316話 全身全霊神力全界!
ざっと見て……三十体ってとこか。さて、こいつらは先ほどのベルゼブルを倒した瞬間に突如現れたわけだが、果たしてこれで打ち止めか?
『どうです、ちょっとは驚いてくれましたか?』
「別に驚かないさ。私の事象力がどの程度にせよ、お前が私に倒さる可能性を終極神が想定しないわけないだろうからな」
『なるほど残念です。あなたはサプライズがお好きだと伺っていたのでとっておきをご用意したというのに』
まぁ流石の私もその対抗策がこんな大量のベルゼブルの群れだとは思わなかったが。ま、とにかくこいつには弱みを見せたくないので何もかもお見通しってことにしとくけどな。
とりあえず……。
『それでは早速』
『始めさせていただきます』
「お前達の強さは、さっき倒した奴と同じと考えてよさそうだな!」
目の前の上空から二人、その姿が消えたと同時に私の両脇を挟むように現れる。
その背後にはすでに無数の亀裂がこちらを狙い広がっており……。
「術式展開、『重力負荷(グラビトン)』! 加えて、神域展開! 『
『おや……』
『重……』
瞬間、二人のベルゼブルは考える暇もなく地面に叩きつけられる。それに追従していた亀裂も同様に急降下していくが、重力の影響を受けない亀裂はなおも私めがけて空間を引き裂き迫りくる。
だがこの程度なら事象力を込めた攻撃で消滅させるだけでいい。問題なのは……。
『落とされるのなら真上から攻撃すればいいのですね』
対処したと思ったらすぐに攻撃を仕掛けてくる"次"のベルゼブルへの対応だ。
「そんな簡単に対処されるかってんだ! お前は"上に落ち"とけ!」
『あらら、やっぱりダメでし……』
反転した重力に真上から仕掛けてきたベルゼブルは雲の上の遥か彼方へと一瞬にして飛んでいく。おそらく大気圏あたりで消滅したと思うが、もうそいつのことを考えている余裕はない。
『なら』
『こういうのはいかかでしょうか』
少し離れた位置から私を取り囲むように二十人ほどのベルゼブルがその事象力を放出すると、一瞬で私の視界全域を塞ぐ量の亀裂がドーム状に広がり逃げ道を塞いでくる。
ただ囲まれたといっても、それがベルゼブルの事象力である以上こちらの攻撃で切り裂いて突破することは簡単だ。
そのための一点突破を……と、考えていたんだが。
「そういうわけにも……いかないみたいだな」
私が脱出しようとした矢先、ドームの内側にはその全域を埋め尽くすように小さな亀裂がびっしりと敷き詰められてた。そしてその先端はすべて……私に向けられている。
『さて、絶え間なく襲い来る攻撃から逃れられますか』
それを合図にドーム内の亀裂が一斉に放たれ、私に襲い来る。しかも一度発射されると、亀裂が飛び出した場所からさらに次の亀裂が補充され終わりがない。
「ッ! なめんな、神域展開『
私は新たに神器の力を呼び出し、全方位を守るように球状のエネルギーを展開することで襲い来る亀裂の嵐を防ぎきる。
だがこれでは根本の解決にはならない。いくら攻撃を防ごうがこの亀裂の猛攻には終わりがないため無駄に時間を消費するだけとなってしまう。
そして、ベルゼブルに時間を与えるということはそれだけ奴に私を消すための算段を増やすことに繋がる。この戦いにおいて一番危険なのが停滞だ。
「なので、とっとと対処させてもらうぞ。神域展開、『
猛攻を防ぐ中、私は神槍で空を切り裂く。すると切り裂かれた空間は綺麗に切り取られたようにぽっかりと裂け目が現れる。
これはベルゼブルの亀裂のように無理やり世界の事象を引き裂いたわけではなく、私が管理者として作り出しだ空間の裂け目。これをくぐれば事象の外側を通じてあっという間に……。
「お前らを一掃できるってわけだ!」
私はドームの外へと脱出しベルゼブル達の頭上へ登場! 同時に展開していたムルムスルングのエネルギーを神槍に充填し、その力を一筋の光へと変えて……撃ちだす!
『おやお……』
『マズいですねこ……』
放たれた光はベルゼブルに考える暇も与えずその肉体を消滅させていく。
さて、今の一撃で大分数を削ったと思うが……。
『近距離だけでなく遠距離攻撃も充実してるようですね』
『安直な拘束は意味がありませんね。しかし近づくことも難しい』
『ですが彼の手も少しずつ明かされてきてます。私達の犠牲も無駄ではありませんよ』
上空でまだまだ何人もの会話する声が聞こえてきやがるぜ。見上げればそこには先ほど消滅したのと同じ顔が無数に浮かんでいる。
いや、よく見ればその数は明らかに消滅させる前よりも大幅にその数を増やしていた。
(なるほど、おそらくこいつらは……)
『では今度は数を増やして接近戦を試してみましょうか』
『こちらもスピードを上げていきますよ』
こちらの考えもまとまらぬうちに二人のベルゼブルがこちらに近づきその手を伸ばしていくる。
その手には亀裂を纏わせ、まるで鋭い切っ先のように私の命を刈り取ろうと迫りくるが。
「この程度ならリ・ヴァルクで余裕で凌げるが……」
神槍に再び雷の刃を纏わせ、その亀裂が届く前にベルゼブル達の体を切り伏せていく。
だが、ベルゼブルの猛攻はそれだけでは終わらない。
『まだまだ』
『おかわりはたくさんありますよ』
「遠慮させてもらうっての!」
消滅したそばから間髪入れずに次のベルゼブルが私の命を狙いその腕を振り下ろしてくる。
一人切り裂いては次の攻撃を見極め、また次のに迫る影を切り裂いていくが……まったく終わりが見えてこない。
いや、きっとこのままではこの猛攻は終わることはないだろう。おそらくこのベルゼブルの増殖には限界がないとみていい。
「もうちょっとじっくり観察するために距離を取りたいところだが……」
『今度はそう易々と逃がしませんよ』
飛んで逃げようとしてもすぐに追いつかれ、アーリュスワイズで空間を跳躍させてくれる隙も与えてくれない。
「だったら……こうすればいい! リ・ヴァルク+ステュルヴァノフ! 『雷皇殲滅閃(ヴァルノ・ストライフ)』!」
一人ずつ倒してたんじゃキリがないのなら、一撃で見える敵すべてを薙ぎ払えばいい。二つの力を一つに合わせれば今までとは違う新たな可能性を生み出すことができる。
だがこのベルゼブル達は事象力の影響か魔力を感じさせないため、目に見えるだけしか攻撃することはできない。それでも眼前の敵はすべて消え去ったように見えるが。
「こういう時、お前は背後からくる!」
『おっと、バレてしまいましたか』
振り向けばこれまた百人以上はいるであろうベルゼブルが私に向かって攻撃を仕掛けてきている。
だったら今度は、私の認知外をも巻き込むように攻撃すればいい。
「すべてを吸い込み撃ち滅ぼせ! テルスマグニア+ムルムスルング! 『重身滅却砲(ムルファテオニス)』!」
先ほどと同じように神槍から事象力を込めたエネルギー砲が一直線にベルゼブル達を消滅させていく。だが今回はこれで終わりではない。
『体が……光線の中へ引き寄せられて』
『それに粉のようなものまでまとわりついてまったく身動きが取れませんよ』
この放たれたエネルギーには消滅の力だけでなくある術式が刻まれている。それは、特定の事象を持つ存在を引き寄せるというものだ。加えて同じ条件で散布される粒子もその体にまとわりつき重力エネルギーを発してその動きを抑える役割を担わせた。
この二つの特性が、ベルゼブル無限増殖の謎を解く鍵にもなる。
「さぁ! 全員ここに吸い込まれろ!」
私は神槍の銃口を頭上へ向けると、放たれるエネルギーは天へと向かって伸びていく。
それに釣られるように無数のベルゼブルも身動きのできない状態のまま次々と光の中へ飲み込まれ消滅していくが……。
「ワウ!(すげぇっす! ものすごい勢いでベルゼブルが吸い込まれていくっすよ!)」
「どんだけ増えても全部吸い込んじゃえば流石に復活できないわよね!」
もはや何もできずに吸い込まれていくだけのベルゼブルを目の当たりにして犬やセフィラも私の勝利を確信しているようだ。
もちろん、私としてもこれで終わってくれればそれに越したことはない。
「本当に、これで終わるのでしょうか」
「ちょ、ちょっと、あんまりよくないフラグ立てないでよ。それともあんたにはなんかわかるの?」
「いえ、そういうわけでないけれど……。でも一つだけわかることだけを言えば、あれらはすべて
やはり、クリファだけは感じ始めていたか、これまで現れていたベルゼブルの共通点に。
「でもそれって当然なんじゃないの? 一人がおんなじ自分を何人もコピーしてたってだけで」
「そう、数を増やしただけ。でもそれはどこから生まれてきたの?」
そうだ、私も最初ははじめに現れたベルゼブルが自身の事象をコピーし、無数に増えているものだとばかり考えていた。
だがそれは違った、事象の内側にある事象体が自分と同じ事象を作り出そうとすれば、それ相応の事象力を消費しなければならないはずだ。事象力の消費を極端に避ける終極神がそんな荒技を許すハズがない。
これまで現れていたベルゼブルはあまりにも私達の知るベルゼブルそのものだった。
つまりあれらすべてのベルゼブルがここに現れた瞬間は終極神に体を明け渡す直前の体と記憶であるということだ。
(ということは答えはおのずと見えてくる。あの時のベルゼブルの事象をバックアップし、今この場にコピーと循環を繰り返し続けている存在がどこかにある)
そしてそれを探るチャンスは今しかない。今この場でベルゼブルを一気に消滅させたとしてもその存在がある限りまた0からベルゼブルが次々と生み出されてしまう。
今この一瞬、この瞬間だけ意識を事象の内側から外側へ。この場所に繋がる"異物"の存在を見つけ出し……。
「見えた! 切り開く! アーリュスワイズ+エンパイア! 『龍爪空断(アストライズリンガイア)』!」
神槍で空間……いや事象の壁を切り裂き、本来なら重なることのない事象の内側と外側を境界を繋げ、始祖たる龍の力でその存在をこちら側へと引きずり出す!
「おおおおおおらぁ!」
ズズズ……
開かれた事象の裂け目の先、龍のエネルギーがその奥へ奥へと突き進み、ついにはそれを掴むことに成功した。
それは黒く不定形な不気味な存在。少しずつそれがこちら側へと引きずられてくるが……。
「な、なにあれ……気持ち悪い」
それから溢れ出た液体と物質の中間のような"もの"はドロドロと裂け目から流れ出て地面へとボタボタ溜まっていく。
黒い液体はまるで生きているかのようにグニグニと蠢き、やがて一つの姿を形作る。
その形こそが……。
「あれは……ベルゼブルでしょうか……」
全身真っ黒なので詳細はわからないが、その輪郭を見ればわかる者にはあれがベルゼブルだということが理解できるだろう。
しかも同じものが次々とドロドロの中から生まれてくる。これが意味する答えは一つしかない。
「この真っ黒い事象の塊がお前の本体だ……ベルゼブル」
永遠に循環する事象力を用いて無尽蔵に"自分"を生み出す装置。アステリムのルールを無視した販促技の大本ってことだ。
つまり、こいつさえ壊せば……!
「切り裂けリ・ヴァルク!」
その事象力を完全に断つために、私は今まで無数のベルゼブルを切り刻んできた一撃を塊へと振り下ろす。
が……。
「……!?」
その一撃は塊に届くことはなかった。塊の中から伸びてきた一本の腕が、その切っ先を掴んで止めたのだ。
私の最大の事象力を込めたリ・ヴァルクの一撃を……いともたやすく。
「まったく、私がこちらに出てくる予定はなかったのですが……。ここまでされてしまっては顔を出さないわけにもいかないでしょう」
声の質感が変わった。いや、今まで聞いていた声もベルゼブルのものには違いないが、あれはすべて事象の外側から内側の体を通じて発されていたものに過ぎない。
それが今は……目の前の存在からハッキリと聞こえてくる。
「私としても……このような変わり果てた姿を見せる気はなかったんですがねぇ!」
黒い塊から産まれた、人とはかけ離れた姿の怪物と化した……ベルゼブルから。
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