312話 重魔の英雄と皇の英雄
地上まで突き抜けた衝撃が道を開き、脱出への最短ルートが精製される。
レオンはそのまま少年を抱えながら自分達に重力エネルギーを付与し、地上へと飛び上がっていく。
「まず地上に出て、魔導戦艦まで戻ります! この子の安全を確保してから、双子との戦いに望みましょう!」
「だが双子とどう戦うのだ! 姿を見つけてもまたすぐ消えられては何も出来ぬぞ!」
「大丈夫です、僕の考えでは双子の消える謎は解明できてます。っと……まずは、地上に飛び出しますよ!」
光をたどって空洞を通り抜けると、二人と少年は地上へと飛び出す……が、そこに待っていたのはとんでもない光景だった。
「なん……だ、これ……」
「ま、街中が仮面で覆いつくされておるのだ……」
それは、王都のどこを見ても仮面の姿しかない、恐ろしい絵面だった。もはや街の住人だけでなく外にいた仮面も集まってきており、王都内にはもはや足の踏み場もないという異常な状態。
そしてその誰もが、飛び出してきたレオン達に向かってその腕を伸ばしている。
「これでは地面に降りられぬ!」
「だ、大丈夫! 僕達が向かうのは空に留まってる魔導戦艦で……」
空中ならば地上にどれだけ仮面がいようと関係ない……と安心したのも束の間。安全だと思われた空中には、無数の仮面が宙を舞いレオン達へと迫ってきていた。
「空を飛べる魔導師がこんなに!? いや、それだけじゃないのか!?」
飛んでいるのは魔導師だけではなかった。どう見ても一般人にしか思えない風貌の仮面までも宙を舞い、武器を構えてこちらに向かってくる。
「うわっ! ぼ、僕達を中心に『球場隔離(ドーム)』展開!」
咄嗟に重力の壁を発生させ飛び込んでくる仮面を押し留めていく。
なるべく範囲を広くし少年に仮面の影響も受けさせないようにする必要もあり、行動が制限されてしまう。
「ぬおお!? 光のレーザーも降ってくるのだーっ!」
さらに魔導師達も重力に影響されない特殊な攻撃で攻めてくる。今はなんとかディーオのバリアで持ちこたえているが、上空からの攻めが激しすぎて進むことができない。
「このままじゃ魔導戦艦に近づけない!」
『……ディーオ様、レオン様、わたくしに一つ案がございます』
「なに!? 本当かサロマ!」
それはまさかのサロマからの提案だった。しかし魔導戦艦までの道はひしめく仮面に塞がれ、加えて互いに地上に降りることもできない現状でどんな手があるというのか。
「でもどの方向から行こうとしても飛んでくる仮面に阻まれてしまいます。それに強引に進もうとすれば大勢の人を傷つけてしまう……」
無理やりにでも進もうとすればできないこともないだろう。しかしそうなると、今よりさらに多くの仮面が襲い掛かってくることになり、下手をすれば大けがを負わせてしまう可能性が捨てきれない。
もはやこの都市内で合流することは不可能に近い。
『ですので、合流地点を変更いたしましょう。幸い仮面のほとんどがこの王都に集結しているため、外側に魔導戦艦が停泊できる場所がございます』
確かに都市の中で合流しようとすると仮面が飛んでくるため突破は難しいが、都市の外まで移動したセブンスホープに近づくとなれば仮面達の隙間を通り抜け抜け出すこともできなくはなさそうだ。
しかし、その方法には一つだけ問題がある……。
「だがそのためには魔導戦艦が移動する必要があるではないか! 動かすために必要な余らがこちらにいてはそもそも……が……」
無理な作戦……そうディーオが言葉を続けようとするが、目の前の光景を見た瞬間その口が止まってしまう。
なぜなら、ディーオが今語ったように自分達がいなければ動かないはずのセブンスホープがゆっくりと旋回をはじめ、都市の外に向かって動き始めていたのだから。
「ど、どうして!? 浮かせてるのは僕のテルスマグニアの力だとしても、移動のためには陛下の魔力が必要なはずなのに」
「お、おいサロマよ、どうなっておる!? なぜ魔導戦艦が動いておるのだ!?」
『大丈……夫……です。問題……ありません。わたくし達は……このまま都市の外へ向かいます』
「どうしたサロマ! なぜそんな苦しそうな声を……まさかお主!?」
セブンスホープはディーオの無尽蔵の魔力で飛空艇として動かしているが、そのままでも地上を動ける程度の動力は備わってはいる。
しかし今飛行しているのは持ち合わせの動力だけでは足りないはずだ。ならディーオの魔力の代用は……。
『わたくしが……この魔導戦艦を運びます!』
「無茶なのだ! それは余の魔力だからこそ飛空艇として機能できるのであって、お主ではたどり着く前に魔力が尽きてしまうぞ!」
『わたくしの……この体は……もともと魔導要塞を動かす核としての役割を持たされ作られました……。ディーオ様ほどではなくとも……この船を動かすことはできるはずです』
それは、もともと終極神の体現者である前皇帝ダンタリオンがサロマという人間に着けた忌まわしい力。
「だが……!」
『やらせてくださいディーオ様……。これまでお傍で見ていることしかできなかったわたくしができるのは……これくらいしかありません。わたくしのこの力は……きっとこのためにあったのです』
誰かを傷つけることしかできないと思えた力が己の主人を、仲間を助けることができる。
これこそが戦うことのできない自分が今ここにいる意味だと悟り、彼女は覚悟を決めたのだ。
このままセブンスホープとレオン達の二手に分かれて都市の外を目指せば、仮面の戦力が分散され合流することも可能だろう。
「わかった……サロマよ、お前にここまでの覚悟を見せられて余がそれに応えんわけにはいかぬ。だが、これだけは一つ約束……いや、命令だ! 絶対に、死んではならぬぞ!」
『はい、必ず生きて……またディーオ様のお傍に』
そうして少年を守りながら二人は方向転換して飛び立っていく。
ただ二手に分かれて都市の外に向かうといっても、サロマをメイン核としたセブンスホープに集中されてしまうとどこまで耐えられるかわからない。
「ほれほれこっちなのだ!」
ディーオがステュルヴァノフで宙に浮く仮面達を小突いて注意を惹き、そのまま入り組んだ建物の間を通りながら少しずつ引き離していく。
そして、その逃走の過程で見えてきたものもあった。
「もしかして……陛下、魔導師以外の仮面はおそらく自立して飛行してるのではなく、何かに吊るされるように宙に浮かばされてるんじゃないでしょうか」
「本当かレオンよ! だがその根拠はなんなのだ?」
「まず、僕達がこうして入り組んでる建物の隙間を移動してると、明らかに一般人の姿が少なくなって魔導師が増えてます。そしてもう一つ、先ほど僕達を攻撃してきた際、動きがとても直線的でした。もしかしたら、上から糸のようなもので吊るされてるのかもしれません」
「ふむ、糸……のう……」
空を見上げるがそこにはいつもと変わらない空模様が広がっているだけ。
だがそれでもレオンには確信に近い推察があるようで。
「陛下、もしかしたら僕達の本当の"敵"はそこにいるのかもしれません。あの"双子"が突然現れるのも、きっと同じ原理かと思われます」
「双子もか!?」
「ええ、双子が現れる時はいつも近くに仮面がいました。もし双子が仮面に通ってる糸を通じてそこから瞬時に出入りすることができたら……」
「いつの間に現れ、そして消えることも不思議ではないということか」
「それにあの"強い仮面"も同じです。双子がいない時だけあれが現れる。おそらく、双子が仮面の肉体に同化して力を増幅させていた。だからこそ、ステュルヴァノフで弾き出せたんです、僕から侵食する魔力を取り除いた時のように」
それは先ほど地下で行った"強い仮面"を含むすべての仮面をステュルヴァノフで攻撃するというレオンの作戦から判明した一つの事実。
双子は見えない時はどこかしらの仮面の中に隠れており、かつ単独で行動することはできない、ということだ。
「だがそれがわかったところでどうすればいいのだ! 結局のところ、余らはあの双子がただの仮面を強い仮面にせねば判別できぬではないか!」
「大丈夫です、そこは……魔導戦艦に合流できれば僕がなんとかします」
珍しく人心ありげなレオンだが、何か秘策でもあるのだろうか。その瞳には、迷いない決意が感じられるようだった。
「うむ、ならば……ここは余が引き受けるのだ!」
「陛下!?」
レオンの、エリーゼの、そしてサロマのそれぞれの覚悟を受け止め、ディーオも覚悟を決める。
背中と脚部のスラスターの出力を最大にし上空へと飛び上がると、仮面達の注目を一身に集め……。
「今こちらに意識を向けた魔力をすべて捉えた! そのお主らを……一気に縛ってくれようぞ!」
ディーオがステュルヴァノフを振るうと、それは一斉に仮面達を縛り上げていく。
「まだまだなのだぁ! お主らは……そこで大人しくしておれい!」
そこから巧みに鞭を操ると、縛っていた全員を王城の中へと放り込んでいく。
だがその程度で仮面達が止まることもなく、再び城外に飛び出してはディーオやレオンに向かってゆくが。
「させぬと言っておるだろうが! お主もお主もお主も! 全員ここで大人しくしておけい!」
飛び立つことを許さないディーオが再び捕らえては場内へ詰め込み直す。
しかも最初に放り込んだ一団だけでなく、新たにレオンを追おうとする仮面や自分に敵意を向けてきた仮面も続々と増えていく。
「陛下! そんな一人で無茶な!」
「いいからレオンは早くサロマ達の下へ急ぐのだ! 余のことは気にする出ない。余は何千何万という臣民の長たる皇帝なのだぞ、この程度の民衆を捌くことなどわけもないのだ!」
「……そうですね。流石、大帝国の稀代の皇帝陛下ですよ」
その理屈にはなんだか疑問の余地がありそうなものだが、それでもディーオならそんなトンデモ理屈でも納得させてくれると……そう感じさせてくれるからこそ信じられるのだ。
「その信頼に応えるためにも……キミ、今から全力で飛ぶからしっかり掴まってて」
「う、うん!」
少年をしっかりと抱え、レオンはテルスマグニアの出力のすべてを飛行に回すと、高速で都市を駆け抜けついに外壁を飛び越え……。
「見えた! 郊外の大きなスペース! そして……」
レオンがその場所にたどり着いたのと同時に自分とは別方向から姿を現した大きな影、魔導戦艦セブンスホープが魔導師に追われながらも同じ場所を目指し飛び込んでくる。
「リーゼ! シリカちゃん! こっちは魔導戦艦を確認したよ!」
『こっちもレオンの姿を確認しましたわ! でも……!』
『もうサロマさんが限界です! ギリギリまで魔導エンジンの出力を最大にしてなんとか不時着します!』
よく見れば飛行もどこか不安定で、度重なる攻撃を受けたせいか多少の破損が見受けられる。
いくら頑丈な魔導戦艦といえど、魔術の直撃を受け続ければ耐えられない。
(だけど追手の仮面の数はそう多くない。きっと陛下が抑えtくれてるからだ)
ディーオはレオンに向かう仮面だけでなくセブンスホープにまとわりついていた仮面をも引きはがし押さえつけていたらしい。
『ディーオ様にいただいたこの好機……絶対に無駄にするわけにはいたしません!』
『サロマさん!? ダメです! それ以上出力を上げたら!』
『あなたの体が持ちませんわ!』
自分の限界は理解している。だがそれでも、愛すべき主君を想う気持ちが彼女を突き動かし、最後の力をふり絞ってセブンスホープの軌道を修正していく。
「サロマさん……わかりました! そのまま全速力で……僕の方へ突っ込んでください!」
『レオン!? あなた何を言ってますの!?』
「着陸の瞬間に僕の持ってるテルスマグニアと船内に残ってるテルスマグニアの重力をぶつけあって一瞬だけ魔導戦艦を重力0の状態にする!」
それはレオンにとっても危険な賭けだった。一歩間違えれば自分もセブンスホープもただでは済まない最悪な状況になりかねない。
だがそれでもレオンは決意した。この戦いに己のすべてを賭けるみんなの覚悟が自分に勇気を与えてくれている。
だから、成し遂げられると信じている。
「重力領域(グラビティ)『無重力(ゼロポイント)』! 止まれえええええええ!!」
魔導戦艦の質量が勢いそのままで地面に飛び込んでくる。船内のテルスマグニアのエネルギーが全体に伝わっていき、レオンが外側から膨大な慣性力を奪っていく。
だがセブンスホープの勢いは完全には収まらない。少しずつゆっくりになってはいるものの確実にレオンを押しつぶそうと迫っている。
「う……ぐ……ああああああああ!」
「レオン!」
「レオンさん!」
力尽きかけていたレオンに通信機からではないその声が耳に届く。目を見開くと、そこにはセブンスホープのブリッジから見える二人の姿があった。
心から自分の身を案じ、そして信じているその瞳に映るのは、紛れもない自分の姿。
「僕は……諦めない!!」
レオンの強い思いにこたえるかのようにテルスマグニアの力がさらに出力を増していく。
そしてセブンスホープはレオンを押しつぶそうかというまさに寸前で……その動きを止めるのだった。
さらにそのままゆっくりと地面に下ろし、船内の面々も各々安堵の表情を浮かべていくが。
「皆さん、まだ油断しないでください! 早くこの子を船内へ! その後魔導戦艦のあらゆる機能を使って防御に専念しててください! 僕はテルスマグニアをすべて持って陛下の下へ向かいます!」
その言葉を聞いて船員達もハッと思い出したように不安げな表情へ変わっていく。
そうだ、あの都市の中では今もまだ命がけで逃がしてくれた自分達の主君が残っているのだ。
「レオン……様。あのお方を……ディーオ様を……どうか、お願い……いたします」
「任せてください。必ず陛下と一緒にここへ戻ってきます」
館長席から離れぐったりとしているサロマにそう告げると、船内のテルスマグニアのすべてを魔導アームの内に仕舞い込みレオンは再び戦場へと足を進めていく。
「レオン、あなたの強さ……見せつけておやりなさい」
「私も信じてます。レオンさんは絶対に私達のところへ戻ってきてくれるって」
「うん、約束するよ。今度こそ、誰も悲しませないで戦いを終わらせるって」
こうしてレオンは二人に見送られながらセブンスホープを飛び出し、再度都市の中を目指していく。
だが、今回はただ目指しているだけではない。
レオンは未だにセブンスホープへの攻撃を止めない仮面達のを見て、その左腕を翳すと……。
「悪いけど、キミ達もこっちに来てもらうよ。重力領域(グラビティ)『捕縛(キャプチャー)』」
一人、また一人とレオンに引っ張られるかのように引きはがされていく仮面達。そのまま共に都市の中へと引き込まれていく。
いや、それだけではない。レオンが仮面の近くを通過するごとにその者達も引き寄せられるように体の自由を奪われる。
そしてそれと関係しているのか、レオンはすぐにはディーオの下へは向かわず、高速で王都の外周を回っていた。
「これで……一周! よし、準備は整った!」
外周を回り終えると、レオンはそのまま中へと飛び込み一直線にディーオが今も粘っているであろう王城の近くへと進んでいく。
すると、そこに見えたのは……。
「陛下! ご無事ですか!」
「ぬっ! レオン待つのだ! 迂闊に近づいてはならぬ!」
ようやくディーオの下へとたどり着くレオンだったが、何かを警戒しているのか大声で静止させられてしまう。
そこへ気を見計らったように四方八方から仮面が飛び込んできて……。
「ッ! でもこれなら『反発(リベル)』で……」
『ばぁ!』
『そんなんじゃ止まらないよー!』
「なっ!?」
飛んできた仮面達が重力の壁に押し返される中、どこからか飛び出してきた双子が重力をものともせずにレオンの命を奪おうとその腕を伸ばしてくる。
「させぬっ! のだ!」
『うわぁ』
『あれ~』
だがその手が届く前にディーオのステュルヴァノフが双子の体を縛り上げ、そのまま建物の壁に叩きつけるように振り回すが。
「ぐぬぬ……またどこかの仮面の中に隠れおったな!」
「陛下、今のは……」
「見ての通りなのだ。あ奴ら仮面に頼るだけではなく自ら飛び出して攻撃してくるようになったのだ」
からくりがばれた今、もはや隠れているだけなのは無意味と判断したのか、双子自身が直接攻撃してきたようだ。
「そのせいで余の武装も大分破損してしまった。見かけによらず相当な力を持ち合わせておるぞ」
よく見ればディーオの武装もボロボロだ。両腕のシールドはもう使い物にならず、足のスラスターも片方は煙を吹いている。
先ほど重力の壁を難なく通り抜けてきたことから見てもそのパワーの強さが理解できる。しかもこちらから攻撃しようとしても先ほどのように即座に誰かの仮面の中に隠れダメージを与えることも難しい。
「ステュルヴァノフで隠れた双子を叩き出すことはできなかったんですか?」
「試してはみたのだがの。ど奴に隠れたかわからぬのだ。片っ端から叩いてみても当たらぬしのう」
『もっともっと叩いていんだよ~』
『叩きすぎて殺しちゃっていいんだよ~』
「ぐぬぬ、おちょくりおって!」
流石にステュルヴァノフの出力は抑えているので叩かれた仮面が傷つくことはないが、このままではただただこちらの気力が削られていくばかりだ。
「だったら……全員叩けばいいんですよ、陛下」
「なるほ……っていやいや無理なのだ! 今この王都にどれだけの仮面が集まってると思っておるのだ! こちらに向けられた魔力などは鮮明に捉えられるが、無作為に動き回る仮面すべての魔力を捉えるのは厳しいのだ!」
いくらディーオが修行によって優れた魔力感知を有していても、動き回る仮面全員を一気に捉えるのはほぼ不可能だ。
「ええ、ですから……この王都の人達には、全員動きを止めてもらいます! 重力領域(グラビティ)『重心収束領域(アトラクターフィールド)』!!」
「ぬおっ!? こ、これは……!」
『うわぁ~』
『なにこれ~?』
レオンがテルスマグニアの力を開放した瞬間、王都の外壁から囲むようにエネルギーが放出され、都市全体を包み込んでいく。
そしてそのエネルギーは徐々に仮面一人ひとりにまで影響を与え始め……。
「仮面が全員……浮いていくのだ」
しかも地上にいた仮面だけでなく建物や地価の中にいた仮面達も引きずり出されるように外へ飛び出し空へと浮かび上がっていく。
「これで、仮面全員が僕達の前に出てきたうえに動きを封じました」
これが100%のテルスマグニアの本当の力。制限から解放されたレオンは今こそその力をフルに扱うことができるのだ。
これこそがレオンが双子を倒すための秘策だった。
「さぁ陛下! 今がチャンスです! この仮面を全員ありったけ叩いて……奴らの逃げ場をなくしてやりましょう!」
「まったく無茶を言ってくれるが……求められたら応えてやるのが"皇"の器というものよ! ぬおおおおおおりゃあああああなのだ!」
ステュルヴァノフがその力を最大限に発揮し、浮かび上がるすべての仮面に打撃を与えていく。
その打撃は無自覚に、だが正確にその体の中に潜む事象力……"双子"を打ち抜き。
『ぎゃ!』
『ぐえっ!』
「出てきた! でも……」
その衝撃に耐えられず出てきた双子だが、再び誰かの仮面の中に隠れてしまう。
だがそのたびに次の打撃がすべての仮面に当てられ。
『痛い!?』
『またー!?』
絶対に双子を逃がすまいというその意思によって段々と追い詰めていく。
そしてついに……。
『もうヤダー!』
『あいつ殺しちゃおうよ!』
仮面に潜むことをやめ、ディーオを殺す方向へ変更したようだが……それこそがレオンの待っていた最後のチャンスだった。
「今だ……これで、潰れろ! テルスマグニア100%解放! 『重力千倍(メガグラビオン)』!!」
『がっ!?』
『痛い痛い痛いよぉ!?』
双子の身に降りかかる重力に体が引き裂かれそうなほどの痛みが降りかかっていく。
いかに双子が終極神に作られた事象力だとしても、その力の大半を仮面による侵食に回しているため力はそこまで強くはないのだろう。
『つまんないつまんないつまんないよー!』
『死んでよ! 殺させてよ! みんな消えちゃってよー!』
その姿はもはや癇癪を起したただの子供のようだ。
神器によって濃く練り上げられた重力からはもはや事象力を使って仮面の中に逃げることも許されない。
このまま潰し続ければ完全にその体を消滅させられそうだが……。
「子供の遊びはもう終わりだ!」
『ヤダ ヤダ ヤダ ヤダ もっと 遊ぶ !』
『 ヤダ ヤダ ヤダ ヤダ もっと のー 』
「づぁっ!? な、なんなのだ! こ奴らの声が嫌に体の中に響いてくるぞ!」
どうも双子の様子がおかしい。声だけではない、その体はドロドロに溶け始め、半々の仮面にも亀裂が走り壊れ始めている。
いや、双子の仮面だけではない、浮かび上がった人々の仮面にもヒビが入り……そしてついに……。
バリン!
『『アアアアアああああああああaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAA!!』』
「ッ……!?」
「ぐおおっ! 耳が壊れそうだ!」
それは突如空に現れた奇妙な時空の歪み。透明な何かがそこにいることだけはわかるが、それが何かはわからない。
しかし双子の体が溶けるのと同時に
「な、なんなのだあれは!?」
「まさか……あれが"双子"の本当の姿!?」
その指の先からは数えきれないほどの糸のような束が垂れており、その先に壊れた仮面が繋がっている。
あれこそが、今まで人々を苦しませ続けた"双子"の本体だった。
「レオン!」
「はい!」
それが双子の正体だと気づくと二人の行動は早かった。
レオンは仮面から解放された人々を地面に下ろすとその力のすべてを双子の本体に向け、都市の外へと押し出していく。
ディーオは再び人々へと伸びていく糸の先端のすべてをステュルヴァノフではじき返す。
そうして飛び出した先は王都の外、セブンスホープの目と鼻の先の場所。
『レオン! この状況はどういうことですの!』
「リーゼ! 説明してる時間はないんだ! 早く
状況はわからないが、レオンの焦りようからやらなければならないことを理解したのか、船員達と共に準備を始めていく。
そして、今も戦い続けているレオンとディーオは……。
「陛下! 僕達でなんとしてもこいつの動きを止めないと!」
「だ、だがこ奴、どんどん体が大きくなっておるぞ!?」
双子の体は空中にいた時とはすでに異なりその体積をブクブクと膨らませていた。四本の腕は脚のように地面を踏みしめ、獣のように動かしはじめている。
『『aaaaaaaaaaaarrrrrruuuuuuuuuubbbbbbiiiiiiiiiigggggaaaaaaa!!』』
おそらく仮面に使っていたすべての力が集まったのがこの結果なのだろう。先ほどの双子とは似ても似つかない、唯一共通点があるとすればピエロ……というかサーカス団を想像させるカラーリングと装飾だけだが、それでも畏怖を感じさせる化け物であることには変わりない。
「テルスマグニア……僕に力を貸してくれ。この世界を……皆を守り抜く力を!」
ボコボコと、テルスマグニアからいくつもの重力球が連なり繋がっていく。その一つひとつに……レオンだけではない、誰かの魂の力も乗せるように流れていき……。
限界以上の力を今……引き出していく!
「テルスマグニア限界突破! すべてを押し潰す力を今ここに! 『重力万倍(ギガグラビオン)』!!!」
それはただの重さではない。世界の平和を、親愛なる者のへの想いの強さが重く、なによりも重くのしかかっている。
『『!#$&%”’!?!””&%!?&&&?!?!?!&%””!%$?&?!!?』』
それを受けて双子はもがき苦しむ。バキバキと体が崩壊する音が聞こえながらもまだまだ止まる様子はない。
そこへ飛び込んでくる一つの陰。その手に携えたステュルヴァノフを大きく振りかぶり……。
「もう子供の駄々こねの時間は終わりなのだ! 余のすべてをこの一撃に込める! くらえい余の最・大・奥・義! 『
ディーオの大量の魔力を吸い上げたステュルヴァノフは超巨大化され、そのまま仮面の脳天へと振り下ろされる!
『『ギギギギギギギギャアアアアアアアアアアががががががガオオオオオオオオオオン!!??』』
強力な一撃を受けついにその場に沈む巨大な"双子"。だがそれでももがき続け暴れ回っている。
この戦いを終わらせるには……さらに強力な一撃が必要だ。
『レオンさん! こっちの準備、整いました!』
『あとはあなた達が揃えばいつでも発射できますわよ!』
そして、その準備も完了した。
それはセブンスホープに備え付けられた最後の"秘密兵器"。左右のブリッジの中央から伸びる一丁の砲門。
「よし! いきましょう陛下!」
「うむ! 最速で魔導戦艦まで戻……おおう!?」
レオンの重力でディーオを引っ張りながら二人は船内へと戻っていく。
そこで待っていたのは自分達を信じて待っててくれた、仲間達の信頼の眼差し。
「さぁ、終わらせますよ、ディーオ陛下! テルスマグニア、セット!」
「まだ頭がフラフラするが……そんなことで止まる余ではない! ゆくぞレオン! ステュルヴァノフ、セット!」
二つの神器が定位置にセットされ、ディーオの魔力と共にその砲身へとエネルギーが伝わってく。
それは神器二つのエネルギーを最大限に利用した最強最大の一撃!
「「全力全開! 『七英雄戦神砲(セブンスエターナルバースト)』!!!」」
『『モットアソビタカッタ…… ……タッカタシロコトッモ』』
事象力のエネルギーがぶつかり合い……消滅していく。
唯一残ったのは謎の光るエネルギー。しかしそれは誰も捉えることもできない内に空へと飛び去ってしまう。
だが戦いには勝利した。あとは……。
「なんとか……勝てた。みんな、ありがとう」
「それはこっちのセリフですわ。フィオやマレルさんを救っていただき……ありがとう、ですわ」
「王都の皆さんの様子も気になりますけど、今はもう少し勝利の余韻に浸りましょう」
珍しいエリーゼの素直なお礼。気になる人々の安否など、まだまだやらなければならないことがいっぱいだ。
それに……。
「おかえりなさいませ、ディーオ様。ご無事で……なによりです」
「馬鹿者、今回ばかりは余の方がお主の何倍も心配したのだ。だが、よくぞ……我が命を守ってくれた」
今はまだ、ここまで戦い抜いた仲間と、愛し合う者達の無事を祝う時間を噛みしめよう。
この先に待つのはきっと、彼らが立ち向かうべき最後の戦いなのだから。
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