の事象を守ることができる。加えて私の事象操作で所有者達と関りが強い者もその力で守れるよう加えていけば。
「ふぅ、大分体が楽になったね。レイのあったかい力に守られてるって感じがするよ」
「そ、そういうことは言わないでいい。だがなるほど、これなら神器を持たない者でも対抗できるか」
「魔導戦艦の状態も正常に戻りました。安全のため、一度終極神から離れます」
まさか現れていきなりこんな広範囲に事象操作を仕掛けてくるとは思わなかった。おかげで私達はもろに受けることになってしまったし……。
「だがあのエネルギー……まるで終極神から広がるようにオレ達を通過し世界へと伸びているが大丈夫なのか」
そう、この衝撃は実は私達を狙ったものではない。この世界すべてを自分が食らうために塗り替える、最初から何もかも終わらせるための手段。
当然これが世界中に広がれば終極神にアステリムの事象すべてが食われてしまう。
だが、そう簡単にはいかないぜ。
「あれ? 急に事象の重さというか……圧力みたいなのがなくなりましたよ」
「うむ、同時に世界へ広がっていく波動も消え去ったようだな。盟友よ、これは?」
「簡単な話さ、あれだけで奴が世界を塗り替えれるほど世界の事象は破壊されてないってことだ」
もし終極神が産み落とした黙示録の事象達が順調に世界を壊していれば、今の事象操作で終わっていた。
正常な事象が多ければ多いほどこの世界本来の事象の管理者であるアレイステュリムスが終極神の事象操作を打ち消してくれる。
この初撃を防げたのは、みんなの頑張りがあってこそだ。
さて、先ほどの初撃以降、終極神は亀裂から出てきた状態のまま空中で静止している。変化があるのは縮小し続けている亀裂だけだが……。
いや、小さくなるというよりあれは……形を変えているのか?
「七角の頂点を貫くようにそれぞれ世界の終焉を刻むための……剣の文様。あれこそ、"世界を終わらせる存在"を司る紋章」
「あたしも……あれ知ってる。そうだった、あたし達もあの紋章の中から生まれて……」
亀裂は紋章へと変化し、顕現した終極神の頭上にまるで天使の輪のように浮かび不穏な存在感を放っている。
きっとこれで完成したということなのだろう。その体がゆっくりと地上へと降り立ち……その瞳がこちらを見定めた。
間違いない、奴は私達を……消去すべき敵と認識している。
「くるぞ! 回避しろ!」
「か、回避と言われてもどの方向に……」
「どこでもだ! とにかく奴の攻撃の射線にならなければどこでもい……!」
シュン……
その時、セブンスホープの真横を通り過ぎるように何かが通りぎる。
そこには、まるでそこだけ空間が削り取られたような、歪んだ景色に変わっており、その歪みも徐々に閉じるように消えていくが。
「次々とくるぞ! なるべく奴に背を向けず直線的に動かずに離れるんだ!」
おそらく今の攻撃は直線的なもの。それを気を付けていれば直撃だけはしないはずだ。だがそれも、私や神器所有者という事象操作に対応できる者がこの場に集まっているからだ。
奴の事象操作で"この機体があの空間に飲まれる"という流れを確定されてしまえば一瞬で無に帰すだろう。
だからといってこのまま防戦一方というわけにもいかない。しかしこの機体に装備されている武装ではあれに太刀打ちすることはできない。だから……。
「すぐに出られる神器所有者はただちに出撃! 全員で終極神を迎撃する!」
ここから先は、終極神の事象に左右されない神器の持ち主達による直接戦闘だ。
そう、かつて前世の私がアレイステュリムスと対峙した時のように。
「へっ、待ってたぜその言葉をよぉ。平和な世界とやらのためにいっちょ暴れてくるぜ!」
「うむ、今こそ我らの大願のため、最後の戦いに臨む時!」
私の言葉にいち早くカロフとアポロがブリッジから飛び出し、発着カタパルトのある格納庫へと降りていく。
「まったく気の早い奴らだ。ただ、俺達の求める未来のため、戦いに臨む気持ちは同じだがな」
「誰もが自由に生きることのできる世界のために、この戦いに必ず勝利するぞ」
続いてレイと星夜の二人も発着カタパルトへと向かって降りていく。
これでまずは四人、先行して終極神の注意を引いてもらう。その間に残ったレオンとディーオはセブンスホープを停泊させ、そこから私と共に合流する。
「ッシャア! まずは俺がぶった切る!」
すでに出撃した四人のうち、まずはカロフが先陣を切って終極神へと切りかかっていくが……。
「ッ! ぜんっぜん切れねぇ、こいつの硬さは"鎧"以上かよ!?」
「焦るなカロフよ、そもそも我らとは体格が違いすぎるのだ」
カロフの渾身の一太刀も終極神の体をわずかに欠けさせる程度。それにアポロの言うように顕現した終極神に比べてカロフは爪の先程度の大きさしかないのだからあれではダメージなどないも同然だ。
「じゃあどうしろってんだよ。小賢しい策なんて考えてる暇ねぇぞ!」
「別に策など必要ない。単調な攻撃では効き目がないというのなら……」
「容赦なくこのデカい的に大技を叩き込んでいけばいい。そういうことだな」
アポロの返答を待たずして星夜はすでにコズミッククリエイサーをその身に纏い、その主砲であるブラスターを終極神に向けて構えていた。
「その通りだ。我も同時に放つ、ゆくぞ!」
「ああ……ムルムスルング・ブラスター並列連結、エネルギー解放200%! 発射(ブラスト)!」
「神龍の息吹……受けてみよ! 『龍皇之息吹(ブレスオブドラゴン)-神龍終焉撃(グランドフィナーレ)-』!」
二つの強力な収束された事象エネルギーが巨大な終極神の体へとぶつかり、わずかにその体をよろめかせる。
「よっしゃ! いい感じだぜ! このまま押せば……ッ!?」
だがそれでも終極神の体は砕けず、二人のエネルギーをも押し返しながら一歩、また一歩と歩み出す。
さらに終極神の行動はそれだけでは終わらない。胴体……腹部が怪しく蠢くと、その中心から縦に一本の裂け目が現れる。
「セイヤ、アポロ、注意しろ! 何か仕掛けてくるぞ!」
やがて腹部のうごめきが収まると、裂け目が勢いよく見開きそこから巨大な目玉がギョロリと現れた。その瞳は激しく動いて周囲を確認し終えると……。
ズル…シュルル!
目玉の周囲から数本の巨大な触手が伸びて星夜とアポロへと襲い掛かる。
しかも太い枝から小さい枝が伸びるように次々と枝分かれしていき、四方八方から追い詰めるように迫っていく。
「ッ! これは……!」
「マズいな、攻撃を中断して迎撃に移る」
流石に二人も無視することができずそちらに手を回すしかない。
「チッ! この触手、まるで一本一本が意思を持つ生物だな! おまけにどれだけ切ってもキリがない。おい、俺はこいつを根元から切断しにいくぞ!」
「んなら俺もいくぜ! どうもこいつは柔っこくてサクサクぶった切れるみてぇだからな!」
「ふん、別に構わん。ただし、俺の転移についてこれればの話だがな」
「あ? だったらテメェが転移するより早く全部切り落としてやらぁ」
レイの提案にカロフも同じくやる気を見せていく。二人は同時に触手の包囲網から飛び出すと、片方は雷に身を包み、もう片方は一瞬でその場から姿を消すと……。
「色々省略して……最初っから最終奥義いくぜ! 獣人剣技“龍神ノ章”第五節『万雷一閃(バンライイッセン)』!」
「時空を飛び越え時空を切り裂け! 『次元断空(エクサライズ)』!」
空に雷が迸ると、それは真っすぐ、触手の根元ごと一瞬ですべてを切り裂きながら目玉に斜めに引き裂いていく。
だがそれと同時に、その姿を消したと思われた瞬間、身にまとっていた衣を刃のように振るい、いとも簡単に触手の根元……そして目玉へ斜めの傷をつける。
二人に十字の傷をつけられた目玉は苦しむように蠢くと、その瞳を閉じるようにバチンと勢いよくその姿を隠す。
「へっ、ざまぁみやがれ。これで今度は俺らも一緒にオッサン達とデカいのをぶつけて」
「そんな暇はないぞカロフよ! 今すぐこの場から離脱するのだ!」
「あ、何言って……っておおおおっ!?」
カロフが振り向くとそこには巨大な"拳"がこの場にいる四人全員を巻き込むように猛スピードで迫っていた。
「んなろ、こんなもん簡単に避けて……ッ!?」
「なん……だっ! 何かに阻まれ、転移ができない!?」
見ればレイだけでなく他の三人も謎の違和感によってその場から動けないでいる。
いいやこれはただの違和感ではない。終極神が事象に干渉してこの場の結果系を変えようとしているのだ。だがそれを神器が抑えている……のだが、逆にそちらに多くのリソースを使わされているせいで所有者である彼らにもその影響で思うように動けなくなっているんだ。
「こうなったら、あの拳を押し返すか砕くかするしかないか……!」
「くっそ、腕の部分はどんだけやってもぶっ壊せてねぇってのによ」
「仕方がない。もう一度我らの全力で……」
「いいや、その必要はないぜ!」
今終極神の事象操作の影響を受けているのはあの場の四人だけだ。
だったら、その場にいなかった奴らが対処してやればいいだけの話ってことだ。
「押しつぶせ! 『重力万倍(ギガグラビオン)』!」
そのピンチに颯爽と現れたのは……そう! セブンスホープに残っていた私達だ!
レオンの発現させた重力場によって ズン! と終極神の拳が下に落ちていく。事象力を含んだ強力な重力の影響でその拳の軌道をズラすことに成功するが。
「おいおいおい! 確かに下に落ちたがここじゃまだ俺にぶち当たるっての!」
「ご、ごめんカロフ兄ぃ! でもこれ以上は……」
終極神の力も相当なもので、流石のレオンでも完全に沈めることができない。
だったらそこからさらにもう一撃加えてやればいい!
「そこはっ! 余にっ! 任せるがよいーっ! ぬおおおおお『
ズガンッ!
ディーオの強力な一撃が重力波の上から叩きつけられ、拳はついに四人の足元を通り抜け空振りに終わるのだった。
「よっ、待たせたな」
四人とも終極神相手によく時間を稼いでくれたものだ。正直私もこちらに顕現した終極神がこれほどだとは思ってもいなかった。
「ふい~、まったく出撃初っ端からこんなに疲れることをさせられるとは思ってなかったのだ。余だけちょっと休ませてもらってもいいかのう」
「……いや陛下、どうも休んでる暇なんてなさそうですよ」
「ぬ? それはどういう……おおおおおっ!?」
「ったく、滅茶苦茶してきやがるぜ……」
空を見上げれば、そこには終極神のそれと同じ"拳"がいくつも精製されていき、完成した直後から一つ一つがこちらへ向かって落ちてくる。
それはまるで巨大な流星群が、この世界を破壊する意思を持って降り注ぐように。
「あれが一つでも地上に落ちたらそれだけで被害は計り知れない。全員であれをすべて破壊するぞ!」
「簡単に言ってくれやがって。でも、やってやらぁ!」
「必ず! 僕達の手で世界を守ってみせます!」
巨星の如き拳が仲間達の一撃一撃で切り裂かれ、打ち砕かれ、飲み込まれ、一つひとつ消えていく。
だがその間にも終極神は次の行動に移り始めている。その足が大地を踏みしめると私達の体……いやこの世界の事象ごと狂わせようと空間がねじれていき。
「くそっ! させるか……レイ! アーリュスワイズの波長を私に合わせてくれ!」
「任せろ! アーリュスワイズ、反転! 空間干渉モード!」
私とレイの二人で終極神の周囲に円を描くように空間に裂け目を切り開いていく。
互いの裂け目が繋がった瞬間に私はその円に事象力を注ぎ込むことで奴の事象を中和する力場を作り出す。
のだが……。
「う……ぐ……なんて、圧倒的な事象力だ……」
終極神の事象力は私の想像していたものより何倍も強力で、私の持つ事象だけでは抑えきれず漏れ出してしまう。
これでも二人の女神やベルゼブルの事象を失っているというのに、まだここまで力の差があるのか……。
前世において私は確かに仲間と共に同じ事象の管理者である世界神を退けた……だがそれはアレイストゥリムスにとって己の世界であり、なおかつ神器がその力を削いだものだったからだ。
だが終極神は違う。奴の目的はこの世界を完全に終わらせることであり、多少削れてはいるもののほぼ完成された状態の事象が今そこにある。
神器だけでは到底足りない。今私達がこの終極神に勝てないのはひとえに……。
(私が……アレイストゥリムスの事象を完全に使いこなせていないからだ……)
確かに私はベルゼブルとの戦いを経て生まれたての管理者と言えるくらいの事象力は扱えるようにはなった。だがそれでも、未だにアレイストゥリムスから"試練"と課された鎖は外れることはない。
「む! 皆気をつけろ! 終極神の周囲が再び歪み始め……」
アポロが周囲の空気が変わったことをいち早く察し仲間に伝えようとするが、終極神の動きはそれよりも早く……。
「くっそ……また……体が」
「動かぬ……のだ」
再び直線状に見えない事象力の歪みを撃ち出し、時空の権限が一時的に奪われると同時に仲間達の事象に干渉していく。
「全員私の事象に繋がれ! 一つずつ事象を正常化させ……ッ! 全員終極神の動きに注意しろ!」
神器所有者は事象操作が致命的にならないとはいっても影響は受ける。しかもすぐにその影響を取り除くことは難しく、事象操作が行える私が鑑賞しなければならない。
だが私が仲間の事象への干渉に集中すればもちろん他の攻撃への対処がおろそかになり……。
「ぼさっとするなムゲン!」
「っと! サンキューレイ!」
終極神は事象操作を行いながらもその翼を羽ばたかせ、無数の羽を弾丸のように四方八方へと撃ち出し私達を追い詰めていく。
本来ならばすべての事象操作を私が対処し、仲間全員が全力を出せる状況を作ってやるべきだというのに……このままでは!
干渉された事象からありえない方向に風が流れ、炎と水が反発することなくうねり、隆起した大地から雷がほとばしる。
「これ以上……世界をめちゃくちゃにさせてたまるかってんだ!」
私の持てるすべての事象力を使い、終極神の事象を押し返していく。
それでも完全に事象を正常に戻すことはできず、まだ全員がまともに動けない状態で……再びあの巨大な拳が二つ、天から振り下ろされようとしていた。
(もう……駄目なのか……)
諦めたくはない……だがどうしようもできない力の差に絶望しかけたその時……。
―――――ゴォォォォォン!
力強い雷光と、懐かしい花の香りが眼の前を過ぎ去ると同時に終極神の拳を打ち砕いていく。
砕け散る破片の中、そこには私のよく知る二つの背中がそこにあった。
「どうしたインフィニティ? こんなところで終わるお前ではないだろう」
「さぁ顔を上げてインくん。あなたが挫けそうな時はいつだって、あたし達が支えてあげるから」
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