321話 集結する絶望
ベルゼブルとの戦いの後、私達は飛んできたセブンスホープに搭乗しレオンとディーオ達と無事合流することとなった。
「欠員もいないみたいでよかったよかった。ただ、その様子から見ると大分激戦だったみたいだが」
セブンスホープは傷が増えていたし、船内のメンバーもどこか疲労困憊といった様子だ。
それでも終極神の事象相手にこの程度の被害で済んだのは幸運といえるだろう。
「結果的に無事で済みましたけど、一歩間違えばとんでもない被害になってましたよ」
「まさかあそこまで胸糞悪い思いをするとは思いませんでしたわ。わたくし達をあそこへ向かわせたこと、恨みますわよムゲンさん」
なんだかエリーゼの期限が悪いな。私は終極神の事象がどこに現れ、どの英雄メンバーと相性がいいかということまではわかっていたんだが、どんな手段を用いてくるかまでは知らなかったからな。
この様子をみるからに、そうとう嫌なことがあったみたいだなぁ。詳細は後で聞くにしても、恨み言を大量に浴びせられるのは覚悟しとかないとダメそうだ。
「それで、ムゲン様方は魔導戦艦を途中で降りられてこちらにやってきたようですが、そちらの用事は済まされたのでしょうか」
「ああ、ベルゼブル……ちょっと宿敵とケリつけてきた。ただそのおかげで終極神が顕現するまでの時間を稼ぐこともできたんだ」
結果的に見れば、私達は終極神の顕現を防ぐことはできなかった。
だがそれは予想できたことだ。私達がどれだけ手を尽くそうとも、すでに開いてしまっている第五大陸の亀裂がある限りそれを止めることは不可能。
なので私達にできた対策は、なるべく不完全な状態で終極神を顕現させることだけ……。最終的に、荒ぶる事象の管理者との戦いは避けられない。
「前世と同じように……か」
「どしたのムゲン? そんな不安そうな顔して、あたし達にも勝ち目はあるんでしょ」
「確かに勝ち目は十分ある。ただ……このままだと世界への被害をどれだけ抑えられるかわからない。そこだけが不安でな」
ある意味これは私の前世における最終決戦に似ている。事象の管理者であるアレイステュリムスの力を削ぎ、世界全土を巻き込んだ戦いと。
あの時の結果は……私達の勝利に終わったが、その被害は惨憺たる有様だった。山は削れ自然は荒れ、数々の国は崩壊し、そして多くの人間が命を落とした……。
自然は世界の中心に戻ったアレイステュリムスの力によって安定を取り戻したが、失われた命や文明は戻らない。
もし今回も同じ規模の戦いになるのだとしたら……。
「大丈夫よ、きっとうまくいくわ」
と、私が前世のことを思い出してちょっと弱気になってるところへ自信満々に、胸を張ってセフィラがそう宣言する。
こういう時のセフィラはきっと……。
「なるほど、そう思う根拠は?」
「別にそんなものないわよ。ただ誰も先のことなんてわからないんだから、失敗してイヤ~なこと想像するよりも、成功してヤッターってなってる方を考えたほうがやる気出るでしょ」
やはり特に何も具体案のない、実に単純な理由だが……。
「ああ、その通りだな。そっちの方が気合が入る」
それでも私の手を取って、ためらいを吹き飛ばして引っ張ってくれる。やっぱり、私にはもったいないくらいの最高のヒロインだな。
今思えば、前世では私は常に先頭に立ち皆を導きはしていたが、同じ目線で隣に立ってくれる存在だけはいなかったような気がする。
背中を押されることはあっても、常に最後の一押しは自分自身の苦悩の結果だけで……。
「まったく、そういうのは後先考えないとも言うんですよ。ゲンさんもあまりセフィラを調子づかせないでください。それでいつも後に大変なことになるんですから」
「べ、別にあれらは失敗じゃないからいいの! ただちょーっとよくないことになっちゃっただけで……とにかく大丈夫なの!」
「と、このようにセフィラの言葉はあまり信頼しない方がいいです。わたしはゲンさんを信じてますから、共に最善の道を見つけましょう」
「はいそこどさくさに紛れてあたしをのけ者にしなーい!」
それに私が進みすぎそうになっていたらこうしてクリファが止めてくれる。両側から二人に引っ張られて、主人公冥利に尽きるね。
「で、そちらでいちゃつくのはいいですけど、先に次の目的地を教えてくださらないかしら」
っと、言葉では抑えているがエリーゼがかなりお怒りモードだ。
そうだな、最終決戦に向けて私達が向かうべきは……。
「レインディアに停めてくれるか、リアを連れていきたい」
「確か、レイさんのお姉さんでしたよね。どうして彼女を?」
シリカが言葉にした疑問に周囲も同じ反応を示す。まぁ当然か、どうして今更非戦闘員である彼女を連れていく必要があるのかと。
「神器には人の想いを反映する力がある。所有者と繋がりの深い者が共にいれば、よりその力を引き出せるかもしれない」
言ってしまえばこれは苦肉の策ではある。神器の力をほんの少し強めても終極神による被害をどれだけ抑えられるかわからないが、何もしないよりは全然可能性は高いはずだ。
「だから、そうだな……進路はレインディアから魔導師ギルド、そのまま真っすぐ第五大陸の亀裂へ向かう」
終極神がいつベルゼブルの消滅に気づくかわからないため、最短ルートでなるべく集められるだけの人材を集める。
「了解しましたわ。運航ルート設定完了、準備完了ですわ」
「うむ、それでは魔導戦艦セブンスホープ、発進なのだ!」
こうして私達は全速力で空を進んでいき、まずはレインディアにたどり着きリアに事情を説明すると。
「そういうことならもちろん行くわ。都市を攻めてた黒い魔物もいなくなったし、私もレイやサティ達のことが心配だったから」
と、二つ返事で了承してくれた。
どうやら黒い魔物に防衛が突破されかけていたが、突然消滅してレインディアの被害も最小限で抑えられたようだ。この分ならおそらく他の国も同じように無事だろう。
レオン達に話を聞いた限りではあいつらが戦った事象とは違うようだから、他の二組のどちらかがやってくれたんだろうな。
それから私達は再び飛び立ち、今度は海を越え中央大陸の魔導師ギルドへとたどり着く。
「魔導神様! それにシリカ、レオン君もよく無事で。俺の力が必要とあらば喜んでご一緒させていただきます。そうだな、魔導師ギルドの方は……」
「大丈夫ですよギルドマスター、あなたがここを離れた場合の指揮系統もすでに通達済みですから。なので、当然わたくしもついていきますので」
そこで戦闘の事後処理に動いていたリオウ、そしてなんとも用意周到なラフィナも一緒に乗せることとなったのだが……二人が乗り込んだ瞬間、レーダーを確認していたパスカルさんが声を上げ。
「これは……皆さん! こちらに向かって飛行物体が接近中です! 警戒を……」
その言葉通り私も今まさに強い事象力がこちらに向かってくるのを感じるが。
「いや、これは……大丈夫だ。パスカルさん、カタパルトを開いて迎え入れる準備をしてもらえないか」
「え、わ、わかりました」
そう、こちらに向かってきているのは敵ではない。この慣れ親しんだ気配と二つの強力な事象力の正体は……。
「よう、アポロのオッサンが見覚えのある飛行物体を見つけたっつーから来てみりゃ案の定お前らだったっつーわけだ」
「うむ、どうやら盟友や皆も無事戦いを乗り切ったようだな。こうして再び無事に再開できて我は嬉しいぞ」
カタパルトから乗り込みブリッジへとやってきたのはカロフとアポロ達チーム《ドラゴンウルフ》の面々だった。
どうやら二人も無事に終極神の事象との死闘を戦い抜き、事象が還る先を目指していたようだが。
「私達もあっちに急いだほうがいいとは思ったんだけど、先に解決しておきたい問題があって」
「一番近くて頼れるのが魔導師ギルドだったの。まさか、あんた達も集まってるとは思ってなかったけど」
リィナとミネルヴァから聞かされたのは、北の地で戦った事象による被害の状況と、それによる難民への救援をお願いしたくここまで飛んできたとのこと。
「なるほど、それなら魔導師ギルドの人間を派遣しよう。ラフィナ、今すぐ動ける者は」
「五分もあればリストアップできますよ」
「ならリオウ達はそっちを指示してもらって……その間に私達はカロフ達からどんな戦いだったか詳しく聞かせてもらうことにしよう」
こうしてリオウの指揮の下、何名かの魔導師が北へと向かい難民に関する不安は解消された。
それにしても旧時代の技術を受け継いできた隠れ里か……そんなものがまだ残っていたんだな。
それから再び私達は新たにカロフ達を乗せて魔導師ギルドを飛び立つ。
次はこのまま第五大陸……終極神の本体である事象へと急ぎ進んでいく。
「そうなると、カロフとアポロが戦った事象も黒い魔物の発生とは無関係だったみたいだな」
「おう、んでレオン坊達んとこも違ったとなりゃ」
「レイ君やセイヤさん達のところだったってことだね。無事だといいんだけど……」
残る英雄チームは今まさに騒動の真っただ中である第五大陸に向かった《クリムゾンクルセイダース》の面々だ。
黒い魔物の発生が収まったことから終極神の事象を打ち倒したのだろうが、どれほどの被害が出たのかは不安ではある。
わかっていたことではあるが終極神との戦いは今までよりも想像を絶する苦戦となったはず。これまで無敵のように思えたアポロでさえ致命傷になりかねない大怪我を負ったほどだ。
「ムゲンさん、そろそろ第五大陸上空に差し掛かります。このまま亀裂に向かいますか。それとも……」
「亀裂に向かおう」
あいつらが無事なら私達と同じようにあの亀裂を目指すはずだ。私は仲間を信じてこのまま進む。
「しかし、ここから見てもかなりの大きさだの」
「ええ、見ているだけで吸い込まれそうなほど深く、そして暗さを感じさせます」
「あの先は生も死も超越した終極神の支配する魂が廻る虚空の事象。よくないものを感じさせるのは当然といえば当然ですね」
サロマはダンタリオンの体現者としての力を通じて終極神の影響を受けたことがあり、クリファに至っては常にその存在を傍に感じながら今まで生きてきた。この二人にはあの先から感じられるものに覚えがあるんだろう。
「む、皆の者、何やら奥の方……亀裂の真下の辺りで何かが光ったぞ」
私達の中でも特に視力のいいアポロが亀裂の近くで何かを見つけたようだ。
「間違いなさそうです、先ほどモニターでもアポロさんの示した方向から高エネルギー反応を検知しましたから。あ! また反応が」
その報告を聞いて全員が先ほどアポロが示した方向に目を向けると、亀裂へ向かって一筋の光が下から伸び、その奥の虚空へと吸い込まれ消えていく。
(待てよ、あの光はもしかして……)
あの光線の感じはここ最近で見覚えがある。そう、ベルゼブルと戦っていた際に立ち寄った事象で……。
「あれはおそらく星夜だ。進路を光の発射地点に」
「星夜さんがもうあそこに……急ぎましょう!」
進路を定めるとセブンスホープの出力を最大にし、空を駆けていく。
そして光が発射された地点、亀裂のほぼ真下の位置にまでたどり着くと、私の予想通り星夜が上空に向かってその銃口で狙いを定めていた。
どうやら星夜も私の接近に気付いたようで、銃撃を止めこちらへと近づいてくる。
「レオンにディーオか、ここに来たということはお前達も戦いを終えてきたということか」
「私もいるぞ星夜。カロフとアポロ達とも一緒だ」
「ということは、オレ達も中へ合流した方がよさそうだな。ハッチを開けてくれ、みんなを連れてくる」
そう言うと星夜は一度地上に降りると、仲間を乗せてセブンスホープへと車体を格納していく。
そして私達のいるブリッジの扉が開くと。
「ヤッホー! みんな揃ってるねー!」
元気な第一声と共にフローラが飛び込んできた。それに続くように星夜、それに同じチームメンバーのレイとサティも入ってくる。
「どうやらみんな欠けることなく揃ってるみたいだね。安心したよ」
「それよりムゲン、どうして姉さんがここにいるんだ」
リアが乗船していることにいち早く気付いたレイは問い詰めるために私の下へと近づいてくるが。
「はいはいそうムゲン君に突っかからないの。私もみんなと一緒に戦いたいって思ったから乗せてもらったんだし」
「そう……なのか。ただ、あまり危険な真似はしないでほしい。姉さんに何かあったら、俺と同じくらい悲しむ男がいるんだからな」
「わかってる。私はこの船の人達と一緒に支援を中心に動くから。……それより、他のみんなはどうしたの?」
他のみんな、とはおそらく彼らと共に発った『紅聖騎団(クリムゾンレイダーズ)』の面々のことだろう。
確かにレイ達の後ろから続いて入ってくる気配もないが。
「あいつらなら被害の大きい街や村の支援のために魔導師ギルトの連中と協力して救難に当たっているよ」
「そうなんだ。みんなの方は無事?」
「それは……」
その質問にレイはどこか言いよどむ。サティも同様に浮かない顔をしており。
「大怪我をした奴もいつけど大体は無事だよ。だけど……何人かは街の奴らを守るために……」
「そっ……か。みんな、頑張ったんだね……」
その言葉だけでリアも彼らの身に何が起きたのか察したのだろう。背を向け、表情を見せずにそうつぶやく。
彼女にとっても“紅の盗賊団”時代から家族のように共に過ごしてきた仲間の死を受け入れるのはやはり辛いのだろう。
「星夜達も相当な激戦だったみたいだな……。そういえば、どうして亀裂に向かってレーザーを?」
「そのことか。オレ達は終極神の事象を倒した後、そこから抜け出た光があの亀裂の中に吸い込まれたのを確認してな。どうにか攻撃を仕掛けられないかと試していたんだが」
「どれだけやても……ダメした」
やはり星夜達のところも他の場所と同じように事象が終極神の下へと還っていったか。
となるとやはりベルゼブル以外の事象はすでに揃っている。このまま最後の事象が永遠に還らないことを終極神が察すれば……。
ゴゥン……
「おわっ!? な、なんだってんだ、急に激しい揺れが……」
「じ、地震かのっ!?」
「空を飛んでいるのに地震なわけないでしょう! 突然目の前の亀裂から高エネルギーが溢れ出て……とんでもない数値ですわ」
ついに始まったか。奴はもうこの事象内に自分が自由にできる事象力がないことに気づき、今あるものだけで顕現を開始したのだ。
「み、皆さん見てくださいまし! 亀裂から何か出てきますわよ!」
その言葉の通り亀裂の方を確認すると、その中から巨大な何かがゆっくりと降りてくるのが見える。
「むむ!? おいレオンよ、あの形……どこか見覚えがないかの」
「どこかもなにも、ついさっき僕達が倒した"双子"ですよ! でも、ちょっとさっきと形が違う」
脚のような四本の支柱の中心に巨大な体が取り付けられており、その背には一つの都市が丸ごと収められてるようにいくつもの建物が生えるようにひしめき合っている。
さらに全体が下降していき見えてきたのは、私達から見て正面側の支柱の中心、股のような部分になっている部分から伸びている胴体のような部分が現れ。
「おいセイヤ、あれはまさか……俺達が倒したはずの"先生"じゃないか」
「しかもあれは奴が死に物狂いになった際に見せた姿だ。下の脚のようなものと合体して少々形が変わっているようだが」
さらにはその背から巨大な翼が生え、異質なものへと変わっていく。
あの胴体も倒したはずの終極神の事象ということは、おそらく次に見えてくるものも……。
「出てきやがったぜ。あの肩と腕、間違いなく"鎧"のもんだ」
「あの時は核となる塊と無数の腕のみであったが、こうして銅と脚が揃うと……荘厳なものだな」
やはりあれは終極神がこの事象に産み落とした黙示録のカケラが一つになった形ということだ。
建造物のような四つ足に無数の動物を掛け合わせたような巨大な翼の生えた胴体、そして岩の鎧ような強靭な肩と腕。その全貌がついに亀裂の中から姿を表す。
だが、そこには当然あるであろうと思われた頭部が存在していなかった。
その代わりに……。
「ムゲン見て! 亀裂が……集まって」
これまで虚空を引き裂いていた巨大な亀裂がまるで頭部に吸い寄せられるかのように集まっていき、縮小していく。
それは次第に龍のような悪魔のような顔が出来上がっていき、さらにそこから体全体へと亀裂の模様が広がると……。
「『■■世界ヨ※※※■■我ガ事象ノ※※※果テノ中デ■■■■沈黙※※スルガイイ■■■■』」
先ほどまでバラバラの部品を無理やり合わせただけのようだった脚、銅、肩が統一された一つの存在に塗り固められていく。
「あれが……私達の倒すべき、最後の敵だ」
このアステリムを喰らうため、ついに世界を終わらせる存在たる終極神……その真の姿が降り立ったのだった。
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