307話 妖魔の英雄と機甲の英雄


 星夜が解放したコズミッククリエイサーのもう一つの姿。それはこれまでの機動力が重視された縦長のフォルムとは打って変わってパワードスーツのようにその体に身に纏われていた。

 目に写る"敵"をすべて殲滅するために開発されたその力の名は……。


「コズミックデストロイヤー……これだけは使いたくなかったが、貴様を殺すためには使わざるをえない」


 これまでも星夜は戦いのために様々な武装を開発してきた。だが思えば、そのどれもが明確に相手の命を奪おうとするものではなかった。

 しかし、先ほどのブラスターの威力はそうではない。星夜によって初めてこの世界に生み出された……兵器だ。


『……先ほどのレーザーはよろしくありませんね。作品に任せるのは難しい……なら、自力で逃げてみましょうか』


 どうやら流石の先生もあのブラスターをまともに受けるのはマズいと判断したのか、己の翼で飛翔しこの場から逃げ出していく。

 その速さは高速で突撃してきた飛翔魔物にも劣らないスピードだ。


「逃がさん。ミーコ、フローラ、なるべく迅速にその母娘を安全なところへ送り、お前達も避難していろ。サティ、あの母娘以外にこの区画にはもう誰も残っていないんだな」


「あ、ああ、リーブが言った通りなら」


「ならいい、オレは今すぐ……奴を追う」


 そう言うと星夜は背中の翼のように変形したスラスターを起動させ、先生の後を追うように飛び立っていく。


「なんなんだい、ありゃ。ただの魔導機じゃないってのはわかるけどさ」


「あれはね、星夜のたどり着いた……ムルムスルングを一番効率よく兵器として扱う方法……なんだって」


「強すぎ……一緒いられな……です」


 全身に纏うその形状からミーコが同乗できないのは理解できるが、どうやらフローラも一緒にはいられないらしい。

 曰く、通常モードの時は星夜の魔力が魔導機からエンジンへと伝わるという方式で送られていたため途中にフローラが挟まる余地があったのだが、あの状態になると星夜自身から直接エンジンとの魔力循環が発生するため介入の余地がまるでないということだ。


「ただね、その分エネルギーが早く多く伝わるから強くなるよ。でも……そう、ミーコちゃんの言う通り、強すぎるの」


「強すぎ……って言われてもピンとこないね。いったいどれだけのモンが……」


ゴォオオオオオン……


 突如、遠くで爆音が鳴り響く。それと同時に立ち昇るいくつもの光とこの場所まで伝わる振動が、彼女達に何が起きているかを理解させるのだった。


「はじまったみたい。ねぇサティちゃん、二人を安全なところへ連れてくのを手伝って。もうここも危ないから」


「わかった。本当はアタシもリーブの仇を自分で討ちたいけど……下手したら巻き添え食っちまいそうだからね」


 残念だがサティがここにいても先生との戦いにおいては力不足ということだろう。それならば、あの母娘を守ることに注力したほうがいい……それこそリーブのためにも。


「神器のエネルギーを最大限に使ったあれの攻撃は余波だけでも周囲への被害が凄いの。もし一緒に戦えるとしたら……」


「同じように神器を持つ俺だけ……ということだな」


「レイ、大丈夫かい」


 先生の反撃で予想外のダメージを受けたレイだが、致命傷には至らず自身の回復魔術でなんとか持ち直したようだ。


「仲間である俺達にもあんなものを隠していたことは少々許せないが、勝ちの目は見えた。早く追いつき、今度こそ奴にとどめを刺す」


「うう、ごめんね。でも……」


「誤らなくてもいい。あんなもの……本当はこの世に存在しない方がいいことぐらい俺にもわかる。だからこそ、そのためにこの戦いを終わらせるんだからな」


 そう言うとレイは背を向け、アーリュスワイズを広げるとその魔力を己の体と同調させていき……。


「アーリュスワイズ、術式解放……『魔神武装(ベルフェゴル・トレース)』」


 異空間の中に閉じ込められていた闇属性の魔力がすべて解放され、それらはアーリュスワイズと共にレイの体へ鎧のように包み込んでいく。

 その姿はまるで……。


「あ……」


「サティ、見ててくれ。俺を……俺達を」


 いつか見た、父の背中と重なって見えた。


「ああ……行ってきな!」


 その言葉を受け取って満足そうな笑みを浮かべると、もう一人の英雄も戦場へと飛び立つのだった。




 その戦いは、大小さまざまな建物が立ち並ぶ住宅街で繰り広げられていた。

 逃げる先生とそれを追う星夜、機動力が落ちたとはいえやはりスピードは星夜の方が上であり、このままいけば追いつけそうだが。


『そう簡単には近づかせませんよ』

シュン……シュン……


 先生がチラリと星夜の様子を伺うと同時にその手のひらから何かが飛び出していく。

 それらは次第に大きく形を成していき、見たことのある姿へと変化していた。


「ゴギャアアアアアアアアアアア!」

「ゴブルゴオオオオオオオオオン!」


 都市へ向かう空中戦でも突撃してきたあの飛翔魔物だ。だが、操縦に専念していたあの時とは違い……。


「そいつらはもう見飽きた」

ガコンッ!


 星夜がまるで肘を標的を定めるように腕を上げると、上腕に装着されていたポッドから魔力によって精製されたミサイルが現れ。


「魔導ミサイル、照準固定……発射!」


「ゴギャ!?」

「ゴル……バアアアアアア!?」


 発射されたミサイルは正確に魔物を捉え、強烈な爆発で周囲の建物ごとすべてを塵と化していく。

 ……だが、飛翔魔物を退けたのもつかの間、星夜の下へ更なる攻撃が迫っていた。


シュルル……


「この……触手は」


 爆発の煙幕によって一時的に視界が遮られたところへ先生本体が操るいくつもの触手が襲い掛かる。

 四方八方から襲い来る軌道の読めない奇襲ではあるが……。


「全サテライト射出、3wayレーザー照射モードへ変更。マルチロック完了……撃て!」


 射出された八つのサテライトすべてから三方向にレーザーが照射され、まるで網に引っかかるように触手を捉えその肉を焼き切っていく。


『こちらも防がれましたか。ではお次は……っと』


「ブラスター出力50%……」


 先生が次の手を繰り出す前に星夜はすでにブラスターで狙いを定めていた。


『流石に回避しましょう』


「逃がすか!」


 狙われていることに気づいた先生は素早く上空へと旋回するとその真下、ちょうど都市との間をレーザーが通り抜けていく。

 一見外れたように見える星夜の攻撃だが……。


『カハッ……おや? これはいったい……』


 レーザーを避けたはずの先生が急に吐血する。それと同時にレーザーが直撃しなかったはずの都市の屋根や壁が崩壊していく。

 どうやらあのレーザーは直に触れずともその圧倒的なエネルギー派が周囲の物体にダメージを与えてしまうらしい。


『なるほど、面白い。ですがこれ以上は当たらないようにしなければいけませんね』


「やはり出力を抑えてはほとんどダメージはないか。ならやはり最大出力を直撃させるしか……」


 余波で内部にダメージを与えられはしたものの、ほとんど効果がない……というよりも、あの程度なら瞬時に回復してしまうようだ。

 だが、連結したブラスターで狙おうにもすでに先生は星夜の真上へと移動しており、何かを仕掛けてきていた。


「何かをばらまいているのか?」


 よく見ればそれらは先生が圧縮した無数の"作品"達であり、落下しながら徐々に膨らんでいき……。


「また自爆用の魔物か!」


 それらがプリズムの魔物だと気づくと星夜はブラスターの連結を解除し腕のミサイルと両肩付近にガトリング砲を設置し、自分の下へ着弾する前に次々と撃ち落としていく。


『そんなに必死になるのはいいですが、正面ばかりを気にしていては危ないですよ』


「ッ! 取りこぼした作品が下で形になってるのか……」


 流石に広範囲にばらまかれた作品すべてを撃ち落とすことはできず、地面に落ちたものは次々とその形を成していく。

 そして完成した作品達はそのまま星夜へと狙いを定めていた。骨で作られたような弓矢や、口から火球を吐き出そうとするもの、そのまま飛翔して突撃しようと様々な方法で攻撃を仕掛けてくる。


「サテライト、レーザー集中モード。魔導爆雷準備完了」


 対して星夜はサテライトを迎撃に向かわせ、さらには脚部パーツの一部が開くとそこから無数の爆雷がばらまかれ、広範囲の爆撃で街ごと魔物を殲滅していく。


 コズミックデストロイヤーの武装はブラスターを除いてもどれも強力無比なものばかりだ。もし街中に住民が残っていては使うことなど到底できるはずもない。

 だがこの殲滅力がなければ先生の猛撃に対抗することもできなかっただろう。

 だが……。


「ここまでやれば、奴の手札ももう……!?」


『ええ、ほとんど出し尽くさせていただきましたよ』


 すべての魔物を殲滅し、再び先生へと照準を向けようと振り返ると……すでに目の前にその姿が近づいていて。


「いつの間に……ッ!」


 その場から離脱しようとする星夜だったが、両腕を掴まれてしまい逃げ出すことを封じられてしまう。

 星夜のこのモードの欠点は小回りが利かなくなってしまうことにある。重火器による遠距離の殲滅力にすべてを振り切ってしまっているのだ。


『スマートなやり方ではありませんが、アナタだけは確実に始末しなければならないので』


 そう言うと先生の体がゴキゴキという不快な音と共に変形していく。腹から腰の部分が肥大化し、服が破けるとそこから鋭く不揃いな牙がズラリと並んだ大口が現れた。

 そして身動きの取れなくなった星夜を飲み込もうとするように迫っていき……。


ザンッ……!

『おや?』


 先生の攻撃が星夜に届くことはなかった。

 突如現れた黒い影が先生の胴体を、両腕を切り裂き通り過ぎていったのだ。

 その黒い影の正体はやはり……。


「どうしたセイヤ、お前らしくもない? もう少し冷静になったほうがいいぞ」


「ふっ、いつもの意趣返しのつもりか? だが助かった、感謝するぞレイ」


 漆黒の衣を身に纏い、戦地に駆け付けたもう一人の英雄であるレイの姿がそこにあった。


「……一人で突っ走ろうとするな、奴を生かしておけない気持ちは俺も同じだ。それに……俺達は、仲間だろう」


「……ああ、まったくもってその通りだ。オレ達二人で……奴を討つぞ」


 志を共にし、今度は二人で倒すべき"敵"に立ち向かう。

 そして、その敵である先生は今、未だに胴体と両腕を切断された状態で空中に浮いており……。


ズリュ……ズリュ……

パキパキパキ……


「どうやら、再生に加えてパワーアップも完了したようだな」


 断面から伸びる腕は先ほどよりも長く禍々しく、胴体は先ほどの大口に加えその腰の部分から下はまるで鎧のドレスとでも言うかのような形状のものが硬質な物質で構成されていく。

 そして仕上げのように再生された両手で顔を覆い、数秒後にその手を退けると……。


「なんだ? 鳥の仮面(マスク)……か?」


「まるでペストマスクだな。だというのに舞踏会にでもいくかのような煌びやかな装飾が施され……なんとも趣味の悪い造形だ」


 星夜の言うように先生の顔にはまるで仮面舞踏会にでも出席するかのような豪華な装飾が脚らえられながらも大きな嘴が備え付けられた悪趣味な仮面だった。


『大丈夫です、恐れることはありません。すべては等しくワタシの作品としてこの世で最上の名誉を得るのです。この世界が終わりを告げるその時までにすべての命が一つの芸術となれば何も怖いものなどないのですから。これは救いなのですよ。終焉が近づくに連れて作品が作品に喜びを感じ、その連鎖がやがてすべての幸福となる。ああ……なんと素晴らしい。ただ世界の終焉のために事象を破壊するのは簡単なことですが、その過程は自由であるべきでしょう。ならばこの世界中で誰もが幸せだと感じられる瞬間を共有することができれば……もはや世界が終わることになっても満足でしょう。なぜならこれ以上の幸福は存在しない。それ以上のものがないのですからいつ消えても公開など微塵もない、あるわけがない。ただ満腹のために貪ることも、快眠のために惰眠を行うことも、快楽のためにSEXに狂うことよりも何倍もの悦楽がワタシの作品にはあるのです! ただただいたずらに事象力を浪費するだけのゴミくずにワタシが意味を与えてやろうと言っているのですよ! 作られ壊されまた作って……最後にはすべてが消えることでワタシの作品は真に完成する! ……さぁ、皆さんもワタシ手で作品となり、共に素晴らしき終焉へ向かいましょう』


「「 断る!! 」」


 それが戦いの火蓋が切られた合図となった。

 荒げた拒絶の一言と同時にレイが飛び出し、星夜はその後ろからミサイルを撃ち出す。


ビュル……


 対して先生は腕や背中から無数の触手を伸ばし迎撃してくる。触手がミサイルに触れると本体へ届くことなくその場で爆発してしまう。

 しかしレイは迫る触手を切り落としながら本体へと突撃していく。


「この程度で……俺を止められると思うな!」


 アーリュスワイズによって圧縮された闇の魔力が刃のように吹き出しすべてを切り裂く。

 そのまま先生本体をも切り裂こうと手を伸ばすが……。


『スゥ―……《キィアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!》』


「ぐぅ……がっ!? なん……だ、この叫びは!」


 それは胴体の大口から発せられた強烈な咆哮だった。その振動はまるで雷のように近くの物質を崩壊させていく。

 レイもその衝撃を正面から受けてしまうが、アーリュスワイズを纏うその身が崩壊することはない。

 だが音による振動は別だ。内部に伝わる激痛がその動きを止め、明確な隙を晒してしまう。


「チッ……防御を……!」


 このまま無防備でいるのはマズいと判断し防御を固めると、そこへ向かって先生の腕が鞭のようにしなり、驚異的な勢いで叩きつけてくる。

 その衝撃により大きく後方に吹き飛ばされてしまう。しかも先生の攻撃はまだまだ続くようで。


『オロ……オロロロロロロロロロロロロロロロロ!!』


「ッ……今度はなんだ!?」


「あれに触れるのはマズそうだ、避けるぞ!」


 今度は大口から吐き出すように光るエネルギーをビームのように放ってくる。超極太のそれは街を溶かすように流れていき、驚異的な威力の痕をその場に残していく。

 しかもそれだけではなく、ビームが通った場所には空気が汚染されてるかのように変色している。おそらく、あれも吸えばただでは済まないだろう。


 近づけば強力な音の攻撃、遠ざかれば今のゲロビーム。さらには鞭のような腕と無数の触手で隙がない。


「レイ、生半可な攻撃ではすぐに再生される。お前の力で奴に隙を作れないか」


「ああ、悔しいが奴を仕留められるのはお前の全力の一撃だけのようだ。それに俺の『魔神武装(ベルフェゴル・トレース)』は長い時間続けられない。ここからは短期決戦だ、いいな」


「了解した。任務……開始だ!」


 今度は二人で先生に向かって突撃していく。決定打が星夜のブラスターだけとはいえ確実に当てる隙を作らなければならない。

 そのためには……。


「全砲門ロック解除。ターゲットロックオン……弾幕の雨に沈め『全弾一斉射撃(エクストリームフルバースト)』!」


 ミサイル、ガトリング、爆雷、サテライトなどなど、星夜のあらゆる武装から絶えることなく弾幕が先生へ向かって発射されていく。

 そんな弾幕の中をレイもためらわず進んでいく。たとえその身に弾幕を受けようとも構わずに。


「術式展開! 『不退の逆風アゲインストウィンド』!」


『……ふむ』


 さらにレイが先生を逃がさないために強い逆風でこの場に留めようとするが。


ボボボボボボボボッ……!


 硬質化した下半身からジェット噴射のようにエネルギーを噴出し風に逆らって飛んでいく。


「絶対に逃がさん!」


 対するレイもここですべてを使い切る覚悟で近距離転移を繰り返し先生の背後を取る。

 そのまま手のひらに貯めこんだ魔力を解放し……。


「くらえ! 『暴風対流圏(トラファスフィアエリア)』!」


『   !』


 荒れ狂う暴風を閉じ込めた無数の球体をいくつも発生させ、体をバキバキにさせながら閉じ込めていく。


「よし! 今だセイヤ、ブラスターを……」


『   ふっ……!』

……ドチャ!


 捕らえたと思ったのもつかの間、先生は振り絞るようにエネルギーを噴出させると暴風から抜け出しことに成功されてしまう。

 ただ……その体は力なく地面に叩きつけられ、体の再生に余力を割いているようだ。


「チャンスだ! 今なら避けることはできない! すぐにトドメの一撃を!」


「……くっ!」


「どうしたセイヤ!? なぜ撃たない!」


 先生は地面に這いつくばり動けず、星夜もすでにブラスターを発射できる態勢は整っている。

 だが星夜は撃とうとはしない。何かをためらっているようだが。


『ハハハ! やはりそういうことでしたか。その銃は地表に向けては全力で撃てないようですねぇ』


「読まれていたか……」


 そう、星夜のブラスターは地表に向けては撃てない……いや、撃ってはいけないのだ。ブラスターの最大威力は下手をすればこの都市はおろか、大地にまで深刻なダメージを与えかねない。

 先生はそれを理解していたからこそ風の拘束から無理やり抜け出し地面へと倒れ込んだのだ。


『ですので……こうしてアナタよりも下に位置した場所にさえいればやられることはないということです』


「マズいな、これまでそれに気づかれないよう立ち回っていたつもりが……これでさらに当てづらくなってしまった」


『ワタシはどれだけアナタ方と戦っていようが構いませんよ。さぁ、もっと楽しみましょオロロロロロロロロロロロロロロロロ!』


 さらに地上からゲロビームを放ち追い詰めていく。だがこのまま戦いが長引き先生を倒せずにれば……いずれ終極神の事象による世界の崩壊が完了してしまうだろう。


「……」


 この絶望的な状況で残された手立ては……。


「セイヤ……今から俺のやることに何一つ口出しするな」


「なに?」


「そして俺の合図でためらわずに全力でそいつを撃て」


 それだけ言うと再びレイは飛び出していく。

 その動きに迷いはない。ただ真っ直ぐに、何かを目指して進んでいく。


『いいでしょう、受けて立ちますよ。《キィアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!》』


「ぐぅ……それでも!」


 近づくものを静止させる耐え難い咆哮に突っ込んだレイも内部にダメージを受けてしまう。

 だがそれでもレイは止まらなかった。アーリュスワイズを伸ばし先生の体を掴むと、そのまま強引に空へと引っ張り上げていく。


『おやおや、どんな作戦かと思えばただの力技とは拍子抜けですね。そんなものっ、ワタシが素直に連れていかれるわけがないでしょう』


「ッ……ガハッ!」


 捕らえていた腕が逆に伸びレイの体を殴打すると、今度は先生がレイの体を地面へと叩きつける。

 そしてそのままトドメを刺すために鋭い爪を伸ばし。


「……今だっ!」


『むっ……!』


 レイは飛び込んでくる先生を待っていたとばかりにアーリュスワイズの内側・・を広げて待ち構えていた。

 だがしかし……。


『残念、その手にも乗りませんよ。その先に繋がっているのはおそらく異空間ではなくこの付近への近距離転移。上空の彼が全力で撃っても大丈夫な場所への……ね』


 もし先生の読み通りなら、突っ込んできたところを包み星夜の遥か上空へと飛ばされていたはずだ。


『つまり今の合図で上空の彼も今は真逆の方向を向いて……』


「残念、ハズレだ。この先は正真正銘異空間で、貴様はそのまま飛び込むべきだった」


 振り返ると上空には……すでにブラスターのエネルギーをチャージし終えた星夜がしっかりと先生へと狙いを定めていた。


『バカな……あれを地上に撃つことはできないは……なっ!?』


「ようやく驚愕した表情を見せてくれたな。もっとも……もう二度と見ることもないだろうが」


 いつの間にか、地上にはどんどんアーリュスワイズが広がり続けていた。

 そう、これはレイの仕掛けた罠……レイと星夜、二人の間に先生を挟むことこそが真の狙いだった。

 そうすれば……。



「さぁこれで……本当の終わりだ! ムルムスルング・ブラスター並列連結、相乗エネルギー解放……200%! 消し飛べ!」



 天から放たれた一筋の光がただ一つの悪意を撃ち抜くため落ちていく。


『ギ……ギギャ……アアアアアアアアアアアアア!!??』


 光の中で燃え続けながらもその断末魔は途切れない。まるで永遠に再生と消滅を繰り返しているかのような一瞬の出来事。

 そして、悪意を通り過ぎた光はそのまま地上へと……。



「俺が……すべて……受け止めてみせる! アーリュスワイズ、この光のすべてを異空の闇へ葬り去れ!」



 落ちることはなく、張り巡らされたアーリュスワイズの異空間へと消えていく。

 だがレイが吸収できる量にも限界がある。ましてやこれだけの規模を長い時間飲み込み続けることは尋常ではない苦痛を伴っているはずだ。


 ……それでも、星夜はわかったうえでブラスターを撃つことを決意した。それは、仲間を信じているから。


「「 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!! 」」


『こんな……こんな……こんなゴミ共にワタシが敗北することなど有り得ないいいいいいいいいいいイイイ!! ただの地上に生まれただけの肉の塊ごときが! 真の芸術を微塵も理解することもできないカスに負けることなどあってはあってはあってはははははbヴぉりんsbぽののんgj;:、bw@:45b:3::めb、4tア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』


 恐ろしい断末魔と共に先生の体が肥大化していく。胴体はブクブクと膨れ上がり、腕はいくつもの関節を歪ませながらボキボキと蠢き、そして顔はペストマスクのような嘴を残したまま胴体と結合していく。

 伸ばされた腕は最後のあがきのようにレイと星夜に向けて襲い掛かるが。


「いい加減……諦めろ! エネルギー……300%だ!」



 最後に出力の限界値を超えて発射されたその一撃によって……決着はついた。

 先生の肉体は完全に消滅し、あとに残ったのは……。


ヒュン……


 終極神の事象の本体へと帰っていく先生のエネルギーのみ。もはや二人にはそれを止める気力も残っていなかった。

 だが……。


「終わった……か」


「ああ、これで少なくとも世界から黒い魔物の脅威は過ぎ去った」


 世界を混乱に貶めていた元凶である先生の事象力がなくなったことにより全国の魔物被害も消え去った。


 ただ二人は顔を見合わせ、まだ戦いが終わっていないことを確かめ合う。飛び去った事象エネルギーが向かった先……今は他の仲間よりも自分達が一番近いところにいるが、今は疲労が激しい。


「これから先はサティ達と合流してからだな」


「ああ、だがその前に……」


 星夜が突き出した拳にレイも無言で拳を合わせる。それは、この戦いのなによりの勝利の証。


 英雄達は今は一時体と心を休め、次なる戦いへ向かうと誓うのだった。


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